上 下
8 / 30
第二章

八話 魔女の森

しおりを挟む
「……また知らない場所だ」

僕が意識を取り戻した場所は森の中にぽっかりと空いた草の絨毯の上でした。
追いかけて来たモンスターは勿論、ダンジョンの岩の壁も床も見当たりません。

「――そうだ!セイラさん!?」

僕ははっとし振り返ると、セイラさんは僕の隣で倒れてました。

「セイラさん大丈夫!?」

直ぐさま彼女の下へ駆け寄り、僕は意識の無い肩を揺さぶりました。

「うぅ、はぁ……はぁ……」

彼女は小さなうめき声を上げるとゆっくりと目を覚ましてくれました。

「……生きてる。あぁ、良かった」

大きな怪我も無い様子に、僕は心身に背負いこんだ荷が下りた様な安堵感に包まれました。

「僕達さっきまでダンジョンの中に居たはずなのに気が付いたら森の中に居たの」
「セイラさん何か知ってる?」
「森?……えぇ!」

僕に支えられながら体を起こしたセイラさんは辺りを見回すと驚きの表情を見せました。

「此処は……もしかして魔女の森!?」

彼女の口から古典的なファンタジー語が出てきました。

「セイラさんこの場所を知って――」

「※※※※※※※。※※※※※※※※!」

すると突然森の奥から人の声が聞こえました。

「え?何!?」

僕はビクっと体を振るわせながら顔を向けると、声の主が草木をかき分けながらのっそりと姿を現しました。
まず目に入ったのは先の折れたとんがり帽子でした。
また服装は首元がダブつき大きな胸元が見える黒のロングドレス着こなし、手には木製の杖を持ってました。
更にそれをすっぽりと覆う黒色のローブ。
顔つきはセイラさんとさほど変わらない成人女性のそれで、腰まで伸びたロングヘアに目元を覆う前髪の隙間から分厚い眼鏡が見えます。
そして一番目を引いたのは人間のそれよりもずっと長い耳でした。

(うわぁ、見た目も雰囲気も怪しすぎる……)

「※※?※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」

(それに言語が分からないから、何を言ってるのかさっぱり分からない)

「カウルさん彼女は私の知り合いだ」
「え!知り合い!?じゃあ『魔女の森』の魔女ってやっぱり……」

警戒する僕にセイラさんは目前の魔女の紹介をしてくれました。

「彼女はこの森に住む魔女『ラミ』」
「そして試練のダンジョンの管理者でもある」
「私は彼女に対価を差し出し、試練に挑戦する権利と当面の衣食住を提供してもらってる」
「※※※※※※※※※※」

魔女はニヤニヤと笑みを浮かべながら此方に手を振ってました。

「うぅ~ん……」

(挨拶をしてるニュアンスは分かるけど何を言ってるのかさっぱりわからない)

「あのセイラさん」
「あの方……ラミさんが何を言ってるのか僕全く聞き取れない」
「え!本当かい?」

僕の発言に困惑するセイラさん。

「※※※※※※※※※※※※※」

するとラミさんが僕の元へ近寄ってきました
そしておもむろに自身の胸元に手を突っ込みました。

「え!ちょっといきなり何してるの!?」

驚く僕を後目にそこからある物を取り出し、僕の前に差し出しました。
それは中央に赤色の輝く石が埋め込まれたペンダントでした。

「※※※※※※※」
「えっと……」
「カウルさんラミは『受け取ってくれ』と言ってるよ」
「は、はい……」

僕は恐る恐るそれを受け取りました。

(このペンダント、ほんのり生暖かい)

「……どう、私の言葉が聞き取れるかい?」
「え!は、はい!分かります!」

驚きました。先ほどまでこの方が発してた異国の言葉がしっかり聞き取れました。

「どうして急に……もしかしてペンダントの力ですか?」
「そうさ。便利な魔道具だろ?」
「魔道具……魔法の力が宿ったアイテムですか?」
「ふふ、理解が速くて助かるよ」
「それはお近づきの印さ受け取ってくれ」
「……ありがとうございます」
「初めまして僕カウルって言います」
「よろしくねカウル君」
「よろしくお願いします。ラミさん」

僕は改めてこの世界の新たな住人と会話を交わしました。

「しかし何故だ?私はラミと同じ言語でカウルさんに話かけてたのに」
「そうなんですか?」
「ふふ、それはカウル君がセイラ君の所有物として『パス』が繋がってるからさ」
「そのおかげで自然な意思疎通が出来たんだろう」

僕とセイラさんの疑問にラミさんがあっさりと答えを出してくれました。

「しかし大体の子は言語補正のスキルが与えられるはずだが……カウル君の前の持ち主は他国の言語に疎かったのかね……」
「まぁ、良いや。ではこ改めて」

「お帰りセイラ君。そしておめでとう!」

ラミさんはパチパチと拍手を送りセイラさんを祝福しました。

次回 『魔女の導き』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...