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みっかめ ~へんかするこころ~

いとおしき天使の……

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「つ、疲れた……」
 俺は大きなため息をついて、ソファーに寝転がった。
 牛乳パックの入ったそこそこ重い買い物袋を抱えて息を切らしながら帰ってきたのだ。もう早く寝てしまいたい。
「……兄貴、スカート。めくれてる」
 言われて首を上げてみると、スカートがめくれておむつが丸見えになっていた。
「ひゃっ!?」
 気が付いて慌てて直す。家の中とは言えども恥ずかしいものは恥ずかしい……。
「ふふっ、兄貴ってば……今のしぐさとか完全に女の子じゃん」
「い、言わないでよぉ……」
 俺の心はまだ男なんだから。たぶん。きっと。おそらく。
 くすくすと笑う瑠璃に、俺はにらみつける。が、それすらも。
「あ~……兄貴めっちゃ可愛い」
「なんで……」
 どうすればいいのかわからなくて、もう嘆くばかりであった。
 そんなときに、インターホンが鳴った。
「はーい」
 瑠璃が出た。
 聞こえる声は親しげに、瑠璃と会話を重ねていく。そして、玄関が開く音。騒がしい足音が響き。
「やっほー! るり、さっきぶり!」
 元気のいいあいさつで現れたのは、笑顔のまぶしい茶髪の少女だった。

「うわ~! なにこの子めっちゃかわいい~!」
「でしょでしょ! 正直わたしもこれが妹だなんて信じらんないくらいだよ!」
 俺はしばらくずっと、二人の女子中学生によっていじくりまわされていた。
「やめてよふたりとも……」
 呆れつつ言ってみると。
『ああ……かわいい』
 なんでだよマジで。
 まあ、そんなことはさておいて、といった様子で、思い出したかのように茶髪の女の子――珊瑚が言った。
「ねー、るり。そういえば、前に来た時にいたイケメンの兄ちゃんってどこにいるの?」
 それ、たぶん俺なのだが。
 というのも、以前も彼女はこの家に遊びに来たことがあるのだ。そして、男子高校生だった俺を何度か目撃している。
 何度イケメンとからかわれたことか。そんな愚痴はともかく。
(……どうする、瑠璃)
 妹と目線を合わせ、思考を伝えようとする。
 ……ここは、わたしが、どうにかする。
 ハンドサインで必死に伝えようとしてきた瑠璃がかわいかったのはおいといて、とにかくそんなことが伝わった。
 よし、任せよう。
「……あ~……えっと……そう! パパとママのところに行ったの!」
「うそでしょ」
 即バレた!?
「とにかく、そこら辺の話はあとでじっくりと聞くとして……」
 珊瑚ちゃんの目つきがどこかいやらしく見えたのも多分気のせいだろう。そのはずだ。うん。
「ねーねー、君。るりのこと、どう思う?」
 油断してたら、いきなり俺に話を振られた。
 ……一瞬の逡巡ののちに、素直に話すことにする。
「……大切ないも……お姉ちゃんだと思ってる。頼れるし、でもなんかかわいいところもあって」
「なんかわかるかも! いつもクールぶって強がってるところもいいし!」
「うんうん! でも時々見せる弱いところもまた……」
「やっ、やめて! かわいいなんて言わないでぇ!」
 顔を真っ赤にした瑠璃が叫んだ。こういうとこだよ。

 しばらく時間が過ぎて。
 ……なんだかお腹の下のほうがむずむずしてきた。
 俺は躊躇なく、下半身の力を抜く。
 あふれだすせせらぎの音。ほわほわとした気持ちよさが背筋を突き抜けて――最後にぶるりと身震い。
 もこもこと膨らんだ下着でうまく足が閉じられず、少しだけ座りなおしたら。
「なぁに、もぞもぞして。お花摘み?」
 珊瑚ちゃんに言われて恥ずかしくなって……俺は顔が熱くなって、思わず目をそらした。
「……この顔は、おしっこかな。出る? 出ちゃった?」
「で、た……みたい」
 恥ずかしさをこらえて、瑠璃に申告する。
「おお、ちゃんとわかってえらい!」
 そう言って瑠璃は俺のほうに来て、頭を撫でてくれた。いつもはそんなことしないくせに。
 でも、今回はやっちゃったことが分かったからいいのかも。たまにいつの間にか出ちゃってたってこともあるし。
 何かが満たされるような感覚に、思わず破顔した。
 しかし、珊瑚ちゃんは何が起こってるのかわからないようで。
「……えっと、出ちゃったって、なにが? まさか……」
「うん。おしっこ。この子、まだおむつが外れてないのよ」
 瑠璃があっさりばらしてくれた。
「ちょっ……恥ずかしいから言わないでよ……!」
 言ったところで後の祭り。
「えっ……この子もう四歳とか……結構大きいよね……? ふつーはおむつなんて……え、マジでしてんの?」
「うん。してるよ。見る?」
「見せないからっ!」
 俺は断固拒否。瑠璃は自分もおむつをしてるってのを隠してるつもりなのか……。まぁ、バレてはいないみたいだけど。
 というかこの体は四歳じゃなくて六歳……のはず……だからっ! わたしはしょーがくせーだもんっ!
 一瞬、俺の中の幼女が顔を出したような気がしたが、それはおいといて。
「とりあえず早くおむつ替えたいんだけど……」
 俺が訴えると、珊瑚ちゃんは驚くべき提案をする。
「はいはーい! わたし、おむつ替えしたいでーす!」
「はぁ!?」

 寝ころんだ俺の腰に手が添えられ、スカートがずり降ろされた。幼い女の子に向けた柄のプリントの入った、しかし股間からお尻にかけて黄色く膨らんだ下着おむつが露出する。
「うわぁ。本当におむつだ。かわいい!」
「見ないで……。あとかわいいとかやめて……」
 頭が熱くなっていく。思わず少女の目から顔を背ける。
 しかし、そんな様子の俺すらも、彼女は「かわいい」と言って笑った。
 ――やめてよ……。そんなにかわいいなんて言われたら……もう心まで女の子になっちゃう……。
 その雰囲気はどこか興奮に包まれているようで。
「じゃあ、おむつさんばいばいしましょーねー」
「ん……」
 気が付けば、子供のように扱われている自分を受け入れ始めていた。
 脇の部分が破かれ中の部分が露になると、もわっとした、臭気を伴った湯気が立つ。
 てきぱきと、しかし丁寧に。ひやりとしたおしりふきの感触は、皮膚に残った水分を、洗い流すようにふき取っていく。
 それの、あまりに気持ちいいこと。
 ゆっくりと意識が遠のいていき――。

 **********

 幼女が寝息を立て始めると、珊瑚はいたずらに、にやにやと笑いながら。
「ん~? おねむかな~?」
 冗談めかした言葉に、しかし幼女は目を開けることはない。
「本当に寝ちゃったみたい。あー……ヤバいマジ天使すぎる」
 そう言って彼女の髪を撫でる珊瑚に、撫でられたその少女は「んぅ……」と小さく声を出し。
「おねえちゃん……」
 薄ら目を開け、呟いたのだ。
「んん……。おはよう、お姉ちゃん……って、別のお姉ちゃんだ」
「えっと……おはよう。短いお休みだったね」
 戸惑う珊瑚に、少女は笑いかけた。
「お姉ちゃん、おむつ、ありがとね」
 のちに、その時の少女の様子を珊瑚は「まるで地上に降り立った天使……」と言っていたのはおいておくとして。
 その小さな天使は眠気眼をこすりながら、先ほどから無言でプルプルと震えていた瑠璃に抱き着いて。
「じゃあ、このお姉ちゃんのおむつも替えてあげてよ」
 その腰に巻き付いた布をめくりあげた。
「るり……なに、それ」
 茫然自失とする珊瑚に、天使――の姿をした小悪魔は微笑み。
「邪魔になるといけないから、わたしはこれで。ばいばい!」
 すたこらさっさと逃げて行ったのであった。
 珊瑚は改めて瑠璃のほうに目を向ける。
 めくりあげられた一枚の布。その下には、普通の女子中学生は使わないようなとても幼稚な下着が、彼女の失敗を物語る。
「……おトイレ間に合わなかっただけだもん……」
 泣き出しそうになりながら弁明する瑠璃。その姿は学校で見せているようなクールな姿とは程遠く。
「じゃあ……おむつかえかえ、する?」
「うんっ。……わたしのへやで、いい?」
「そこまで歩けるの?」
「……おんぶ」
「もう。しょーがないなぁ。よっこら……重いわ」
 赤ん坊のようで新鮮で、とってもかわいかったと、のちに珊瑚は語った。
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