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甘えるように耳元で囁かれて拒否できなかった優花は、そのまま眠たそうな颯太を支えながらタクシーに乗せた。どの辺りに住んでいるかまでは聞いたことがあったのだが、終電の時間がもうすぐだった上に間に合う気がしなかったからだ。タクシーに乗っている間も優花の肩にもたれかかりながら、すぅと静かに呼吸をしていた。寝てしまったのかと、優花が話しかけると生返事をしているあたり、意識は保とうとしていて颯太なりに必死なのだろうと優花はそのままの状態で窓の外を眺めたのだった。
「ほら、颯太くん、家着いたよ」
タクシーに乗せた時に、なんとか行き先を運転手に告げさせたのは良い判断だった。着いたのはいわゆるタワーマンション。支払いをしてマンションに入ろうとしたとき、自動的にドアが開いた。オートロックじゃないのかと思って辺りを見渡すとたしかに部屋番号を押すキーがあった。どういうことなのだろうと思いながら颯太に部屋番号を吐かせてエレベーターに乗せる。今度こそ鍵を出してもらわなければと思った瞬間、また鍵がカチっと開いた。そういえばと思考を巡らせる。こういったタワーマンションはポケットやバッグに鍵が入っているだけで自動的に鍵の開け閉めをするのだと。恐らく颯太は眠気と戦いながらもポケットかバッグに入っている鍵を開く方に設定していたのではないかと、そう気付いた。
「んぅ……水、ちょーだい」
「水? ちょっと待っててね」
広々としたリビングにあるソファに颯太を寝かせると、あまり使った形跡のないキッチンにある冷蔵庫を開ける。中にはビールとペットボトルの水が何本か。グラスに水を入れたほうがいいのかと辺りを探すが、グラスは置いてないようだ。カウンターキッチンのシンクの近くにフレグランスが置いてあり、優花は「あ、」と声をもらした。このルームフレグランスは優花が働く雑貨屋で取り扱っているもので、他の店では取り扱っていない。優花は嬉しく思いながらも、この物が少ない部屋に不釣り合いなフレグランスに誰かからもらったものなのだろうかと疑問が浮かんだ。
「優花さん、お水、冷蔵庫にある、から」
「あ、うん。ちょっと待ってね」
ソファからなんとか声を振り絞った颯太の言葉で、優花はペットボトルの水を持ってリビングに戻っていった。
「颯太くん、お水これでいい?」
「ん……ありがと」
眠そうな表情でむくりと起き上がった颯太はペットボトルの水を受け取るとごくごくと飲み干していく。喉仏が上下するその姿を優花は思わずじっと見つめてしまった。
「優花さんも飲む?」
そう言って颯太は自分が飲んでいたペットボトルを差し出した。なんだか見つめていたのがバレてしまったかのようで恥ずかしくなり優花は首を振った。
「う、ううん。大丈夫。それより、私ももう帰るね」
時間を確認するとすでに終電は終わっている時間だ。タクシーで帰るにもここからじゃお金がかかりすぎる。どこか大きな街に出て、カラオケで始発まで時間を潰そうかと考えているとすぐ後ろに颯太の気配を感じた。
「もう、こんな時間だよ? 電車もないんだから……泊まっていけばいいのに」
「でも、お礼に送り届けるだけだったし、颯太くんの家に泊まるなんて迷惑かけられないよ」
すると颯太の腕が伸びてきて背中に重みを感じる。眠そうにしていた時の脱力しているような体重のかけ方ではない。少し目が覚めたことにほっとしながら、優花はその腕の中からすり抜けようとした。けれど、それはかなわなかった。
「ちょ、颯太くん。もう帰るから……」
「ダメだよ。本当に、うちに送ることがお礼になると思ってる?」
「颯太、くん?」
颯太の腕と掴んで引き離そうとする。それでもびくともしなくて、今度はぺちぺちと叩いていると、頭上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「優花さん、それ可愛いね」
「私は、真面目に離してほしいんだけど!」
「ダメだって言ってる、で、しょ」
「ひゃっ……!」
腕を振りほどくどころか優花はソファに押し倒されてしまった。見上げた颯太の瞳は獲物を捕まえたかのようにギラつき、昂ぶっているように見えた。瞳の奥の色が優花には見えるようでただじっとその瞳を見つめる。
「家についてきた時点で優花さんはこうなること、わかってたんじゃない?」
「そんなこと……颯太くんが眠そうだったから助けてあげたかっただけで」
困っている人がいれば助けるのは当然のこと。そう言われて優花は育ってきた。それは見返りを求めるとかそういうことではなく、自分の手の届く範囲で出来ることをしてきたつもりだ。
「酷いなぁ、優花さん。僕の気持ち伝わってないのかな?」
「気持ちって……」
「あの男と会ったとき、優花さんの笑顔に惹かれたって言ったでしょう?」
食堂のカウンター席で相田と鉢合わせてしまった時の事を思い出した。確かに颯太はそういってくれていたのだが、それはあくまでも取り繕うためのウソだと思っていた。
「それは、その時の咄嗟の言い訳じゃ……」
「言い訳でそんなこと言わないんだけどな。優花さんが好きだってこと、証明してもいい?」
「えっ、あっ……」
ぐりっと下半身を押し付けられて颯太のモノが大きくなっていることに気付いた。顔が熱を持ち始めて熱い。でもこんなことになるなんて想像もしたことがなかった。
「今日は、大人しく僕に食べられてて? ね?」
颯太の目が優しく細められる。その表情に弱い優花はそれ以上抵抗が出来なかった。
「ほら、颯太くん、家着いたよ」
タクシーに乗せた時に、なんとか行き先を運転手に告げさせたのは良い判断だった。着いたのはいわゆるタワーマンション。支払いをしてマンションに入ろうとしたとき、自動的にドアが開いた。オートロックじゃないのかと思って辺りを見渡すとたしかに部屋番号を押すキーがあった。どういうことなのだろうと思いながら颯太に部屋番号を吐かせてエレベーターに乗せる。今度こそ鍵を出してもらわなければと思った瞬間、また鍵がカチっと開いた。そういえばと思考を巡らせる。こういったタワーマンションはポケットやバッグに鍵が入っているだけで自動的に鍵の開け閉めをするのだと。恐らく颯太は眠気と戦いながらもポケットかバッグに入っている鍵を開く方に設定していたのではないかと、そう気付いた。
「んぅ……水、ちょーだい」
「水? ちょっと待っててね」
広々としたリビングにあるソファに颯太を寝かせると、あまり使った形跡のないキッチンにある冷蔵庫を開ける。中にはビールとペットボトルの水が何本か。グラスに水を入れたほうがいいのかと辺りを探すが、グラスは置いてないようだ。カウンターキッチンのシンクの近くにフレグランスが置いてあり、優花は「あ、」と声をもらした。このルームフレグランスは優花が働く雑貨屋で取り扱っているもので、他の店では取り扱っていない。優花は嬉しく思いながらも、この物が少ない部屋に不釣り合いなフレグランスに誰かからもらったものなのだろうかと疑問が浮かんだ。
「優花さん、お水、冷蔵庫にある、から」
「あ、うん。ちょっと待ってね」
ソファからなんとか声を振り絞った颯太の言葉で、優花はペットボトルの水を持ってリビングに戻っていった。
「颯太くん、お水これでいい?」
「ん……ありがと」
眠そうな表情でむくりと起き上がった颯太はペットボトルの水を受け取るとごくごくと飲み干していく。喉仏が上下するその姿を優花は思わずじっと見つめてしまった。
「優花さんも飲む?」
そう言って颯太は自分が飲んでいたペットボトルを差し出した。なんだか見つめていたのがバレてしまったかのようで恥ずかしくなり優花は首を振った。
「う、ううん。大丈夫。それより、私ももう帰るね」
時間を確認するとすでに終電は終わっている時間だ。タクシーで帰るにもここからじゃお金がかかりすぎる。どこか大きな街に出て、カラオケで始発まで時間を潰そうかと考えているとすぐ後ろに颯太の気配を感じた。
「もう、こんな時間だよ? 電車もないんだから……泊まっていけばいいのに」
「でも、お礼に送り届けるだけだったし、颯太くんの家に泊まるなんて迷惑かけられないよ」
すると颯太の腕が伸びてきて背中に重みを感じる。眠そうにしていた時の脱力しているような体重のかけ方ではない。少し目が覚めたことにほっとしながら、優花はその腕の中からすり抜けようとした。けれど、それはかなわなかった。
「ちょ、颯太くん。もう帰るから……」
「ダメだよ。本当に、うちに送ることがお礼になると思ってる?」
「颯太、くん?」
颯太の腕と掴んで引き離そうとする。それでもびくともしなくて、今度はぺちぺちと叩いていると、頭上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「優花さん、それ可愛いね」
「私は、真面目に離してほしいんだけど!」
「ダメだって言ってる、で、しょ」
「ひゃっ……!」
腕を振りほどくどころか優花はソファに押し倒されてしまった。見上げた颯太の瞳は獲物を捕まえたかのようにギラつき、昂ぶっているように見えた。瞳の奥の色が優花には見えるようでただじっとその瞳を見つめる。
「家についてきた時点で優花さんはこうなること、わかってたんじゃない?」
「そんなこと……颯太くんが眠そうだったから助けてあげたかっただけで」
困っている人がいれば助けるのは当然のこと。そう言われて優花は育ってきた。それは見返りを求めるとかそういうことではなく、自分の手の届く範囲で出来ることをしてきたつもりだ。
「酷いなぁ、優花さん。僕の気持ち伝わってないのかな?」
「気持ちって……」
「あの男と会ったとき、優花さんの笑顔に惹かれたって言ったでしょう?」
食堂のカウンター席で相田と鉢合わせてしまった時の事を思い出した。確かに颯太はそういってくれていたのだが、それはあくまでも取り繕うためのウソだと思っていた。
「それは、その時の咄嗟の言い訳じゃ……」
「言い訳でそんなこと言わないんだけどな。優花さんが好きだってこと、証明してもいい?」
「えっ、あっ……」
ぐりっと下半身を押し付けられて颯太のモノが大きくなっていることに気付いた。顔が熱を持ち始めて熱い。でもこんなことになるなんて想像もしたことがなかった。
「今日は、大人しく僕に食べられてて? ね?」
颯太の目が優しく細められる。その表情に弱い優花はそれ以上抵抗が出来なかった。
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