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追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。編
第46話 疑問
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× × ×
「それでね、見つけ出したのがアトムだった」
「……アトム?」
「そう。それが、この世界を作り出す、私たちには見えない何かなの。そして、アトムはアルケーを構成して、アルケーは火と水と空気と土を作り出す。そこに魔力を込める事で、私たちが使っているスキルが発動されるんだよ」
「ちょちょ。待ってよ、色々とすっ飛ばし過ぎじゃない?そもそも、どうやってそのアトムをスキルに組み込んだのさ」
「視点を変えるんだよ」
「……はぁ」
俺には、ヒマリが何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
どうやら、彼女は戦いの中で、今まで誰も触れてこなかったスキルと言う術の根本的な理由を探ったようだ。その結果、魔力以外の要素に気が付くことが出来て、既存のレベルという概念を覆えすとんでもないスキルを発動する事に成功したという。
「でもさ、考えてみればみんなに予兆はあったんだよ。だって、スキルは使う人によって効果や威力に振れ幅があるじゃない」
「……確かに」
言われてみればそうだ。実は、ヒマリの言う通りスキルは同じものであっても術者によって威力や持続時間が違う。それは、ずっと不思議だとは思っていた。同じフレアのスキルでも、俺とモモコちゃんでは威力に大きな開きがある。単純に、得意系統の差だと思ってたけど。
「それって、半分はあってる。得意系統のスキルは、無意識にアトムの力を取り込んでアルケーの枠組みに囚われない使い方を実践していたんだと思うから」
「そうは言っても、その視点の切り替え方って言うのがかなり曖昧だね。話だけ聞いても、少し難しいな」
「ならさ、そっちに行くよ」
……マジで?
「キータが次に行く場所を教えて。私、会いに行くよ。きっと、魔王を倒すのに役立つと思うんだ」
「分かった。明日には、クレオって街に向かうことになってる。そこで合流しよう。ジャンゴさんたちは?」
「二人は実家に帰ったから、道すがらの冒険者と協力して向かうよ。私とミレイが行くまで、先に進んじゃダメだよ?」
「大丈夫、シロウさんにも話しておくよ。それに、次のボスはデビルジョームだって噂があるんだ。相当慎重にやらなきゃ、殺される」
「……大丈夫、私が居るもん」
妙に、心強い言葉だった。彼女は、俺が辿り着いていない場所にいる気がする。
「それじゃあ、またね。無理しちゃダメだよ?」
「うん。じゃあね」
クリスタルの思念を切ったと同時に、俺は心の底から浮かび上がってくる喜びの感情を噛みしめた。そうか、ヒマリは見つけたんだ。憧れに並び立つ為の方法を。
「俺も、頑張らないとな」
呟いて、前を見る。景色がやけに綺麗に見えるのは、一体なぜだろうか。
× × ×
数日後、俺たちは予定通りにクレオへたどり着いていた。街は、ルシウスの言う通り科学的に発達している。囂々と燃え盛る炎と、高い煙突から噴き出される真っ白な蒸気が、この街のエネルギー源になっているようだ。
「こりゃ、ちょっとした感動だな。あの蒸気でピストンを動かして、機械を作動させてるんだってよ。ものすげえパワーだ」
「あんなん、普通の発想じゃないっすよ。というか、スキルがあるのに別のところからエネルギーを作るってのが既にイカれてますよね」
まぁ、そもそも科学って何さ?って話なんだけど、端的に言うとスキルとは別の法則に従って特殊な反応を起こす技術のことだ。魔王はその技術を使ってエネルギーを生み出し、仕掛けを動かしたり命を奪う武器を作っているらしい。
「爆薬と火の反応も、科学の産物らしいです。明らかに、この世界の常識を逸脱していますよね」
「ただ、どうも引っ掛かるんだよな」
「何がですか?」
モモコちゃんが、紅茶を飲みながら尋ねる。現在、俺たちはカフェに入って作戦を練っているところ。クレオではいい紅茶が取れるらしく、街の中にはこんな店がたくさんあるのだ。
「技術を発展させようって考え方が、全然悪魔らしくねえと思うんだよ」
「それ、俺も考えてたんですよ。なんか、妙に人間臭いですよね」
そもそも、世界を征服しようという考え方が悪魔や魔物の生き様に反しているように思える。こんなに広い世界で、どうしてわざわざ俺たちが生活している場所を狙って侵略してくるのか。
「あいつらの体は、人間よりもタフです。それは、撤退時に濃酸の中を通って行ったことからも明らかです。ならば、俺たちでは過ごせない場所に生活圏を広げるだけでもいいはずですよ。それなのに、何百年も使って侵略するなんて整合性が取れません」
「なんか、権威的な思惑を感じるよな。こんな技術だって、わざわざ人間に知らせないで自分たちで独占する方がよっぽど賢い。それなのに、与えてビビらせて支配するなんて、悪魔のやる事じゃねえよ」
つまり。
「魔王は、悪魔ではない」
「だろうな」
しかし、それなら一体何者なんだろうか。どうして、世界を破壊しようとするんだろうか。
「まぁ、理由が何であれ、俺たちは魔王を殺す以外にやる事はねえんだ。仮にあいつらが正義のつもりで動いてんだとしても、俺たちには俺たちの正義がある」
先に、何人も人間が殺されている。それが許されるはずがない。法で裁けないなら、俺たちがやるしかない。この旅は、そういう旅だ。
「それでね、見つけ出したのがアトムだった」
「……アトム?」
「そう。それが、この世界を作り出す、私たちには見えない何かなの。そして、アトムはアルケーを構成して、アルケーは火と水と空気と土を作り出す。そこに魔力を込める事で、私たちが使っているスキルが発動されるんだよ」
「ちょちょ。待ってよ、色々とすっ飛ばし過ぎじゃない?そもそも、どうやってそのアトムをスキルに組み込んだのさ」
「視点を変えるんだよ」
「……はぁ」
俺には、ヒマリが何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
どうやら、彼女は戦いの中で、今まで誰も触れてこなかったスキルと言う術の根本的な理由を探ったようだ。その結果、魔力以外の要素に気が付くことが出来て、既存のレベルという概念を覆えすとんでもないスキルを発動する事に成功したという。
「でもさ、考えてみればみんなに予兆はあったんだよ。だって、スキルは使う人によって効果や威力に振れ幅があるじゃない」
「……確かに」
言われてみればそうだ。実は、ヒマリの言う通りスキルは同じものであっても術者によって威力や持続時間が違う。それは、ずっと不思議だとは思っていた。同じフレアのスキルでも、俺とモモコちゃんでは威力に大きな開きがある。単純に、得意系統の差だと思ってたけど。
「それって、半分はあってる。得意系統のスキルは、無意識にアトムの力を取り込んでアルケーの枠組みに囚われない使い方を実践していたんだと思うから」
「そうは言っても、その視点の切り替え方って言うのがかなり曖昧だね。話だけ聞いても、少し難しいな」
「ならさ、そっちに行くよ」
……マジで?
「キータが次に行く場所を教えて。私、会いに行くよ。きっと、魔王を倒すのに役立つと思うんだ」
「分かった。明日には、クレオって街に向かうことになってる。そこで合流しよう。ジャンゴさんたちは?」
「二人は実家に帰ったから、道すがらの冒険者と協力して向かうよ。私とミレイが行くまで、先に進んじゃダメだよ?」
「大丈夫、シロウさんにも話しておくよ。それに、次のボスはデビルジョームだって噂があるんだ。相当慎重にやらなきゃ、殺される」
「……大丈夫、私が居るもん」
妙に、心強い言葉だった。彼女は、俺が辿り着いていない場所にいる気がする。
「それじゃあ、またね。無理しちゃダメだよ?」
「うん。じゃあね」
クリスタルの思念を切ったと同時に、俺は心の底から浮かび上がってくる喜びの感情を噛みしめた。そうか、ヒマリは見つけたんだ。憧れに並び立つ為の方法を。
「俺も、頑張らないとな」
呟いて、前を見る。景色がやけに綺麗に見えるのは、一体なぜだろうか。
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数日後、俺たちは予定通りにクレオへたどり着いていた。街は、ルシウスの言う通り科学的に発達している。囂々と燃え盛る炎と、高い煙突から噴き出される真っ白な蒸気が、この街のエネルギー源になっているようだ。
「こりゃ、ちょっとした感動だな。あの蒸気でピストンを動かして、機械を作動させてるんだってよ。ものすげえパワーだ」
「あんなん、普通の発想じゃないっすよ。というか、スキルがあるのに別のところからエネルギーを作るってのが既にイカれてますよね」
まぁ、そもそも科学って何さ?って話なんだけど、端的に言うとスキルとは別の法則に従って特殊な反応を起こす技術のことだ。魔王はその技術を使ってエネルギーを生み出し、仕掛けを動かしたり命を奪う武器を作っているらしい。
「爆薬と火の反応も、科学の産物らしいです。明らかに、この世界の常識を逸脱していますよね」
「ただ、どうも引っ掛かるんだよな」
「何がですか?」
モモコちゃんが、紅茶を飲みながら尋ねる。現在、俺たちはカフェに入って作戦を練っているところ。クレオではいい紅茶が取れるらしく、街の中にはこんな店がたくさんあるのだ。
「技術を発展させようって考え方が、全然悪魔らしくねえと思うんだよ」
「それ、俺も考えてたんですよ。なんか、妙に人間臭いですよね」
そもそも、世界を征服しようという考え方が悪魔や魔物の生き様に反しているように思える。こんなに広い世界で、どうしてわざわざ俺たちが生活している場所を狙って侵略してくるのか。
「あいつらの体は、人間よりもタフです。それは、撤退時に濃酸の中を通って行ったことからも明らかです。ならば、俺たちでは過ごせない場所に生活圏を広げるだけでもいいはずですよ。それなのに、何百年も使って侵略するなんて整合性が取れません」
「なんか、権威的な思惑を感じるよな。こんな技術だって、わざわざ人間に知らせないで自分たちで独占する方がよっぽど賢い。それなのに、与えてビビらせて支配するなんて、悪魔のやる事じゃねえよ」
つまり。
「魔王は、悪魔ではない」
「だろうな」
しかし、それなら一体何者なんだろうか。どうして、世界を破壊しようとするんだろうか。
「まぁ、理由が何であれ、俺たちは魔王を殺す以外にやる事はねえんだ。仮にあいつらが正義のつもりで動いてんだとしても、俺たちには俺たちの正義がある」
先に、何人も人間が殺されている。それが許されるはずがない。法で裁けないなら、俺たちがやるしかない。この旅は、そういう旅だ。
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