流浪の魔導師

4章 ドワーフの兵器編 第2部 刺客乱舞

267. 王女一行は

「クソッ……シクった……」

　狭い路地。正面には巨体のオーク。慌てて引き返そうと踵きびすを返したがすぐに足が止まる。振り向いた先の角からのっそりと別の巨体が現れたのだ。前後を挟まれてしまった。

（どうする……どうする！）

　衛兵はキョロキョロと辺りを見回す。抜け道はない。左右の建物はどうだ？ 扉も窓もない。では上だ。何とか建物の屋根の上に……いや、無理だ。登れそうな所はない。ならば前後どちらかのオークを仕留めて押し通るしかない。若もしくは……股下でも潜くぐり抜けて脱出するか……

　王都マンヴェント西地区。職人街や問屋街の細く狭い通りが連なるこの地区にもオークは押し寄せた。パニックに陥おちいる街中にあって衛兵は冷静だった。

　路地の中ならば労せず仕留められるのではないか。

　あの巨体にあの得物だ、狭い路地ならば満足に暴れる事は出来ないだろう。これは妙案だと、衛兵は一人路地へと入る。試しにそこで出くわしたオークに仕掛けてみよう。狭い場所ならば小さい者の方が有利なはずだ。仲間もいらない、却かえって邪魔になる。

　などと考えていた少しの前の自分を思い切り殴り付けてやりたい。

　あれだけの巨体だ、狭い路地では確かに動き辛いだろう。だが狭さというのはこちらにも適応される共通のルールだ。魔法を放たれたらどうするのか。隙を突く為にはどう動けば良いのか。左右に移動出来ない事のデメリットは非常に大きい。
　加えて狭い路地の中で見るオークは一際大きく感じ、放っている強烈な存在感と圧迫感はこちらの戦意を挫くじくには充分過ぎる程だ。
　更に間抜けな事に、挟撃を受ける可能性があるという事が頭の中からすっぽりと抜け落ちていた。そして今まさに、逃げ場のない細い路地で前後を挟まれてしまっている。

（何が妙案だ……）

　全く迂闊うかつ、そして浅慮せんりょ。衛兵は激しく後悔した。思えば昔から言われ続けてきた。両親に、友人に、上官に。物事をもっと深く考えろと。だがどうしても思い付いたら行動が先に立ってしまう。そしてその度たびに虚勢きょせいを張り、どうしようもない自己弁護をするのだ。これこそがドワーフというものだろうと。

「バカか俺は……」

　我が事ながら衛兵は呆れる様にそう呟いた。今回ばかりは心底そう思う。だが自己嫌悪しつつ同時に覚悟も決めた。狙うのは後ろから現れたオーク。そちらは自分がこの路地に入ってきた方向で、それはつまり大通りに近いという事だ。だが戦う気はない。少しばかり腕には自信があったが、誰とやっても負ける事はない、と傲慢ごうまんになれる程のものではない。もたもたしている間に背後のオークに殺やられてしまうだろう。なので素早く走りオークの股下を抜いて、大通りへ脱出してやるだ。

「………………クソッ」

　が、いざ踏み込もうとなるとどうにも足が前に出ない。飲まれている。オークの圧に当てられている。

「えぇい！！」

　このままでは死を待つだけだ。衛兵は意を決して飛び出した。すると二歩程走った所で、突如オークは両膝を地面に付きそのまま前のめりに倒れ込んだ。倒れたオークの背後には剣を握った男の姿。

「そのまま走れ！」

　そう叫ぶと男もまた走り出す。そして走り来る衛兵とすれ違うと前方へ向け低く飛び込んだ。衛兵の背後にいたオークが抱える様に持っていた巨大な剣を構え突きを放ったのだ。
　男は飛び込んだ勢いそのまま、着地しながら前転するとオークの突きを掻かい潜くぐる。そして上体を起こすとオークのへその下辺りの鎧の隙間に素早く剣を突き刺した。更に瞬間、突き刺した剣をグイッと横へ滑らして胴を斬り裂く。

「はぁ………凄い……」

　倒れ込むオークの下敷きにならない様、するりと壁際に避けながら男は立ち上がる。一切の無駄と躊躇ちゅうちょがない流れる様な動き。多少自信がある程度の自分とは明らかに違う。手練てだれだ。男のその鮮やかな手並みを見て、衛兵は自分の命が危険に晒さらされていた事などすっかりと忘れてしまい、ただただ凄いものを見たと思わず感嘆かんたんの声を漏らした。

「間に合って良かった」

　呆ほうけている衛兵を余所よそに男はそう言って笑うと「路地に入った貴方を追い掛けるオークの姿見えた。それがどうにも気になったもので……」と言葉を続けた。男に話し掛けられて衛兵はハッと我に返る。「あ……あぁ！ 済まない、助かった！ ありがとう！」と礼を述のべる衛兵。男は再び笑いながら「良いさ、無事で何より。早く大通りへ戻ろう」と歩き出す。

「俺はドーギン。貴方の名は？ 恩人の名を憶えておきたい」

「ヤリスという。イオンザ王国ジェスタルゲイン殿下の…………お側付きだ」

　名を聞かれたヤリスは立ち止まり、少し考えながらそう名乗った。

　お側付き。

　従士じゅうしとは言わなかった。自分が殿下の従士じゅうしなどとは、とてもじゃないが畏おそれ多いと思ったからだ。精々お側付きが妥当な所だろう。仮に自分の事を誰かの従士と説明するのであれば、それは殿下ではなく主あるじグレバン・デルンの、という事になる。だがあくまでグレバンの近衛隊所属に過ぎず、従士と言うには少し語弊ごへいがあるのだが。

「ではヤリス殿、俺は隊に戻る。本当にありがとう」

　大通りに出るとドーギンは改めて礼を述のべてビッと敬礼する。ヤリスも「ああ、ドーギン殿。武運を」と言って敬礼を返した。その場を離れようとするドーギン。するとヤリスは「ドーギン殿、今一つ……」とドーギンを呼び止める。

「恐らくは三十人程ではないかと思うが、もし馬車と一緒にいるそんな集団を見掛けたら、デバンノ宮殿まで案内してやってもらえないだろうか」

「馬車を……護衛している集団と……？」

　ドーギンがそう問い掛けるとヤリスは静かに頷うなずいた。


　□□□


　主あるじであるグレバン・デルンが王女セムリナと共にマンヴェントを訪れる。書簡に記されていた日付から察するに、恐らく今日明日くらいには到着するだろう。そこでヤリスは一行を出迎えるべく、朝方からマンヴェントの西の入り口である誘黒ゆうこくの門付近で待機していた。グレバンの所領しょりょうがあるイオンザ南部からは誘黒ゆうこくの門へと繋がる街道を進むのが一番早い。一行はこの門を通るだろうと、ヤリスはそう見越していた。
　だが一行は姿を見せずやがて日が傾く。その名の通り門が闇を誘った頃、にわかに天候も悪化し雨が降り始めた。さすがに今日はもう来ないだろう。グレバンだけなら或あるいは、強行軍で馬を駆り夜間に到着という事もあり得る。しかしセムリナ殿下がいる以上無理はしないはずだ。恐らく今夜は王都付近の街などに宿を取り、明日ゆっくりとやって来るのだろう。ヤリスは宮殿へ戻ろうと西大通りを引き返す。

　さてこの西大通りだが、真っ直ぐにレクリア城まで伸びている訳ではない。そもそも街中の道が複雑な動線となっているマンヴェントの中でも、取り分け西大通りは奇妙な程大きくＳ字を描いている。誘黒の門より街の中程なかほどまで進むと、雑多な雰囲気を醸かもし出す問屋街と工房などが立ち並ぶ職人街にぶつかる。その手前で大通りは左、北側へと折れる。北へ進むと大通りはそれら問屋街と職人街をぐるりと大きく迂回する様に南東へと延び、ちょうどヤリスらが世話になっているデバンノ宮殿の前辺りに出る。

　何故なぜこんな奇妙で不便な道を敷いたのか。他の地区の大通りも大凡おおよそ曲がってはいるのだが、さすがにここまで酷ひどくはない。しかしこれは決して無計画の末に出来たものではなく、はっきりとした目的があり敷かれた道なのだ。その理由はダグベ建国の時まで遡さかのぼる。
　ダグベ王国と隣接するセンドベル王国。この二カ国は過去に起きたイオンザ王国の内乱、分国ぶんこく戦争を経て誕生した。つまりイオンザより分裂、独立した国だ。ヴォーガンが今尚なおこの二カ国に執着を見せる様に（時間の流れと共に随分とその意識は薄くなったのだが）、イオンザは決して納得してこの二カ国の誕生を許した訳ではない。それ故ゆえダグベは警戒せざるを得なかったのだ、イオンザが軍を起こし征服戦争を仕掛けてくるのを。
　その為王都マンヴェントは対イオンザを念頭に置き街全体を要塞化する様に設計された。まさにイオンザがある方角の北地区には大通りを造らず、次に攻め込まれる可能性の高いこの西地区に大きく湾曲した大通りを敷いたのもその為である。これにより敵軍は街中でのスムーズな進軍が阻害そがいされる。

　そんな大通りを歩くヤリスは、ちょうど問屋街に差し掛かる少し手前で不思議な光景を目にした。視界の少し先に何やら大きな黒い靄もやの様なものがすぅぅと現れたのだ。何だ？ と疑問を感じたのも束の間、それは通りのあちこちに現れてすぐにはっきりとした形になった。オークだ。あまりの事に驚いて足を止めるヤリスや街の人々を認識すると、オークは得物を振りかざし問答無用で襲い掛かってきた。突然の戦闘に困惑しながらもヤリスは人々を守ろうと剣を抜いた。戦いながら宮殿を目指すヤリスは、同じくオークと戦闘中の衛兵隊と合流。そして路地へと入るドーギンとその後あとを追うオークを目撃し、自身もその路地へと足を踏み入れたのだ。


　□□□


（路地を突っ切るのは無理だな……）

　ドーギンと別れたヤリスは恨めしそうに路地の奥に目をやった。一刻も早く宮殿へ戻らねば。ここを真っ直ぐに進むのが近道だ。だがそれは無謀な事だと知った。致し方ないが大通りを進む方が安全か。ヤリスはグッと剣を強く握ると通りの先に見えるオーク目掛けて走り出す。そして走りながら思った。セムリナ殿下らが来ていなくて本当に良かったと。

　だが一行はすでに王都に到着していた。


　◇◇◇


「押さえろ！ 決して馬車には近付けさせるな！！」

　叫ぶ様に檄げきを飛ばすダイナストン・ワーダー伯爵。だが皆からの返事はない。余裕がない証拠だ。「そうは言うがダイナストン、これは厳しいぞ！」と返答したのはテム・ウェイデン伯爵。ダイナストンは「分かっている！」と声を荒らげた。

「だがなテム！ やらねばなるまいよ！」

　そう叫ぶとダイナストンはブスリとオークの腹に剣を突き刺した。

　縦に二台並び停車している馬車を守る四十名の兵士達。決して広い道ではないが、馬車は右側の建物に寄せる様に停車させており、前後と左側にだけ気を払えば良いというのはいくらか気が楽だ。とは言え厳しい状況である事に間違いはない。次々襲い来るオークは手にした巨大な得物を容赦なく振り回す。馬車に当たりでもしたら一撃で粉砕されてしまうだろう。

　テムはオークの振り下ろす大鎚ハンマーをひらりとかわすと「ベリックオ！ そっちはどうだ！」と馬車の後方に陣取る白壁はくへき騎士団ベリックオに状況を聞く。「何とか！」とベリックオの声だけが響いて来た。すると後方の馬車の扉が勢い良く開く。

「手が足りんだろう！ 私も出る！」

　そう声を張り上げながらドスンと馬車から降りるのはグレバン・デルン侯爵。手にした剣を抜くと鞘さやを馬車の中に放り投げた。

「グレバン様！？」
「危険です！ お戻りを！！」

　慌てて声を上げたダイナストンとテムであったが、グレバンは「案ずるな！ これでも南部貴族ぞ！」とその忠言を制した。

　頻繁ひんぱんに行われる国境付近での軍事演習や、数百人規模で潜伏しているなどと言われる諜報員の送り込みなど、隙あらば何かしら仕掛けてくる気の抜けない不気味な国であるセンドベル。そんな国と国境を接し、或あるいはその近くに領地を持つイオンザの南部貴族達は、その所領しょりょうの立地柄自分達を国防の要かなめの一つであると認識している。その為いざ有事の際には当主自ら戦場に立ち、前線で剣を振るう事も厭いとわない。勤つとめの為に南部を離れ王都で過ごしていたグレバンらであったが、南部貴族の誇りと役目は勿論忘れてはいない。

「今からそなたの麾下きかに入る！ 遠慮なく指示を出せ！」

　グレバンはベリックオの横に立つとパシンと彼の腰を叩いた。一瞬驚いた顔を見せたベリックオ。だがすぐにグレバンの意図を理解した。如何いかに勇猛を自負する南部貴族と言えども実戦から遠ざかっていたのは事実。自分が下手な指揮を取るよりも、ここは実戦経験豊富な騎士団長に任せた方が良いとグレバンは考えたのだ。

「然しからば侯爵、あまり前に出過ぎぬ様に……」

　グレバンを気遣うベリックオだったが、グレバンは「お前もそう言うか！」と怒鳴ると突如前方へと駆け出した。そして巨大な剣を横に振り抜こうと構えるオークへ強烈な斬り下ろし一閃。その右腕をスパッと斬り落とした。

「私よりも案じなければならん御方が前の馬車にいらっしゃる！ 殿下に何かあればジェスタ様に顔向け出来んぞ！」

　グレバンはそう怒鳴りながら、返す刀で残ったオークの左腕も斬り落とした。そして「この程度でビビっておったらメイリーに尻を蹴り上げられるわ！」と笑った。


　▽▽▽


　ビリビリと伝わるのは地を打ち付ける大鎚ハンマーの振動。ガチンガチガチと絶え間なく響く戦闘音。痛々しい兵達の悲鳴と怒号が耳に飛び込んで来る。その度に侍女はビクンと身体を揺らし、膝の上に重ねた両手を小刻みに震わせる。隣に座るセムリナは震える侍女の手にそっと触る。

「大丈夫よレーノ、大丈夫」

　そう言ってセムリナはニコッと笑う。レーノはグッと背筋を伸ばし、恐怖で強張こわばる顔を無理矢理笑顔に変え「……はい、殿下」と答えた。

　先頭の馬車にはセムリナと二人の侍女、そして側近のズマーが乗っていた。一体何が起きたのか、訳の分からない内に戦闘となった。ただじっと待っているしかない現状。焦燥しょうそう感が余計に恐怖を煽あおる。
　重苦しい空気に包まれた馬車の中でセムリナは気丈に振る舞っていた。だがすぐ向かいに座るズマーには分かっていた。彼女は随分と無理をしているという事が。「ふぅむ……」と声を漏らすとズマーは神妙な顔をする。

「このままでは……この馬車が我々の棺桶かんおけになってしまいますね」

　そんなズマーの言葉にレーノは再びビクリと身体を揺らし、もう一人の侍女セリーは「殿下……！」とすがる様な声を上げた。セムリナは「はぁぁ……」と深いため息を吐つき、ジトリとズマーを見ると「……嫌やな事言わないで」と一言。そして侍女二人に「大丈夫よ、いつものズマーの悪ふざけ。そんな事にはならないから安心なさい」と声を掛ける。

　全く不謹慎な。

　そう思い呆れるセムリナだったが、しかし同時にこんな状況下にあってもいつも通りの姿を見せるズマーを頼もしく思った。セムリナは理解している。今の笑えない冗談は自分の事を気遣ってくれたものだと。彼はいつも自分を気に掛けてくれている。だが優しい言葉は中々言わないひねくれ者だ。こんな時くらいは優しい言葉の一つくらい掛けてくれても良さそうなものだが……

（いやでも……それはそれで……）

　それはそれで調子が狂う。セムリナは睨む様にズマーを見る。ズマーは涼しい顔で馬車の外の様子を見ていた。「はぁ……」とセムリナは再びため息を一つ。全く、嫌な側近だ。だが気付けば随分と気が落ち着いていた。彼がいつも通り冷静でいるのならば、きっと今回も大丈夫だ。

「で、ズマー。この先どうするのが良さそうかしら。私としては宮殿を目指すべきだと思うのだけれど？」

　そう問い掛けるセムリナをじっと見つめるズマー。さすがに緊張感はあるものの、先程よりも大分だいぶ表情が柔らかい。「……うん」とズマーは納得した様に小さく声を漏らす。

「そうですね、王都の外へ脱出する選択もありますが……敵がどこにどの程度展開しているかも分かりませんし、それにこの場所からならば宮殿を目指す方が近いでしょう」

　ズマーの返答に「そう」と返すセムリナ。ズマーがそう言うのだ、恐らくそれが正しい。

「そうね。ジェスタの事も心配だし……」

　そう言いながらセムリナは馬車の外に目をやる。外では相変わらず激しい戦闘が続いている。

「まさかこんな北にまで……」

　ぽつりと呟いたセムリナの言葉を聞いて、ズマーは「おや、ご存じでしたか」と感心した。

「当然よ。私が何て呼ばれてるか知ってるでしょう？」

「人材マニア……でしたね。大方おおかた情報通のニベット辺りにでも聞きましたか？」

「ご名答。彼が言うにはオークの襲撃事件は大陸のあちこちで起きているとか。しかも連中は街中に湧いて出るんだなんて……眉唾まゆつばじゃないのって思ってたわ」

「ええ、私もそう思っておりました。ですが事実の様ですね。これだけ目立つ連中の進軍など気付かない訳がありません。何なら王都へ入る前に私達が遭遇していたでしょう。ですがこうなると……」

　そこまで話すとズマーは急に言い淀よどんだ。無理に王都を目指すべきではなかったと、そう言い掛けたが止めた。ジェスタルゲイン殿下の身を案じる主あるじの気持ちを否定してしまう様な発言となってしまいそうだったからだ。

　そもそも何故なぜ彼らは西側の誘黒の門を通らず北側から王都に入ったのか。それにはブロン・ダ・バセルのジェスタルゲイン襲撃が絡んでいた。ダグベ国内には未いまだ傭兵達の残党が潜伏しており、特に西から南に掛けての街道付近は危険度が高いという情報がグレバンの下もとに寄せられていたのだ。実際には傭兵達はすでにその殆ほとんどが排除されていたのだが、グレバンらにそこまでの事実を知る術すべはなかった。安全を考慮し出立しゅったつを遅らせてはどうかとの意見もあったのだが、一刻も早くジェスタルゲインの顔を見たいというセムリナの意向と、早急に対ヴォーガンの体制を整えたいと考えるグレバンの思惑が合致がっち。結局は細心の注意を払いながら、且かつ最速で王都を目指すべく北側の街道を進む決断をしたのだった。

「……こうなると、何？」

　一向に口を開かないズマーに、セムリナは話の続きを促うながす。ズマーは「いえ……西大通りに進むのが宜よろしいかと」と取り繕つくろう様に言った。

「あの通りは大きく北側に曲がっています。そして確か宮殿の前辺りに出るはず……少し遠回りになりますが、この辺の狭い道を通るより安全かと思われます」

　ズマーの献策けんさくに少しの間を置き考えるセムリナ。「良いわ、そうしましょう」と承諾しょうだくした。ズマーがそう言うのなら、恐らくそれが正しい。