上 下
10 / 28
Act 1 大事な恋の壊し方(本編)

10※

しおりを挟む
  
 密着した肌からリアルな相手の体温が伝わってくる。男同士の固い肌が触れ合って、擦れて、どういうわけか官能をくすぐられる。
 何度目かの精を吐き出したオレは目の前の男についに泣きついていた。
 性的な快楽を求めるどうしようもない衝動が牙を剥き、理性をずぶずぶと蝕んでいく。
 正気を保つのもとっくに限界で。男に赦しを乞えば、窘めるように男の舌に口腔内を暴かれた。
 耳朶を甘く噛まれ、熱い吐息を吹き込まれてぶるりと身体が震えてしまう。濡れた感触が入り込んでくる。簡単に翻弄されてしまう己の身体が耐え難く、オレは嫌々とただかぶりを振ることしかできなくて。

「あ…ッ、ン、や、やめ……!」
「律、こっちも感じてるでしょ? こういうのは好きじゃない?」

 男の巧みな性技に反応するなと自分自身に強く言い聞かせても、勝手に暴走する身体を止められない。
 まるでベッドの上で跳ね狂う魚だ。息を乱し、濡れた股間を何度も固くするオレの姿が瀬川さんの目にどう映っているのか知らないが、肌を合わせた逞しい身体が喉奥で笑うような気配があった。
 だけどそんなことに気を取られたのも一瞬で、不意にひんやりとした感覚が脇腹を滑っていって、また息を呑む。

「な、やめ、……ひゃあ!」

 男の指先が、軽やかなタッチでオレの肌の上を踊っていく。
 弄ぶように今度は胸の先端を抓られて、たったそれだけで、オレの身体はまた白濁を散らした。

(……嫌なのに。オレは、……!)

 オレを形作る細胞のひとつひとつが、もうどうしようもなく淫欲に溺れていた。あの怪しげな錠剤の影響だろうか。味わったことがないほど、どうにも身体が切なくて。
 昂ぶっていく官能を制御する術が見つからない。

「覚えがいいな。もう乳首こっちでもイけるのか」 
「んん……っ、あ、やだ、それっ。やめ、やだ、……ンぅ、あぁ」
「もっと味わえよ。こうやって愛撫されるのも気持ちがいいだろう?」

 平らな胸をしつこく揉まれて股間が疼き出す。
 わけがわからないまま、敏感すぎる身体にまた振り回される。……勿論、気持ちなんて置き去りだ。
 熱に浮かされたように思考さえも奪われて、自分というものが狂わされていく感覚があった。
 ――これだけ絶頂を迎えてもまだ足りないのだ。もっと刺激が欲しくて、飢えた獣のように我慢がきかない。不味いと叫ぶ理性が、最後の最後のところでオレ自身を繋ぎ止めている。
 
「ひゃ、ちょ、や……う! 待って、せが……ぅあッ」
「ほら、もっかい出しておこうか。これだけ出したら抵抗する気も失せるだろう?」
 
 瀬川さんの形の良い唇が躊躇なくオレの息子を咥え、ジュボジュボと吸い上げる。男の口で呆気なく追い上げられたオレは、瞬く間に再び精を放ってしまっていた。
 出された精液をあっさりと飲み下したらしい男は可笑しそうに片眉を上げて、余韻に揺蕩うオレを見る。

「律ってさ、嫌がってるわりには色っぽいし、えろいよね。開発する前からこれなら律は本来向きなんじゃないの」

 ふざけた話だが、言い返す気力もない。
 脱力したまま無言を選んだこちらの様子に笑みを深めると、男はオレの腹を汚していた白濁を指で拭い、それをオレの尻の奥まった所に擦り付けた。
 さすがに吃驚して、身を捩って逃げようとしたものの片手で押さえられてしまって。男にしては綺麗な骨ばった指が、尻肉の狭間で、中へと侵入しようと蠢くのをぐっと耐えた。
 
「ああ、固いね。面倒だけど解さないと」
 
 一部の拘束が外され、身体を反転させられる。尻を高く突き出すような姿勢で再び身体を固定された。
 ベタベタに汚れたシーツが視界に入る。
 彼がしようとしている行為を悟って、恐怖が再び襲ってきた。

「ぁ、瀬川さ……やだ、それはやめて、よ」
「怖い? すぐに慣れるよ」

 冷たいものを纏った指先が迷いなく尻穴に着地し、数回入口を揉んでから、内側にゆっくりと押し入ってくる。
 手付きは丁寧で、最初は中を探るように優しく内側を撫でてまわっていた。しかし奥へと侵入されるほど不快感が強くなり、指を増やされた後は、オレはひどく苦悶した。
 苦しい。つらい。……情けない。
 尻を差し出すような体勢で、とんでもない場所を拓かれようとしている。男と交わるオンナにされるという現実味が増していく。
 ――逃げられない。今更、それができないことは嫌でも理解した。
 バラバラと蠢き隘路を拡げようとする男の指は嫌になるほどしつこくて。オレが泣いて喚いても、根気よく何度も何度も、執拗に尻の窄みを行き来した。

「う、やだ……ぅ、ぐ。……やめて。ダメだって、お願いだから、瀬川さん……ッ」

 懇願するしかないオレの気持ちなんて、悪魔のようなこの男が気に留めることはないだろうとわかっていた。
 それでも。懇願せずにはいられなかった。
 ――随分と長い時間、慣れない感覚に耐えていたような気がする。
 最初は不快感しかなかった行為なのに、いつからか少しずつ気持ちよさが入り交じるようになっていた。肉壁を柔く揉まれるたびに更なる刺激を待ち望み、尻奥のをそっと引っ掻かれるたびにとんでもない嬌声を上げてしまう。
 男の指がやっと抜け出ていったというのに、あろうことか名残惜しく感じてしまう自分の身体が情けなくて、悔しくて。
 粉々に砕け散った男としての矜持を掻き集め抱きしめて、オレはぐったりと身体を投げ出したままでいた。

 ベッドが揺れて、瀬川さんの気配が戻ってくる。
 瞼を上げるよりも先に、アルコールの匂いが漂った。押し付けられたそれが彼の唇だと理解する。
 
 深くしようとする意図を察したが拒むには遅く、唇を抉じ開けられて苦味が口内に広がった。ふわりとした女の子のものではなく、ねっとりとした肉厚なものに貪るように侵略される。
 混ざりあった唾液が唇から頬を伝って、乱れたシーツに染み込んでいく。
 唇を解放されると、野性的な色を隠しもしないヘーゼルの双眸に射るように見下ろされていた。
 
「……ぁ、嫌、だ」
 
 オレは今度こそ青褪めた。
 逃げようとするオレの腰を男は再び強引に掴み上げ、尻肉を揉みしだきながら中央で割った。ひくひくと引き攣るアナルが大胆に晒される姿勢に、とんでもない羞恥が走る。
 
「……っ、やめてくれ、頼むから」
「律、俺だってそろそろ本気で限界なんだよ。死ぬほど蕩けさせてやるから、少しの痛みは我慢してくれ」
 
 ベッドが揺れて、深く沈んで。
 ちらりと背後を覗いたオレの目に、凶器のようなグロテスクな彼の雄が垣間見えた。
 
「……むり、だって。…退いて。……帰らせてくれ」
 
 張りつめた熱が尻に触れて、息を呑む。

「はは、まだ言うんだ? 往生際の悪いところも愛してやるよ、――俺のリツ」

 これだけ近くにいて、届かない言葉に絶望する。
 瀬川さんは愉悦が入り交じった満足気な笑みを浮かべて、凶悪な雄の熱を、さも当然のようにオレの尻に突き刺した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸
BL
 逃げ出してしまった乎雪(こゆき)にはもう後が無かった。これで人生三回目の家出であり、ここにきて人生の分岐点とも思われる、苦境に立たされていた。    手持ちのお金はまったく無く、しかし、ひとところに留まっていると、いつの間にか追いかけてきた彼に出くわしてしまう。そのたびに、罵詈雑言を浴びせられるのが、心底いやで気力で足を動かす。  けれども、ついに限界がきてそばにあった電柱に寄りかかり、そのまま崩れ落ちて蹲った。乎雪は、すぐそこがゴミ捨て場であることにも気が付かずに膝を抱いて眠りについた。  目を覚まして、また歩き出そうと考えた時、一人の男性が乎雪を見て足を止める。  そんな彼が提案したのは、ペットにならないかという事。どう考えてもおかしな誘いだが、乎雪は、空腹に耐えかねて、ついていく決心をする。そして求められた行為とペットの生活。逃げようと考えるのにその時には既に手遅れで━━━?  受け 間中 乎雪(まなか こゆき)24歳 強気受け、一度信用した人間は、骨の髄まで、信頼するタイプ。  攻め 東 清司(あずま せいじ)27歳 溺愛攻め、一見優し気に見えるが、実は腹黒いタイプ。

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる

BL
 食べ物やインキュバスの誘惑に釣られるお馬鹿がなんやかんや学園の事件に巻き込まれながら結局優しい幼馴染によしよし甘やかされる話。 □食い意地お馬鹿主人公受け、溺愛甘やかし幼馴染攻め(メイン) □一途健気不良受け、執着先輩攻め(脇カプ) pixivにも投稿しています。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

処理中です...