上 下
23 / 43

ハインリヒの見る夢【ハインリヒ目線】

しおりを挟む


 夢を見る。

 夢の中で、少女がやって来るのを心待ちにしている。

 見慣れた廊下に注ぐ陽射しも、正門前の噴水の煌めきも、彼女の姿が現れると一層輝いて見えた。

 清く、朗らかで、全てを包み込んでくれる聖女。
 君のためなら、全てを捧げても構わない。


 ……などと言って、本当に王太子としての自負も、この国に住まう全ての命を預かるという重圧も、全てを投げ捨て己の執着を満たす為に全身全霊を捧げた馬鹿王子の、夢を見る。

 本当に酷い王子だ。
 敵を作ることで一層彼女に頼られる事が心地よく、彼女とウマが合わない様子のクラウディアを標的に決めた。
 しかしリレディ公爵家は、色恋で暴走する馬鹿王子の振る舞いに、彼を見限って第2王子の後ろ盾になるべく根回しを開始する。
 王家に次ぐ実力者の反乱は、さすがに馬鹿王子にとって致命傷になる。

 すかさず、取って付けたような罪状をわんさかと盛り、馬鹿王子は後先考えずに公爵一家を見せしめとして断罪処刑した。…自分と愛する聖女に批判的な一派を黙らせる為に、廃れていた野蛮な首斬り装置まで用意して。

 結果、リレディを守ろうとした父母弟を退ける事が必然的に発生し、聖女の加護だけを信じての、王位簒奪が必須になった。

 愚か者が、己の愚かさを覆い隠そうと必死に墓穴を掘っているという構図だ。こんな馬鹿者が王位を継いだ暁には、1代で国が滅ぶだろう。否、滅ぶべきだ。


 全くどこの馬鹿だ!
「……あれは私か」


 瞬きを忘れていたかのように、目が乾いていた。眠っていた訳ではないらしい。
 私は馬車の中で、窓から外を眺めているところだった。
 間も無く学院に着くが、うたた寝して見たにしては異様な夢だった。一瞬で、何と永い夢を見たものか。
 そして、酷い内容だ。とにかく胸糞が悪い。

「……クラウディアに顔向けできんな…」
 髪を搔きあげ、我が婚約者筆頭候補の幼馴染の凜とした面影を思い浮かべる。あの誇り高きリレディの娘が、あの様な無残な目に遭うなど許されて良い筈がないのだ。



 どうにも夢か現実か揺蕩うような心持ちのまま、止まった馬車から降りると、ちょうど目の前で女子学生が「きゃっ」と悲鳴をあげて大きくつんのめった。すかさずその腕を掴んで支える。
「あ、ありがとうございます!」

 振り返った少女を見て、息を飲む。



 夢の中で、どこぞの馬鹿王子が盲目的に溺愛し続けた聖女がそこにいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

便秘でトイレに篭っていたら、第十四柱として異世界に召喚されました

駄犬
ファンタジー
 俺にとってトイレとは地獄の門そのものだ。腹の重みに耐えかねて、渋々便座に腰を下ろす。便意に促されたものの、どれだけ力を入れても息を吐くだけ吐いて、肝心のブツを落とそうとしない。この幻覚めいた便意を何年にも渡り、経験してきた。全身に汗が吹き出し、嘔吐を伴わない気持ち悪さに支配されながら、ひたすら長い時間をかけて肛門と向き合う。  ボタンを掛け違えて、よもや異世界への門を開くことになるとは、神様だって驚くに違いない。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

処理中です...