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2章 帝国
第73話 帝国騎士のプロポーズ
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パーティ会場が静まり返る中で、皆皇帝の言葉を待っていたんだけど、空気を読まないやつが一人いた。
「お兄様、私の婚姻を邪魔しないで下さいませ。余興なら、後でお願いいたしますわ」
何言ってんだ?これの何処が余興に見えてんだろ。
腹黒まで便乗してきたよ。
「そ…そうですわ。エイドリアン、悪ふざけが過ぎます。もう子供ではな…」
「親子揃って目出度い奴等だな。これの何処が、余興に見えるのだ?ユリアン、お前は言い逃れ出来ないぞ。既に証拠は揃えてある」
「お兄様!いい加減にし…」
「お前と俺は、兄妹では無い。俺は皇太子の息子、シュヴァルツだ。そして、俺を兄と呼んでいいのは、弟のアルフレッドだけだ。アビゲイル、お前は俺の妹ではない、二度と係わるなっ」
お花畑の顔が、真っ白になっちゃった。
今まで冷たくされてた理由が、分かったのかな?気の毒とは思えないけど。
傲慢だって、あんたがまともな人間だったらさ、妹として大事にしてたんだよ?
多分…あいつは、そゆ奴だと、私は思う…うん。
ここで我が王弟様の、登場かな?
「聞き捨てならぬ言動が、飛び交いましたね?戦争用魔道具の兼もですが、我が息子を暗殺とは、詳しくお聞きしたい。それが事実ならば、罪人の娘を王家に迎える事など、言語道断。もしや、その戦争用魔道具とやらを使って、我が国を手中に収めるおつもりでしたかな?」
おお~なかなかの役者っぷりではないか、目玉父格好いいぞ!
「何をおっしゃいますの!エイドリアンは、何かに操られているのですわ…そう、操られているのです!」
「何かとは、私に使った、この魔道具の事でしょうか?ユリアン皇妃」
ここで証人1の登場だ!あの時の近衛騎士、無事に生還出来たんだね、良かった。
彼は私の方へ歩み寄って来て、片膝を付き騎士の挨拶をしてから、謝罪してくれた。
「操られていたとは言え、女性にこの様な大怪我をさせてしまった事…申し開きもございません。この身を持って、生涯かけて償って行く所存でございます」
そんな事は望んでいないんだけどさ、私はこの日の為に、ずっと貫通した手を治さずにいたのだよ。
「ティア!恐ろしかっただろう。まだ傷は痛むかい?王国へ帰ったら、直ぐに宮仕えが治療してくれるから、もう少しの辛抱だよ」
目玉が私の元に駆け寄って来て、わざとらしく包帯の巻かれた手を翳した。
会場が、一気にどよめく。
ここで大神官を裁く事はしない。
あくまでも腹黒一人を、狙い撃ちにする手筈になってる。
「言い掛かりはおやめなさい!貴方は、勝手に行方をくらませた…」
そう簡単に認める訳ないよね、腹黒はなんとか状況をひっくり返そうと考えてるみたいだけど、無駄な足掻きだ。
「悪足掻きはやめるんだな。この者に付けられていた魔道具からは、お前の声にだけ反応するよう、細工がされている。今この場で試してみるか?この魔道具が反応する所を、実際にこの場で証明出来るのだぞ」
傲慢は魔道具を、証拠品として会場中に見せ閉めた。
「それから、暗殺者共を承認として差し出す。お前ら、虚偽は許されないぞ」
おお~ここで証人2~複数が来た!もう逃げられないぞ。
腹黒は助けを求める様に皇帝を見ても、冷たい視線を送られるだけだった。
大神官は、殺気を隠そうともしてない。
きっと腹黒が、大神官に唆されたとかって、口を割ろうとした瞬間を狙ってんだろね。
誰からも助けて貰えないこの状況で、大神官と皇帝…どっちに縋るのかな?
十中八九、皇帝を選ぶだろうけど…
だいたいさ、ここまで大袈裟に行動してて、今まで何も起こらなかった事が不思議な位だと思う。
「へ…陛下!私の無実を証明し…」
「戦争用魔道具所持及び、国賓暗殺未遂並びに、非人道的行為。証拠が固まり次第、国際法に基づき厳罰に処す。また、今この時を以って、皇妃を皇族籍から抹消する。ユリアンを捉え、地下牢に放り込め」
あ~あ…ご愁傷様。
今回皇太子の事を問い質さなかったのは、公にするといろいろ問題になるからね。
魔道具と、暗殺未遂で、十分過ぎる実刑が下るだろう。
腹黒が皇族では無くなり地下牢へ入れられた事で、お花畑と目玉の結婚の話しは白紙になるだろう。
彼女は目の前で母親が地下牢へ連れてかれたけど、今どんな気持ちでいるのかな?
それはさておき、腹黒を裁いたからと言って、王国乗っ取りに皇帝が関わって無い事の証明にはならない。
案の定皇帝と、目玉父が何やら話し合ってる。
微かに聞こえる声と、口の動きでだいたいの事は、分かった。
やっぱし腹黒との関係を否定し、婚姻を進めたいって言う皇帝と、罪人の娘は王族に相応しくないって言う目玉父。
どっちも譲らないな…
そこへ、お花畑が爆弾落とした。
「私は皇帝の娘よ!貴族へ臣籍降下出来る身分じゃありませんの。弱小国でも、王妃になって差し上げると言っているのだから、光栄に思いなさい」
あちゃ~堂々とお国の乗っ取り宣言しちゃったよ、頭の中大丈夫なのか?
傲慢が言ってたけど、本当に甲高くてよく通る声だから、誤魔化しは効かないね。
母親と一緒に、地下牢行きにならなきゃいいけど…
「皇女殿下も、母親と共謀なさっていたと、受け止められる発言。皇帝陛下、これでも我が国を取り込むおつもりではないと、言い切りますか?」
皇帝は娘をギロリとひと睨みしてから、高らかに宣言したよ。
「今日は解散とする。大神官も、ご苦労であった」
「ま、待って下さい、お父様!私とルイの婚姻は…」
「お前もユリアンと同罪で、地下牢へと送られたいのかっ」
えっ…お花畑がこっち見た。
怖っ、睨まれたんだけど、私関係なくね?
「ル…ルイ!わ、私は…あなたの妃となって、王国を統べるのです。そうですよね?」
「私は、王太子殿下を支え国民を護り、国を繁栄させる為にこの身を捧げると誓いを立てている。国王になる事等、考えてはいない!皇女との婚姻も、望んではいない!」
「やはり貴方も罪人の娘。我が息子ルイフォードに、謀反を起せと言うのか?血は争えないな」
怖っ、目玉父怖っ。
うちの王族は皆仲良しだから、謀反なんて他人事なのに、簡単に言ってのけちゃうから睨まれんだよ。
いい加減諦めたらいいのに、お花畑は、はんかくさい奴だな。
「貴方のような性根の悪い方を、例え義理でも娘とは、思いたくありませんわね」
ひょえ~ルミア様まで怒らせた。
極寒の絶対零度地区だよ、あそこには行きたくない。
皇族達と一緒に、目玉両親も引っ込んじゃった。
はんかくさいは階段降りて来たけど、こっちに来る気?
「ティア、僕に呪印を刻んでくれないかな」
「うん」
私は印を結んだ。
「視の覚・聴の覚・嗅の覚・触の覚。
錯覚を起こし、幻聴を聞き、偽りの香ですれ違え。
鏡に映されし、胸懐を、具現化せよ」
目玉の胸元に、認識阻害の呪印が刻まれたのを、確認した。
「これで半日は、目玉を認識出来なくなるよ」
「ありがとうティア…彼女を見捨てた僕を、軽蔑しないで欲しい」
「する訳ないじゃん!あいつは、目玉の肩書以上の物を、求めてんだよ。王族じゃなかったら、見向きもされないって。気にすんな」
寂しそうな、笑顔だな…
「はんかくさいは罪人の娘であって、罪人ではない。何処かで会心したら、新しい未来がきっと来るよ」
「そうだね…はんか…くさい?とは、何の事?」
「はんかくさいは、はんかくさいだよ、それこそ気にしなくていいよ」
「北国の方言で、呆れた奴って意味だな。アビゲイルにピッタリな仇名だ」
そう言って傲慢が笑った…え?
「どして?」
「クレアが俺に興味を持ってくれたのか?それは嬉しいな」
いや…それ答えになってないだろ。
私達は傲慢が、北国の方言を理解してた事を、この時初めて知ったのだ。
そして忘れてたんだけど、ローズ様の傍に居た近衛騎士が話しかけて来た。
「殿下…トレミエール嬢との婚約を破棄されたのなら、私の役目は終わりでしょうか?」
「そうだな。俺の婚約者じゃない令嬢を、個人的に護衛する必要は無い。部隊復帰させてやる。不満か?」
「い、いえ。滅相もございません」
「トレミエール侯爵。今迄の献上金は返せないが…俺の有罪で破棄したからな、慰謝料として私財は全て侯爵家宛に送ってある。それで不満なら異議申し立てを受け付けよう」
「お、恐れ多い事にございます。殿下、ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」
「構わん。言ってみろ」
「ローズを…娘を最初から婚約者として見ていなかったと仰っておりましたが、初めから破棄するおつもりだったのでしょうか?」
「クレアナに出会ったからな。お前の娘が邪魔になっただけだ」
「嘘ばっか!傲慢、あんたって本当にいい奴だったんだね!最初はずっと嫌な奴って思ってた事、謝るわ。ごめんね」
「カルティア…お前は、黙っていろと言っただろう。その口を今直ぐ…いや、何を言っても無駄だな」
「何よ、言いかけたなら、最後まで言いなさいよ」
「いいのか?俺は帝国の皇子だぞ」
「目玉、後は任せた」
私は背中に隠れたよ。えへっ
「誰かに頼られると言うのは、嬉しいものだね」
「ルイフォード。お前はカルティアを、甘やかし過ぎではないのか?」
「そうだね。僕はティアにもクレアにも、返しきれない程の恩を受けている。この先何があろうと、彼女達の盾になれるのなら、本望だと思っているよ」
「………そうか」
傲慢が、目玉を羨ましそうに見ているのを、私は見ていた。
彼には、心を許して笑い合える友達が、居ないのかもしれない。
育って来た環境があれだから…仕方の無い事なのかもだけど、ちょっと切なくなっちゃった。
そんな他愛も無い話をしてたんだけど、トビアスとか言う近衛騎士とローズ様が、お互いモジモジしながらずっと俯いたままだ。
「貴方達って、相思相愛だって聞いたんだけどさ、何で喋らないの?」
「なっ。カルティア、お前は本当にデリカシーが無いな。他人の色恋に首を突っ込むな!」
「だって、モタモタしてたらさ、トンビに油揚げ持ってかれるじゃん」
「そうだ。男は度胸」
「うんうん、女も強引に行くべきだね。私のお母様は押しかけ女房だもの」
「ミラ伯母様も駆け落ちした」
「そうだったね。ミラ・オルテンシアは、農夫と結婚して、幸せそうに薬草畑を耕しているのを見たよ」
「そうなのですか!………駆け落ち?」
「トビアス。ドメスティカ王国のオルテンシア伯爵領は、風習がかなり変わっている。常識で考えると、頭がおかしくなるぞ」
「そうなのですか…」
「ちょっと!うちが非常識みないな言い方、止めてくんない」
「事実だろう」
「僕も伯爵から聞いたよ。オルテンシアの常識は、他領での非常識で、逆もまた然りだと」
「「マジか」」
「あの…オルテンシア伯爵夫人は…自らの意思で、嫁いで来られたのですか?」
「そだよ。でもうちの両親仲良しだよ」
なんか、トビアスとローズ様が、挙動不審になっちゃった。
「あの…トビアス様」
「待って下さい、トレミエール嬢。貴方を、ずっとお慕いしておりました。この剣に誓って、必ず幸せに致します。どうか私と、結婚してください」
嘘でしょ!トビアスって人が片膝を付いて、目をぎゅっと瞑って、口を尖らせた。
これって、マルコがやってたアレか?
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~まっ!」
「嬉しい、ずっと待っておりました。トビアス様、その求婚お受け致します」
えええええええええ~
「「マジか!!!」」
「「!?」」
目玉達もビックリしてるよ。
周りで見てた人達から、拍手喝采が起きた。
知らなかった…帝国では、貴方の為ならどんな事でも出来ると言う、熱烈なプロポーズなんだって。
当然だが、ローズ様は泣きながら、彼の手を取ってたよ。
カバジェロ…あんたは、何処で覚えて来たんだ?摩訶不思議な奴。
すっかり忘れてた。
はんかくさいが目玉の周りをウロウロしてたけど、呪印の効果がしっかり出てたから、言い寄られる事は無かったよ。
「お兄様、私の婚姻を邪魔しないで下さいませ。余興なら、後でお願いいたしますわ」
何言ってんだ?これの何処が余興に見えてんだろ。
腹黒まで便乗してきたよ。
「そ…そうですわ。エイドリアン、悪ふざけが過ぎます。もう子供ではな…」
「親子揃って目出度い奴等だな。これの何処が、余興に見えるのだ?ユリアン、お前は言い逃れ出来ないぞ。既に証拠は揃えてある」
「お兄様!いい加減にし…」
「お前と俺は、兄妹では無い。俺は皇太子の息子、シュヴァルツだ。そして、俺を兄と呼んでいいのは、弟のアルフレッドだけだ。アビゲイル、お前は俺の妹ではない、二度と係わるなっ」
お花畑の顔が、真っ白になっちゃった。
今まで冷たくされてた理由が、分かったのかな?気の毒とは思えないけど。
傲慢だって、あんたがまともな人間だったらさ、妹として大事にしてたんだよ?
多分…あいつは、そゆ奴だと、私は思う…うん。
ここで我が王弟様の、登場かな?
「聞き捨てならぬ言動が、飛び交いましたね?戦争用魔道具の兼もですが、我が息子を暗殺とは、詳しくお聞きしたい。それが事実ならば、罪人の娘を王家に迎える事など、言語道断。もしや、その戦争用魔道具とやらを使って、我が国を手中に収めるおつもりでしたかな?」
おお~なかなかの役者っぷりではないか、目玉父格好いいぞ!
「何をおっしゃいますの!エイドリアンは、何かに操られているのですわ…そう、操られているのです!」
「何かとは、私に使った、この魔道具の事でしょうか?ユリアン皇妃」
ここで証人1の登場だ!あの時の近衛騎士、無事に生還出来たんだね、良かった。
彼は私の方へ歩み寄って来て、片膝を付き騎士の挨拶をしてから、謝罪してくれた。
「操られていたとは言え、女性にこの様な大怪我をさせてしまった事…申し開きもございません。この身を持って、生涯かけて償って行く所存でございます」
そんな事は望んでいないんだけどさ、私はこの日の為に、ずっと貫通した手を治さずにいたのだよ。
「ティア!恐ろしかっただろう。まだ傷は痛むかい?王国へ帰ったら、直ぐに宮仕えが治療してくれるから、もう少しの辛抱だよ」
目玉が私の元に駆け寄って来て、わざとらしく包帯の巻かれた手を翳した。
会場が、一気にどよめく。
ここで大神官を裁く事はしない。
あくまでも腹黒一人を、狙い撃ちにする手筈になってる。
「言い掛かりはおやめなさい!貴方は、勝手に行方をくらませた…」
そう簡単に認める訳ないよね、腹黒はなんとか状況をひっくり返そうと考えてるみたいだけど、無駄な足掻きだ。
「悪足掻きはやめるんだな。この者に付けられていた魔道具からは、お前の声にだけ反応するよう、細工がされている。今この場で試してみるか?この魔道具が反応する所を、実際にこの場で証明出来るのだぞ」
傲慢は魔道具を、証拠品として会場中に見せ閉めた。
「それから、暗殺者共を承認として差し出す。お前ら、虚偽は許されないぞ」
おお~ここで証人2~複数が来た!もう逃げられないぞ。
腹黒は助けを求める様に皇帝を見ても、冷たい視線を送られるだけだった。
大神官は、殺気を隠そうともしてない。
きっと腹黒が、大神官に唆されたとかって、口を割ろうとした瞬間を狙ってんだろね。
誰からも助けて貰えないこの状況で、大神官と皇帝…どっちに縋るのかな?
十中八九、皇帝を選ぶだろうけど…
だいたいさ、ここまで大袈裟に行動してて、今まで何も起こらなかった事が不思議な位だと思う。
「へ…陛下!私の無実を証明し…」
「戦争用魔道具所持及び、国賓暗殺未遂並びに、非人道的行為。証拠が固まり次第、国際法に基づき厳罰に処す。また、今この時を以って、皇妃を皇族籍から抹消する。ユリアンを捉え、地下牢に放り込め」
あ~あ…ご愁傷様。
今回皇太子の事を問い質さなかったのは、公にするといろいろ問題になるからね。
魔道具と、暗殺未遂で、十分過ぎる実刑が下るだろう。
腹黒が皇族では無くなり地下牢へ入れられた事で、お花畑と目玉の結婚の話しは白紙になるだろう。
彼女は目の前で母親が地下牢へ連れてかれたけど、今どんな気持ちでいるのかな?
それはさておき、腹黒を裁いたからと言って、王国乗っ取りに皇帝が関わって無い事の証明にはならない。
案の定皇帝と、目玉父が何やら話し合ってる。
微かに聞こえる声と、口の動きでだいたいの事は、分かった。
やっぱし腹黒との関係を否定し、婚姻を進めたいって言う皇帝と、罪人の娘は王族に相応しくないって言う目玉父。
どっちも譲らないな…
そこへ、お花畑が爆弾落とした。
「私は皇帝の娘よ!貴族へ臣籍降下出来る身分じゃありませんの。弱小国でも、王妃になって差し上げると言っているのだから、光栄に思いなさい」
あちゃ~堂々とお国の乗っ取り宣言しちゃったよ、頭の中大丈夫なのか?
傲慢が言ってたけど、本当に甲高くてよく通る声だから、誤魔化しは効かないね。
母親と一緒に、地下牢行きにならなきゃいいけど…
「皇女殿下も、母親と共謀なさっていたと、受け止められる発言。皇帝陛下、これでも我が国を取り込むおつもりではないと、言い切りますか?」
皇帝は娘をギロリとひと睨みしてから、高らかに宣言したよ。
「今日は解散とする。大神官も、ご苦労であった」
「ま、待って下さい、お父様!私とルイの婚姻は…」
「お前もユリアンと同罪で、地下牢へと送られたいのかっ」
えっ…お花畑がこっち見た。
怖っ、睨まれたんだけど、私関係なくね?
「ル…ルイ!わ、私は…あなたの妃となって、王国を統べるのです。そうですよね?」
「私は、王太子殿下を支え国民を護り、国を繁栄させる為にこの身を捧げると誓いを立てている。国王になる事等、考えてはいない!皇女との婚姻も、望んではいない!」
「やはり貴方も罪人の娘。我が息子ルイフォードに、謀反を起せと言うのか?血は争えないな」
怖っ、目玉父怖っ。
うちの王族は皆仲良しだから、謀反なんて他人事なのに、簡単に言ってのけちゃうから睨まれんだよ。
いい加減諦めたらいいのに、お花畑は、はんかくさい奴だな。
「貴方のような性根の悪い方を、例え義理でも娘とは、思いたくありませんわね」
ひょえ~ルミア様まで怒らせた。
極寒の絶対零度地区だよ、あそこには行きたくない。
皇族達と一緒に、目玉両親も引っ込んじゃった。
はんかくさいは階段降りて来たけど、こっちに来る気?
「ティア、僕に呪印を刻んでくれないかな」
「うん」
私は印を結んだ。
「視の覚・聴の覚・嗅の覚・触の覚。
錯覚を起こし、幻聴を聞き、偽りの香ですれ違え。
鏡に映されし、胸懐を、具現化せよ」
目玉の胸元に、認識阻害の呪印が刻まれたのを、確認した。
「これで半日は、目玉を認識出来なくなるよ」
「ありがとうティア…彼女を見捨てた僕を、軽蔑しないで欲しい」
「する訳ないじゃん!あいつは、目玉の肩書以上の物を、求めてんだよ。王族じゃなかったら、見向きもされないって。気にすんな」
寂しそうな、笑顔だな…
「はんかくさいは罪人の娘であって、罪人ではない。何処かで会心したら、新しい未来がきっと来るよ」
「そうだね…はんか…くさい?とは、何の事?」
「はんかくさいは、はんかくさいだよ、それこそ気にしなくていいよ」
「北国の方言で、呆れた奴って意味だな。アビゲイルにピッタリな仇名だ」
そう言って傲慢が笑った…え?
「どして?」
「クレアが俺に興味を持ってくれたのか?それは嬉しいな」
いや…それ答えになってないだろ。
私達は傲慢が、北国の方言を理解してた事を、この時初めて知ったのだ。
そして忘れてたんだけど、ローズ様の傍に居た近衛騎士が話しかけて来た。
「殿下…トレミエール嬢との婚約を破棄されたのなら、私の役目は終わりでしょうか?」
「そうだな。俺の婚約者じゃない令嬢を、個人的に護衛する必要は無い。部隊復帰させてやる。不満か?」
「い、いえ。滅相もございません」
「トレミエール侯爵。今迄の献上金は返せないが…俺の有罪で破棄したからな、慰謝料として私財は全て侯爵家宛に送ってある。それで不満なら異議申し立てを受け付けよう」
「お、恐れ多い事にございます。殿下、ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」
「構わん。言ってみろ」
「ローズを…娘を最初から婚約者として見ていなかったと仰っておりましたが、初めから破棄するおつもりだったのでしょうか?」
「クレアナに出会ったからな。お前の娘が邪魔になっただけだ」
「嘘ばっか!傲慢、あんたって本当にいい奴だったんだね!最初はずっと嫌な奴って思ってた事、謝るわ。ごめんね」
「カルティア…お前は、黙っていろと言っただろう。その口を今直ぐ…いや、何を言っても無駄だな」
「何よ、言いかけたなら、最後まで言いなさいよ」
「いいのか?俺は帝国の皇子だぞ」
「目玉、後は任せた」
私は背中に隠れたよ。えへっ
「誰かに頼られると言うのは、嬉しいものだね」
「ルイフォード。お前はカルティアを、甘やかし過ぎではないのか?」
「そうだね。僕はティアにもクレアにも、返しきれない程の恩を受けている。この先何があろうと、彼女達の盾になれるのなら、本望だと思っているよ」
「………そうか」
傲慢が、目玉を羨ましそうに見ているのを、私は見ていた。
彼には、心を許して笑い合える友達が、居ないのかもしれない。
育って来た環境があれだから…仕方の無い事なのかもだけど、ちょっと切なくなっちゃった。
そんな他愛も無い話をしてたんだけど、トビアスとか言う近衛騎士とローズ様が、お互いモジモジしながらずっと俯いたままだ。
「貴方達って、相思相愛だって聞いたんだけどさ、何で喋らないの?」
「なっ。カルティア、お前は本当にデリカシーが無いな。他人の色恋に首を突っ込むな!」
「だって、モタモタしてたらさ、トンビに油揚げ持ってかれるじゃん」
「そうだ。男は度胸」
「うんうん、女も強引に行くべきだね。私のお母様は押しかけ女房だもの」
「ミラ伯母様も駆け落ちした」
「そうだったね。ミラ・オルテンシアは、農夫と結婚して、幸せそうに薬草畑を耕しているのを見たよ」
「そうなのですか!………駆け落ち?」
「トビアス。ドメスティカ王国のオルテンシア伯爵領は、風習がかなり変わっている。常識で考えると、頭がおかしくなるぞ」
「そうなのですか…」
「ちょっと!うちが非常識みないな言い方、止めてくんない」
「事実だろう」
「僕も伯爵から聞いたよ。オルテンシアの常識は、他領での非常識で、逆もまた然りだと」
「「マジか」」
「あの…オルテンシア伯爵夫人は…自らの意思で、嫁いで来られたのですか?」
「そだよ。でもうちの両親仲良しだよ」
なんか、トビアスとローズ様が、挙動不審になっちゃった。
「あの…トビアス様」
「待って下さい、トレミエール嬢。貴方を、ずっとお慕いしておりました。この剣に誓って、必ず幸せに致します。どうか私と、結婚してください」
嘘でしょ!トビアスって人が片膝を付いて、目をぎゅっと瞑って、口を尖らせた。
これって、マルコがやってたアレか?
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~まっ!」
「嬉しい、ずっと待っておりました。トビアス様、その求婚お受け致します」
えええええええええ~
「「マジか!!!」」
「「!?」」
目玉達もビックリしてるよ。
周りで見てた人達から、拍手喝采が起きた。
知らなかった…帝国では、貴方の為ならどんな事でも出来ると言う、熱烈なプロポーズなんだって。
当然だが、ローズ様は泣きながら、彼の手を取ってたよ。
カバジェロ…あんたは、何処で覚えて来たんだ?摩訶不思議な奴。
すっかり忘れてた。
はんかくさいが目玉の周りをウロウロしてたけど、呪印の効果がしっかり出てたから、言い寄られる事は無かったよ。
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