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いつかめ ~なくしたものは~
愛と狂気と変態と
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「お前……もしかして日向か!?」
ジローが真相にたどり着いた。
「んなわけねーだろ。流石に常識わきまえろって」
「そうよ。普通、男が女の子に、それもこんなにちっちゃい子になるなんて……」
タカオミと委員長が否定してくれている。まだ、まだ大丈夫――。
「でも、ならなんで委員長を『委員長』って呼んだ?」
あ、そうか。
そういえば、目の前の女子は名前を名乗っていなかった。少し呼ばれてたならまだしも、委員長なんて誰も呼んでいなかった。
すなわち、俺が本当になにも知らない部外者であれば、三島さんの「委員長」なんて呼び名を知る由もなかったのだ。
「いや、でも男が女に変わるなんて、漫画じゃあるまいし」
タカオミが言うと、今度は委員長が「そういえば」と、思い出したように話す。
「さっき、日向君の両親が海外逃亡した、なんて言ったでしょ? あれ、実は彼らは薬学系の研究者で、海外には何かの研究に行ったなんて説があるんだけど……」
「なら……そういう薬とか作ってても仕方ないってか?」
ちょっと待て、それは無理があると思うぞ。父さんと母さんはそんなことをするような人じゃ……あるかもしれないけどそもそもそんな薬普通に考えて作れるわけねぇだろ。
しかし。
「まぁ、確かに辻褄が合わんこともないな」
どうしてそう思ったのか、小一時間ほど問いただしたくなった。
……だが、これで言い逃れは出来なくなってしまったようで。
すさまじい葛藤と逡巡の末に、結局うなだれて、ため息をつきながらけだるげに告白した。
「はぁ……正解。俺がお前らの探してた日向蒼だ。久しぶりだな。……ちょっと、おむつ替えてきてもいいかな」
その場は沈黙に包まれた。
俺が戻ってきた後もしばらく続いていた沈黙は「なぁ、質問いいか?」という一声によって破られた。
「うん」と首を縦に振ると。
「……おむつって、お前なんかの病気なの?」
俺はびくりとした。
「い、いや、まだはずれてないだけ……」
恥ずかしさに、次第に声が小さくなり――無音に支配された空間――それに合わせたかのように一つの声が高らかに告げた。
「大きくなってもおむつが外れてなくて悩んでる女の子とか、超萌えね?」
『超わかる』
そのひとつの言葉を皮切りに、ロリコンたちの宴、もとい、いつもの会話が始まった。
そこからの会話の内容は長すぎて書ききれなくなりそうなので割愛するが。
「……そこから導き出される結論、それ、すなわち」
『お前、最高にかわいい』
そんな言葉を言われてマジで照れてしまったのは、マジでいけなかったと思う。あろうことか「ん……そ、かな。ごめ、ありがと……」なんて乙女な反応をうっかり示してしまったのは悪手だった。
今まさにヘンなことし始めそうな変態的な笑みを浮かべた親友たちの姿が網膜に焼き付いて離れなくなってしまった。襲われたりしなかったのは不幸中の幸い、というべきか。
「……そういえば、今更だが……俺がこの姿になったってことは他言無用だからな」
会話が一段落してから、俺は軽く告げる。
「え? どしてよ」
「逆にタカオミ、お前はどうだ? 自分が幼女になったとして、それを言いふらせる度胸なんてあるか?」
「……すまん」
わかればいいのだわかれば。
そんなとき、しばらく俺たちを静観していた三島さんが、突如叫んだ。
「ちょ、これ!」
三島さんが差し出してきたスマホの画面。メッセージアプリの、おそらく個人同士のチャットにて。
ミツタカ〈おい、クラスチャ見てみろ〉
ミツタカ〈大変なことになってんぞ〉
ミツタカ〈今、そっちに大量の女子が押しかけてきているらしい。俺もそれを食い止めるために向かっているところ〉
ミツタカ〈うわ、学校中の女子巻き込んでね? いやこれヤバい〉
ミツタカ〈とにかく、気を付けて〉
そして、自分もスマホを開いてクラスチャっとを開いてみると、そこは地獄絵図であった。
みゅーみゅ〈うわ、いいんちょーが裏切ったぽ〉
ゆいにゃん〈マ?〉
みっく 〈ま。しかもあのそうさまのトリマキのロリコン野郎もつれて〉
めるめろ 〈ゲロキモ〉
りな 〈いいんちょ処刑ね〉
ニーナ 〈どーせだし、そうさまの目の前でやろうよ〉
かのん 〈いいじゃんそれ。そーさまもきっと喜んでくれるよ〉
りこりこ 〈じゃーいますぐシューゴーね〉
みゅーみゅ〈さんせー〉
みっく 〈いこーいこー〉
りな 〈ガッコのみんなも誘ってくるわ〉
ゆいにゃん〈ウラギリモノ殺すべし〉
「なに、これ……」
ある一種の、あまりにも醜い狂気のようなものが色濃く漂っているような気がする。
本当に意味の分からない行動。何が裏切りだ。処刑ってなんだ。そんなの見せられたところで誰も喜びはしねぇよ。
……だから女は嫌いだったんだ。そんなクソみたいな女どもに好かれるよりかは、いっそ嫌われて避けられたほうがまだマシだ。
そう、だからこそ俺はロリコンを名乗って、皆に嫌われようとしたんだ。
幼稚な考えだったし結局誰にも嫌われることはなかったんだけど、いつしか幼女を見ることだけが心の支えになっていた。ロリコンになっていた。
この姿になって、戸惑う中でどこかほっとしていたんだと思う。だって、この姿なら、もうあの醜い女どもから追われなくて済むから。
でも結局、逃れることは――。
「――おい、しっかりしろ! また漏らしてんぞ!」
「はっ! ……ありがと、ジロー」
一瞬、いやな記憶がフラッシュバックしていた。呼び起こしてくれなければ、軽く発狂してたかもしれない。
「……でさ、どうする?」
タカオミが言うと、その場は沈黙に包まれて――玄関がどんどんと叩かれた。
「……そろそろ殺されるかな」
「ころっ……!? 三島! いざってときは俺が守ってやるから!」
「ありがと、タカオミくん。でも、いいわ。私のことなんだもの」
そんなことを言いながら、委員長は玄関のほうに歩きだそうとし――タカオミは彼女の手首をつかんだ。
「おい! どこへ行く気だ!」
「……」
「行かせねぇぜ。誰かが傷つくのを見せるのは、そこの幼女の教育に悪いからな……」
沈黙。外から怨嗟のこもった喧騒が聞こえる中、少女は叫ぶ。
「じゃあ、どうやってこの騒ぎを鎮めればいいの!?」
「……多分、さ」
ジローが、ぽつりぽつりと語り始める。
「あいつら……日向のことが心配でここに来たんじゃないか?」
俺は目を丸くした。
「え? でも、委員長をころすとか……」
「それは口実だろ。いや、本気だった可能性もあるけど。でもさ、お前って妙に女にモテてただろ?」
「……それがどうした?」
「要するに、みんな日向のことが心配なんだ。俺たちみたいに、な」
……よく耳を済ましてみると、外から聞こえるけたたましい怨嗟の声のなかに、俺を呼ぶものが混じっていたことに気付く。
そうか、それなら、もしかしたら。
俺はスマホを取り出した。
「なぁ、あれ……」
「すごい……女子がみんな涙を流して膝をついてるわ……」
「え、ええ……?」
俺は盛大に困惑した。
どうしてこうなった。メッセージアプリを使って自分の生存を伝えただけなのに。
無論、ただ生きているというだけではなく、自分がどうして人前に出られなかったかも捏造して書いたのだが。
……アメリカの荒野のど真ん中にある家で軟禁されてるから誰とも会えない……ってのは流石にやりすぎた感がするけどさ。
「ほらな。やっぱりみんなお前のことが心配だったんだ」
ジローが笑いながら親指を立てた。
ひとまず俺はほうっと息をついて――ん?
なんか、せせらぎの音が聞こえる。下半身周辺の湿度が一気に上がってきた、ような気がする。
あったかい。ほわほわして、まるで、お風呂の中でぷかぷか浮いているような――これはまさか。
「ちっ、ち……」
「……出るの? 出ちゃった?」
委員長がからかい半分で、幼い子供に話しかけるように聞いてきて。
「出て、る……」
俺は顔を真っ赤にして答えた。
「うおぉぉぉ!! おもらし中の幼女可愛いぃぃぃ!!!」
「クッソわかる。最高じゃん」
「みないでよぉ……」
言いながら、しかし脱力して動けなかったので、俺はただ顔を手で隠すことしかできないのであった。
ジローが真相にたどり着いた。
「んなわけねーだろ。流石に常識わきまえろって」
「そうよ。普通、男が女の子に、それもこんなにちっちゃい子になるなんて……」
タカオミと委員長が否定してくれている。まだ、まだ大丈夫――。
「でも、ならなんで委員長を『委員長』って呼んだ?」
あ、そうか。
そういえば、目の前の女子は名前を名乗っていなかった。少し呼ばれてたならまだしも、委員長なんて誰も呼んでいなかった。
すなわち、俺が本当になにも知らない部外者であれば、三島さんの「委員長」なんて呼び名を知る由もなかったのだ。
「いや、でも男が女に変わるなんて、漫画じゃあるまいし」
タカオミが言うと、今度は委員長が「そういえば」と、思い出したように話す。
「さっき、日向君の両親が海外逃亡した、なんて言ったでしょ? あれ、実は彼らは薬学系の研究者で、海外には何かの研究に行ったなんて説があるんだけど……」
「なら……そういう薬とか作ってても仕方ないってか?」
ちょっと待て、それは無理があると思うぞ。父さんと母さんはそんなことをするような人じゃ……あるかもしれないけどそもそもそんな薬普通に考えて作れるわけねぇだろ。
しかし。
「まぁ、確かに辻褄が合わんこともないな」
どうしてそう思ったのか、小一時間ほど問いただしたくなった。
……だが、これで言い逃れは出来なくなってしまったようで。
すさまじい葛藤と逡巡の末に、結局うなだれて、ため息をつきながらけだるげに告白した。
「はぁ……正解。俺がお前らの探してた日向蒼だ。久しぶりだな。……ちょっと、おむつ替えてきてもいいかな」
その場は沈黙に包まれた。
俺が戻ってきた後もしばらく続いていた沈黙は「なぁ、質問いいか?」という一声によって破られた。
「うん」と首を縦に振ると。
「……おむつって、お前なんかの病気なの?」
俺はびくりとした。
「い、いや、まだはずれてないだけ……」
恥ずかしさに、次第に声が小さくなり――無音に支配された空間――それに合わせたかのように一つの声が高らかに告げた。
「大きくなってもおむつが外れてなくて悩んでる女の子とか、超萌えね?」
『超わかる』
そのひとつの言葉を皮切りに、ロリコンたちの宴、もとい、いつもの会話が始まった。
そこからの会話の内容は長すぎて書ききれなくなりそうなので割愛するが。
「……そこから導き出される結論、それ、すなわち」
『お前、最高にかわいい』
そんな言葉を言われてマジで照れてしまったのは、マジでいけなかったと思う。あろうことか「ん……そ、かな。ごめ、ありがと……」なんて乙女な反応をうっかり示してしまったのは悪手だった。
今まさにヘンなことし始めそうな変態的な笑みを浮かべた親友たちの姿が網膜に焼き付いて離れなくなってしまった。襲われたりしなかったのは不幸中の幸い、というべきか。
「……そういえば、今更だが……俺がこの姿になったってことは他言無用だからな」
会話が一段落してから、俺は軽く告げる。
「え? どしてよ」
「逆にタカオミ、お前はどうだ? 自分が幼女になったとして、それを言いふらせる度胸なんてあるか?」
「……すまん」
わかればいいのだわかれば。
そんなとき、しばらく俺たちを静観していた三島さんが、突如叫んだ。
「ちょ、これ!」
三島さんが差し出してきたスマホの画面。メッセージアプリの、おそらく個人同士のチャットにて。
ミツタカ〈おい、クラスチャ見てみろ〉
ミツタカ〈大変なことになってんぞ〉
ミツタカ〈今、そっちに大量の女子が押しかけてきているらしい。俺もそれを食い止めるために向かっているところ〉
ミツタカ〈うわ、学校中の女子巻き込んでね? いやこれヤバい〉
ミツタカ〈とにかく、気を付けて〉
そして、自分もスマホを開いてクラスチャっとを開いてみると、そこは地獄絵図であった。
みゅーみゅ〈うわ、いいんちょーが裏切ったぽ〉
ゆいにゃん〈マ?〉
みっく 〈ま。しかもあのそうさまのトリマキのロリコン野郎もつれて〉
めるめろ 〈ゲロキモ〉
りな 〈いいんちょ処刑ね〉
ニーナ 〈どーせだし、そうさまの目の前でやろうよ〉
かのん 〈いいじゃんそれ。そーさまもきっと喜んでくれるよ〉
りこりこ 〈じゃーいますぐシューゴーね〉
みゅーみゅ〈さんせー〉
みっく 〈いこーいこー〉
りな 〈ガッコのみんなも誘ってくるわ〉
ゆいにゃん〈ウラギリモノ殺すべし〉
「なに、これ……」
ある一種の、あまりにも醜い狂気のようなものが色濃く漂っているような気がする。
本当に意味の分からない行動。何が裏切りだ。処刑ってなんだ。そんなの見せられたところで誰も喜びはしねぇよ。
……だから女は嫌いだったんだ。そんなクソみたいな女どもに好かれるよりかは、いっそ嫌われて避けられたほうがまだマシだ。
そう、だからこそ俺はロリコンを名乗って、皆に嫌われようとしたんだ。
幼稚な考えだったし結局誰にも嫌われることはなかったんだけど、いつしか幼女を見ることだけが心の支えになっていた。ロリコンになっていた。
この姿になって、戸惑う中でどこかほっとしていたんだと思う。だって、この姿なら、もうあの醜い女どもから追われなくて済むから。
でも結局、逃れることは――。
「――おい、しっかりしろ! また漏らしてんぞ!」
「はっ! ……ありがと、ジロー」
一瞬、いやな記憶がフラッシュバックしていた。呼び起こしてくれなければ、軽く発狂してたかもしれない。
「……でさ、どうする?」
タカオミが言うと、その場は沈黙に包まれて――玄関がどんどんと叩かれた。
「……そろそろ殺されるかな」
「ころっ……!? 三島! いざってときは俺が守ってやるから!」
「ありがと、タカオミくん。でも、いいわ。私のことなんだもの」
そんなことを言いながら、委員長は玄関のほうに歩きだそうとし――タカオミは彼女の手首をつかんだ。
「おい! どこへ行く気だ!」
「……」
「行かせねぇぜ。誰かが傷つくのを見せるのは、そこの幼女の教育に悪いからな……」
沈黙。外から怨嗟のこもった喧騒が聞こえる中、少女は叫ぶ。
「じゃあ、どうやってこの騒ぎを鎮めればいいの!?」
「……多分、さ」
ジローが、ぽつりぽつりと語り始める。
「あいつら……日向のことが心配でここに来たんじゃないか?」
俺は目を丸くした。
「え? でも、委員長をころすとか……」
「それは口実だろ。いや、本気だった可能性もあるけど。でもさ、お前って妙に女にモテてただろ?」
「……それがどうした?」
「要するに、みんな日向のことが心配なんだ。俺たちみたいに、な」
……よく耳を済ましてみると、外から聞こえるけたたましい怨嗟の声のなかに、俺を呼ぶものが混じっていたことに気付く。
そうか、それなら、もしかしたら。
俺はスマホを取り出した。
「なぁ、あれ……」
「すごい……女子がみんな涙を流して膝をついてるわ……」
「え、ええ……?」
俺は盛大に困惑した。
どうしてこうなった。メッセージアプリを使って自分の生存を伝えただけなのに。
無論、ただ生きているというだけではなく、自分がどうして人前に出られなかったかも捏造して書いたのだが。
……アメリカの荒野のど真ん中にある家で軟禁されてるから誰とも会えない……ってのは流石にやりすぎた感がするけどさ。
「ほらな。やっぱりみんなお前のことが心配だったんだ」
ジローが笑いながら親指を立てた。
ひとまず俺はほうっと息をついて――ん?
なんか、せせらぎの音が聞こえる。下半身周辺の湿度が一気に上がってきた、ような気がする。
あったかい。ほわほわして、まるで、お風呂の中でぷかぷか浮いているような――これはまさか。
「ちっ、ち……」
「……出るの? 出ちゃった?」
委員長がからかい半分で、幼い子供に話しかけるように聞いてきて。
「出て、る……」
俺は顔を真っ赤にして答えた。
「うおぉぉぉ!! おもらし中の幼女可愛いぃぃぃ!!!」
「クッソわかる。最高じゃん」
「みないでよぉ……」
言いながら、しかし脱力して動けなかったので、俺はただ顔を手で隠すことしかできないのであった。
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