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4章 ドワーフの兵器編 第1部 欺瞞の魔女
225. 斯くして魔女は邪悪に笑う 10
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「して数は?」
「西から三百! 南西から二百! すでに国境は越えた模様!」
「五百……多くはないな、先遣隊か。狙いはやはりガントの鉄か?」
「であろうな。小隊規模の部隊が度々目撃されておる。周辺の調査でもしていたのだろうが……他にも鉄鉱脈を見つけたか」
「マーデイ領は小さい。領兵は少ないぞ?」
「すでに近領からの援軍は出ておるのだろう? ならば現地に任せれば良い」
「しかしリッカブラン卿も災難だな。金のなる木を見つけたと喜んでいたようだが、実がなる前に刈り取られるぞ?」
「ハハハッ、然りだ!」
昼。西のセンドベル王国が侵攻を始めた。そんな一報が越境を許したマーデイ領より王都マンヴェントへ届く。一報を聞いた国王リドーはすぐに対応策を講じるよう軍に指示を出した。が、ダグベ軍参謀本部は緩い空気に包まれていた。
「何を悠長に笑っておいでか!!」
だがそんな空気を切り裂く様に怒鳴りを上げた者がいた。デルカルだ。
「今この時にも国土が削り取られようとしているのですぞ! すぐにでも動かねば……」
「賢しいわデルカルゥ!!」
しかしデルカルの気炎に満ちた言葉はしゃがれた声にかき消された。軍の象徴たる将軍不在の今、万事を取り仕切るのは彼ら声の主である古参の老将達だった。
「そんな事を我らが理解しておらんとでも思っておるのか! 動きたくても動けぬ、それが実情だ!」
「軍に援軍要請を出された所で一体どこから兵を絞り出す? 祈祷でもすれば湧いて出てくるのか? 人員は常に足りんのだ、無い袖は振れん」
「勘違いをするなデルカル。そなたに力があるのではない、ゴートに力があったのだ……いや、わしらが持たせた。目を掛けてやっとったというのに、白衣如きに騙くらされおって情けのない……」
「そも、マーデイ程度の辺境の小さき土地、己の力だけで守りきれぬリッカブラン家に問題があるのだ。その程度の器量も持っておらんとは……」
「とにかく、そなたの様な補佐官風情の出る幕はないわ。隅でじっとしとれ」
そこまで話すと老将達はすぐにデルカルへの興味を失う。そして再び談笑を始めた。
(ここまで腐っていたとは……)
デルカルは強く奥歯を噛み締めると無言で参謀室を出た。
(どうする……逸そ勝手に動くか……? いやしかし……)
当てもなく廊下を歩きながらデルカルは考えた。動く事に迷いはない。それは正しい事だ。だが自分に賛同する者が果たしてどれ程いるだろうか。補佐官風情の自分にだ。そして現実問題としてのし掛かる人員不足。どこから兵を引っ張るか……
「デルカル!」
不意に名を呼ばれた。気付くとそこは基地のエントランスだった。そして目の前にはマベットが立っていた。
「殿下……」
「軍議はどうか? 増援は如何程…………何があった?」
兵の数が足りないのは理解していた。果たしてどれ程の部隊を派兵出来るのか。マベットは軍の決断が気になり基地を訪れたのだ。そして見掛けたデルカルの様子は明らかにおかしかった。何かあったと、そう直感した。デルカルは伏し目がちに吐き捨てる様に説明する。
「年寄りの茶飲み話を軍議と申すのであれば、今まさにその真っ最中に……」
「辛辣だな、そなたがそこまで言うとは……もしや古狸共は日和見を決め込む腹か?」
「人員不足は承知の上です。しかし無い袖は振れんなどと突き放されては、リッカブラン伯爵も堪らない……」
「ふむ、やはり将軍がおらぬ影響は大きいか……しかしスマド家も舐められたものだな、陛下や私を丸め込めると本気で思っているのか……まぁその考えに至る理屈は分かる。連中が若かった頃は四方を敵に囲まれていてな、国の援軍など当てにならん様な状況は珍しくなかったそうだ。貴族達は己の力と才覚だけで自領を守っていた、その時代を知っておるのだ」
「ですが今は……」
「ああ、時代は変わった。自領の危機に軍を寄越さぬ国に対し義理立てする必要などありはしない。リッカブラン家は最悪、ダグベとセンドベルを天秤に掛けるぞ。ダグベが軽いと判断したら向こうに寝返るであろうな。領民を守る為なら当然だ、私が領主であってもそうするわ」
マベットは呆れながらそう話すと、ふんと鼻で笑う様に息を吐いた。
「さて、愚痴はこの辺りにしておこう。無い袖をどうにか振らねばならん。デルカルよ、至急この状況を打破し得る気概を持つ者らを集めよ。心当たりはあるか?」
「……は。しかし、皆私と同じ若輩ですが……」
「身分、階級は問わん、給仕係でも構わんぞ。狸共にその気がないのなら我らでやるのみ。年寄りにはそのまま茶でも啜っててもらう」
「はっ!」
「デルカルよ、今暫く待っておれ。私が王位に就いた暁には軍の風通しを良くすると約束する。来るその時の為にまずはこの状況を利用するのだ」
「利用……とは?」
「武功を立てよ。年寄り共が口を挟めぬくらいのな」
「では……私は出陣を?」
「無論だ。士官学校時代の成績を調べさせてもらった。優秀だった様だな、特に戦術理解度や部隊指揮の評価が高い。ゴートもそこに目を付け側に置いたのだろう。学ばせる為だ、色々とな。それら全てを吐き出せ。出来るな?」
「……はっ! あの……陛下には何と……?」
「む…………」
マベットは暫し腕を組み考える。そして静かにこう言った。
「まぁ…………事後で良いだろう……」
□□□
「ハッハァ! 事後で良いとは、言いよるな王よ? そんな事話しとったんか」
リドー公はまるで子供の様に笑いながら声を上げた。国主である自身への報告や相談を蔑ろにされていたのにだ。いや、十年越しに聞いた事実、今更怒ってもしょうがないという思いもあるのだろうが。
「は、申し訳ございませぬ。若気の至りとお許しを……しかし父上に訴え軍に話を通した所で、連中は出来ぬ理由を並べるだけで動こうとはしなかったでしょう。何よりも時間が惜しい状況でしたので……」
「良い良い、もう時効ぞ。結果、そなたら若い者らの独断専行によりマーデイ領は救われた。わしも良く良く甘いわな、あのまま軍部のジジィ共に任せておったらどうなっとったか……時代っちゅうのは若い者らが作るもんだ。年寄りがそれを邪魔しちゃいかん。静かに見守り請われた時にちょちょいと助言するくらいで丁度良い、それこそ茶でも啜りながらな」
そう話すとリドー公はカップを手に取りずず……と茶を啜る。そんなリドー公の様子を見てデルカルはくすりと笑い、そして話の続きをする。
「リドー様の寛大なお心にも助けられ、私はマベット様の指示の下すぐに同志を集めた。同期であったり歳や考え方の近しい者を十人程。理由を説明するとすると皆一様に軍に対して怒りと不満を口にし――」
□□□
夕刻。マベットが軍基地内の会議室に入ると、そこにはすでにデルカルの呼び掛けに応えた若い軍人達が揃っていた。彼らの顔を見回すマベット。熱を帯びた様な彼らの力強い目を見てマベットは確信する、きっと上手くゆくと。
「済まんな諸君、話はデルカルより聞いたと思うが――」
~~~
「――という訳だ。本来なら諸君らが何者なのか、名や所属を一人ずつ聞きたい所だが何しろ時間がない。諸君らの人となりは分からんが、私はデルカルを信頼している。そして諸君らはそんなデルカルが信頼を寄せ声を掛けた者達だ。依って私は無条件に諸君らを信頼するものとする。さて本題に移ろう。私は年寄り共の様にマーデイを失っても良いとは考えていない。増援を送る、兵が必要だ。どうやって捻り出すか、知恵を貸してくれ」
すると軍人の一人が「宜しいでしょうか、殿下」と手を挙げた。「何だ?」とマベットは問う。
「お話しは理解致しました。私達も殿下と同じ気持ちであります。ですが悔しいかな、私達の階級は決して高くありません。ここで話し合われる案の実現には、高位のお方のお言葉添えが必要となります。そこは殿下を……当てにさせて頂いて宜しいという認識で構いませぬか……?」
マベットはニヤリと笑うと「無論だ」と答えた。
「残念ながら私は軍内部の事情には明るくない。故に私は口を出さぬ。増援部隊の編成は全て諸君らに任せるつもりだ。しかしそなたの申す通り、編成案には後ろ盾が必要となるだろう。依って私は口を出さぬ代わりに王太子の肩書きを出す。足りぬのならば陛下のご威光も借り受けよう。諸君らの考える編成案を実現させる為に私がいるのだ。ハッキリと言うぞ、ケツは持つ。存分に意見を出せ」
「ならば、まずは非番の兵と予備兵の召集だ」
「それは無論。だが全然足りないぞ?」
「前戦からは? 北と東だ」
「どちらも数はギリギリと聞く。何より時間が掛かる」
「だが召集を掛ける意味はあるぞ、万一長引く事があれば更に増援が……」
「待て待て、糧秣の確保も同時に考えねば。王都の備蓄がどれだけあるか……」
マベットの言葉を皮切りに、堰を切った様に活発な議論が始まった。そんな彼らの様子を見てマベットは思った。
(大丈夫だ……我がダグベ軍はまだまだ大丈夫だ!)
◇◇◇
「マベット殿下がお見えになりました」
「ほう……良いぞ、通せ」
夜。部屋の中から響く入室を許可する声。警備の近衛兵は扉を開けると脇に避け敬礼する。入室したマベットの視線の先には、ソファーに腰を下ろしグラスを片手に書類を眺めている国王の姿。マベットは父、リドーの寝室を訪れていた。国王リドーの協力と許可を貰わねばならない事案があったからだ。
「失礼致します、夜分に申し訳ございません」
「構わんよ。して、何用か?」
リドーはマベットに自身の向かいに座るよう右手を前に向けた。しかしマベットは「いえ、急ぎ戻らねばなりませんので」と答え立ったまま話し出す。
「いくつかお願いしたき儀がございまして罷り越しました」
「何じゃ、堅っ苦しいな。今日の政務は終わっとる、楽に話せ」
「では父上……こちらの書簡に署名をお願いしたく……」
そう話しながらマベットは手にしていた数枚の書簡をリドーに手渡した。受け取ったリドーはその内の一枚に目を通す。すると途端にその表情が変わった。「出せるのか……?」と問い掛けるリドーに、マベットは「出します。只今その為の準備を……」と答える。
「軍は出せぬの一点張りだったぞ」
「でしょうな。何も考えてはいないのですよ。あれら年寄り共は考えるという行為すら放棄しているのです」
「どこから兵を?」
「第三大隊を中心に……」
「ほう……思い切ったな。ではマンヴェントの警備はどうする?」
「そちらに関しましては、こちらの書簡をご確認下さい」
マベットは懐からもう一枚別の書簡を取り出す。その書簡を読んだリドーは「むう……なるほど、考えたな……」と唸る様に感心した。
「実習の体で士官学校を動かすか……悪くない。だがさすがに生徒らだけでは無理がある」
「仰る通りに。そこで父上、暫しの間近衛隊の指揮権をお借りしたいのですが?」
近衛隊を貸せ。マベットの要求に一瞬ポカンとした表情を見せるリドー。近衛隊は王を守る盾である。彼らは常に王の周りに侍り、王の身辺警護及び城の警備を行う武装集団である。当然その指揮権は王が握っており、余程の事がなければその指揮権を他者に委ねるなどあり得ない。因みにその余程と思える事態の殆どは王の退位である。
突飛とも思えるマベットの提案。呆気に取られたリドーだったが、しかしすぐにその意図を理解し「ハッハァ!」と声を上げて笑った。
「そうか……そうかそうか! 良くぞ考えたものだ。やるではないか、んん?」
「お褒めに預かり光栄に……と申し上げたい所ですが、これは私が考えた事ではございません。動く気配を見せない年寄り共に業を煮やした軍の若手達が絞り出した編成案です」
「何と……これを若い者らが?」
「左様に。私は彼らの案を実現させる為に走り回る小間使いに過ぎません」
「そうか。ゴートがおらぬでどうかと思っとったが……若い者らも育っておるか……」
そう話しながらリドーは全ての書簡にサラサラとサインをする。そしてそれらの書簡をマベットに返すと「全てそなたらに任せる」と編成案の全てを容認した。
「精査されないので?」
「すでにそなたがしておる。実現可能であると、そう判断した故ここに来た。そうであろう? しかし、本当に良く考えたものだ……軍部のジジィ共には思いも付かぬであろうな」
「これを機にあの年寄り共には隠居でもしてもらいたいものですな」
デルカルら若い軍人達が考えた編成案、概要はこうだ。
前戦である北の対イオンザ、東の対原住民族の部隊から兵を召集するには厳しいものがある。どちらもギリギリの数で部隊を駐留させているからだ。仮に召集が可能であっても王都への到着には恐らく最短でも五日は掛かる。すでにセンドベルの侵攻を許している現状ではそのタイムロスは致命的だ。因みに南方方面は少数部隊が点在しており伝令を送るにも時間が掛かる。故に即派兵するのであれば王都周辺から兵を集めなければならない。そして王都周辺で展開している大部隊は第三大隊しかないのだ。
第三大隊は王都マンヴェントとその周辺の警備を主な任務としている所謂衛兵隊である。その数凡そ五百。一先ず増援としては適当な数だろう。しかしそうすると、王都の治安維持はどうするのかという問題が持ち上がる。そこで士官学校の生徒達に実習と称して王都の警備を任せる事にする。更に監督役として近衛隊凡そ百名を生徒達と共に警備に就かせるという内容だ。
そしてマベットが最初にリドーへ見せた数枚の書簡は全て同じものである。それには王都からの増援部隊が立ち寄るであろう土地を治める貴族宛に、余剰兵と物資の提供を求める内容が記されていた。これを早馬で先に貴族達に届けておけば、増援部隊到着の折りにはスムーズに事を運べるだろう。
「セドリック! おるか!」
リドーは部屋の外へ呼び掛けた。するとすぐに一人の近衛兵が部屋へ入ってきた。近衛隊隊長のセドリックだ。
「只今より暫しの間、そなたら近衛隊の指揮権をマベットに譲る。マベットの言はわしの言であると心得よ。良いな?」
突然の事にも拘わらずセドリックは表情一つ変えず「はっ」と答えた。マベットは「済まんな、後程詳細を説明する。外で待っていてくれ」とセドリックの肩を叩く。セドリックは再び「はっ」と答えると敬礼して部屋を出た。
「さて、増援部隊だが……誰が指揮する? よもやそなたが行くとは言わぬな?」
リドーの質問にマベットは苦笑いしながら「私が行っても役には立ちません、デルカルに任せます」と答える。
「デルカル……?」
心当たりのなさそうなリドー。マベットは「ゴートの補佐官だった男です。優秀ですよ」と説明する。
「そうか。ならば出陣の前にそのデルカルをつれて参れ。マーデイを頼むと、直接伝えたい」
「畏まりました」
「ああ、それと……」
「は」
「近衛兵だが、城の警備にいくらかは残しておいてくれ。さすがに丸裸では心許ないでな」
「は。無論、配慮致します」
「西から三百! 南西から二百! すでに国境は越えた模様!」
「五百……多くはないな、先遣隊か。狙いはやはりガントの鉄か?」
「であろうな。小隊規模の部隊が度々目撃されておる。周辺の調査でもしていたのだろうが……他にも鉄鉱脈を見つけたか」
「マーデイ領は小さい。領兵は少ないぞ?」
「すでに近領からの援軍は出ておるのだろう? ならば現地に任せれば良い」
「しかしリッカブラン卿も災難だな。金のなる木を見つけたと喜んでいたようだが、実がなる前に刈り取られるぞ?」
「ハハハッ、然りだ!」
昼。西のセンドベル王国が侵攻を始めた。そんな一報が越境を許したマーデイ領より王都マンヴェントへ届く。一報を聞いた国王リドーはすぐに対応策を講じるよう軍に指示を出した。が、ダグベ軍参謀本部は緩い空気に包まれていた。
「何を悠長に笑っておいでか!!」
だがそんな空気を切り裂く様に怒鳴りを上げた者がいた。デルカルだ。
「今この時にも国土が削り取られようとしているのですぞ! すぐにでも動かねば……」
「賢しいわデルカルゥ!!」
しかしデルカルの気炎に満ちた言葉はしゃがれた声にかき消された。軍の象徴たる将軍不在の今、万事を取り仕切るのは彼ら声の主である古参の老将達だった。
「そんな事を我らが理解しておらんとでも思っておるのか! 動きたくても動けぬ、それが実情だ!」
「軍に援軍要請を出された所で一体どこから兵を絞り出す? 祈祷でもすれば湧いて出てくるのか? 人員は常に足りんのだ、無い袖は振れん」
「勘違いをするなデルカル。そなたに力があるのではない、ゴートに力があったのだ……いや、わしらが持たせた。目を掛けてやっとったというのに、白衣如きに騙くらされおって情けのない……」
「そも、マーデイ程度の辺境の小さき土地、己の力だけで守りきれぬリッカブラン家に問題があるのだ。その程度の器量も持っておらんとは……」
「とにかく、そなたの様な補佐官風情の出る幕はないわ。隅でじっとしとれ」
そこまで話すと老将達はすぐにデルカルへの興味を失う。そして再び談笑を始めた。
(ここまで腐っていたとは……)
デルカルは強く奥歯を噛み締めると無言で参謀室を出た。
(どうする……逸そ勝手に動くか……? いやしかし……)
当てもなく廊下を歩きながらデルカルは考えた。動く事に迷いはない。それは正しい事だ。だが自分に賛同する者が果たしてどれ程いるだろうか。補佐官風情の自分にだ。そして現実問題としてのし掛かる人員不足。どこから兵を引っ張るか……
「デルカル!」
不意に名を呼ばれた。気付くとそこは基地のエントランスだった。そして目の前にはマベットが立っていた。
「殿下……」
「軍議はどうか? 増援は如何程…………何があった?」
兵の数が足りないのは理解していた。果たしてどれ程の部隊を派兵出来るのか。マベットは軍の決断が気になり基地を訪れたのだ。そして見掛けたデルカルの様子は明らかにおかしかった。何かあったと、そう直感した。デルカルは伏し目がちに吐き捨てる様に説明する。
「年寄りの茶飲み話を軍議と申すのであれば、今まさにその真っ最中に……」
「辛辣だな、そなたがそこまで言うとは……もしや古狸共は日和見を決め込む腹か?」
「人員不足は承知の上です。しかし無い袖は振れんなどと突き放されては、リッカブラン伯爵も堪らない……」
「ふむ、やはり将軍がおらぬ影響は大きいか……しかしスマド家も舐められたものだな、陛下や私を丸め込めると本気で思っているのか……まぁその考えに至る理屈は分かる。連中が若かった頃は四方を敵に囲まれていてな、国の援軍など当てにならん様な状況は珍しくなかったそうだ。貴族達は己の力と才覚だけで自領を守っていた、その時代を知っておるのだ」
「ですが今は……」
「ああ、時代は変わった。自領の危機に軍を寄越さぬ国に対し義理立てする必要などありはしない。リッカブラン家は最悪、ダグベとセンドベルを天秤に掛けるぞ。ダグベが軽いと判断したら向こうに寝返るであろうな。領民を守る為なら当然だ、私が領主であってもそうするわ」
マベットは呆れながらそう話すと、ふんと鼻で笑う様に息を吐いた。
「さて、愚痴はこの辺りにしておこう。無い袖をどうにか振らねばならん。デルカルよ、至急この状況を打破し得る気概を持つ者らを集めよ。心当たりはあるか?」
「……は。しかし、皆私と同じ若輩ですが……」
「身分、階級は問わん、給仕係でも構わんぞ。狸共にその気がないのなら我らでやるのみ。年寄りにはそのまま茶でも啜っててもらう」
「はっ!」
「デルカルよ、今暫く待っておれ。私が王位に就いた暁には軍の風通しを良くすると約束する。来るその時の為にまずはこの状況を利用するのだ」
「利用……とは?」
「武功を立てよ。年寄り共が口を挟めぬくらいのな」
「では……私は出陣を?」
「無論だ。士官学校時代の成績を調べさせてもらった。優秀だった様だな、特に戦術理解度や部隊指揮の評価が高い。ゴートもそこに目を付け側に置いたのだろう。学ばせる為だ、色々とな。それら全てを吐き出せ。出来るな?」
「……はっ! あの……陛下には何と……?」
「む…………」
マベットは暫し腕を組み考える。そして静かにこう言った。
「まぁ…………事後で良いだろう……」
□□□
「ハッハァ! 事後で良いとは、言いよるな王よ? そんな事話しとったんか」
リドー公はまるで子供の様に笑いながら声を上げた。国主である自身への報告や相談を蔑ろにされていたのにだ。いや、十年越しに聞いた事実、今更怒ってもしょうがないという思いもあるのだろうが。
「は、申し訳ございませぬ。若気の至りとお許しを……しかし父上に訴え軍に話を通した所で、連中は出来ぬ理由を並べるだけで動こうとはしなかったでしょう。何よりも時間が惜しい状況でしたので……」
「良い良い、もう時効ぞ。結果、そなたら若い者らの独断専行によりマーデイ領は救われた。わしも良く良く甘いわな、あのまま軍部のジジィ共に任せておったらどうなっとったか……時代っちゅうのは若い者らが作るもんだ。年寄りがそれを邪魔しちゃいかん。静かに見守り請われた時にちょちょいと助言するくらいで丁度良い、それこそ茶でも啜りながらな」
そう話すとリドー公はカップを手に取りずず……と茶を啜る。そんなリドー公の様子を見てデルカルはくすりと笑い、そして話の続きをする。
「リドー様の寛大なお心にも助けられ、私はマベット様の指示の下すぐに同志を集めた。同期であったり歳や考え方の近しい者を十人程。理由を説明するとすると皆一様に軍に対して怒りと不満を口にし――」
□□□
夕刻。マベットが軍基地内の会議室に入ると、そこにはすでにデルカルの呼び掛けに応えた若い軍人達が揃っていた。彼らの顔を見回すマベット。熱を帯びた様な彼らの力強い目を見てマベットは確信する、きっと上手くゆくと。
「済まんな諸君、話はデルカルより聞いたと思うが――」
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「――という訳だ。本来なら諸君らが何者なのか、名や所属を一人ずつ聞きたい所だが何しろ時間がない。諸君らの人となりは分からんが、私はデルカルを信頼している。そして諸君らはそんなデルカルが信頼を寄せ声を掛けた者達だ。依って私は無条件に諸君らを信頼するものとする。さて本題に移ろう。私は年寄り共の様にマーデイを失っても良いとは考えていない。増援を送る、兵が必要だ。どうやって捻り出すか、知恵を貸してくれ」
すると軍人の一人が「宜しいでしょうか、殿下」と手を挙げた。「何だ?」とマベットは問う。
「お話しは理解致しました。私達も殿下と同じ気持ちであります。ですが悔しいかな、私達の階級は決して高くありません。ここで話し合われる案の実現には、高位のお方のお言葉添えが必要となります。そこは殿下を……当てにさせて頂いて宜しいという認識で構いませぬか……?」
マベットはニヤリと笑うと「無論だ」と答えた。
「残念ながら私は軍内部の事情には明るくない。故に私は口を出さぬ。増援部隊の編成は全て諸君らに任せるつもりだ。しかしそなたの申す通り、編成案には後ろ盾が必要となるだろう。依って私は口を出さぬ代わりに王太子の肩書きを出す。足りぬのならば陛下のご威光も借り受けよう。諸君らの考える編成案を実現させる為に私がいるのだ。ハッキリと言うぞ、ケツは持つ。存分に意見を出せ」
「ならば、まずは非番の兵と予備兵の召集だ」
「それは無論。だが全然足りないぞ?」
「前戦からは? 北と東だ」
「どちらも数はギリギリと聞く。何より時間が掛かる」
「だが召集を掛ける意味はあるぞ、万一長引く事があれば更に増援が……」
「待て待て、糧秣の確保も同時に考えねば。王都の備蓄がどれだけあるか……」
マベットの言葉を皮切りに、堰を切った様に活発な議論が始まった。そんな彼らの様子を見てマベットは思った。
(大丈夫だ……我がダグベ軍はまだまだ大丈夫だ!)
◇◇◇
「マベット殿下がお見えになりました」
「ほう……良いぞ、通せ」
夜。部屋の中から響く入室を許可する声。警備の近衛兵は扉を開けると脇に避け敬礼する。入室したマベットの視線の先には、ソファーに腰を下ろしグラスを片手に書類を眺めている国王の姿。マベットは父、リドーの寝室を訪れていた。国王リドーの協力と許可を貰わねばならない事案があったからだ。
「失礼致します、夜分に申し訳ございません」
「構わんよ。して、何用か?」
リドーはマベットに自身の向かいに座るよう右手を前に向けた。しかしマベットは「いえ、急ぎ戻らねばなりませんので」と答え立ったまま話し出す。
「いくつかお願いしたき儀がございまして罷り越しました」
「何じゃ、堅っ苦しいな。今日の政務は終わっとる、楽に話せ」
「では父上……こちらの書簡に署名をお願いしたく……」
そう話しながらマベットは手にしていた数枚の書簡をリドーに手渡した。受け取ったリドーはその内の一枚に目を通す。すると途端にその表情が変わった。「出せるのか……?」と問い掛けるリドーに、マベットは「出します。只今その為の準備を……」と答える。
「軍は出せぬの一点張りだったぞ」
「でしょうな。何も考えてはいないのですよ。あれら年寄り共は考えるという行為すら放棄しているのです」
「どこから兵を?」
「第三大隊を中心に……」
「ほう……思い切ったな。ではマンヴェントの警備はどうする?」
「そちらに関しましては、こちらの書簡をご確認下さい」
マベットは懐からもう一枚別の書簡を取り出す。その書簡を読んだリドーは「むう……なるほど、考えたな……」と唸る様に感心した。
「実習の体で士官学校を動かすか……悪くない。だがさすがに生徒らだけでは無理がある」
「仰る通りに。そこで父上、暫しの間近衛隊の指揮権をお借りしたいのですが?」
近衛隊を貸せ。マベットの要求に一瞬ポカンとした表情を見せるリドー。近衛隊は王を守る盾である。彼らは常に王の周りに侍り、王の身辺警護及び城の警備を行う武装集団である。当然その指揮権は王が握っており、余程の事がなければその指揮権を他者に委ねるなどあり得ない。因みにその余程と思える事態の殆どは王の退位である。
突飛とも思えるマベットの提案。呆気に取られたリドーだったが、しかしすぐにその意図を理解し「ハッハァ!」と声を上げて笑った。
「そうか……そうかそうか! 良くぞ考えたものだ。やるではないか、んん?」
「お褒めに預かり光栄に……と申し上げたい所ですが、これは私が考えた事ではございません。動く気配を見せない年寄り共に業を煮やした軍の若手達が絞り出した編成案です」
「何と……これを若い者らが?」
「左様に。私は彼らの案を実現させる為に走り回る小間使いに過ぎません」
「そうか。ゴートがおらぬでどうかと思っとったが……若い者らも育っておるか……」
そう話しながらリドーは全ての書簡にサラサラとサインをする。そしてそれらの書簡をマベットに返すと「全てそなたらに任せる」と編成案の全てを容認した。
「精査されないので?」
「すでにそなたがしておる。実現可能であると、そう判断した故ここに来た。そうであろう? しかし、本当に良く考えたものだ……軍部のジジィ共には思いも付かぬであろうな」
「これを機にあの年寄り共には隠居でもしてもらいたいものですな」
デルカルら若い軍人達が考えた編成案、概要はこうだ。
前戦である北の対イオンザ、東の対原住民族の部隊から兵を召集するには厳しいものがある。どちらもギリギリの数で部隊を駐留させているからだ。仮に召集が可能であっても王都への到着には恐らく最短でも五日は掛かる。すでにセンドベルの侵攻を許している現状ではそのタイムロスは致命的だ。因みに南方方面は少数部隊が点在しており伝令を送るにも時間が掛かる。故に即派兵するのであれば王都周辺から兵を集めなければならない。そして王都周辺で展開している大部隊は第三大隊しかないのだ。
第三大隊は王都マンヴェントとその周辺の警備を主な任務としている所謂衛兵隊である。その数凡そ五百。一先ず増援としては適当な数だろう。しかしそうすると、王都の治安維持はどうするのかという問題が持ち上がる。そこで士官学校の生徒達に実習と称して王都の警備を任せる事にする。更に監督役として近衛隊凡そ百名を生徒達と共に警備に就かせるという内容だ。
そしてマベットが最初にリドーへ見せた数枚の書簡は全て同じものである。それには王都からの増援部隊が立ち寄るであろう土地を治める貴族宛に、余剰兵と物資の提供を求める内容が記されていた。これを早馬で先に貴族達に届けておけば、増援部隊到着の折りにはスムーズに事を運べるだろう。
「セドリック! おるか!」
リドーは部屋の外へ呼び掛けた。するとすぐに一人の近衛兵が部屋へ入ってきた。近衛隊隊長のセドリックだ。
「只今より暫しの間、そなたら近衛隊の指揮権をマベットに譲る。マベットの言はわしの言であると心得よ。良いな?」
突然の事にも拘わらずセドリックは表情一つ変えず「はっ」と答えた。マベットは「済まんな、後程詳細を説明する。外で待っていてくれ」とセドリックの肩を叩く。セドリックは再び「はっ」と答えると敬礼して部屋を出た。
「さて、増援部隊だが……誰が指揮する? よもやそなたが行くとは言わぬな?」
リドーの質問にマベットは苦笑いしながら「私が行っても役には立ちません、デルカルに任せます」と答える。
「デルカル……?」
心当たりのなさそうなリドー。マベットは「ゴートの補佐官だった男です。優秀ですよ」と説明する。
「そうか。ならば出陣の前にそのデルカルをつれて参れ。マーデイを頼むと、直接伝えたい」
「畏まりました」
「ああ、それと……」
「は」
「近衛兵だが、城の警備にいくらかは残しておいてくれ。さすがに丸裸では心許ないでな」
「は。無論、配慮致します」
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リョーホは過酷な異世界から日本へ帰るべく、狩人となってドラゴンとの戦いに身を投じていく。なんの能力も持たないと思われていたリョーホだったが、実は本人も知らぬうちにとてつもない秘密を抱えていた。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
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太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
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お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
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〈念の為〉
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愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
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