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仕事が終わると従業員出口で颯太が待ち伏せをしていた。優花が出てくると嬉しそうに走り寄ってきて、やっぱりどこか可愛いと感じてしまう。そんなことをしなくてもちゃんと約束は守るのにと思うのだが、颯太が嬉しそうに手を繋いでくるから、それでいいかと優花も納得した。
軽く食べるものを買うと、通い慣れた颯太の家に着く。これから何が起こるか分かっていると胸がいっぱいで食べ物など喉を通りそうにもなかった。けれど、お昼の親子丼を完食しそこねた優花の胃袋がぐぅと音をたてた。
「はは、優花さんのお腹すごいなってる」
「だ、だってお昼ご飯全部食べられなかったから」
「そっか。でもね、僕もお腹すいてるから、優花さんのこと食べたいな」
「んっ……」
玄関に入るなり颯太は抱き寄せてキスを振らせた。啄むような可愛いキスに優花はくすぐったさを覚えていると、またぐぅとお腹が鳴る音が聞こえた。ただ、それは優花のお腹ではなく、颯太のお腹からだった。
「そんな甘えたこと言っても、空腹には耐えられないんじゃない?」
「……そうかも。ご飯にしよ?」
ふふっと二人で笑い合うと買ってきた食材をキッチンに並べた。一人暮らしが長い優花が簡単な軽食を作ると二人で食べながら他愛もない話をした。思えば食堂でランチをしていた時もこうして穏やかな時間をすごしているときがとても幸せでご飯も美味しかったように思う。そして、できればこの先もずっと一緒にいたいと、そう思った。
「あのね、颯太くん。私、ちゃんと自分の気持ちを颯太くんに伝えてなかったと思って」
「う、うん……」
優花は颯太に伝えようと決めていた言葉を口にする。優花の口調に合わせて颯太も背筋を伸ばした。どこか緊張した面持ちに優花は口元を緩める。
「颯太くんのことが好きです。真っ直ぐに私を好きだって言ってくれたこと、一緒にご飯を食べてて美味しいって思えるし、何よりこれからも一緒にいたいって思った」
「……ほんとに?」
颯太は優花の言葉をきくと気の抜けたような表情になっていた。何を言われると思っていたのだろうか。緊張するほどに本気の気持ちをぶつけてくれていたことに優花は、心が愛おしさで満たされていく。
「あ、あとね。ちゃんと気になったことは言おうと思って……」
「気になったこと? なんでもいいよ、聞いて」
首をかしげて不思議そうな表情を浮かべた颯太を見てから、キッチンのシンク横に置かれたフレグランスに視線を向けた。
「あのフレグランス、うちの商品なんだけど……女の子からもらったの?」
「えっ……なんで……」
優花の問いかけにあからさまに動揺したのを見逃さなかった。視線がさまよい、優花と目を合わせようとしない。
「だってあれ、プレゼント用だし、色もこの部屋には合わないし……」
もし女の子からもらったと言われたら、少し嫉妬はするけれどそれを受け入れようと思っていた。しかし颯太はどこか気まずそうにしている。
「優花さん、覚えてない?」
「え……?」
チラチラと優花に視線を合わせては外しを繰り返しながら颯太がぽつりと呟いた。
「あれ、僕が自分で買ったんだよ。優花さんのお店で。その時から優花さんのこと、ずっと気になってたんだけど……」
「えっ、でもプレゼント用……」
「だって、そうでもしないとあそこで何か買うなんて出来ないし、少しでも優花さんと同じ匂いを纏いたかったというか」
もごもごと歯切れ悪そうに話す颯太はどこか叱られた子供のようにも見えた。優花は颯太が買いに来た事があったかどうかと記憶を巡らせた。
「あ、もしかして、半年前ぐらいに買いにきてくれた……?」
「……うん」
男性がプレゼント用に買いに来ることは多々ある。その時、優花のオススメのフレグランスはどれかと聞かれたことがあった。その時に「私もこのフレグランス使ってるんです」と接客した男性のことを思い出したのだ。
「ごめんね……全然気付かなかった……」
「いいよ。だってあの一度しかお店にいけなかったから。本当は何度も行こうと思ってたんだけど……」
モロッコ雑貨は輸入品ばかりで値段も安いとは言いがたい。颯太の生活ぶりからするとお金には困ってなさそうだが、使い道がなくて買う理由が見つからなかったのかもしれない。
「でもね、このデパートの仕事が来て、優花さんに会えた時はチャンスだって思った。そしたら休憩室であの話を聞いて……ただの弱みにつけ込んだだけなんだよ」
「そうかな……でもあのとき声をかけてくれなかったら、颯太くんのことこんなに好きにならなかったと思うよ」
指先が触れて自然と指が絡みあう。颯太の瞳を見つめればその瞳は頼りなさげに揺れる。いつもの「年下」という武器を利用して甘えてくる颯太はどこにもいない。
「そんなこと言うともっと欲張りになるからダメだよ」
「いつもみたいに甘えてくれればいいのに」
そう言って優花から颯太の頬にキスをした。優花からのキスが予想外だったのか颯太は瞳を潤ませてそして笑顔を浮かべた。
「だったらもう遠慮はしない。優花さんの全てを僕がもらうから」
その言葉通り、颯太は優花の唇に噛み付くようキスをした。いつもは啄むような優しいキスなのに、その激しさに目眩がする。貪り尽くすような熱い舌が優花の全てを食らいつくそうとしているようだ。
「んっ、ふぁ……」
「ちゃんと息しないと、ダメだよ?」
「だって、はげしっ……んっ」
いたずらな笑みを浮かべながら颯太はまた優花の口を塞いだ。同時に優花のお腹に颯太の大きな手が触れた。ニットをまくり上げて直接触られるとびくりと身体が震えた。触られるのは初めてじゃないのに、いつもの颯太ではない気がして心臓の音が早くなる。
「さっき我慢したから、もう我慢できない」
軽く食べるものを買うと、通い慣れた颯太の家に着く。これから何が起こるか分かっていると胸がいっぱいで食べ物など喉を通りそうにもなかった。けれど、お昼の親子丼を完食しそこねた優花の胃袋がぐぅと音をたてた。
「はは、優花さんのお腹すごいなってる」
「だ、だってお昼ご飯全部食べられなかったから」
「そっか。でもね、僕もお腹すいてるから、優花さんのこと食べたいな」
「んっ……」
玄関に入るなり颯太は抱き寄せてキスを振らせた。啄むような可愛いキスに優花はくすぐったさを覚えていると、またぐぅとお腹が鳴る音が聞こえた。ただ、それは優花のお腹ではなく、颯太のお腹からだった。
「そんな甘えたこと言っても、空腹には耐えられないんじゃない?」
「……そうかも。ご飯にしよ?」
ふふっと二人で笑い合うと買ってきた食材をキッチンに並べた。一人暮らしが長い優花が簡単な軽食を作ると二人で食べながら他愛もない話をした。思えば食堂でランチをしていた時もこうして穏やかな時間をすごしているときがとても幸せでご飯も美味しかったように思う。そして、できればこの先もずっと一緒にいたいと、そう思った。
「あのね、颯太くん。私、ちゃんと自分の気持ちを颯太くんに伝えてなかったと思って」
「う、うん……」
優花は颯太に伝えようと決めていた言葉を口にする。優花の口調に合わせて颯太も背筋を伸ばした。どこか緊張した面持ちに優花は口元を緩める。
「颯太くんのことが好きです。真っ直ぐに私を好きだって言ってくれたこと、一緒にご飯を食べてて美味しいって思えるし、何よりこれからも一緒にいたいって思った」
「……ほんとに?」
颯太は優花の言葉をきくと気の抜けたような表情になっていた。何を言われると思っていたのだろうか。緊張するほどに本気の気持ちをぶつけてくれていたことに優花は、心が愛おしさで満たされていく。
「あ、あとね。ちゃんと気になったことは言おうと思って……」
「気になったこと? なんでもいいよ、聞いて」
首をかしげて不思議そうな表情を浮かべた颯太を見てから、キッチンのシンク横に置かれたフレグランスに視線を向けた。
「あのフレグランス、うちの商品なんだけど……女の子からもらったの?」
「えっ……なんで……」
優花の問いかけにあからさまに動揺したのを見逃さなかった。視線がさまよい、優花と目を合わせようとしない。
「だってあれ、プレゼント用だし、色もこの部屋には合わないし……」
もし女の子からもらったと言われたら、少し嫉妬はするけれどそれを受け入れようと思っていた。しかし颯太はどこか気まずそうにしている。
「優花さん、覚えてない?」
「え……?」
チラチラと優花に視線を合わせては外しを繰り返しながら颯太がぽつりと呟いた。
「あれ、僕が自分で買ったんだよ。優花さんのお店で。その時から優花さんのこと、ずっと気になってたんだけど……」
「えっ、でもプレゼント用……」
「だって、そうでもしないとあそこで何か買うなんて出来ないし、少しでも優花さんと同じ匂いを纏いたかったというか」
もごもごと歯切れ悪そうに話す颯太はどこか叱られた子供のようにも見えた。優花は颯太が買いに来た事があったかどうかと記憶を巡らせた。
「あ、もしかして、半年前ぐらいに買いにきてくれた……?」
「……うん」
男性がプレゼント用に買いに来ることは多々ある。その時、優花のオススメのフレグランスはどれかと聞かれたことがあった。その時に「私もこのフレグランス使ってるんです」と接客した男性のことを思い出したのだ。
「ごめんね……全然気付かなかった……」
「いいよ。だってあの一度しかお店にいけなかったから。本当は何度も行こうと思ってたんだけど……」
モロッコ雑貨は輸入品ばかりで値段も安いとは言いがたい。颯太の生活ぶりからするとお金には困ってなさそうだが、使い道がなくて買う理由が見つからなかったのかもしれない。
「でもね、このデパートの仕事が来て、優花さんに会えた時はチャンスだって思った。そしたら休憩室であの話を聞いて……ただの弱みにつけ込んだだけなんだよ」
「そうかな……でもあのとき声をかけてくれなかったら、颯太くんのことこんなに好きにならなかったと思うよ」
指先が触れて自然と指が絡みあう。颯太の瞳を見つめればその瞳は頼りなさげに揺れる。いつもの「年下」という武器を利用して甘えてくる颯太はどこにもいない。
「そんなこと言うともっと欲張りになるからダメだよ」
「いつもみたいに甘えてくれればいいのに」
そう言って優花から颯太の頬にキスをした。優花からのキスが予想外だったのか颯太は瞳を潤ませてそして笑顔を浮かべた。
「だったらもう遠慮はしない。優花さんの全てを僕がもらうから」
その言葉通り、颯太は優花の唇に噛み付くようキスをした。いつもは啄むような優しいキスなのに、その激しさに目眩がする。貪り尽くすような熱い舌が優花の全てを食らいつくそうとしているようだ。
「んっ、ふぁ……」
「ちゃんと息しないと、ダメだよ?」
「だって、はげしっ……んっ」
いたずらな笑みを浮かべながら颯太はまた優花の口を塞いだ。同時に優花のお腹に颯太の大きな手が触れた。ニットをまくり上げて直接触られるとびくりと身体が震えた。触られるのは初めてじゃないのに、いつもの颯太ではない気がして心臓の音が早くなる。
「さっき我慢したから、もう我慢できない」
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