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第54話 追放されたSSS級チート回復術師~美少女たちが復讐しようと言うので、仕方なく旅に出た~⑤(クロウ視点)

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 × × ×


「……待てよ」


 本当は、そんな事を言うつもりなんてなかった。だって、これ以上シロウと関われば、俺はまた傷付く事になるって分かりきってるから。


 でも、どうしてだろう。そうせずにはいられなかったんだ。


「どうした」
「……いや」


 それでも、呼び戻せばもしかしたら何か言ってくれるんじゃないかって。俺に、「回復してくれ」って、そう言ってくれるって思っていた。


「そうか」


 この態度は、冷たいのだろうか。俺にとって、不都合なことなのだろうか。もう、その判断すらつかなかった。


 どうしてなんだろう。どうして俺は、こうなってしまったんだろう。最初から挑む勇気もないのに追いかけて、あの炎の前で天才である事さえ否定されて。想いの全てを、仲間のせいにしていた事も見透かされて。最後にはもう、振り返ってもくれない。


「シ、シロウ。おれ……」
「俺に、認められてぇんだろ?」


 他の三人が歩いていく中で、シロウはそこに立ち止まって、背中を向けたまま言った。心臓が、締め付けられるような感覚に陥る。


「だったら、今からやり直せばいいじゃねえかよ。死ぬほどキツイだろうし、何べんも心が折れるかもしれねえけどよ。それをやっちゃいけないなんて、誰も言ってねえよ」


 ……堪えられなかった感情が、またしても目から零れ落ちる。


「俺たちは、先に進む。まぁ、お前はお前で頑張れや」


 力なく手を振って、よろめきながら歩いていく。だから、俺は立ち尽くして、見えなくなるまでその姿を眺めていた。


 ……どれだけの間、そこに居ただろうか。気が付けば、俺たちはクレオに戻っていた。宿泊していた宿屋の客は、俺たちだけだ。ここにしか宿屋はないから、シロウはもう次の街へ旅立ってしまったのだろう。


「クロウ様、帰りましょう。ヒナたちは、クロウ様と一緒に居られれば……」
「ごめん」


 人生で初めて、その言葉を口にした気がする。


「……えっ?」


 杖を亜空間に通じている鞄にしまわず、ベルトに引っかける。持っていた強化のアクセサリーを全て腰につけている普通のポシェット入れる。


「俺、行かないと」


 言うと、三人は鳩が豆鉄砲を食ったように驚き、俺の手を取った。


「ねぇ、クロちゃん、もうあいつらに関わるのは止めましょう?」
「そ、そうだよ。旅は終わり、それでいいじゃない」
「あぁ、この旅は終わったよ」


 そうだ。もう、お前たちに頼る旅は終わった。


「だから、この先は俺一人で行く。もう、誰もついてこないでくれ」
「嫌ですよ!」


 暗い路地裏に、ヒナの声が響く。


「なんで、ですか?もう、いいじゃないですか!そんなにあの勇者が大切なんですか!?あんな目に合されて、それなのに意味が分からないですよ!あの人たちはクロウ様が力を貸さなくたって勝手に世界を救いますよ!だから、もう……」
「ダメだ」


 それに、力を貸すだなんて、そんな事を奴らは求めていない。


「どうしてですか!!」
「……意地が、あるから」


 そして、最後に少しの金とナイフを取り出して、鞄をアカネに渡した。


「これ、中にここまでで倒した魔物の素材が入ってるんだ。売り払って三人で分けても、家を買って数年暮らせるくらいの金は手に入ると思う。鞄も、売ってしまっていい」
「もしかして、やっぱりシロウさんと戦いたいの?」
「多分な」
「……そっか。なら、私は一緒に行けないね」
「アカネ!」


 セシリアの声に、アカネは静かに首を振る。


「ダメだよ。私が行ったら、きっと迷惑になっちゃう」
「でも……!」
「私は、クロウのこと、やっぱり好きだから。でも、言う事しか聞けない無能だから。あれだけモモコちゃんに言われたのに、それでも勇気が出ないだから……っ」


 声が上ずっていて、ボロボロと泣いているのが分かった。でも、その顔を見ることも出来ない。彼女のせいにして、決意を濁らせたくなかったから。


「けど、止められないよ。だって、クロウがやりたいって言うんだもん。私、邪魔はできない。だから、だから……」


 引き留めて欲しい。必要とされたい。一緒にいてと、泣いてほしい。そうさ。俺はずっと、人からそう思われたいと思っていた。もちろん、今でもそう思ってる。もう、気持ちに嘘はつかない。
 でも、それ以上に、あいつに認められたいんだ。他の誰でもない、あの熱血で狡猾で、世界を救うことしか頭にないおっさんに。


 だって、きっと、初めてあった時から、ずっと憧れてたから。


「みんなのこと、待たせて。帰ってきたら、またみんなで一緒にお話しよ?」


 そう言い残して、アカネは反対方向へと歩いていった。


「……クロちゃん、一つだけいい?」
「あぁ」
「私たちのこと、好き?」
「……あぁ」
「そっか、分かったわ。それじゃ、私もアカネと一緒に待ってる」


 彼女も、後ろへ遠ざかっていく。


「……ホントは、絶対イヤなんですからね」
「ありがとう」
「ホントは、絶対絶対イヤなんですからね!」


 そう言って、走っていって。とうとう、俺は一人になった。


「……寂しく、なるな」


 そばに誰かが居たからこそ言えなかった言葉が、口をついて出る。


「本当はずっと褒められていたいし、ずっと慕われていたい。……ハハ、かっこわる」


 ただ、直視すれば辛いと思っていた現実は、形になれば案外すんなりと受け入れられた。こんなに、簡単なことだったんだ。


 天才にだって、弱点はあるんだ。それを認めた俺は、絶対にこの世界の誰よりも強いと、心の底から信じられた。


「……桃色の、炎」


 思考し、手を開く。そこには確かに、今までに触れたことも無かった何かが存在している。フフ。ざまぁみろ、シロウ。俺は、もうモノにしたぞ。


 ……待っていてくれ。
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