上 下
49 / 60

ヘイトの行先

しおりを挟む

王国からゴブリンの脅威が過ぎ去った。

勇猛果敢なる王国の兵士たちの尽力により、ゴブリンの脅威は排除された。

実に素晴らしい知らせだ。


また、嬉しいことにこれまで採取困難となっていた龍華花の群生地が、

編成された討伐隊によって発見されたらしい。

感染経路不明の疫病に対して治療効果の高い植物が大量に発見されたのだ。


症状の進行は遅いとはいえ、確実に体調の悪くなってゆく奇病。

遂に治療薬が手に入ると多くの国民がこの吉報に歓喜の声を上げた。


とある商会のかしらを除いては。


「チッ。新しくできた治療薬が流通するまでに今ある治療薬は全て売り切っておけ。」


新顔の雇われワーカーが出された命令を遂行するため部屋を出ていく。


実力のあるワーカーを雇うことで龍華花の独占的な市場を手にいれ、

発病者に高値で売ることで儲けを増やしていたバステル商会の頭だった。


その感染症さえ回復薬を装ったポーションをワーカーに売らせ、誘発させたものだ。

悪事が明るみに出れば商会が窮地に追いやられることは必至。


しかし症状は進行が遅く、何が原因で発症したのかが突き止めることが困難なため、

いざ行なってみれば低リスクで売り上げを伸ばすことに成功した。


バレなければ悪事は存在しない。

そんな価値観の元、全ては自作自演で儲けていたわけだ。


「運が悪い。いや、いいのか?全てはゴブリンの所為にできる。隠蔽工作の必要がなくなったわけだが...。もう少し儲けるつもりではあったんだがな。」


ワーカーを派遣し押さえていた龍脈と龍華花。

前回流出したかのように思われた時には裏工作を行なったが、

同じタイミングで聖樹らしき存在が確認され、思われた以上の抗争に発展....したのだろう。

派遣したワーカーからは一切の連絡が途切れた。聞こえてくるのは噂のみ。


「何が地獄の門が開いただ。馬鹿馬鹿しい。あぁ...ここまで上手く行かないと流石にキレそうだ。」


そして今回の兵士による今ある龍華花の発見だ。

立て続けに計画が狂ったため、全くもって面白くなかった。


それだけでは飽き足らず、苛つく内容の報告も入ってきている。

二、三度入った同じ内容の報告。


「それで、『大腕』が村で呑気に生きているだぁ?...はっはっは」


へらへらとした態度をとりながら部屋を歩き回ると、突然キレて書斎を思いっきり蹴った。

ゴッ、っと音が鳴り書斎が動く。


「殺してくれって言ってるようなもんじゃねえか!何奴もこいつも!なんだぁ!?神が試練でも俺に与えてんのかぁ!?あ゛あ!」


体の中に溜まった鬱憤を暴力と共に吐き出す。

おかげですぐに落ち着いた男は冷静に...


「あぁ、死にテェんだよなぁ。望み通り殺してやるよ。」







「はい。では5回目の魔法の授業を始めたいと思いま~す。」

「は~い。」

「前回からしばらく空いちゃったけど、みんな感覚は忘れてないよね。」

「は~い。」


冒険者ギルドの受付エミリーと、

アイーシャ、オリバー、アラン、エリシアの顔馴染みの五人が、

村の中心部から離れた例の場所で4回目の魔法の講義を受けていた。


ゴブリン討伐の事後処理が平常業務と合わさり、

冒険者ギルド職員は多忙な日々を過ごす事となった。

結果、業務がひと段落した頃には前回の魔法の授業から大きく日数が空いてしまったが、

魔力を操作する感覚とは一度覚えてしまえばそう簡単に忘れるものではない。


「じゃあ、魔力の《循環》と《集中》までしたんだっけ?みんながどれだけできるようになったか改めて見せてくれる?まずはエリシアちゃんから。」

「はい!」


アイーシャの友達、一つ年上のエリシアが魔力を体に纏い。

エミリーが《魔力視》を使用しながらエリシアの魔力を確認する。


(うんうん。まぁ、ほんとはダメだけど、みんな嬉しくなって自己練とかするからね。)

(順調に上達しててよし。)


「じゃあ、今度はオリバー。」

「はい!」


エリシア同様にオリバーも魔力を体に纏う。


(うん。オリバーも及第点上げた時よりよくなってるね。魔力を集中するのもかなり練習したのかな?)


「はい。次、アラン。」

「はい!」


(アランも順調に扱い方が上手になってる。いい感じいい感じ。私も昔は隠れて練習とかしたな~。)


三人は順調に、少しづつ魔力の引き出せる量も増え、繊細な魔力操作に多いても上達していた。

その姿はエミリー自身の小さい頃と重ね合わせ、どこか懐かしいところがあるのかもしれない。

三人の成長に嬉しくなりしっかりとうなづいていた。


「じゃあ、今度はアイーシャ」


と最後の一人になった途端、エミリーの雰囲気が変わった。

期待...ではなく緊張の方が適切な表情でアイーシャに顔を向ける。


「は、はい!」


アイーシャも何かを感じ取ったのか、少し緊張気味だ。

アイーシャが魔力を放出し澱んでいた魔力が意思を持って循環する。

それを見たエミリーは...


(...あ、あれ?なんか、思ったよりも普通だな。)

(いきなり成人と同じ魔力量!?とか、何この滑らかな魔力の流れは!?)

(とかなんとか、度肝を抜かれるつもりだったんだけど。)


「だ、ダメでしたか?」


アイーシャが魔法の先生であるエミリーのなんともいえない雰囲気を感じ取り、

不安そうな顔で聞いた。


「いや、良い!物凄く良いよ!場所によったら10歳から魔法の練習を始める地域もあるって前に言ったっけ。みんな8歳と、7歳とアイーシャちゃんは6歳でしょ。年齢を考えるとみんな良く出来てると思います。」

「聞いた?10歳で普通はこれなんだって。俺たちエリートかもね。」

「オリバーは一歳年上でしょ。それだったら私とアランの方がすごいってことなんじゃないの?」

「かくれんぼが上手いかわりに、僕たちは魔法で巻き返す!」


三人は魔法の師匠であるエミリーに認めてもらったのが嬉しかったのか、

いつも通り対抗心を燃やしながら自信満々に話し始めた。


(しまった。勝手に期待しすぎた所為でアイーシャちゃんが。なんか悪いことしちゃったな。)


しかし、アイーシャだけは明らかに雰囲気が悪い。

即座に褒めに入ったが、誤魔化せきれなかったのかもしれない。


「ほらほら、そんな落ち込まないで。本当に凄い事なんだよ!私も最初に魔法を覚えたのは9歳ぐらいの時だったんだから。」

「え、俺たち先生よりも凄いんですか!」

「ま~、そうなのかもね?でも調子に乗ってるとまたアイーシャちゃんにすぐに追い越されるよ。」

「アイーシャ負けねぇからな!」

「...うん。」


その後も魔法の授業は続き、

それぞれが新たに《身体強化》、《魔力視》などを教わった。

次回で遂に魔法の醍醐味である火、水、風、地、その他の属性を学ぶと聞き、

今回の講義も子供達にとっては大満足で終わった。


唯一、今回の授業で習った内容は既にできるようになっていたアイーシャだけは、

なぜか三人の雰囲気に最後まで混ざりきることはできなかったが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...