巨大生物現出災害事案

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某国

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真夏の太陽が、平塚市で活動する自衛官らに照り付ける。通常の現場であれば消防や機動隊と共に捜索を行うのだが、放射能汚染という事実があるため、防護マスクを所持している自衛隊での作業を余儀なくされていた。マスクや防護処置を行っての服装に、自衛隊員らは声にこそ出ていないが悲鳴をあげていた。気温が四十度近くと計測されてからは、一時間ごとにローテーションで回すよう指示がきていた。その状況下、飯山と中村も例外ではなく、滝のように汗を吹き出しながら、同行を命令されていた部隊と調査をしていた。


「見つかったか?」


その中、貫録な体系をした和山一佐は無線と体を使った大きな仕草で、付近の隊員に問い掛ける。それを見、バツという合図を全員が返し、溜息をついてしまった。


「表皮なんて、そんなに剥がれるもんじゃねぇだろ。」


その一部始終を近くで見ていた中村は思わずマスク越しに愚痴を吐く。


「しかし見つかれば細胞から奴の弱点が分かるかもしれん。そう愚痴るな。」


隣にいた飯山はそれを聞き、柔らかく注意すると同時に軽く肩を叩いた。そして周囲を見渡し、瓦礫に表皮が付着しているか探すため歩き出した。鋭利になった瓦礫で防護服を破かないよう細心の注意を払いつつ歩いて回る。中村も同様に少し間隔をあけ、歩き出す。その直後だった。

数機の米軍ヘリが上空に展開。それに加えて、米軍の車列がこちらに向かってきていた。その光景に飯山や中村、そして周囲の自衛官らは視線を集中させた。それから数分、ヘリや車両から防護服に身をまとった米兵らが続々と瓦礫と化した街に足を踏み入れてきた。自衛官らはその動きに思わず身構える。


「中村。お前英語ペラペラだろ。パイロットなんだから。」


その中、飯山は彼らから視線を外すことなく口を開き、中村に促した。中村は少し困った表情を見せたが頷き、瓦礫に注意しつつ小走りで米兵の元に向かった。自衛官らの視線が一斉に中村に注がれる。数分、言葉を交わし険しい表情で帰ってきた。気が付くと飯山の隣には和山一佐もおり、中村の言葉を待っていた。


「自衛隊は直ちにここから撤収しろ。後は我々が調査を引き継ぐ。だそうです。」


不満な顔で報告してきた。その表情はマスク越しで分かる程だった。


「撤収?馬鹿な。我々は総理からの特命を受けて調査をしている。何故米軍から命令されなきゃならん。」


和山は米兵らを睨みつけ、そう反論する。


「分かりませんが、十分以内に撤収を完了しない場合、我々が撤収の手伝いをすると。」


中村は反論を聞きつつそう続けた。後者のふざけた内容に思わず飯山と和山は失笑した。


「しかし、指定された時間内に撤収しないと、今まで回収したものが取られてしまいますよ。」


飯山は頭を一旦整理し、和山に進言した。撤収の手伝いという事は米兵が自衛隊の所持品を運ぶことを意味しており、どさくさに紛れて採取したものを取られてしまうことを暗示していた。無論、本当に価値のあるものを採取したのかは未知数だったが、奪われては元も子もなかった。それを聞き和山はすぐに部隊に撤収命令を出した。指示を受けた隊員らは忙しく動き出す。


「採取物は各人のポケットに入れるようにな。」


近くにいた直属の部下に小声で命令を伝えた。それを聞き隊員は小さく頷く。そして無線ではなく直接耳を通して全員に徹底させた。

「検問があるだろうからな。見事な指示だ。」


飯山はそう1人ごち、自身も装備をまとめ、装甲車に向け足早に移動する。中村も少し遅れて続いた。


(総員二十名。撤収準備完了。)


車内に全員が乗り込んだのを確認した隊員が無線で報告してきた。飯山らの車内にその声が響く。


(よし。撤収。前へ。)


和山の短い号令を受け、車列は走り出した。数分走り、やはり目の前に検問が見えてきた。

そこには、先程の調査を目的とした部隊のような車両は一台もなく、全て戦闘車両で構成されていた。米兵から停車を促され、ドアを開けられる。ここは一体どこの国だ。乗車している自衛官らの疑問をよそに、M4ライフルを即時射撃位置に保持した米兵らが降りるよう指示してきた。その後数人掛かりでボディチェックや車内の探索を始める。和山は各人のポケット等に入れさせた採取物がばれないよう祈った。

日本人は到底しないような乱暴な扱われ方をする隊員もおり、近くの隊員が思わず叱咤した。しかし即座に周囲の米兵に銃口を向けられる。黙る事しか出来ない現状。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる隊員を見、飯山は米兵らに腹底から煮えくりかえるような怒りを覚えた。そして数分、自衛官らはどうにか何もばれずに検問を終えた。検問所の指揮官らしき、サングラスを掛けた士官から直ちにここから去るよう促され、車両を運転する自衛官は怒りからか全員アクセルを吹かしつつ帰路についた。


皆、車内に乗り込むやいなや、安堵の表情を浮かべる。しかし駐屯地に着くまでは私語から厳禁だと言うことは誰しもが理解しており、車内に沈黙が広がった。なぜなら検問の際、盗聴器をどこかしかにつけられている可能性を否定できなかったからだ。数十分掛け、やがて車列は沈黙を守りつつ武山駐屯地に到着した。







「おやっさん!これはどういうことだよ!」


武山駐屯地に到着して、飯山は防護服をすぐ脱ぎ、汗を拭い終らない中、携帯で岡山総理に直通で電話を掛けていた。岡山総理は父方の親戚だったため、電話番号は知っていた。電話に出るなり、飯山は大声で怒鳴ってしまっていた。総理を怒鳴れる自衛官など前代未聞であり、電話すると知っていた中村は思わず言葉を失った。


(いきなりなんだ!俺が何かしたってのか?)


岡山は総理執務室で会見前の束の間の休息をとっていた。そこで掛かってきた親戚からの電話。出るやいなや親戚から怒鳴られ、感情を抑える事が出来ず鳴り返していた。しかし飯山は怯むことを知らず、荒い口調で事情を話す。


(俺達が調査していた平塚市の海岸線。事実上いま、アメリカの領土になってる。奴の残した何かしらを採取しようと強引な手に出たんだろうが、米軍に追い返されるわ。検問は銃口向けられて食らうわで。政府として承諾してるのか?)


次々と出てくるタメ口。その連続に隣で聞いていた中村は冷や汗をかく。


(いや。そんなことは聞いてもいないし、初耳だ。)


数秒岡山は黙り、そう返してきた。

(それで?いま平塚は?)

「まだ米軍が居座ってると思う。とりあえずこっちは被害なしで帰ってこれたからいいんだけどな。」


岡山の唐突な問いが来たが、飯山は冷静に返した。


(そうか。良かった。しかし、もう少し辛抱してくれ。一般回線じゃ話せない内容だから何も言えんが、もう少し耐えてくれ。すまん。)

飯山が口を開こうとした瞬間、岡山が口を開き耳を傾ける。その内容に飯山は少し溜息をつき、

「おやっさんも大変だな。分かった。何とかしてくれると信じて耐える。」

岡山も精一杯やっていることを言霊で感じ、そう返した。

(じゃ、頑張るんだぞ。)

総理としてではなく、親戚の叔父さんとして優しい口調で、岡山は最後に言い電話を切った。

切れたのを確認すると飯山は軽い笑みを浮かべつつ携帯をポケットにしまった。中村は電話の内容を話してくれるのを待っていた。

「もう少し耐えてくれ。だってさ。総理も精一杯やってるってことだったぞ。」

中村の顔を少し見、そう口を開く。そして頷く彼を横目に自身が着ていた防護服の整備を始めた。





 時刻は午後5時を回り、夕日が太平洋を赤く染める。日本海を中心に実施されていた米韓合同軍事演習。巨大生物の報を受け、演習を早々と切り上げた米海軍第七艦隊は、大統領の命令を受け小笠原諸島近海に移動していた。


数日前、巨大生物と接触。安全確認のため、一時舞鶴港に入港していた空母ロナルドレーガンは少し遅れて艦隊に合流。その姿は中心にあった。また空母の甲板上には艦載機が隙間なく配置されており臨戦態勢で航行していることは明らかだった。


太陽が沈みかけ、各艦には電灯が灯り始める。空母の甲板上には誘導灯が点灯を始めた。その中、一機のオスプレイがロナルドレーガンに近付き、着艦要請を出してきた。グアムのアンダーセン空軍基地に所属しているその機体は、後任の在日米軍司令官を乗せていた。着艦要請を承諾した空母の甲板上には、誘導灯を所持した海軍兵らが姿を見せ始める。着艦体制に入り、ローターが巻き起こす風が海軍兵のシャツを激しく揺らす。


やがて機体は甲板に足を付けた。それを見、海軍兵らは即座にワイヤーで固定に掛かる。安全が確認されると、後部ハッチから数人の士官と共に後任の在日米軍司令官となったエドワード中将が姿を現した。艦長や第七艦隊司令が敬礼で出迎える。


「エドワード空軍中将だ。宜しく頼む。」


答礼し、短く挨拶を交わす。彼は貫録が良いと言うタイプの司令官ではなく、細身でエリート感が漂っている人物だった。数日前までワシントンDCで勤務していただけに、雰囲気は周りの人間と違っていた。そして士官らとの挨拶が終わるとエドワードはCIC(戦闘指揮所)に案内された。


薄暗く青がかった室内には幾多にも及ぶ電子機器が配置しており、空母のCICは艦隊の頭脳として機能している。複数の隊員らが各所で打ち合わせをしている中、エドワードは周囲を見渡し、


「早速だが、私は大統領から生物の捕獲。または細胞組織の採取を命じられてきている。現在可能な作戦プランについて教えて貰いたい。」


第七艦隊司令に早口な口調で問い掛ける。

「はっ、捕獲という面では、我が艦隊の保有戦力を以てしてでは現実的な話ではありません。なので、火力攻撃によって表皮をはがし、採取。これが現実的なプランです。そして現在、目標は父島の沖合一五キロ地点。またはその周辺海域に潜伏しているものと、先ほど横田から情報が来ました。確実な位置情報把握のため、捜索部隊を編成中です。」


正面にある大きめの固定スクリーン。そこに映し出されている周辺海域の地図を見ながら艦隊司令は説明した。


「了解した。また動きがあったら教えてくれ。」


艦隊司令の説明に時折頷く。そして話が終わるとエドワードは短くそう言い、追随してきた士官と共にCICを退室した。




岡山は、批判が殺到する会見場からようやく脱出出来ていた。時間にして30分。短い時間に思えるが、本人からしたらとても長く感じていた。説明するだけ説明して、途中で逃げるように退室するのも一つの手であったが、岡山はその形を心底嫌っており、最後までマスコミのヤジに付き合っていた。しかし、それを見かねた内閣府の職員が途中で会見を強引に終わらせ、今に至っている。


「いくらなんでもお人よし過ぎです。」


会見場を出るなり止めに入った職員からそう言われ軽く頭を下げた。

結局、岡山は閣僚らと議論を重ねた結果、放射能について公表はしなかった。いずればれるだろうが今はこの方がベストだろうという考えで、会見においては人体に影響を及ぼす可能性のある物質が採取された。これを貫いた。


感が鋭い記者から放射能ですか?という問いが来た際には冷や汗をかいてしまったが、補聴器型のイヤホンから職員の助けが入り、その場は切り抜けられた。その後、疲れを滲ませた表情で、複数の職員と共に岡山は内閣危機管理センターに入った。来室に気付いた職員や隊員が椅子から立ち上がる。それを手で制し、周囲に現状を問い掛けた。


「はっ、被害地域における人命救助及び捜索は大方のメドがたちつつあります。しかし現在それよりも注視しなければならないことが一点ありまして。」


統幕長は椅子から立ち上がり、そう口を開いた。


「注視?なんだ?」


「小笠原諸島近海に第七艦隊が展開しています。海自からの報告で巨大生物は父島近海に潜伏している可能性が高く、このままではEEZ内で戦闘が勃発する可能性があります。」


険しい表情でそう報告してきた。初耳と言わんばかりに驚きの顔をする職員もおり、センター内が緊張に包まれた。


「国民に被害が出る可能性は?」


その場にいた井上厚労大臣が話に割って入る。


「残念ながら、米軍が戦闘を意図している確率は90%以上と推定されます。よって小笠原諸島に居住する民間人の避難。現在この準備に入っています。」


90%という予想以上の数字にセンター内はざわついた。


「避難はどのくらいで終わる?」


岡山は険しい表情で問い掛けた。


「7時間あれば。」


苦しい表情で統幕長は返す。


「米軍がいつ戦闘を始めるか分からないんだろう?」


柿沼経産大臣が問い詰めるような口調で迫る。センター内の緊張感は増す一方だった。


「海自の潜水艦が第七艦隊を追尾。行動を監視しており大体は予想がつくものと思っております。しかしながら戦闘間における民間人輸送という事態も当然考えられるため、部隊には充分留意させています。」


その回答に沈黙が広がった。戦闘間における住民輸送。一番あってはならない形だった。しかしアメリカという、日本が到底抗えない国。振り回されている現実に、その場にいた全員がそれを噛みしめていた。


「今からでもいい。直ちに避難を開始させろ。」


岡山は静かにそう指示を出した。周囲の人間が見るに、その顔は再び怒りに満ちているように思えた。







 「艦隊司令。プランが決まりました。」


エドワードが着任して一日が経過し、時刻は正午を過ぎた頃だった。CICで空軍との連携を打ち合わせしていた艦隊司令の元に、中佐の階級章を付けた海軍士官が報告にきた。手にしていた書類を手渡し、艦隊司令はそれを軽く通読する。


「原潜による誘き出しか。」


内容を見、詰まってしまった。現在艦隊には、シャイアンとコロンバスの二隻が追従しており、対潜戦闘の一躍を担っていた。確かに原潜を使えば確実に生物を誘き出し、監視の元に出来る。しかしリスクが高かった。潜水艦は衝突されたら終わり。乗組員の脱出もままらない現実があった。


そのためすぐには首を縦にふれなかった。とはいえ、対潜哨戒機のみで確実な位置情報を獲得出来るという自信はなかった。潜水艦とは違い、自由気ままに遊泳する生物に規則性を見出す事は出来ず、原潜を使用した作戦プランは有効策だった。周囲の士官と相談を重ね、艦隊司令は渋々承諾した。


「エドワード司令官を呼んでくれ。」


作戦開始に伴い、通信兵にそう指示を出す。少ししてエドワードが入室してきた。


「始めるのか?」


「はい。原潜を使用し誘き出します。そして我が艦隊の監視圏内に置き、航空機及び艦船の持つ火力を活かし、ヤツの表皮を剥がしに掛かります。一枚や二枚、落として見せます。」


問い掛けに対し、艦隊司令は冷静な口調で返す。そして、


「作戦開始。」


の一声を絞らせた。各所で復唱が繰り返される。それと同時に士官や隊員らが忙しく動き始め、艦内にベルが鳴り響いた。


「シャイアン。艦隊を離脱。」


「戦闘攻撃隊。発艦始め。」


「全艦。戦闘配置。これは演習にあらず。」


通信兵らが一斉に受け持った指示を各所に飛ばす。それを受け、艦隊は戦闘態勢に移行した。


太陽が照り付ける空母の甲板上では忙しく発艦作業が行われていた。水蒸気による白い煙が巻き起こる中、カラフルな作業服に身を包んだ発艦作業員らは小走りで発艦前の最終チェックを開始する。パイロットもF18戦闘機のコックピットに駆け上がり、エンジンにスタートを掛けた。


そして発艦作業員のハンドサインを受け、彼らは次々と機体を空に上げた。


「戦闘攻撃隊第一波。発艦。」


CICでは士官を始めとして総出で各艦と交信を行っていた。その中、一人の通信兵が報告を上げる。エドワードはそれを聞き、


「よし。目標を発見次第、射撃を許可する。」


艦隊司令の承諾を得ず、独断で指示を出した。艦隊司令はすかさず止めに入る。


「プランにありません。シャイアンを前に出した意味がなくなります!」


「シャイアンは父島近海で浮上。待機させろ。目標が姿を現すまで攻撃隊は周辺空域を旋回。第二次攻撃隊の発艦準備急がせろ。」


艦隊司令の言葉を無視しエドワードは続けた。艦隊の士官らが集まり出す。


「私の艦隊です。貴方の独断で部下を危険な目に晒す訳にはいきません。今の命令は撤回させて頂きます。」


艦隊司令は強く出た。しかし、


「生物の捕獲又は表皮の採取。その全権を大統領から委任されている。この艦隊の指揮権も、生物に対してであれば私にある。」


終始冷静な口調で反論する。艦隊司令は返す言葉がなかった。周囲の士官らはそれまでざわついていたが、それを聞き口を噤む。下士官らは指示を待っていた。それを見、


「これより、作戦指揮権をエドワード司令官へ一任する。」


艦隊司令は苦しながらにその一声を発し、耳にしたエドワーズは口元を緩ませた。


「懸命な判断に感謝する。」


彼の顔を見ることなく言い、続けるようにして、


「先程の指示。総員に厳命しろ。何としてでも成果をあげろよ。」


そう言い放ち、近くの椅子に腰掛けた。今まで最小限の交信のみで静まり返っていたCICが再び動き出す。艦隊司令はその光景に溜まらずCICを後にした。数人の士官がその後に続く。それを横目で見つつ、


「前衛の駆逐艦。シャイローとカーティス・ウィルバーだな。二艦先行させろ。」


更に指示を追加し、通信兵らは忙しく指示を飛ばす。その直後、空軍の迷彩服に身をまとった士官らが一斉にCICになだれ込んできた。エドワードの指示を受けた面々だった。不思議そうな表情で一瞥する海軍兵らをよそに、彼らはモバイル式の電子機器を広げ始め、通信を始めた。


「司令官。シャイアンより緊急。目標発見。我が艦に近付きつつあり指示を求めています。」


その中、上等兵の階級章を付けた、まだ顔が幼い海軍兵が報告を飛ばしてきた。その内容にCICが一気に騒々しくなった。担当の士官が駆け付け事実確認の把握に入る。エドワードはその士官の最終報告を待つことなく、


「通常魚雷による攻撃を許可する。上空待機中の攻撃隊は援護態勢。戦闘救難隊は甲板にて発艦待機。」


いっそのこと殺してしまおう。そう考え指示を出した。日本の海岸線から厚木基地まで、市街地を移動したというデータから生物の表皮は少なからず頑丈なことは分かっていた。通常であれば潜水艦の魚雷攻撃のみで充分だったが、念を押し艦載機にも攻撃命令を出した。殺してしまいさえすれば、後は死骸を回収。表皮を冷凍保存し本国に送ればいいだけ。そう考え、彼は軽い笑みを浮かべた。




「目標!依然接近!距離450!」


同時刻、米海軍原子力潜水艦シャイアンの指揮所は騒々しく報告や指示が飛び交っていた。


命令とは言え、本艦が生物の餌として使われることになるとは、この艦の長に着任して3年目の大佐は冷や汗を掻いていた。生物接近の報を空母に知らせて二分。


魚雷攻撃を許可する命令が下り、艦長はすぐに発射の指示を出した。


「魚雷発射管一番・二番装填。」


それを受けた砲雷長が叫ぶ。


「用意良し!」


担当の下士官が叫び返す。艦長はそれを聞き、砲雷長に大きく頷いて見せた。


「斉射!ってー!」


その指示から数秒。魚雷が発射された際に感じる振動が身構える彼らに伝わる。


「命中まで3・2・1・・・」


砲雷長がストップウオッチを持ちカウントする。そして少しの沈黙の後、命中を知らせる爆発音が耳に入った。思わず各所で声が漏れる。倒したか。艦長の緊張はピークに達していた。


「3・4番装填。発射準備で待機。」


ソナー員の報告を待ち、沈黙が広がる中、砲雷長が無線に素早く指示を入れた。直後、


「目標健在!微量のアクティブソナーを依然発信中!距離・・・」


ソナー員は振り返り報告を飛ばしてきた。しかしその報告の途中、凄まじい振動が彼らを襲った。


「目標海上に浮上!シャイアンを襲っています!」


その光景にF18パイロットは息を呑んだ。上空待機を下命され、シャイアンの周囲を旋回していたが、タイミングが悪く襲われる時に攻撃態勢のフォーメーションを組めていなかった。

生物はシャイアンを両手で鷲掴みにし、その鋭い爪で船体に穴を空けていた。それを見、パイロットは大きく機体を翻し、目標を射程に入れる。攻撃許可は下りていた。


ロックオンを示す音が鳴り響く中、パイロットは躊躇することなく赤いボタンを押した。直後、翼下に取り付けられていた対艦ミサイルが放たれる。


それを皮切りに他の機体からもミサイルが発射された。それを確認するとパイロットらは、フレアと呼ばれる回避用の兵装を機体下部から射出させ離脱行動に入った。戦闘機の編隊は、白い複数の閃光を空に残し雲の中に消えて行く。


「ミサイル全弾目標に命中。しかし効果なし!」


少し離れて観測を実施していた偵察機のパイロットは目を疑いつつ報告を飛ばした。発射位置が良かったため、ミサイルは原潜に命中することなく、見事生物の身体のみに当たっていた。


合計で6発が命中していたが、その生物は怯むどころか、怒り狂っているように思えた。その姿に恐怖を感じつつも、潜水艦乗組員の安否に目がいった。爪によって空けられた大きな穴から海水が大量に侵入しており、パイロットは何も出来ない自分を悔やんだ。まだ生きている兵士がいるかもしれない。そう希望を持ち、追加攻撃を空母に進言した。


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