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魔王再臨

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「ちょっとさー、俺抜きで話しないでほしいんだよなー。
てか人の家の前で何やってくれてんの?」
無論、割って入ったのはアレンであった。
アレンは何食わぬ顔で刺客の前に立った。
「貴様!何者だ?
いや、どこの誰であれ、我らの邪魔をするなら殺す!」
黒フードの女はアレンたち三人に刃を向け直した。残りの四人も同様に刃を向ける。
だが、アレンはそんなことお構いなしに話し始めた。
「あんたらさー、王族の命狙うとか何事だよ。よりにもよってこんなとこで。
ここじゃ爺さんは役に立たねーんだからさ」
アレンの毒舌にケインはその場で体育座りして、地面に絵を描き始めた。
ケインは毒を吐かれた場合、反応は二つしかなく怒るか拗ねるかなのだ。
今回は拗ねたらしい。
「悪い悪い、拗ねるなって。
その分魔法を使ったときのあんたは強いって言ってんだよ。」
アレンにフォローされ、ケインはすぐに機嫌を直し立ち上がった。
まあ、落としたのもアレンなのだが、、
「まったくお主は人が悪いのう。
ワシの威厳がなくなるではないか。」
そのケインの言葉に返したのはアレンではなく紫フードの男であった。
「何をごちゃごちゃ言っている!
座り込みながら談笑とは、ふざけやがって!
今すぐ殺してやる!」
それにすぐさまアレンが言葉を返す。
「まったく、、、お前らよー。
殺すって言ったんだから命くらいはかけてんだろうなー?
半端な覚悟では俺には勝てねーぞ?」
彼らがその言葉に耳を貸すはずもなく、今度は五人いっぺんに襲いかかってきた。
とっさにサナはケインに覆いかぶさった。
アレンは黒く歪んだオーラを纏った腕を前に突き出した。
「馬鹿野郎が、ふぅー、、、消え去れ!
ブラックターミネイト!(黒滅)」
アレンがそう言い放った瞬間、アレンの掌から黒い光線が解き放たれ、前方の森林もろとも五人の刺客を吹き飛ばした。
「馬鹿な!なぜ、魔法が使え、、、」
紫フードの言葉も黒い光線にかき消され、刺客たちはそのあたりの森林とともに消え去ってしまったのだ。
「だから言ったろうがよ。
俺には勝てねーって。
あ、おい、お前らもう大丈夫だぞ。」
あまりの突然の出来事にサナは唖然としている。がすぐに目の焦点を合わせ、アレンに問いかける。
「な、なんですか!?
今の魔法は!
こんな魔法見たことも聞いたこともありません!
いえ、待ってください。
そもそもなぜ魔法が使えるのですか!?」
アレンは、どこから話したものかと頭をかいていると、ケインが口を開いた。
「まあまあ、サナよ。
落ち着きなさい。
しかし相変わらず桁外れの力よ。
というかやりすぎじゃよ。
しかし、まったくアレンは頼りになるのう。
また助けられてしまったな、ありがとう。」
そうアレンに礼を言うとケインはさらに続けて、
「アレン、サナに話しても良いかの?
どうせすぐバレるじゃろうからな。」
アレンは小さく頷きケインに説明するよう促した。
自分で話すのは躊躇われるのだろう。
「サナ。九魔帝は知っておるな?」
百年の昔に大戦を終わらせた魔王たちの話ならサナとてもちろん知っている。
少なくともシフォル王国にその名を知らぬ者はいないだろう。
「九魔帝というのはな、文字通り九人の魔王のことを指す。
暗黒の時代に突如として現れ、その圧倒的な力を示したことにより、そう呼ばれるようになったのだ。
さらに九魔帝は時代が進むにつれてその話に尾鰭がつき、それぞれ二つ名で呼ばれるようになった。
紅蓮(ぐれん)の真帝。大海(たいかい)の真帝。蘭華(らんか)の真帝。悌人(ていじん)の真帝。血刻(けっこく)の真帝。創生(そうせい)の真帝。天翔(てんしょう)の真帝。両雄(りょうゆう)の真帝。そして黒の真帝。
その黒の真帝が今ワシらの目の前にいる、アレンなのだよ。」
ケインの話にサナは言葉を失った。
まさか目の前にいる男が伝説の魔王だとは思わないだろう。
だが、すぐにサナは最もな疑問をぶつけた。
「しかし、お爺さま!
なぜそんな昔の魔王がいま我々の前にいるのです。
万が一生きていたとしてもこんな若い容姿なはずございません!」
ここでアレンが口を挟んだ。
「それには俺が答えよう。
俺たち魔王ってのはまず基本的に不老不死なんだよ。
さらに細胞の再生能力もある。
だからこの姿で百年以上も生きられる。
だが不老不死で再生するとは言え、それが追いつかないほどの障害を負えば死ぬ。
そしてさっきの、なんでここで魔法が使えるのかって質問だけど、俺たち魔王は己の体の中に魔導が流れてるんだよ。
だからどこだろうが魔法を行使することが出来る。
そしてさっきの魔法は黒魔法。
黒の真帝にのみ許された魔法だ。
ついでに言うとな、魔王ってのは当時の連中が勝手に付けた名前なんだ。
だから正確には人知を超えた存在ってのが正しいな。
面倒だから魔王ってことにしてるけどさ。」
サナはまだ理解も納得もしていなかったが、それでもアレンとケインの説明に無理やりでも納得しなければこの状況を説明できないため、しぶしぶ納得した。
そして、もう一つの疑問をアレンに投げかけた。
「アレン様のお話はわかりました。
ではお爺さまと知り合ったのはいつなのですか?
かなり親しげに話されていましたし、アレン様の魔法を見てもお爺さまは驚くどころか感心しておられました。」
アレンはケインを一度見た後すぐにサナに視点を戻し答えた。
「おっさんと知り合ったのはつい最近だな。
と言っても十年くらい前だがな。
おっさんが今みたいに襲われている時、俺が助けたんだよ。
あの時も魔道が流れていないところで襲われてたからな。
俺が魔法使った時の驚きようは今のサナそのものだったぞ。
全くトラブルメーカーもいいとこだぜ。で、そこからなんか仲良くなって時々俺の家に遊びに来てたっけな。」
ケインは少し恥ずかしそうに笑い、頭を抱えていた。
「なるほど、そうだったのですね、分かりました。
とにかく助けてくださりありがとうございました。」
アレンはああ、と一言呟いた後、二人に近くに来るよう指示した。
「もう時間が遅い。
俺が送ってやるからもう帰れ。
そういえばあんたらここまでどうやって来たんだ?」
アレンは素朴な疑問をぶつけた。
確かにアレンの住んでいる森林は王都から馬車で三時間、徒歩だとその倍はかかる辺境の地だ。
そんな道のりを王族二人でどうやって来たのか気にならない訳がない。
その問いにサナが答えた。
「お爺さまの飛行魔法で空からきました。
とはいえ、この森林付近では魔法が使えなくなりますから、その手前で降りてそのあとは歩きでした。」
そこまで聞くとアレンは状況を察した様子だった。
いくらなんでも王族が馬車や徒歩で何時間も移動するのは危険が付き物だ。
それこそ先程のように襲われかねない。
「なるほどね、おっさんの魔法で来たわけか。
飛行魔法とは、なかなか高度な魔法を使いやがる。
そのヨボヨボな身体じゃ厳しいだろうに。」
この一言余計な発言にケインがすぐ反応したのは言うまでもない。
「お主はなぜそう捻くれたことばかり言うのか。
それでは女に好かれぬぞ。
一度ばかり頭を小突いてやった方が良いかの?」
ケインがからかい気味に言うとアレンはほっとけと言わんばかりにそっぽを向き、今一度二人に焦点を合わせた。
「とりあえず、送ってやるから近くに来い。
ケインは俺の肩に手を。」
アレンはそう言うと自身の肩にケインを掴まらせ、さらにサナの手を握った。
「送るって、どうやって、、っというかなぜ手を握るのですか!?
私男の人と手を繋いだことなど一度も、、、!!」
顔を真っ赤にしてあたふたしているサナをよそにアレンは先ほどとは違う白いオーラを放った。
「ふ、、では、アレン頼むぞ。」
ケインの言葉に頷いたアレンは、サナに手を離すなと言い、さらに続けた。
「ゲート(開門)」
その言の葉と共に三人の周りを囲うように青白い陣は現れ、白く発光したかと思うと、景色は一瞬にしてアレンの家から王城へと変わった。
「相も変わらず、さすがだな。
主の魔法は。」
関心しているケインと失笑するアレンをよそにまた、一人だけあたふたしているものが、、、
「ありえない、ありえないわ!
現最上級魔法使いである王国軍魔道士団の精鋭たちですら上位魔法までしか使えないはず、お爺さまだってその上の大魔法を使うのがやっとだと言っていた。
それなのにいとも簡単にこんなわけのわからない魔法を繰り出すなんて!
これが、魔王の力だということですか。
さすがに黒の真帝というのも納得ですね。」
サナが慌てふためくのも無理はない。
この世界の魔法の規模の分類は一般に下位魔法、上位魔法、大魔法、超魔法と分類されている。
その最上位である超魔法を繰り出せば誰だって驚きもするだろう。
「ま、こんな魔王が今からお前のパートナーだ。
不本意ではあるが、よろしく頼むな。
サナ。
あと、俺のことはアレンって呼ぶようにな。
間違っても魔王なんて呼ぶなよ。」
アレンに名前を呼ばれ、サナはすこし頬を赤くしてそれでもすぐ冷静な顔を取り戻し、頭を下げた。
「はい、わかりました。
よろしくお願いします。アレン、、」
仲良きことは美しきかなと思いながらケインは二人を満足げに眺めていた。
「入学式は明後日じゃ。
お主とサナの家はこの地図に示してある。
必要なものは各自準備していくこと。
最低限必要なものはワシがあらかた揃えてある。では、アレンよ、送ってくれて有難う。
ではな。」
そうケインが言うとアレンは頷き、行き同様「ゲート(開門)」
と呟き、光の中に消えていった。
その間際サナは、アレンが小さく、「こちらこそ」と言っていたように感じてならなかった。
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