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戦火
第234話 整備中隊と天才爺
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『……なんだこりゃ』
翌朝、再びリッゲンバッハ教授の居る――という表現が正しいかはともかく――総合指揮所に僕は再び顔を出したのだが、そこに広がっていた光景はなんとも不思議なものだった。
「1班と2班はパシナの指示に従い、乾ドック内で白藍の整備だ。3班、4班は施設内にある武器弾薬を第一格納庫に集めろ。5班は別命あるまで待機――お、噂をすりゃ来たな」
階段状の指揮所前方で、モニターを前にヘッドセットをつけて指示を出していたダマルはこちらに気付くと、呆然とする僕たちに向かって特に変わった様子もなく軽く手を挙げる。
ただ、正直状況はまったく飲み込めない。
昨日の段階では稼働していなかったはずのモニターは、細かく分割されて基地内部の状況を映し出しており、骸骨はそれを見ながら、まるでその先に整備中隊が居るかのように指示を出しているのだ。
「状況更新、5班行動開始だ。マキナトラックを牽いて総合指揮所まで回収に来い」
『あの、色々わからないんだが……君は何に指示出してんだい』
「モニター見りゃわかるだろ。ほれ」
どこから見つけてきたのか、ダマルがレーザーポインターで指し示した画面の向こうでは、班と呼称するに足る数のオートメックがあちこちで蠢いている。それも骸骨の指示通りに正しく制御されているらしく、荷物を運び出すものもあれば、どこにあるのかエア・クッション艇らしき船を修復している姿も見られた。
ただ、それで一晩のうちに発生した変化に理解など及ぶはずもない。おかげで僕は言葉を失っていたのだが、それをダマルは察しが悪いと首を横に振った。
「昨日の晩によ、お前が説明しなかったこっちの事情を、そこの平ったい教授に教えたんだ。そしたら、協力しようってんで、大量のオートメックを引っ張り出してくれてよ」
『うむ。エーテル変異生物と対峙するとなれば、武器弾薬は必須であろうと思ってな。ここに将来を見越し、色々貯め込んでおいたのは正解じゃったわい』
「おじいちゃん、おはよぉ」
『おぉ、ポラリス。おはよう』
話が聞こえていたのか、部屋のスピーカーを通して教授の声が響き、正面の大画面に教授の顔がワイプで映し出される。その表情は何か嫌らしい笑みだったが、ポラリスが眠そうに挨拶をすると、すぐ子煩悩なデレデレした笑顔でかき消されていた。
しかし、全員にその様子が見られていることを思い出したらしく、教授は咳払い1つで表情を塗り替える。
『オホンッ! それで、昨晩はダマル君とは色々話をさせてもらっていたという訳じゃ。プログラムに感情が組み込まれたことを、ここまで後悔したことはなかったぞ。こんなに面白い男と酒が呑めんのだからな』
「そりゃお互い様だぜ。800年前に縁がねぇのは、ただの整備兵だからしょうがねぇけどよ」
人ならざる2人の楽し気な声が、揃って部屋の中に木霊する。何が理由かはわからないが、一晩のうちに意気投合したらしい。ここにストリが居たなら、ややこしい爺の酒飲み仲間が増えた、と言って頭を抱えていたことだろう。
「天才って聞いてたからもっと厳格な爺かと思ってたんだが、遊び心満載で笑っちまうぜ。なんせ、演出のためだけに、わざわざパシナ使って俺たちをここに呼んだってんだからよ」
『うむ。やろうと思えば、普通に館内放送とかどこぞのモニター使って話せたんじゃが、この方が映画っぽくてカッコいいかと思っての!』
再びガッハッハ、カッカッカと酔っ払いじみた笑いが響く。
前言撤回。ストリでなくとも頭は痛くなる。それは自分だけに留まらず、会話を断片的にしか理解できない女性陣でさえ、こいつら阿呆なんじゃないか、という表情をありありと浮かべていた。
「内容はよくわからないけど、ふざけていることだけはわかった」
「なんていうか、面倒くさそうなおじーさんですね」
「自分たちの緊張感を返してほしいッス」
「本当にね……これでも私、祖国が危機的なのだけれど」
『なんじゃなんじゃ、若い娘が面白みのないことを言いおって』
苦情じみた彼女らの言葉に対し、教授は表情を引き締めて威厳を出そうと試みたらしい。だが、女性陣からの評価が改善することはなく、成果といえば、面白い? と単語だけを引っこ抜いたポラリスが首を傾げたことくらいだろう。
とはいえ、ここでラフィンスカルと呑兵衛爺システムに、全員からしょうもない追及をしたところで無駄なため、僕はため息1つで話題を軌道修正することにした。
『一応、事情は分かりました。それでダマル、作業の方は?』
「整備と物資の補給作業についちゃ、予想外にもオートメックで手が足りちまったからな。お前はファティマの剣を探すのと、アポロとマオリィネにちょっとした訓練をつけといてやってくれ。あぁ、翡翠は置いて行けよ。そいつがないと話にならん」
当然の話ではあるが、自動整備機械であるオートメックと、簡易作業しかしたことのない兵士なら、オートメックの方が整備作業には向いている。それに加え、物資の運搬や集積に関しても、自動機械は疲れ知らずで行えるという利点があった。
しかもダマルは、流石に整備中隊出身というだけあってオートメックへの指示に慣れており、簡易整備以外できない機甲歩兵の自分が、現代人たちの戦力底上げに回されるのは当然であろう。
言われたとおりに脱装すれば、間もなく5班と呼ばれていたであろうオートメックが集まってきて、翡翠をマキナトラックと言われる輸送台に積み込み、瞬く間に運び去っていく。それに続いて、ダマルは僕に何か小さなメモを握らせると、鼻歌混じりに部屋から出て行った。
「あ、嵐のような整備隊だな……ええと、とりあえず鍛冶屋についてなんだが、シューニャ?」
「正直、谷の鍛冶屋は望み薄。司書の谷にはキメラリアが少ないから、ファティが使えるような武器は難しいと思う」
「んー……スィノニームでもそうでしたけど、斧剣みたいなのは中々ないですね」
交易都市であるリンデン首都でさえ、あの鋼の塊に匹敵する剣は見当たらなかった。
そもそもキメラリアの武器は、銅貨数百枚程度の数打ち品が普通なのだ。これは良くてもリベレイタや港湾労働者くらいにしかなれない貧困層のキメラリア達が、武器にお金をかけられないことに起因している。
だからこそ、腕付き文鳥が言った通り、人間が振るえない程に大きく重い上に、銀貨数枚を数える斧剣など、普通は金持ちの道楽として飾りに使われるしかないのだろう。
こうなると、残された道はほぼオーダーメイドなのだが、これまた腕のある鍛冶師はキメラリアの武器を作ることを嫌がり、安価な武器や農具が主力商品の民間鍛冶では、扱っている鋼の質や自身の技術力に問題があると言って断られる。
しかも巨大かつ重厚な剣である以上、1本打つのにも相当長い期間が必要なことは想像に難くなく、たとえ請け負ってくれる店があったとて、司書の谷やスィノニームで剣を注文するわけにもいかない。
この複合的な理由で僕らは悩んでいるのだが、プログラムであるリッゲンバッハ教授には、現代の厄介さ加減を理解するのが難しかったらしい。画面の中で不思議そうに長い顎髭を撫でていた。
『銃火器ではいかんのか? F型キメラリアの筋力なら、重量のある武装も扱えるはずじゃが』
F型、というのは初めて聞く単語だったが、話の繋がりからどうやらキメラリア・ケットを指す単語らしい。ファティマも自分のことを指していると、話の流れから読み取れたようで、不服そうに長い尻尾をブンブンと振った。
「ボク、飛び道具苦手なんです。それに剣の方が使い慣れてますし」
『とはいえ、その鉄板みたいなのでは、どう振るっても簡単に折れるじゃろ。せめてもう少し分厚い鋼でもない限りは――』
「この猫は、その分厚い鋼を叩き折ったんスよ。それでも鈍器は嫌だとか、我儘いうから困ってるッス」
教授の言葉に対し、アポロニアは、へっ、と馬鹿にしたように肩を竦める。これにはさしもの聡明な老人も、鋼を叩き折ったという中々の事態に、苦笑を隠せなかった。
「ボークーはー! けーんーがー! 好きなんですー!」
「ま、まぁ武器は使い慣れた物が一番だけど、鋼でも折れるなら難しいわよね」
ファティマはぷぅと大きく頬を膨れさせ、耳を後ろに倒して不機嫌を表明するものの、現実はそう簡単ではないため、マオリィネも彼女に賛同するように見せかけてアポロニアの肩を持つ。
ただ、リッゲンバッハ教授は武装の強度という問題に対し、どこか挑戦的に目を細めると、考えられないことを口にした。
『ふむ――現代の冶金技術で駄目だというなら、ここで作ってみるのはどうかね?』
「作る……とは?」
まさか800年前から存在するこの場所に、現代的な刀剣を打てる鍛冶場などあるはずもないため、僕は意味が分からないと首を傾げる。また、現代人一同の方は、そもそも鍛冶師が居ないことにはどうしようもないだろう、と言った様子だった。
にもかかわらず、リッゲンバッハ教授は自信ありげに口の端を持ち上げる。
『ここの生産エリアには、稼働状態の自動加工装置があっての。金属資源はそう多くないが、剣を作る程度なら大した問題にならんよ』
「そりゃ凄い、んですけど……僕ぁ設計なんてやったことありませんよ?」
自動加工装置が、図面を基にして勝手に道具を産みだしてくれる機械であることくらいは知っているし、テレビ番組か何かで動いている姿を見た覚えもある。
だが、所詮はそれだけに過ぎないのだ。何かの設計に関わった経験もない人間がいきなり、これを使っていいから剣を作れ、と言われたところでできるはずがない。
そう思って首を横に振ったのだが、画面上の老人はなんだか呆れ返ったような表情を浮かべていた。
『恭一君、ワシこれでも元はマキナ作っとったんじゃけど、忘れとらん? 流石にプログラム化してから図面を描いたことはないが、やってやれんことはあるまい。それで、お嬢ちゃんはどういう剣が欲しいんじゃ?』
「えぇと、ボクがピッチリ服着てる時に振っても、折れたり曲がったりしない、とにかく頑丈な剣がいいです。あと、ミクスチャが斬れたらもっといいです」
どうやらファティマは既にその気だったらしく、聞かれるや否や無茶苦茶な難題をプログラム教授に叩きつける。それも相当に期待を込めた目で。
疑似人格とやらが、何かに触発されることがあるのかはわからないが、少なくとも髭の老人はそう見える真剣な表情を作ると、バックグラウンドで何かを動かし始めた。
『君が背負っている鉄板位の大きさでいいかね?』
「壊れないなら長さも大きさもこれくらいで。重さはこれより重たくても大丈夫です。形は――」
そこまで朗々と言っておきながら、ファティマはピタリと言葉を途切れさせ、小さく尻尾の先だけを振ると、ゆっくり僕の方へ向き直る。
「おにーさん、一緒に考えてくれますか?」
「いや、そりゃファティが好きな形にすれば――」
何故そんなことを聞くのか、と問おうとしたものの、彼女の耳が後ろに倒れたことで僕は何を望まれているかを理解できた。
次の剣は2人で選ぼう。以前自分はそう言って傷心のファティマを慰めた。それを約束として、ファティマは僕に履行を望んでいる。
「じゃあ、一緒に考えようか」
「はぁい!」
明るい声に腕を引かれ、僕は板剣を前に形を考えていく。それもガッチリと腕を組まれたままで。
「流石はだっこのファティマと言ったところかしら?」
「お子様ッスねぇ」
それを後ろからアポロニアとマオリィネが茶化し、ポラリスがズルいズルいと言って背中に絡みついてきたが、ファティマは一切気にしない。それどころか、どうだと言いたげに2人を鼻で笑ってみせた。
「羨ましいならそう言えばいいじゃないですか」
「なっ!? べ、別に羨ましいなんて思って、ない、わ、よ……」
「ぐぬぬぬぬぬ……猫の癖に余裕ぶっこいてやがるッス」
普段ならまたじゃれ合いになりそうな雰囲気だったが、どうやら今回はファティマの勝ちらしい。2人が異常なまでに悔しそうな表情を浮かべる中、彼女はそっと僕の腰に尻尾を回してくる。
ただ、そんな彼女らに対し、シューニャは口を挟もうとはせず、むしろ時間がかかりそうだと踏んだらしい。
「ごめんキョウイチ。特にすることが無いなら、済ませておきたい用事がある」
「ん? あぁ、構わないよ。マオ、悪いんだが護衛を――」
「1人で大丈夫。それじゃ」
短くそう言うと、彼女はキャスケット帽を深く被って、指令室を出ていった。
シューニャが自由時間を欲することくらい、別に不思議でもない。何せ、ここは彼女の故郷であり、時間が許す限り家族や友人たちと話したいこともあって当然なのだから。
ポンチョを揺らす小さな背中を見送って間もなく、剣のデザインは大体形になった。とはいえ、イラスト化されたのはとんでもない分厚さの鉄塊だったが。
『ううむ、キメラリア用ならわからんでもないが、こりゃとんでもない重量武器じゃのぉ』
「できますか?」
『使えるかどうかはともかく、作ることは造作もないわい。この一振りだけでよいかの?』
「……あ、よければ、なんですが――」
ふと、あることを思い出した僕は、不思議そうな顔をする全員を前に、もう1つだけリッゲンバッハ教授に注文をお願いすることにした。
それはある意味、謝罪の品と言うべきものだったが。
翌朝、再びリッゲンバッハ教授の居る――という表現が正しいかはともかく――総合指揮所に僕は再び顔を出したのだが、そこに広がっていた光景はなんとも不思議なものだった。
「1班と2班はパシナの指示に従い、乾ドック内で白藍の整備だ。3班、4班は施設内にある武器弾薬を第一格納庫に集めろ。5班は別命あるまで待機――お、噂をすりゃ来たな」
階段状の指揮所前方で、モニターを前にヘッドセットをつけて指示を出していたダマルはこちらに気付くと、呆然とする僕たちに向かって特に変わった様子もなく軽く手を挙げる。
ただ、正直状況はまったく飲み込めない。
昨日の段階では稼働していなかったはずのモニターは、細かく分割されて基地内部の状況を映し出しており、骸骨はそれを見ながら、まるでその先に整備中隊が居るかのように指示を出しているのだ。
「状況更新、5班行動開始だ。マキナトラックを牽いて総合指揮所まで回収に来い」
『あの、色々わからないんだが……君は何に指示出してんだい』
「モニター見りゃわかるだろ。ほれ」
どこから見つけてきたのか、ダマルがレーザーポインターで指し示した画面の向こうでは、班と呼称するに足る数のオートメックがあちこちで蠢いている。それも骸骨の指示通りに正しく制御されているらしく、荷物を運び出すものもあれば、どこにあるのかエア・クッション艇らしき船を修復している姿も見られた。
ただ、それで一晩のうちに発生した変化に理解など及ぶはずもない。おかげで僕は言葉を失っていたのだが、それをダマルは察しが悪いと首を横に振った。
「昨日の晩によ、お前が説明しなかったこっちの事情を、そこの平ったい教授に教えたんだ。そしたら、協力しようってんで、大量のオートメックを引っ張り出してくれてよ」
『うむ。エーテル変異生物と対峙するとなれば、武器弾薬は必須であろうと思ってな。ここに将来を見越し、色々貯め込んでおいたのは正解じゃったわい』
「おじいちゃん、おはよぉ」
『おぉ、ポラリス。おはよう』
話が聞こえていたのか、部屋のスピーカーを通して教授の声が響き、正面の大画面に教授の顔がワイプで映し出される。その表情は何か嫌らしい笑みだったが、ポラリスが眠そうに挨拶をすると、すぐ子煩悩なデレデレした笑顔でかき消されていた。
しかし、全員にその様子が見られていることを思い出したらしく、教授は咳払い1つで表情を塗り替える。
『オホンッ! それで、昨晩はダマル君とは色々話をさせてもらっていたという訳じゃ。プログラムに感情が組み込まれたことを、ここまで後悔したことはなかったぞ。こんなに面白い男と酒が呑めんのだからな』
「そりゃお互い様だぜ。800年前に縁がねぇのは、ただの整備兵だからしょうがねぇけどよ」
人ならざる2人の楽し気な声が、揃って部屋の中に木霊する。何が理由かはわからないが、一晩のうちに意気投合したらしい。ここにストリが居たなら、ややこしい爺の酒飲み仲間が増えた、と言って頭を抱えていたことだろう。
「天才って聞いてたからもっと厳格な爺かと思ってたんだが、遊び心満載で笑っちまうぜ。なんせ、演出のためだけに、わざわざパシナ使って俺たちをここに呼んだってんだからよ」
『うむ。やろうと思えば、普通に館内放送とかどこぞのモニター使って話せたんじゃが、この方が映画っぽくてカッコいいかと思っての!』
再びガッハッハ、カッカッカと酔っ払いじみた笑いが響く。
前言撤回。ストリでなくとも頭は痛くなる。それは自分だけに留まらず、会話を断片的にしか理解できない女性陣でさえ、こいつら阿呆なんじゃないか、という表情をありありと浮かべていた。
「内容はよくわからないけど、ふざけていることだけはわかった」
「なんていうか、面倒くさそうなおじーさんですね」
「自分たちの緊張感を返してほしいッス」
「本当にね……これでも私、祖国が危機的なのだけれど」
『なんじゃなんじゃ、若い娘が面白みのないことを言いおって』
苦情じみた彼女らの言葉に対し、教授は表情を引き締めて威厳を出そうと試みたらしい。だが、女性陣からの評価が改善することはなく、成果といえば、面白い? と単語だけを引っこ抜いたポラリスが首を傾げたことくらいだろう。
とはいえ、ここでラフィンスカルと呑兵衛爺システムに、全員からしょうもない追及をしたところで無駄なため、僕はため息1つで話題を軌道修正することにした。
『一応、事情は分かりました。それでダマル、作業の方は?』
「整備と物資の補給作業についちゃ、予想外にもオートメックで手が足りちまったからな。お前はファティマの剣を探すのと、アポロとマオリィネにちょっとした訓練をつけといてやってくれ。あぁ、翡翠は置いて行けよ。そいつがないと話にならん」
当然の話ではあるが、自動整備機械であるオートメックと、簡易作業しかしたことのない兵士なら、オートメックの方が整備作業には向いている。それに加え、物資の運搬や集積に関しても、自動機械は疲れ知らずで行えるという利点があった。
しかもダマルは、流石に整備中隊出身というだけあってオートメックへの指示に慣れており、簡易整備以外できない機甲歩兵の自分が、現代人たちの戦力底上げに回されるのは当然であろう。
言われたとおりに脱装すれば、間もなく5班と呼ばれていたであろうオートメックが集まってきて、翡翠をマキナトラックと言われる輸送台に積み込み、瞬く間に運び去っていく。それに続いて、ダマルは僕に何か小さなメモを握らせると、鼻歌混じりに部屋から出て行った。
「あ、嵐のような整備隊だな……ええと、とりあえず鍛冶屋についてなんだが、シューニャ?」
「正直、谷の鍛冶屋は望み薄。司書の谷にはキメラリアが少ないから、ファティが使えるような武器は難しいと思う」
「んー……スィノニームでもそうでしたけど、斧剣みたいなのは中々ないですね」
交易都市であるリンデン首都でさえ、あの鋼の塊に匹敵する剣は見当たらなかった。
そもそもキメラリアの武器は、銅貨数百枚程度の数打ち品が普通なのだ。これは良くてもリベレイタや港湾労働者くらいにしかなれない貧困層のキメラリア達が、武器にお金をかけられないことに起因している。
だからこそ、腕付き文鳥が言った通り、人間が振るえない程に大きく重い上に、銀貨数枚を数える斧剣など、普通は金持ちの道楽として飾りに使われるしかないのだろう。
こうなると、残された道はほぼオーダーメイドなのだが、これまた腕のある鍛冶師はキメラリアの武器を作ることを嫌がり、安価な武器や農具が主力商品の民間鍛冶では、扱っている鋼の質や自身の技術力に問題があると言って断られる。
しかも巨大かつ重厚な剣である以上、1本打つのにも相当長い期間が必要なことは想像に難くなく、たとえ請け負ってくれる店があったとて、司書の谷やスィノニームで剣を注文するわけにもいかない。
この複合的な理由で僕らは悩んでいるのだが、プログラムであるリッゲンバッハ教授には、現代の厄介さ加減を理解するのが難しかったらしい。画面の中で不思議そうに長い顎髭を撫でていた。
『銃火器ではいかんのか? F型キメラリアの筋力なら、重量のある武装も扱えるはずじゃが』
F型、というのは初めて聞く単語だったが、話の繋がりからどうやらキメラリア・ケットを指す単語らしい。ファティマも自分のことを指していると、話の流れから読み取れたようで、不服そうに長い尻尾をブンブンと振った。
「ボク、飛び道具苦手なんです。それに剣の方が使い慣れてますし」
『とはいえ、その鉄板みたいなのでは、どう振るっても簡単に折れるじゃろ。せめてもう少し分厚い鋼でもない限りは――』
「この猫は、その分厚い鋼を叩き折ったんスよ。それでも鈍器は嫌だとか、我儘いうから困ってるッス」
教授の言葉に対し、アポロニアは、へっ、と馬鹿にしたように肩を竦める。これにはさしもの聡明な老人も、鋼を叩き折ったという中々の事態に、苦笑を隠せなかった。
「ボークーはー! けーんーがー! 好きなんですー!」
「ま、まぁ武器は使い慣れた物が一番だけど、鋼でも折れるなら難しいわよね」
ファティマはぷぅと大きく頬を膨れさせ、耳を後ろに倒して不機嫌を表明するものの、現実はそう簡単ではないため、マオリィネも彼女に賛同するように見せかけてアポロニアの肩を持つ。
ただ、リッゲンバッハ教授は武装の強度という問題に対し、どこか挑戦的に目を細めると、考えられないことを口にした。
『ふむ――現代の冶金技術で駄目だというなら、ここで作ってみるのはどうかね?』
「作る……とは?」
まさか800年前から存在するこの場所に、現代的な刀剣を打てる鍛冶場などあるはずもないため、僕は意味が分からないと首を傾げる。また、現代人一同の方は、そもそも鍛冶師が居ないことにはどうしようもないだろう、と言った様子だった。
にもかかわらず、リッゲンバッハ教授は自信ありげに口の端を持ち上げる。
『ここの生産エリアには、稼働状態の自動加工装置があっての。金属資源はそう多くないが、剣を作る程度なら大した問題にならんよ』
「そりゃ凄い、んですけど……僕ぁ設計なんてやったことありませんよ?」
自動加工装置が、図面を基にして勝手に道具を産みだしてくれる機械であることくらいは知っているし、テレビ番組か何かで動いている姿を見た覚えもある。
だが、所詮はそれだけに過ぎないのだ。何かの設計に関わった経験もない人間がいきなり、これを使っていいから剣を作れ、と言われたところでできるはずがない。
そう思って首を横に振ったのだが、画面上の老人はなんだか呆れ返ったような表情を浮かべていた。
『恭一君、ワシこれでも元はマキナ作っとったんじゃけど、忘れとらん? 流石にプログラム化してから図面を描いたことはないが、やってやれんことはあるまい。それで、お嬢ちゃんはどういう剣が欲しいんじゃ?』
「えぇと、ボクがピッチリ服着てる時に振っても、折れたり曲がったりしない、とにかく頑丈な剣がいいです。あと、ミクスチャが斬れたらもっといいです」
どうやらファティマは既にその気だったらしく、聞かれるや否や無茶苦茶な難題をプログラム教授に叩きつける。それも相当に期待を込めた目で。
疑似人格とやらが、何かに触発されることがあるのかはわからないが、少なくとも髭の老人はそう見える真剣な表情を作ると、バックグラウンドで何かを動かし始めた。
『君が背負っている鉄板位の大きさでいいかね?』
「壊れないなら長さも大きさもこれくらいで。重さはこれより重たくても大丈夫です。形は――」
そこまで朗々と言っておきながら、ファティマはピタリと言葉を途切れさせ、小さく尻尾の先だけを振ると、ゆっくり僕の方へ向き直る。
「おにーさん、一緒に考えてくれますか?」
「いや、そりゃファティが好きな形にすれば――」
何故そんなことを聞くのか、と問おうとしたものの、彼女の耳が後ろに倒れたことで僕は何を望まれているかを理解できた。
次の剣は2人で選ぼう。以前自分はそう言って傷心のファティマを慰めた。それを約束として、ファティマは僕に履行を望んでいる。
「じゃあ、一緒に考えようか」
「はぁい!」
明るい声に腕を引かれ、僕は板剣を前に形を考えていく。それもガッチリと腕を組まれたままで。
「流石はだっこのファティマと言ったところかしら?」
「お子様ッスねぇ」
それを後ろからアポロニアとマオリィネが茶化し、ポラリスがズルいズルいと言って背中に絡みついてきたが、ファティマは一切気にしない。それどころか、どうだと言いたげに2人を鼻で笑ってみせた。
「羨ましいならそう言えばいいじゃないですか」
「なっ!? べ、別に羨ましいなんて思って、ない、わ、よ……」
「ぐぬぬぬぬぬ……猫の癖に余裕ぶっこいてやがるッス」
普段ならまたじゃれ合いになりそうな雰囲気だったが、どうやら今回はファティマの勝ちらしい。2人が異常なまでに悔しそうな表情を浮かべる中、彼女はそっと僕の腰に尻尾を回してくる。
ただ、そんな彼女らに対し、シューニャは口を挟もうとはせず、むしろ時間がかかりそうだと踏んだらしい。
「ごめんキョウイチ。特にすることが無いなら、済ませておきたい用事がある」
「ん? あぁ、構わないよ。マオ、悪いんだが護衛を――」
「1人で大丈夫。それじゃ」
短くそう言うと、彼女はキャスケット帽を深く被って、指令室を出ていった。
シューニャが自由時間を欲することくらい、別に不思議でもない。何せ、ここは彼女の故郷であり、時間が許す限り家族や友人たちと話したいこともあって当然なのだから。
ポンチョを揺らす小さな背中を見送って間もなく、剣のデザインは大体形になった。とはいえ、イラスト化されたのはとんでもない分厚さの鉄塊だったが。
『ううむ、キメラリア用ならわからんでもないが、こりゃとんでもない重量武器じゃのぉ』
「できますか?」
『使えるかどうかはともかく、作ることは造作もないわい。この一振りだけでよいかの?』
「……あ、よければ、なんですが――」
ふと、あることを思い出した僕は、不思議そうな顔をする全員を前に、もう1つだけリッゲンバッハ教授に注文をお願いすることにした。
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『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
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※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
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