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第三章
二十話 砂上の戦い
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「セイラさんそれ刺さってた剣?……こんなのだっけ?」
柄頭にあしらった真紅の宝石はまるでこの世全てを憎む血走った眼ようにぎらついてた。
そこから伸びる骨のように白く、刺々しく禍々しい鍔。
そして砂人形を容易く両断した両刃の刀身からは、異様な気が轟轟と立ち昇ってた。
『邪悪』を体現したような剣は、聖女を守護する騎士には余りにも不釣り合いでした。
「ふぅ……はぁ!!!」
大きく息を吐いたセイラさんはローブを大きく靡かせ、異変に際し困惑する砂人形の群れに突撃した。
狂風がジグザクと荒れ狂いながら、砂を灰色の空に舞い上げ、一、二、三!……あっという間に多数の砂人形を地面に還す。
ザァ!ザァ!ザァ!ザァ!
彼女を脅威に感じた他の砂人形達が一斉に押し寄せる。
セイラさんは拳を振り下ろしてきた砂人形の腕を空高く切り飛ばし、その勢いのまま竹割りにした。
次に近くの砂人形を袈裟斬りで切り伏せる。
しかし背後を取った砂人形が一気に強襲する。
それをセイラさんは振り向きざまに交わすと、カウンターで放った横一線の斬撃が砂人形の上半身を群れの中へ吹き飛ばした。
「セイラさんすごい……敵をどんどん倒していく……」
徹底した無慈悲で無残な本物の戦いが眼前で繰り広げられ、僕はただただ茫然と立ち尽くしてしまった。
ザァ!ザァ!!
「きゃあ!いつの間に!?」
砂に紛れていたのか、いきなり背後から現れた砂人形に強襲された。
「いやぁ!離して!」
四肢を掴まれながらも僕はジタバタ暴れ、砂人形を引き剥がそうとした。
ザァ、ザァ、ザァ、ザァ。
だが砂人形は無言の無機質な暴力で、無理やり僕を地面に押し倒した。
「がはぁ!」
そのまま顔を無理やり砂に押しつけられ、ジャリジャリと砂が口の中に入って来る。
助けを呼ぶ事はおろか、まともに息をする事も出来なかった。
(痛い、ひぃ……やぁ……はぁ、はぁ、嫌ぁ!やだ離して!助けてぇ!セイラさん!)
心の中で必死に叫ぶが彼女に届くはずも無く、砂人形達は僕を仲間達の元へズルズルと引きずりこまれた。
ズザァ!ザン!
一瞬の突風が吹き抜けると、四肢を掴んでた腕が脱力した。
僕は地面を蹴り、へっぴり腰で砂地を這い上がった。
「ごほぉ、うぇ、ぷぇ……はぁ、はぁ……」
振り向くと力無く倒れる四体の首無し砂人形と、相対するセイラさんの後ろ姿があった。
「セ、セイラさん!ありがとうござい――」
ズザァ!
「え?……」
彼女は僕に見向きもせず横を駆け抜け、蠢く砂人形達の群れに自ら飛び込んだ。
「……どうしちゃったのセイラさん!?」
彼女の表情は……とても楽しそうに嗤ってました。
体が軽い。
まるで風になったようだ。
私の名を呼ぶ声だ。
カウルさん。
私の責任。
護るべき人。
お前達がカウルさんを……。
彼女に近づけさせない!
良しこれなら奴らを倒せる。
私は守護者。
これが私の使命。
良かった私は自分の役割を果たせてる。
お前達に触れさせない。
消えろ、消えろ!消えろ!!
あぁ、カウルさんの悲鳴が聞こえる!
お前達彼女に近づくな!消えろ!
私は守護者。
責任果たす。
お前達まだ来るのか?
良い!ならばもっと来い!
私がお前達を切り刻んでやろう。
はは!忘れてたよ。
存在を証明できるのは最高の気分だ!
……………………
…………
……
「セイラさんもう良いよ、逃げよ!お願い僕の声を聞いて!」
いまだ顔に狂喜を張り付け、握りしめたその狂剣で敵を切り裂く。
その体は砂埃と避けきれなかった攻撃の傷で、赤黒く染まってました。
無限に湧き出る砂人形達を相手に、セイラさんはまるで生命力を絞り出すように戦い続けてた。
(セイラさん……僕の目から見ても明らかに正気を失ってる)
(どうしたら彼女を……止められるの?)
「お願い……やめて……そのままじゃ……」
目の前で起こる惨劇に僕は夢なら覚めてほしいと体を震わせ、ただ願う事しか出来なかった。
「はぁ!はぁ!……はぁ!……うぐぅ……」
長時間の戦闘でセイラさんの動きが鈍くなってた。
そして終りは唐突に訪れた。
「がはぁ!……」
これまでとは違う、詰まるような口ごもった悲鳴。
背後からの強烈な一撃と共に、セイラさんは地面に倒れてしまった。
「うぐぅ!あは、あがぁ!あぁ!」
蹴る、踏みつける、叩きつける。
巻き上がる砂煙の中、地に腹を付けたセイラさんに押し寄せる暴力の嵐。
「うぐぅ……絶、タイ……護る……まも……」
「あはぁ……まもる、リ、フ……ル様……カ、ウ……ル……」
どんなに痛めつけられても……セイラさんは決して剣を手放そうとはしなかった。
(このままじゃセイラさん死んじゃう!は、早く、助けないと!……でも)
(怖い、無理だ、逃げろ。お前ではどうすことも……出来ない)
本能が囁き、僕を怯えさせ、目を逸らさせ、頭を抱えさせ、躊躇させられる。
呼吸ばかり荒くなって、空気のように傍観してしまう。
しかし一瞬の最中でも、流れる血と共にセイラさんの灯火は小さくなる。
(情けない……僕はこんなにも……弱い)
その時です。心の中にご主人の姿が浮かび上がった。
彼はとても苦しく、とても淋しく、辛そうな顔で僕を……見つめてました。
(今の僕を……ご主人は……どう思う?)
(目の前で大切な人が苦しんでるのに……助けに行かない僕を――)
「そんなのだめぇ!!!」
息が止まり、気づいた時には体が走り出してた。一直線にセイラさんの下へ。
「それ以上はやめて!」
ごふぅ!
「ひぐぅ!」
目の前が真っ暗。頬から激痛が突き抜ける。
(……目が回る……)
砂の拳に一歩、二歩。ふらつきながら後退する。
ギロリと赤い視線が全身に突き刺さる。
(痛い、怖い、逃げたい……でも!)
助けたい。
救いたい。
(もし僕に……力があるのなら……どうか)
「うああぁぁぁ!!!」
僕は暴力の坩堝に身を捧げた。
そして砂人形達の足元で金色の光が灯った。
次回 『新たな力』
柄頭にあしらった真紅の宝石はまるでこの世全てを憎む血走った眼ようにぎらついてた。
そこから伸びる骨のように白く、刺々しく禍々しい鍔。
そして砂人形を容易く両断した両刃の刀身からは、異様な気が轟轟と立ち昇ってた。
『邪悪』を体現したような剣は、聖女を守護する騎士には余りにも不釣り合いでした。
「ふぅ……はぁ!!!」
大きく息を吐いたセイラさんはローブを大きく靡かせ、異変に際し困惑する砂人形の群れに突撃した。
狂風がジグザクと荒れ狂いながら、砂を灰色の空に舞い上げ、一、二、三!……あっという間に多数の砂人形を地面に還す。
ザァ!ザァ!ザァ!ザァ!
彼女を脅威に感じた他の砂人形達が一斉に押し寄せる。
セイラさんは拳を振り下ろしてきた砂人形の腕を空高く切り飛ばし、その勢いのまま竹割りにした。
次に近くの砂人形を袈裟斬りで切り伏せる。
しかし背後を取った砂人形が一気に強襲する。
それをセイラさんは振り向きざまに交わすと、カウンターで放った横一線の斬撃が砂人形の上半身を群れの中へ吹き飛ばした。
「セイラさんすごい……敵をどんどん倒していく……」
徹底した無慈悲で無残な本物の戦いが眼前で繰り広げられ、僕はただただ茫然と立ち尽くしてしまった。
ザァ!ザァ!!
「きゃあ!いつの間に!?」
砂に紛れていたのか、いきなり背後から現れた砂人形に強襲された。
「いやぁ!離して!」
四肢を掴まれながらも僕はジタバタ暴れ、砂人形を引き剥がそうとした。
ザァ、ザァ、ザァ、ザァ。
だが砂人形は無言の無機質な暴力で、無理やり僕を地面に押し倒した。
「がはぁ!」
そのまま顔を無理やり砂に押しつけられ、ジャリジャリと砂が口の中に入って来る。
助けを呼ぶ事はおろか、まともに息をする事も出来なかった。
(痛い、ひぃ……やぁ……はぁ、はぁ、嫌ぁ!やだ離して!助けてぇ!セイラさん!)
心の中で必死に叫ぶが彼女に届くはずも無く、砂人形達は僕を仲間達の元へズルズルと引きずりこまれた。
ズザァ!ザン!
一瞬の突風が吹き抜けると、四肢を掴んでた腕が脱力した。
僕は地面を蹴り、へっぴり腰で砂地を這い上がった。
「ごほぉ、うぇ、ぷぇ……はぁ、はぁ……」
振り向くと力無く倒れる四体の首無し砂人形と、相対するセイラさんの後ろ姿があった。
「セ、セイラさん!ありがとうござい――」
ズザァ!
「え?……」
彼女は僕に見向きもせず横を駆け抜け、蠢く砂人形達の群れに自ら飛び込んだ。
「……どうしちゃったのセイラさん!?」
彼女の表情は……とても楽しそうに嗤ってました。
体が軽い。
まるで風になったようだ。
私の名を呼ぶ声だ。
カウルさん。
私の責任。
護るべき人。
お前達がカウルさんを……。
彼女に近づけさせない!
良しこれなら奴らを倒せる。
私は守護者。
これが私の使命。
良かった私は自分の役割を果たせてる。
お前達に触れさせない。
消えろ、消えろ!消えろ!!
あぁ、カウルさんの悲鳴が聞こえる!
お前達彼女に近づくな!消えろ!
私は守護者。
責任果たす。
お前達まだ来るのか?
良い!ならばもっと来い!
私がお前達を切り刻んでやろう。
はは!忘れてたよ。
存在を証明できるのは最高の気分だ!
……………………
…………
……
「セイラさんもう良いよ、逃げよ!お願い僕の声を聞いて!」
いまだ顔に狂喜を張り付け、握りしめたその狂剣で敵を切り裂く。
その体は砂埃と避けきれなかった攻撃の傷で、赤黒く染まってました。
無限に湧き出る砂人形達を相手に、セイラさんはまるで生命力を絞り出すように戦い続けてた。
(セイラさん……僕の目から見ても明らかに正気を失ってる)
(どうしたら彼女を……止められるの?)
「お願い……やめて……そのままじゃ……」
目の前で起こる惨劇に僕は夢なら覚めてほしいと体を震わせ、ただ願う事しか出来なかった。
「はぁ!はぁ!……はぁ!……うぐぅ……」
長時間の戦闘でセイラさんの動きが鈍くなってた。
そして終りは唐突に訪れた。
「がはぁ!……」
これまでとは違う、詰まるような口ごもった悲鳴。
背後からの強烈な一撃と共に、セイラさんは地面に倒れてしまった。
「うぐぅ!あは、あがぁ!あぁ!」
蹴る、踏みつける、叩きつける。
巻き上がる砂煙の中、地に腹を付けたセイラさんに押し寄せる暴力の嵐。
「うぐぅ……絶、タイ……護る……まも……」
「あはぁ……まもる、リ、フ……ル様……カ、ウ……ル……」
どんなに痛めつけられても……セイラさんは決して剣を手放そうとはしなかった。
(このままじゃセイラさん死んじゃう!は、早く、助けないと!……でも)
(怖い、無理だ、逃げろ。お前ではどうすことも……出来ない)
本能が囁き、僕を怯えさせ、目を逸らさせ、頭を抱えさせ、躊躇させられる。
呼吸ばかり荒くなって、空気のように傍観してしまう。
しかし一瞬の最中でも、流れる血と共にセイラさんの灯火は小さくなる。
(情けない……僕はこんなにも……弱い)
その時です。心の中にご主人の姿が浮かび上がった。
彼はとても苦しく、とても淋しく、辛そうな顔で僕を……見つめてました。
(今の僕を……ご主人は……どう思う?)
(目の前で大切な人が苦しんでるのに……助けに行かない僕を――)
「そんなのだめぇ!!!」
息が止まり、気づいた時には体が走り出してた。一直線にセイラさんの下へ。
「それ以上はやめて!」
ごふぅ!
「ひぐぅ!」
目の前が真っ暗。頬から激痛が突き抜ける。
(……目が回る……)
砂の拳に一歩、二歩。ふらつきながら後退する。
ギロリと赤い視線が全身に突き刺さる。
(痛い、怖い、逃げたい……でも!)
助けたい。
救いたい。
(もし僕に……力があるのなら……どうか)
「うああぁぁぁ!!!」
僕は暴力の坩堝に身を捧げた。
そして砂人形達の足元で金色の光が灯った。
次回 『新たな力』
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