流浪の魔導師

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3章 裏切りのジョーカー編 第3部 傭兵の王

174. 怒号

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「これはこれは、皆さんお揃いで。こんな東まで団体旅行とは呑気のんきなものだ……」

 ゼルの前に馬を止め笑いながら軽口を叩くアイロウ。その言葉にはたっぷりの皮肉も込められていたが、事情を知らないゼル達には伝わっていない。一方隣のベルナディは緊張した面持おももちだ。それはそうだろう。例えばこちらを睨み付けているホルツが次の瞬間にも、曲刀を振り上げ斬り掛かって来たとしても何らおかしくはない。ジョーカーが誇る実力者達が敵として目の前に勢揃いしているのだ、緊張して当然。いくらアイロウがいるとはいえ、これだけの面子めんつ相手に乱戦になって生き残る自信はない。

(クソッ! 怯むな!)

 ベルナディは飲まれない様、グッと全身に力を入れた。そんなベルナディの様子に気付いたゼルは軽く笑い、そして視線をアイロウへ移す。

「久々じゃねぇか、アイロウ。エクスウェルと最後の会談をした時以来だな。で、野郎はどこだ?」

「…………」

 しかし無言のアイロウ。「何だぁ? おいアイロウ、聞こえてるかぁ?」とゼルは問い掛ける。するとようやくアイロウは重そうに口を開いた。

「……ゼルさん、プルームまで案内します。ラテールと話して下さい」

「はぁ? 何を言ってやがる、全く意味が……」

 するとアイロウはゼルの言葉をさえぎる様に「ベルナディ」とかたわらのベルナディに呼び掛け、「皆をプルームまで案内してやれ」と指示を出した。「はぁぁ!?」と声を上げ驚くベルナディ。

「ちょい待てよマスター! 俺はあんたと一緒に……」

「ベルナディ! 俺の戦いは俺だけのものだ! 露払いも共闘者も必要ない」

「いや、だからって……」

「聞き分けろ」

 ジロリ、とアイロウはベルナディを睨む。「……クソッ」と吐き捨てるベルナディ。当然納得などしていない。しかし致し方なし、こうなってしまってはもはやアイロウは譲らないだろう。そしてそんな二人のやり取りを見ていたゼル。当然いぶかしがる。

(プルームに案内だぁ? 何なんだ一体……普通に考えりゃあ罠だろうが……このに及んでそんな手を打つか?)

 やはりおかしい。プルームで何かあったのではないか、ゼルはそう考えた。「エクスウェルはどうした?」と問い掛けるゼルに対し「それも含めてラテールが話します」と答えるアイロウ。

「随分ともったいつけるじゃねぇかよ……何があった?」

「まぁ行けば分かりますよ。警戒は解いて結構です、この先……」

 言い淀むアイロウ。事実は受け入れた。状況も把握した。しかし言葉が続かない。どこかでエクスウェルの死を認めていない自分がいるのだ。「ふぅぅ……」と息を吐き、意を決してアイロウは言葉を絞り出す。

「この先、戦闘には……なりませんから」

「はぁ? 益々意味が分からねぇな、降伏でもするつもりかぁ?」

 一瞬の間。「ま、それはそれとして……」と言葉を濁すアイロウ。「片付けなければならない事があるので……」と話ながら視線をゼルからその後方へと移す。



「魔導師ぃぃぃ!! 出てこいぃぃぃ!!」



 辺り中に響き渡る大きな怒鳴り声。と同時にドン! と何かがゼル達の身体にぶつかった。分厚い空気の層でも体当たりしてきたかの様な衝撃。皆のまたがっている馬が一斉に落ち着きを失い、たたら・・・を踏むようにその場で足踏みをする。

 魔力だ。

 アイロウは声と一緒に周囲に魔力を放出したのだ。相手を威圧するには古典的ではあるが効果的な手段。しかしリザーブル戦の折り、アルマドの陣幕内でそれ以上の魔力の圧を経験しているライエは、鼻で笑う様に言い放った。

「全然だね、コウのやつの方が凄かったよ」

 眉間にシワを寄せ「チッ……」と舌打ちするのはブロス。アイロウが周囲に撒き散らした魔力は大した量ではない。しかしそれでも、他人から魔力をぶつけられるというのは充分不快な行為だ。

「おい、おっかねぇのがおっかねぇ顔して呼んでるぜ」

 軽く後ろを向きながらしかめっ面のブロスが呼び掛ける。まるで、面倒だから早く前に出ろ、とでも言わんばかりだ。

「聞こえてるよ」

 そう答えると俺は馬を前に進める。「あいつぁ強ぇぞ?」と不敵な笑みを浮かべ、ゼルはアイロウを挑発する。そんなゼルをギッ、と睨み「分かってますよ」と答えるアイロウ。

「やられっぱなしという訳にはいきません、分かるでしょう? しかし……実に良いカードを手に入れたものですね。お陰でこっちは計画もプライドも……」

 ギロリ、と今度は視線を前に向ける。

「ズタボロだ……!」

 アイロウは俺を睨みながら言葉を吐き捨てる。その様子からは相当な怒りや恨みの念がこもっているのが良く分かる。ピリピリとした空気が肌に伝わってくる様だ。魔力ではない。プレッシャー、強者の圧だ。チラリと俺の腕を見るアイロウ。

「何だ……くっついたのか、腕」

「……お陰様でね」

「次は残った右腕を切り落としてしまいだと思っていたんだが……また最初からか。面倒な……」

「何だ、案外頭悪いんだな。部下に助けてもらわなきゃ吹き飛んでたのはあんた自身だったって事……もう忘れた?」

 軽く笑いながら、おちょくる様に挑発する。途端にアイロウの表情は更に険しさを増す。「貴様ぁ……」と低くうなる様に呟くその顔はまさに鬼の形相だ。

(怖ぁ……)

 何あれ? 物凄く怖いんだけど。けど逃げない。やるしかないのだ。リザーブル戦をて、改めて魔導師として生きて行く事を決意した。こんな所で負けられない。

「ハッハァ! 盛り上がってきたじゃねぇかよ!」

 俺とアイロウのやり取りを見ていたブロスは楽しそうに声を上げた。そして「マスター! 済まねぇ、俺ぁ残るぜ!」とゼルに宣言。驚いたゼルも「はぁ!? おい待てよブロス!」と声を上げたが、ブロスは「しゃあねぇよ、プルームよかこっちのが面白そうだ」とピシャリ。すると、

「あ、あたしも残る!」
「俺も残るぜ」

 ライエとホルツも残ると言い出す。「おいお前らよぉ……」と呆れ気味のゼル。「しょうがないでしょ、コウが怪我したら誰が治すの!」とライエが言えば、「コウとはよくつるむがよ、そういや戦ってるとこ見た事ねぇんだよな」とホルツも言う。

「おうおう、放っときゃいいんだよ、ゼルちゃんよぉ!」

 一部始終を見ていたブリダイルはゼルの隣へ進む。

「あのガキがアイロウにられんのを見てぇっつう冷たくて薄情な連中はよ、ここに置いてきゃいいんだよ」

 そしてギリギリまで馬を寄せ、身を乗り出しながらゼルに耳打ちする。

(この先戦闘はねぇなんてよ、野郎がそんなあからさまな誘い方するかぁ? 俺にゃブラフとは思えねぇ。恐らくエクスウェルに何かあったんだと見るが……まぁいずれにしてもだ、ここでアイロウを足止めしてよ、プルームとの戦力分断を図るってのはどうよ? こっちにゃ得しかねぇぜ?)

 普段の適当な言動からは到底想像出来ないがこのブリダイル、指揮官としては一流なのだ。状況、戦況の把握、そこから導き出す作戦の立案スピードとの質の高さ、部下の扱い方諸々……いかに早く的確に情報を集め整理し、いかに早く効果的な作戦を立て実行に移すか。刻々と変化する戦況の中で瞬時にその身を隠し、ヒラヒラと敵を嘲笑あざわらうかの様に立ち回り、予想も出来ないタイミングと角度から強烈な一撃を放つ。ゲリラ戦の展開を得意とするブリダイルにとって、そんな事は出来て当たり前の行為。彼の目にはじっくりと時間を掛けて作戦を練り上げる参謀部の仕事など、温くて温くて仕方がなく映るのだろう。

(まぁ……な。確かに妥当な線だ……うし、それで行くか)

 ゼルは同意した。「よっしゃ、決まりだ」と小さく呟いたブリダイルは続けて声を上げる。

「どうだぁ、他にいねぇか? アイロウの殺戮さつりくショーを見てぇって物好きはよ。いるならここに残っていいぜぇ。心配すんなよゼルちゃんよぉ、大将は俺とラスゥがキッチリ守ってやっからよ。な、ラスゥよぉ?」

「ああ伯父貴おじきぃ……俺も残るぜ」

「お~し、他はどうだぁ? 残りてぇって奴ぁ……んぁ? ちょい待てラスゥよぉ……今お前……」

「俺も残る」

「はぁぁぁ!? おいおいラスゥよぉ! 何だってお前まで……今更アイロウに何の興味が……」

「ちげ~よ、伯父貴おじき。あの魔導師が気になんだよ」

(ハッ、そりゃそうか、同世代だもんな。そんな奴があのアイロウとり合おうってんだ、気にもなるわな)

 ラスゥの決断、その理由にニヤッと笑うゼル。対照的にブリダイルは呆れ顔だ。

「おいおい、いよいよ何言ってんだって話だぜぇ……そもそもだ、俺ぁ素人に毛ぇ生えたぐらいのあんなヒヨッ子によ、アイロウの相手なんて出来る訳がねぇって思ってんだぜ?」

 ……おいおっさん、全部聞こえてんぞ? 「フ、言われてるぞ」と鼻で笑うアイロウ。イラッとくるわ。そんな俺達を尻目にブリダイルの演説・・は続く。

「きっと何か色んなもんが偶然上手くガチッと噛み合ってよ、万回やってようやく一回起きる様なよ、そんな奇跡的な結果だったっつう事だろうよ」

 野郎やろ……あのおっさん……!

「それかアイロウがヘタレたかヒヨッたか、最強だ何だ言われて調子こいてる内に弱くなっちまったとか、はたまた元から大した魔導師じゃなかったのか……ま、そんなもんだろうぜ」

「な!? あの野郎……!」

 突如矛先が自分に向き、痛烈にこき下ろされたアイロウ。俺はここぞとばかりに「ハッ、言われてんじゃん」とアイロウを鼻で笑ってやる。するとアイロウはスッと下を向き「ふぅぅぅ……」と息を吐く。直後、クッと顔を上げると、



「貴様らぁ! 何を勘違いしてやがる!!」



 周りを睨み付けながら大声で怒鳴った。瞬間皆の表情が強張こわばり、その視線は一斉にアイロウに向く。

 それなりの覚悟を持ってこの場に立っているのだ。

 エクスウェルが死に、抗争は終結。そんな事は分かっている。ここから先の戦いに大した意味などない。そんな事も分かっている。納得出来るかどうかは別として、だ。ジョーカーの今後を考えるのなら、ラテールの言う通り無駄な戦いをすべきではない。しかし暴れずにはいられない、このまま終わらせる訳にはいかない。部下の仇を討つ為、溜まった鬱憤うっぷんを吐き出す為、ジョーカー最強などと呼ばれる自身の名をおとしめない為、その名が持つ責任を果たす為、戦わずして事を収めるなど到底無理な話だ。暴力を生業なりわいとしている傭兵である以上、その暴力を存分に振るい戦って終わるべきだと考える。そしてそんな自身の破格の暴力を受け止める事が出来そうな相手は、この場にいてはあの若い魔導師しかいないだろう。
 だがこれは言ってみれば単なるままだ。組織を無視し、部下をないがしろにし、自身の都合を優先させている。ゆえにそれなりの覚悟を持ってここにいるのだ。

 ここで命を失っても良いという覚悟。

 しかし目の前の馬鹿共はどうだ。身の程もわきまえず好き勝手にわめいているこいつらは、一体どれ程の覚悟を持っているというのか。それを考えるとひどく腹が立った。そして怒りのままに再び魔力を撒き散らしながら声を張り上げる。

「誰に向かってナメた口を聞いてやがる!! 貴様ら全員……この場で皆殺しにしてやろうかぁぁぁ!!」

「チッ……」とブロスは舌打ちをし、ホルツは顔をしかめ、ライエとデームは自身の前に魔力シールドを張る。アイロウをこき下ろしたのはブリダイル、皆はとばっちりを受けたのだ。

「勘違いしてんのはてめぇの方だろうがよ……」

 一度ならず二度までも不快な魔力をぶつけられたブロス、これ以上は耐えられない。アイロウを睨みながら低く呟いた。「何だぁ……?」と聞き返すアイロウ。ブロスは噛みつかんばかりの勢いで怒鳴った。

「最強最強言われて調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!! これだけの面子めんつ相手に皆殺しとか、随分吹かすじゃねぇか! あぁ!!」

 ブロスは怒鳴りながら腰の剣に手を掛ける。その様子を見たアイロウはしかし、一切怯む事なく怒鳴り返す。

「ハッ! どいつもこいつも何を一丁前なつらをしてやがる!! 俺が少し本気を出せば、貴様らごとき小者共なぞ瞬間で黒焦げだ!!」


「ふっざけんなテメェ!!」
「調子に乗りくさりやがって!!」
「ここでやんのかゴラァ!!」


 皆が一斉に怒声を上げる。当然だ。ここにいる者は皆腕に覚えのある歴戦の傭兵達。我こそが一番強い、一番ヤバい奴なのだとそう自負している者達であり、ジョーカー最強などと呼ばれているこの男をうとましく、苦々しく思っていた者達なのだ。しかしアイロウから見れば誰も彼も自身の足下にさえ及ばない小者。アイロウはゆっくりと周りを見回し、薄ら笑いを浮かべながら挑発する。

「全くハッピーな連中だ、その程度の力で俺を殺れると思ってやがる。小石みたいにクソ小さいプライドを抱えたまま、ここで死ぬか?」



「「「 ふざけろゴラァァァァ!! 」」」



 にわかに場は収拾がつかなくなる。そんな中、ゾーダはキュールに馬を寄せると身を乗り出しながら耳打ちする。

(お前らバルファの連中は残って顛末てんまつを見届けろ)

「あ? 何でお前に指図されなきゃならないんだ……!」

 当然キュールは食って掛かる。しかしそんな事は想定内、ゾーダは落ち着いていた。

(いいから聞け。俺達二番隊はゼルと共にプルームへ行く。次期団長の供に番号付きのマスターが一人もいないんじゃ、さすがに格好付かないだろ。お前らはここに残りアイロウを見ていろ。もしもコウが負ける様な事があればアイロウは野放しになる。プルームへ取って返し俺達の背後をつく事だって可能だ。だからその場合は、お前らがアイロウを仕留めろ)

(……簡単に言ってくれるがな、あの化け物をどう仕留めろと?)

(一度はアイロウと殺り合ってるんだ、コウとて簡単には負けないだろう。その頃にはアイロウも消耗している、はずだ)

「はず、かよ……クソが、貧乏クジじゃねぇか……おい、ビエット!」

 続けてゾーダは副官のラーゲンに呼び掛ける。

「ラーゲン! プルームへ行くぞ! 皆に伝えろ! タンファ、お前もプルームだ」

 ラーゲンのかたわらにいたタンファ。苦笑いしながら少し残念そうに答える。

「そっか。あの魔導師、ちょっと気になってたんだけど……」

「興味があるのは分かるがな。万が一これが罠だったら……プルームで敵が待ち構えていたら、どうしたってお前の力が必要になる」

 ジョーカーリロング支部、支部長だったラーテルム・メイベリーは支部所属の団員達を引き連れジョーカーを離脱、ジャビーノ王国へ入り貴族となった。リロング所属だったタンファはジャビーノ王国へは行かずジョーカーに残る決断をする。正式な配属先はまだ決まっておらず、現在は二番隊預かりとなっていた。タンファは召魔しょうまの里出身の召魔師しょうましだ。

「分かってるさ、仕事はキッチリするよ」

「しかし、ラーテルムは良くお前が残るのを許したな。俺が奴の立場ならば考えられん。それだけ召魔師という存在は貴重だ」

「許すも何も、支部長……ラーテルムから言われたのは一言だけ。ついて来たい奴は来い、嫌な奴は残れ……って、それだけだよ。それに貴族の衛士えいしなんてがらじゃないさ。傭兵の方がしっくりくるよ」




 飛び交う怒号の中、俺はいらついていた。アイロウの態度に対してだ。別にアイロウが誰に喧嘩を売ろうがどうでも良い。誰と殺し合いをしようがどうでも良い。

 だが今は違う。違うだろ。

 目の前の俺を差し置き、何を周りに噛み付いてやがる。目の前の俺を無視して、何を周りに怒鳴ってやがる。とても口に出しては言える事ではないが、それは嫉妬にも似た感情だった。

 無視するな、俺を見ろ、お前の相手はここにいる。

 いら立ちが頂点に達した。膨れ上がった怒りが、感情が、まるでせきでも切れたかの様に溢れ出す。全く気付かぬ内に、俺は大声で怒鳴っていた。



「見失ってんじゃねぇぞコラァ! お前を潰すのは俺だろがぁぁ!!」



 瞬間ピタリと怒号が止み、場は静寂に包まれる。アイロウを見据える視界の端では、皆の驚いた顔がチラチラと見切れていた。今まで静かだった奴が突然怒りをぶちまけたのだ、驚いて当然か。しかしそんな中ブロスだけは違った。ニヤリと笑いながら俺を見ていたのだ。まるで、ようやく本性出しやがったな、とでも言いたそうな顔だ。いつもならイラッとするであろうブロスのそんなしたり・・・顔も、どういう訳かこの時は全く気にならず、それどころかどこか好意的にすら感じていた。

「ほう……」と呟きながら、ゆらり……とアイロウは静かに視線をこちらへ向ける。

「潰す……誰が誰を?」

「俺がお前をだよ。その耳、飾りか?」

「言うだけならいくらでも……な。やれるとでも?」

「やれないとでも?」

 俺を睨んだまましばし沈黙するアイロウ。スッと視線を外すと静かに口を開く。

「ここでは余りに周りに迷惑だ、場所を変える。ついてこい」

 クイッと手綱を引き馬の向きを変えるアイロウ。そしてゆっくりと馬を前へ進める。そのあとに続く俺やブロスらを見届けると、ゼルは笑いながらその場に留まっているデームに声を掛ける。

「はっはっは、吠えてたなぁ、コウのヤツ! んで、お前は行かなくていいのかぁ?」

「はい。コウさんの力はアルマドでしかと確認しました。何のうれいもありません」

「そうか。俺としちゃあお前にこそ、ここに残ってほしいんだがなぁ。そうすりゃ安心ってもんなんだが?」

 常に冷静に状況を把握し的確な対処が出来る。実務で頼りになるのはもちろんだが、デームは部隊の精神的支柱にもなれる存在だ。しかしデームはゼルの言葉を笑って否定する。

「私なんかが残った所で何にもなりませんよ。それに今話した通りです、コウさんに関して何も心配していません。ゼルさんも、そうでしょう?」

「はっはっは、その通りだ。しかしリザーブルとのいくさで何を見たのかは知らねぇが、大した信頼じゃねぇか」

 満足そうに笑うゼルはベルナディに視線を移す。いま強張こわばった表情のベルナディに、ゼルは笑顔で話し掛ける。

「んじゃ、プルームまで案内してもらおうかぁ」
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