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第三章

二十二話 絶望からの逃走

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 逃がしてはならない……。
解き放ってはならない……。
救わなければならない……。

砂人形達は運動エネルギーを蓄えながら次々と己の体を崩し砂粒へ還った。
ザラザラと摩擦音を奏で真っ黒に見える程に集約すると、漆黒の巨大な竜巻に変貌した。
竜巻は口の無い砂人形達の叫びをゴウゴウと轟かせながら、大小無数の砂嵐と共に遠くの標的へ進路を取った。


 「……な!何あれ!?」

まるで灰色の空を割るように天へ昇る黒柱を目の当たりにして、僕の心臓がグシャリと歪んだ。
巨大な竜巻は辺りの廃墟を飲み込みながら、着実に此方へ向かってた。

(あれに飲み込まれたら、ひとたまりもない。もっともっと遠くへ逃げなきゃ)

僕は直ぐにセイラさんの元へ駆け寄り、彼女を抱えると脱兎の如くその場を後にした。
廃墟群を抜け僕は何も無い砂漠の上を必死に走り続けた。
だが走破音と共に聞こえる嵐の轟音はどんどん強くなる。

「はぁ、はぁ、ダメこのままだと追いつかれる!どうして転送魔法が起動しないの!?」
(このままじゃ駄目だ……)
「もっと、もっと!早く走らないと!」

その願いに答えるように僕の体が輝いた。
内からエネルギーが溢れ僕の足は、砂と瓦礫の悪路をものともしない速度で疾走した。

「マジックブーストが起動した!これらな距離を取れる」

だが竜巻によって天候が狂い、視界は大量の砂塵によって一メートル先すら見えなくなった。
それでも僕は無我夢中で足を動かした。

 「はぁ、はぁ……」

部位変形とマジックブーストの併用は僕の心身に想像以上の負担を掛けた。
意識が朦朧とする中、僕は悪夢となった砂漠をひたすら走り続けた。

(はぁ、はぁ……今止まったら直ぐに追いつかれる。何処へ逃げれば良いの……)

天上知らずの竜巻は盗人の僕達に罰を与えんと、暴力的な恐怖を巻き散らしながら迫ってる。

「う、くう……」
「セイラさん!?」
「はぁ、はぁ……リ、フル様……」
「カ、ウルさん……絶対、に……償う、だ、から……私……」
(セイラさん夢の中でも必死に戦ってる)
「はぁ、はぁ、弱気になるな!もっと早く、遠くへ走れ!僕達は覚悟を決めて来たんだ!」
「セイラさんと一緒に王女様を救って……僕は元の世界に……ご主人の元に帰るって」
「だから――」

バクゥン!

「!!!!」

 異変は突然起こった。
内側から破裂音が響くと体を包む魔法の輝きが消え、いくらアクセルを回しても応えてくない。

「足に力が入らない……だめ、これじゃ竜巻に追いつかれ……きゃぁ!」

タイヤが瓦礫に引っ掛かり、ガクッと体が揺れた。

「うあぁ!ひぐぅ!……」

僕は彼女を前方へ抛りながら盛大に転び、瓦礫の地面に体を打ち付けた。
全身に激痛が駆け抜け言葉にならない悲鳴が吐き出る。

(がぁ、体中が、痛い、そ、それに……くぅ、苦しい……胸が焼き付いてるみたい……)
「はぁ、はぁ……うぅ、セ、セイラさん……」

目の前には手足を投げ出し、ぐったりと倒れる……セイラさんの姿があった。
僕は……残った力を振り絞り、体を引きずりながら……彼女の元へと歩み寄った。

「ごめんなさい……もう、走れない……貴方を……救えなかった……」

足元には、竜巻が……暴風と砂塵が、吹き荒れてる……。

「さよならも……うぅ……言えかった……出来る、なら……もう一度……会い、たい……」

僕は……意識のないセイラさんの手を握った。

 懺悔と後悔の言葉は瞳から零れた煌めく涙と共に、荒れ狂う砂塵と轟音に飲み込まれた。

次回 『鑑定者』
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