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初めまして由海広です 中編続き
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帰ってから自分の膝を見た。
肌とズボンの布が擦れる痛みで
片足脱ぐだけでも相当苦戦をした。
熱湯が掛かった部分は真っ赤に腫れて
肌が少しただれてしまった。
ぽつぽつ小さい水ぶくれができて、
熱を帯びた様子は見てて痛々しい。
患部に直接当てないよう水で
冷やした後は軟膏を塗った。
色々寒くなるが、自宅では短パンを
履いて歩きやすくしようと思う。
火傷をしたが、お茶は飲みたい。
ちょっとリラックスできるように
丁度いい紅茶を選んで淹れてみた。
アッサムの香りで心を落ち着ける。
紅茶をすすりながら、彼のことを
思い出す。
…あの青年はなんだったんだろう。
左藤くん…、だったかな。
あの目は…こわい。
私に干渉しないでほしい。
私は何も出来ない出来損ないだ。
今の自分を守ることで精一杯なんだ。
だけど仕事がある。
嫌でも再会することになるだろう。
…嫌、じゃないけどね。
なんとなく飲みかけの紅茶に、
いつもは入れないポーションミルクと
角砂糖を一つずつ入れた。
どうしよう、もう、仕事以外には
関わらないようにすればいいのかな。
それで、終わり。
また平穏な孤独でいられるんだ。
「……あんまり美味しくない。」
甘くした紅茶が、何故か苦くなった。
仕事場には適当な言い訳で昨日の
取引で起きた事故を誤魔化した。
何て言ったのか忘れたけど…
上手いこと切り抜けられた。
淹れたての烏龍茶を片手に、
名札のついた机につけば今日も
いつもと変わらない仕事が始まる。
prrrrrr
「はい、はいーー」
部下の一人の電話が鳴り、
受話器を取って対応している。
彼は顔を上げ、ばっちり私を見た。
「優沢課長、いつもの会社です。」
ぁあ、昨日の取引先か。
本当に怒ってないんだけど担当者が
気を使って連絡したのかな?
タバコをくわえ、指をちょいちょい
動かし、取り次ぎを頼む。
部下がボタンを押したのを確認して
受話器を片手で取り、耳に当てた。
「ーーーはい、優沢です。」
「ーーーです、優沢さん、
昨日お会いした左藤です。
お世話になっております。」
「……っ、」
心臓がドキッと跳ね上がる。
いつもの担当者じゃ、なかった。
ハツラツとした彼の声だ。
一瞬声につまるが、すぐに我に返る。
いかん、仕事だ、仕事なんだ。
タバコの端を唇でぐっと噛む。
「…はい、覚えてますよ。
昨日の…取引のお話でしょうか。」
「そうです…。僕…私の不手際で
大変ご迷惑おかけしました。
お怪我までさせてしまい
申し訳ありません。その上で恐縮では
ありますが、その、次の…商品の
ご説明は、いつに…?」
受話器を肩に挟んで支え、
紫煙を吐く。
膨らんだ手帳をペラペラっとめくり
予定表の合間に目を走らせた。
「…そうですね、明後日の14時は
どうでしょうか。都合に合います?」
「はい!はい…そのようによろしく
お願いします。お待ちしてます。」
「それでは」
「ありがとう、海さん。」
「………?」
通話の切れた受話器を見つめる。
最後に何か聞こえた気がする。
すごくほっとした声で、優しい声で…
心地好ささえあってざわっとした。
タバコの煙を胸いっぱいに溜め込んで
直線の紫煙を吐き出した。
仕事、なんだから…。
「課長、午後から取引先ですよね。」
「あ、ぁあそうだね。」
もうそんな日なのか…。
電話したのがつい先ほどのようだが
取引の日が来ていた。
火傷した膝のただれた皮がズボンに
張りついて痛むので、会社を出る前に
トイレで軟膏を塗る。
彼も気にすると思うし…
…?私は彼に気遣っている?
いや違う、仕事に支障をきたすから。
頭を左右に振って言い聞かせる。
「ん!」
ピシャッと両頬を叩き気合いを
入れた。
さて、行こう…。
つづきます→
肌とズボンの布が擦れる痛みで
片足脱ぐだけでも相当苦戦をした。
熱湯が掛かった部分は真っ赤に腫れて
肌が少しただれてしまった。
ぽつぽつ小さい水ぶくれができて、
熱を帯びた様子は見てて痛々しい。
患部に直接当てないよう水で
冷やした後は軟膏を塗った。
色々寒くなるが、自宅では短パンを
履いて歩きやすくしようと思う。
火傷をしたが、お茶は飲みたい。
ちょっとリラックスできるように
丁度いい紅茶を選んで淹れてみた。
アッサムの香りで心を落ち着ける。
紅茶をすすりながら、彼のことを
思い出す。
…あの青年はなんだったんだろう。
左藤くん…、だったかな。
あの目は…こわい。
私に干渉しないでほしい。
私は何も出来ない出来損ないだ。
今の自分を守ることで精一杯なんだ。
だけど仕事がある。
嫌でも再会することになるだろう。
…嫌、じゃないけどね。
なんとなく飲みかけの紅茶に、
いつもは入れないポーションミルクと
角砂糖を一つずつ入れた。
どうしよう、もう、仕事以外には
関わらないようにすればいいのかな。
それで、終わり。
また平穏な孤独でいられるんだ。
「……あんまり美味しくない。」
甘くした紅茶が、何故か苦くなった。
仕事場には適当な言い訳で昨日の
取引で起きた事故を誤魔化した。
何て言ったのか忘れたけど…
上手いこと切り抜けられた。
淹れたての烏龍茶を片手に、
名札のついた机につけば今日も
いつもと変わらない仕事が始まる。
prrrrrr
「はい、はいーー」
部下の一人の電話が鳴り、
受話器を取って対応している。
彼は顔を上げ、ばっちり私を見た。
「優沢課長、いつもの会社です。」
ぁあ、昨日の取引先か。
本当に怒ってないんだけど担当者が
気を使って連絡したのかな?
タバコをくわえ、指をちょいちょい
動かし、取り次ぎを頼む。
部下がボタンを押したのを確認して
受話器を片手で取り、耳に当てた。
「ーーーはい、優沢です。」
「ーーーです、優沢さん、
昨日お会いした左藤です。
お世話になっております。」
「……っ、」
心臓がドキッと跳ね上がる。
いつもの担当者じゃ、なかった。
ハツラツとした彼の声だ。
一瞬声につまるが、すぐに我に返る。
いかん、仕事だ、仕事なんだ。
タバコの端を唇でぐっと噛む。
「…はい、覚えてますよ。
昨日の…取引のお話でしょうか。」
「そうです…。僕…私の不手際で
大変ご迷惑おかけしました。
お怪我までさせてしまい
申し訳ありません。その上で恐縮では
ありますが、その、次の…商品の
ご説明は、いつに…?」
受話器を肩に挟んで支え、
紫煙を吐く。
膨らんだ手帳をペラペラっとめくり
予定表の合間に目を走らせた。
「…そうですね、明後日の14時は
どうでしょうか。都合に合います?」
「はい!はい…そのようによろしく
お願いします。お待ちしてます。」
「それでは」
「ありがとう、海さん。」
「………?」
通話の切れた受話器を見つめる。
最後に何か聞こえた気がする。
すごくほっとした声で、優しい声で…
心地好ささえあってざわっとした。
タバコの煙を胸いっぱいに溜め込んで
直線の紫煙を吐き出した。
仕事、なんだから…。
「課長、午後から取引先ですよね。」
「あ、ぁあそうだね。」
もうそんな日なのか…。
電話したのがつい先ほどのようだが
取引の日が来ていた。
火傷した膝のただれた皮がズボンに
張りついて痛むので、会社を出る前に
トイレで軟膏を塗る。
彼も気にすると思うし…
…?私は彼に気遣っている?
いや違う、仕事に支障をきたすから。
頭を左右に振って言い聞かせる。
「ん!」
ピシャッと両頬を叩き気合いを
入れた。
さて、行こう…。
つづきます→
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