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大事故どころか、もらい事故でした

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 死んだと思ったら、本当に死んだらしい。
 なんのこっちゃ。

『ホントにすまんかったね』

 フヨフヨ浮いてる白い光の玉が言うには、この光の玉の管理している異世界で、勇者召喚の儀式が行われたらしい。
 世界を荒廃させる魔王が力をつけすぎて、それを剪定するために相当数のチート戦力が必要だったんだとか。
 あのクラスは先生込みで40人。光の玉的に干渉しやすい素材が集まった奇跡的な空間だったので、予定通りに召喚儀式を始めたところ、たまたまその日に転校してきた予定外の41人目(私)が召喚の魔方陣に半分入ってしまった、と。

 魔方陣の結界で、物理的に半分にされてしまった私は、召喚先に到着するより先に死んでしまい、魂だけがこの「どこでもない空間」に取り残されたのだと。

『転移組はもうあっち着いちゃってて魔方陣閉じてるしね。まぁあっちに連れてくにしろ、元の世界に戻すにしろ、体があっちとこっちに別れちゃったから入れ物がないのよ。……悪いんだけど、あっちで新しく生まれ直してもらうってことでいいかね?』

(いいも悪いも、選択肢がないじゃない!)

 魂だけなので叫びたくても叫べず、私はエア地団駄を踏んだ。踏む足がないので、エアだ。

『ちなみに、あっち行った勇者くんがキミの半分大事に抱えてっちゃったけど、現場の皆さんがパニックになるので、あっち着く前にキミの半分は消滅させちゃったからね』

(元の世界の半分は?)

『そのまま廊下でべちゃっと崩れ落ちてる』

(り、猟奇事件……そっちも消してくださいよ)

『いいの?』

(スプラッター晒されるよりマシでしょ)

 転校先のひとクラスが、まるまる神隠しにあった事になる。そんなところで唯一の無惨な死体が見つかるより、行方不明者のひとりとしてカウントされた方がいいだろう。残される彼らの家族にとっても、……大好きな、私の優しい両親にとっても。

 悲しいのに、泣きたいのに、今の私は泣きわめくこともできない。

『すぐに思いっきり泣けるからね。泣きたい放題だからね。赤ん坊だからさ。ただ……転移組と違って、本当に単なる現地の人への生まれ直しになるからさ、ギフトがあげられないんだよ。ごめんね』

(ギフト?……あぁ、チート能力、みたいな?)

『そう』

(なければないでいいよ。だって私は魔王と戦わなくていいんでしょ?)

『もちろん、勇者じゃないからね。じゃあせめて、生まれ先は選んでもいいよ。貴族とか王族とかも選べるよ』

(うーん……それなら、お金にはあんまり苦労してない程度の、責任のない末っ子ポジションあたりがいいな)

『りょーかい。一応、こっちの人生のお詫び延長って扱いだから、今までの記憶は残しておくからね』

(わかった。いろいろ気を遣ってくれてありがと)

 光の玉がフヨフヨと離れて行き、存在の曖昧な私の意識は、また暗転した。









…………………………………………………………




 というのが、あの直後の裏話。
 
 勇者が召喚された王都から、がっつり離れたど田舎の領主夫婦の三女に生まれ変わった私。
 誕生と同時に、そりゃあもう泣きましたとも。前世の理不尽な死や、置いてきてしまった両親を思って、わんわん泣きました。
 ……赤ちゃんなんで、泣きたい放題ですよ。光の玉の言う通り。
 泣いて泣いて、今の両親を困らせて……わりと早いこと落ち着いた。開き直ったとも言う。

 前世の知識をほどほどに役立てつつ、長閑な田舎で私はすくすくと成長した。
 田舎領主の三女というのは実に優雅なご身分で、特別に何か期待されたり強制されたり拘束されたりすることもなく、ただ、自由に町をうろついてはポテトチップスとポップコーンのお店を経営して大繁盛させてみたり、みんなで仮装して町を練り歩くお祭りを企画して大好評を博してみたり……毎日毎日楽しく過ごしている。


 
 その間、転移組が魔王討伐に旅立ったとか、あちこちで活躍してるとか、遂には魔王を倒したとか、勇者のうちの誰だかが王女様と結婚したとか、いろいろな噂話が入ってきたけど、こんな田舎に届くまでにどれだけのタイムラグがあるのか想像もつかない。

 転移組の噂を耳にする度、りっくんはしっかり勇者やってるのかな、とか、私が目の前で死んだのがトラウマになってなきゃいいな、とか思った。
 王女様と結婚したのって、りっくんなのかな、とか。




 私は、今年で14歳。あの、巻き込まれ死した時と同じ歳になっていた。

 あの時に転移してきたりっくんは、今年で28歳だ。
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