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ダルズ森林のゴブリン
しおりを挟む「《火球》!」
「《風刃》!」
「《治癒》!」
「援護ナイス!」
四人パーティの冒険者が上手に連携し森の中で戦闘を繰り広げる。
相手は6匹のゴブリン。
ここ最近グラス村の冒険者ギルドにて討伐の依頼が後を立たない魔物だ。
冒険者の放った火球はゴブリンに直撃するが、即死とは行かない。
同じく風刃もゴブリンの細い腕に当たるが、切断とまでは行かない。
数で優っているゴブリンを引き受けてくれている仲間は、3匹を相手に身体中に傷を負う。
幸運なのはこれがゴブリンで、武器を持っていないこと。
鋭い爪で肌を切り裂かれ出血していた程度の傷を、間に合わせの治癒で対処する。
「《火球》!」
「《風刃》!」
火の玉が顔に、風の刃が胴体にそれぞれ直撃。
継続して攻撃した甲斐があり、今の魔法で2匹のゴブリンが地に伏せた。
「一対一だ!押し込めお前ら!」
「「「おお!」」」
4対4の構図になったゴブリンと冒険者とでは、
ゴブリンに軍配が上がる可能性は低い。
そしてその戦いはゴブリンにとっては奇跡が起こる事もなく終わってしまった。
地面に横たわるのは5匹の死体。
「チッ。1匹逃してしまった。」
「はぁ。はぁ。流石に連戦はきつい。」
「ギルドでゴブリン討伐の依頼が異様に多い訳もこれなら理解できる。」
「今流石に魔物と遭遇するのはきつい。討伐部位だけを取って場所を変えて休もう。」
討伐部位とは冒険者が討伐を証明するために魔物から切り取る体の一部のこと。
ゴブリンは残念ながら持ち帰った所で誰も値を付けないので、体の一部だけを切り取る。
この場合討伐部位が両耳なので、5匹分の両耳の先端を切り取り麻袋に入れて離れた。
「なぁ。今日はこれで良いんじゃねぇか?」
治癒をメインでしている男が話だす。
「ギルドはゴブリンを最低7匹討伐しろって依頼だ。俺たちは今の連戦で11匹ゴブリンを殺した。他には小鼠と赤顔猿2匹も殺った。今日は十分だろ。」
「確かにそうだな。もう1匹赤顔猿を持って帰れれば上出来だと思うが、今日の所はこれでも良いかもな。」
そこに風魔法を得意とする冒険者が言った。
魔物が出にくい森の浅い場所まで移動をしてきた冒険者一行。
今日の狩りを切り上げるかどうかの話になる。
赤顔猿は体に値が着くので、冒険者たちは既に仕留めた2匹の死体を持ち歩いている。
普段は3、4匹分の魔物の体は持って帰るので、今日は少なめで切り上げようと言う話だ。
「なーにを弱腰なこと言ってんだよ。お前も今言ったようにいつも3、4匹分持って帰ってるじゃねぇか。金の事を考えると俺は今日もノルマ達成したいと思ってるぞ。」
「俺も、もう1匹なら狩っても良いと思う。最近成長してるってのが分かるんだよ。こう、体に力が溢れるって言うかさ。次の段階に進んでるって言うかさ。俺はさっさと見習いのFランク卒業してEランクの正式な冒険者になりてぇ。だから、そのためにもノルマは達成しておきたい。」
火属性を得意としている冒険者と、
タフさから魔物の数が多い時はひきつけ役となる男が反対。
ここで2対2で意見が別れてしまう。
火属性魔法を得意とする冒険者が、回復役の冒険者に続ける。
「実際お前もそんなに疲れてないんだろ?」
「身体的に疲れてるかいないかで言われれば大丈夫だが、さっきの連戦は結構ギリギリだったぞ。」
「休憩をいつもより長く取れば大丈夫だって。」
「...。お前はどうなんだ?」
回復薬はさっき帰る事に同意した冒険者に聞く。
「まぁ。金も力も死んだら意味がねえけど、それでも金は欲しいし最近伸びてきてるように感じるのも確かだしなぁ...。わかった。俺も後1匹だけなら良いぞ。」
とパーティーメンバーの三人が残る事にしたので、残りも合意せざるをえなかった。
男たちはいつもよりも長い休憩を取った後、再び森の奥へと潜っていく。
◇
「静かに。」
四人の冒険者は森に潜り、注意しながら前進した。
ゴブリンとは少なくとも今日はこれ以上逢いたくないので、
最善の注意を払っての移動だ。
すると、他の冒険者五人組が戦闘している場面に出会した。
邪魔はしたくないので、距離を置いて観察する。
実力的には自分たちと同じFランクかEランク程度。
俺たちと同じように経験を積むためか、金目的のためか。
彼らは素材として価値のある3匹の狼の群れと戦っていた。
「灰狼か。あいつらは4、5匹の群れで行動するはず。既に何匹か倒してるようだな。」
「だが見ろよ。あいつらもボロボロだぜ。ひょっとしたら全滅するんじゃねえか?」
しばらく様子を見ていたが、
6人の冒険者は3匹の冒険者相手に疲れ切っている。
魔法も使う余力が残っていないのか、肉弾戦だ。
「予定通りか?」
「あぁ。予定通りだ。」
予定とは、助けに入るタイミングの事。
冒険者は他の冒険者がトラブルに巻き込まれた時に必ずしも助ける必要はない。
自分/自分達を一番に考えて動くのが当たり前だ。
なので、助けるか助けないかはそのグループの判断に任せられる。
この冒険者たちは相手が討伐ランクEの中でも危険な灰狼である事を確認し、
ギリギリまで待つ事に決めた。
観察していた冒険者の一人が狼に馬乗りにされ、
冒険者が噛み付かれまいと、狼は首筋を狙い一撃を入れようとに競り合う。
「援護に入る!」
それを機と見て、四人組は五人組の冒険者の応援に加勢した。
冒険者に馬乗りしていた狼を切りつけ、大きなダメージを負わせる。
「《風刃》」
逃げた狼を即座に魔法で追撃し、さらに傷を抉る。
すると狼は動けなくなり地面に伏した。
そのまま残りの2匹も4人の連携であっという間に始末した。
「大丈夫か。」
「なんとか助かった。ありがとう。」
5人組のパーティーは全員生きているが、
髪はボサボサで汗まみれだ。
防具の下に着込んでいる絹の素材には血も滲んでいる。
「灰狼は少し荷が重かったか?」
「いや、普段ならそこまで問題ない。運悪くゴブリンの後に連戦になってしまった。」
「そうか。ゴブリンか。」
ゴブリンとの戦闘後に灰狼と遭遇したとあれば、それは不運でしかない。
自分達であれば人数が少ない分もっと酷かっただろう。
だか、運もまた冒険者としては生死を左右する要素の一つ。
全員にとりまとう条件なので、仕方のない事。
援護した側として、報酬はしっかりといただく。
「そこの2匹の狼は俺たちが貰うぞ。」
「あぁ。持っていけ。その代わりと言ってはなんだが、お前たちも村に帰るんだろ。俺たちもついて行っていいか。」
「あぁ。その代わり自分達の身は自分で守れよ。」
「わかっている。」
狼に襲われていた方のパーティは、援護に入った冒険達の荷物を確認する。
狼2匹と猿2匹。
一人1匹の獲物を持っているので、村に帰ることが予想できた。
襲われていた冒険者達も、流石に今日はこれ以上森にいるつもりはない。
一緒に帰還することにした。
◇
「お前らは冒険者ランクは?」
「俺たちはEランクだ。お前達は?」
「俺たちはまだFランクだ。」
「ルーキーにしては随分と良い動きをしていたな。」
「仲間に恵まれたもんでな。特に最近は練習用のゴブリンが多いからな。俺たちも成長してるってこった。」
小休止をとり、総勢9人で村へと帰還する。
これほどの大勢ともなれば、森の中でも多少の安心感が生まれる。
それぞれがちょっとした会話を挟みながら移動していた
だが、突然全員の気が引き締まる転機が訪れる。
「静かに。」
風と葉の音だけが響く森に何かが移動する音が聞こえる。
それもかなり近い。
「おいおい。ここは森の外枠なのに。」
「なんでこんなところまでゴブリンが居やがんだよ。」
既に冒険者たちは森を抜ける場所まで迫っていた。
魔物はほとんど現れない場所なので、全員が嫌な顔を浮かべていた。
即座に全員が荷物を地面に捨てて、戦闘準備に入る。
ゴブリンとはいえ、気は抜けない相手だ。
「おいおい。こいつら、何一丁前に装備揃えてんだよ。」
その相手のゴブリンだが、防具や武器を持って居る。
攻撃方法が爪や口から、短剣に変わったゴブリンの脅威はグンと上がる。
防具まで揃えられていれば厄介極まりない。
「こっちは数で勝ってんだ。2体1で潰せば問題ない。」
しかし、装備は整っているとはいえ4体しかいない。
9人の冒険者からすれば問題ない。
そんな彼らに、戦闘心を折るような光景が目に入る。
「な、なんでこんなにゴブリンが居んだよ。」
茂みからさらに4匹の完全に装備されたゴブリンたちが現れる。
そしてその後ろには...
「ホブ、ゴブリン...それも、ホブ・ウィザードだと。」
2体のホブゴブリンが冒険者たちを仕留めた様な目で見ていた。
片方のホブゴブリンは、手に炎を浮かべている。
ホブゴブリンは討伐レベルにしてE~D。
ホブゴブリンウィザードは討伐レベルにしてDだ。
9対2であればまだしも、
ゴブリンが大量にいる中で自分達が相手にできる様な魔物ではない。
「撤退戦だ。」
じりじりと迫るゴブリン達と、ジリジリと退く冒険者達。
魔物と人間の間に緊張が走る。
◇
「通せ通せぇ!」
グラス村の門番である巡兵たちがいつも通りの仕事をしていると、
冒険者たちが怒号を上げながらやってきた。
「何事だ!」
「重傷者がいる!」
その重傷者は腕は切り裂くかれており、頬には大きな切り口が。
足には短剣が刺さっている。
運んできた冒険者によると、ダルズ森林から命辛々出てきたところを保護したらしい。
その際に森の中で様子を伺う何匹かの完全武装したゴブリン達も見かけた様だ。
その重症をおった男は、そのまま村の治療所に緊急搬送された。
複数の魔法のおかげで一命は取り止めることに成功するものの、
そのまま四日は昏睡状態に陥る。
後に目を覚ました際に語られた話は、冒険者たちの間で震撼が走るのであった。
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