上 下
180 / 186
第6章 迷宮攻略

第百七十三話

しおりを挟む


 アトランティスに復帰した僕はデスペナの有無を確認できないまま、ゼルとカイに誘われて、みんなと一緒にレベル上げに勤しむことになった。

 PKのレベル上げは禁止されたので、近場の海神迷宮に行き複数のPTを組んで潜っていたんだけど、早々僕達は一層の途中でピンチに陥っていた…………

「兄貴!第2パーティの背後にカニの群れが現れました!このままだと全滅します!」
「ええっ!?動けるPTは?」
「すぐ援護に向かえるパーティがいません!どうしますか?」
「ど、どうしよう……!?」

 僕と他のギルドメンバー、そしてコローネファミリーで混成された計五つのPTはそれぞれ大量に湧き出たシークラブ(大きなカニの魔物)に囲まれていた。
 敵味方入り乱れる乱戦のなかで、指揮官にされた僕はみんなの指示を考えることで精一杯だった。

「ファントム!指示をくれ!」
「兄貴!」
「ファントム!」
「ボス!」

 ああもううるさいな!そんなに急かさないでよ!

 その時、僕の目にシークラブのでかいハサミで腕を断ち切られる仲間の姿を捉えた。

「ゼルは全体の指揮をお願い!僕はみんなの援護にまわる!」

 僕はゼルに丸投げするかのようにそう言い捨てると腕を切られた仲間の元へ駆け出した。
 
 死なせない!

 NPCにもデスペナが適用されている。
 でも、それ以前に死んで時間内に蘇生させないと二度と生き返らなくなる。
 
 ふとゼルが死んだ時の光景が脳裏に浮かんだ。

 カッと胸の内から込み上げてくる。
 僕は半ばキレ気味にシークラブに向けて衝撃槍を繰り出した。










「なんとかなったな」

 槍を杖にして佇む僕の隣でカイが言った。
 返事を返そうにも息がきれて言葉にならない僕は呼吸を整えることに必要だった。
 
 ていうか、疲れた……。
 
「お疲れ様です兄貴。この後どうしますか?」

 ゼルが僕のところまで来て訊ねてきた。

「そうだね……ハァハァ……まずは、回復を。ハァハァ……死んだ人を、優先に」
「了解です」

 乱戦で激戦だったせいで何人か死亡マーカーとなっていた。
 結局死なせてしまった……。
 死んだ人達は全員NPCだから早く生き返らせないと本当に死んでしまう。
 回復役の人達が手分けして傷ついた人達を治しているのが見えた。
 指示通り死んだ人を魔法やアイテムで蘇生させたり、傷ついた人達を回復してまわっている。

 この様子なら死んだ人は無事に生き返るけどデスペナ受けたか……。

 今の戦闘で死んだ人達は4人。全員低レベルの人達だ。
 高レベル2人、低レベル2人の4人5組のPTで潜ったわけだけど失敗した。
 いけると思ったし、ゼルもOKしたから大丈夫だと思って安心していた。

「ダメだなこれじゃ……。ゼル、隊列整えて。今日はもう帰ろう」

 ようやく息が整った僕はゼルにそう言うと、MP回復のエーテル水を飲んで帰る準備を始めた。



 ◇



 拠点に戻った僕は自分のデスク(コロパチーノさんから貰った高級執務机)に着き、メニュー画面を開いた。
 ギルドのタグをタップし、ギルド【NPC】のメンバー表を開いてみた。

『【ギルドマスター】ファントム【脱獄囚】Lv:60。
 【サブリーダー】ゼル【暗殺者】Lv:60。
 【ギルドメンバー】ヴァイス【魔獣使い】Lv:3。
 ルーネ【錬金術師】Lv:19。
 カイ【侍】Lv:60。
 アルフレッド【聖職戦士】Lv:60。
 アーチェ【斥候射手】Lv:60。
 ルビー【暗殺者】Lv:54。
 さくら【戦闘メイド】Lv:51。
 etc……』

 ずらりと並ぶメンバー表を見て、僕は首を傾げた。
 これからのことを考えてみんなのステータスを確認しようと思ったんだけど、なんかちょっと見ない間に変わったなあ……。

 新規メンバーはともかく初期メンバーというか主力の面子というか、ゼル達の職業とレベルがちょっとおかしい。

 いつの間にゼルは略奪者から暗殺者に転職したんだ?
 しかも上限レベルの60に達しているし……。
 まあなんだかんだで僕も脱獄囚や他の職業、例えば戦士、剣士などの職業はレベル60になってるけど、PKに加わっていないカイとアル、アーチェさん達が上限レベルに達しているのに少し驚いた。
 本当に一体いつの間にって感じだ。

「ていうかルーネは錬金術師になったのか。成長が早いな」

 ルーネはよく冒険者組合に通って自分の目指す職業に合った依頼を受けていたから、当然と言えば当然の結果なのかもしれないけど。

 それはともかくヴァイスの魔獣使いってなに?
 レベルも3だし最近転職したばかりなのかな?
 ていうか大魔導士かなんかになるとかって言ってなかったっけ?

 一応ギルドメンバーにNPCがいる場合はギルドマスターのPCがNPCの職業やスキル構成を決められる。
 例えば特定の職業に就かせてレベルを上げてこいと言えばNPCはレベル上げ優先に行動を起こす。
 もちろんNPCは無理しない範囲で戦闘を繰り返し地道にEXP経験値を上げていく。
 スキルも同様の指示を送ればバカのひとつ覚えのようにスキルを使いまくって熟練度を上げようとする。

 他にも特定の依頼をNPCだけで行かせたりできるけど、あまり難易度の高い依頼はNPCが失敗する可能性が高くなるので、NPCのレベルに応じた依頼をこなさせたほうがいい。
 
 僕の場合はみんなに自分に合った職業に就いてもいいし、依頼も達成できるレベルなら自由に受けていいと指示していた。
 ルーネなんかはそうやって地道にコツコツとやっていたし、最近ではカイ達も他のメンバーを連れて狩りに精を出していた。
 
「まあゼルは予想の斜め上に行動を起こしてるけど……(苦笑)」

 それはさておき、新しく加入したメンバーだ。

 僕は下にスクロールして他のメンバーのステータスを確認していく。
 前職が盗賊の戦士や剣士。そして僧侶に白魔導士、黒魔導士。
 基本職というか初級職ばかりで転職したてなのか、みんな10~20レベルだった。
 例外としてゼルの特務部隊に所属しているメンバーはみんなそれなりのレベルだ。
 まあ、暗殺者職ばかりだけどね。
 それにしてもこれじゃあそこの迷宮で戦うのは無謀だったなあ……。
 ちゃんと確認すればよかった。

「これなら外でゴブリン狩りしたほうが効率いいかも?」

 ここら辺にいるゴブリンはウォーリアやウィザードなど職業に就いてる個体がいて、レベルが15~20くらいだし、加入したばかりのメンバーにとって適正レベル内だと思う。
 低レベルのメンバーはゴブリン討伐の依頼かなにかを受けてもらって、レベルとスキル上げしてもらおうか?

「あとゼル達はどうしよう……」

 上限レベルに達しているし転職を勧めるか?
 でもなんの職業にすればいいのか悩む。
 ていうか暗殺者や侍、聖職戦士の上級職か派生職ってなんだろう?
 僕はメニューから検索して調べてみることにした。
 
 アトランティスの職業は多岐にわたり、スキルや称号、レベルなどの条件で職業ツリーが枝分かれしていく。
 大まかな流れはあるけど細かく突き詰めるとキリがない量が検索された。
 
 なんか見ててイヤになるくらいの情報量だ……。

 これは面倒くさいと思いながらも僕は調べ物をし続けた。
 けど、これはという職業がなかったので上限レベルに達しているメンバーは本人に聞いて任せることにした。

 ……こんなんだからダメなんだろうな(苦笑)

 とりあえず依頼をこなしながらレベル上げ。
 そしてPTメンバーを厳選してから迷宮攻略でも向かおう。
 海神迷宮は難易度が高すぎるから北の魔神迷宮に行こうかな?
 ていうかあそこがメインの迷宮だし、いつの間にかっていうか最前線のPCは二層に到達してるようだ。
 
 まあ、二層はなんか街とかフィールドがあるみたいだし一体どういう所か気になる。
 ぶっちゃけ行ってみたい。

「他の人達とトラブらないようにちゃんとゼルやカイに釘を差しとかないとな……」

 よく言って聞かせないといけない……!と僕はそう強く思った。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻撃と確率にステ振りしていたら最強になりました

りっくり
SF
〜あらすじ〜 ゲーム知識ゼロの日比谷悠斗(ヒビト)が友達の成瀬友哉(トモ)に誘われて、ゲーム《グレイド・リヴァー・オンライン》を始めることになったのだが、トモはお母さんの機嫌が悪いから今日はプレイできないと言い出します。 ヒビトは仕方なく一人でゲームをすると決心し、下調べをせずゲームプレイを行います。 ゲームを始めてすぐにヒビトは美人プレイヤー月城玲奈(ツキナ)に最初に出会い、いろいろな情報を教えてもらいながらプレイをすることになります。そしてツキナはヒビトを見たときから一目ぼれをしてしまったみたいで、リアル情報を教えて欲しいという無理なお願いを了承してくれます。 リアル情報をお互いに交換して、親睦を深めた二人はフィールドに行きレベ上げを行うことに……。

VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~

オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。 彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。 新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。 「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう! 「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」 そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。 一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。 主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。 ※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。 ※是非感想いただけると幸いです。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空
SF
社畜?社会人4年目に突入する紗蘭は、合計10連勤達成中のある日、VRMMOの世界にダイブする。 ゲームの世界でくらいは、ほのぼのライフをエンジョイしたいと願った彼女。 女神様の前でステータス決定している最中に 「言霊の力が活かせるジョブがいい」 とお願いした。すると彼女には「言霊エンチャンター」という謎のジョブが!? 彼女の行く末は、夢見たほのぼのライフか、それとも……。 これは、現代とVRMMOの世界を行き来するとある社畜?の物語。 (当分、毎日21時10分更新予定。基本ほのぼの日常しかありません。ダラダラ日常が過ぎていく、そんな感じの小説がお好きな方にぜひ。戦闘その他血沸き肉躍るファンタジーお求めの方にはおそらく合わないかも)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

TS聖女は因果を操る〜陰ながら「運命操作」で仲間を守ってきた僕。無能と罵られた挙句、幼馴染を寝取られて追放されました。お前らなどもう知らん〜

アキ・スマイリー
ファンタジー
戦闘力は最弱だが善人な青年マルコは、勇者パーティーのお荷物的存在(と思われている)。勇者の狙いはマルコの幼馴染、美少女にしてSランク冒険者のユティファだった。 目論見通りにユティファを寝とった勇者は、マルコをパーティーから追放する。 しかし彼には秘めたる力があった。人々の暮らしを見守り、時には運命を操作して手助けする「時の聖女」マルファ。その正体はTS変身したマルコだったのだ。陰ながら仲間を守って来たマルコが居なくなった事で、勇者パーティーは悲惨な末路を辿る事となる。 一方マルコは、聖女マルファを慕う龍の化身タラスクと共に悠々自適な生活を始めようとする。だが、根っからの善人であるマルコは、困っている人を放って置けないタチ。ついつい人助けに乗り出してしまうのであった。

処理中です...