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第5章 抗争
第百六十三話
しおりを挟むアリシアを襲い魔法を奪った集団は【幻想大陸解放隊】
以前僕がいたギルドだった。
一応迷宮攻略に力を入れてるガチ勢ギルドだったはず。
なのにNPKをする集団に成り下がっていたとは思いもしなかった。
「まさかお知り合いですか?」
「うんまあ……でも今は敵だよ」
僕ははっきりとそう言い切った。
ドンペリキングのことだ。
何かの拍子で【強欲】スキルに目覚めて、他人から魔法やスキルを奪うことにしたんだろう。
どうせ自分の都合のいい感じに解釈して、欲しい魔法やスキルを持ってる人に因縁吹っかけて奪ったりしてるんだろうな。
PCだったら強引に交渉したり恐喝まがいのことをして奪ったり、相手がNPCなら力尽くで奪っちゃおうみたいな軽い感じで行動してるんだろうと目に浮かぶ。
前のゲームからの付き合いだ。
そういうことを平気でしそうな気がする。
アイツはそういう人間だ。
今まで関わり合いになりたくないと思ってたけど今回ばかりはスルーできない。
ぶっちゃけ会いたくもないほどイヤな相手だけどどうにかして止めないと………
「はぁ……。とりあえずアルフヘイムまで行ってアリシアの所に行ってみるか……」
「お供いたします」
「…k」
「わかったわ」
「お待ちくださいまし!」
突然声が聞こえたと思ったら天井から人が降りてきた!?
「る、ルビーさん!?どうしてここに?」
「ゼル様からお兄様の護衛を頼まれていましたの」
ルビーさんは僕達の行く手を遮るかのように立ち塞がった。
「話は聞かせて頂きました。お兄様、ここはまずパパ…コホン、お父様の力をかりるべきかと愚考いたしますわ」
うーん……戦力的な意味合いでは、今はあまり手を借りたくないんだよな。
向こうもこっちと合同で構成員を鍛え直してるし。
まあ幹部クラスなら力を借りたい。強いし。
ていうかカーンさんあたりなら喜び勇んで手を貸してくれそうな気がする。あの人も戦闘狂だし。
アリシアのことが心配だからできれば寄り道せず向かいたい。でも黙って言ったらゼルが怒りそうだし……うーん、メンドくさいな。
「ご主人様。賊は夜に襲撃をかけることが多いです。転移門を使用すればすぐにアルフヘイムへ行けるのでまだ時間はあるかと」
なるほど。今はまだ昼間だし時間の猶予はありそうだ。
「じゃあとりあえずコローネファミリーの所へ行こうか?」
「…k」
「わかったわ。それにしても……」
アーチェさんがさくらを見た。
「まさか人造人間が出てくるなんて思わなかったわ」
「…ある意味吸血鬼より稀少」
「そうなの?」
「人造人間なんて【賢者の石】を作製できる凄腕の錬金術師しか創れないのよ」
「…あの引きこもりは何者だ?」
「造物主は天才ですから(´ω`)」
さくらはヴァイスとアーチェさんのほうに向き直ると、
「申し遅れました。この度ファントム様にお仕えする事となりました、さくらと申します。私の事はさくら、さくらちゃん、さくたん、完璧超人、超絶美少女メイドなど、お好きなように呼んで下さい」
「わ、わかったわ……。私はアーチェ。よろしくねさくら」
「…ヴァイスだ。よろ。家政婦」
「ただの家政婦ではありません。超絶美少女メイドです(^_-)-☆」
そんなこんなで自己紹介を終えた僕達はコローネファミリーの事務所へ向かった。
パライーソの南に位置する高級住宅街にコローネファミリーの事務所がある。
ここの区画はどこも海が見渡せる立地で別荘も売りに出されている。
ちなみに値段は安い物件で数千万G。高い物件だと何十億もする……=)
とても手が出せる値段じゃない。
その区画に事務所を構えてるコローネファミリーはどれくらい稼いでいるんだろう?
そんなことを考えながら歩いてると日本家屋のような大きな屋敷が見えてきた。
門の左右には黒スーツが門番として立っている。
「「お疲れさんです!」」
僕達に気づいた黒スーツが声をかけてきた。
「お、お疲れさんです」
僕は軽く頭を下げて答えた。
どうでもいいけど「お疲れ様です」ではなく「お疲れさんです」と挨拶する。
よくわからないけど様ではなくさんらしい。
ていうかコローネファミリーの人達を見ているとマフィアというより日本のヤクザみたいな感じがする。
建物もそれっぽいし(苦笑)
「すみません、うちのゼルかコロパチーノさんに会いたいんですけど」
「わかりやした。ではご案内いたしやす」
門番の一人がそう答えると僕達を中に入れてくれて案内してくれた。
何百坪ですか!?ってツッコミたいくらい敷地に足を踏み入れ、長い道を歩いていくと日本庭園のような綺麗な庭が見える。
きちんと整備されている庭にドーベルマンのような黒い犬が数頭徘徊していた。
ていうかアレは犬だろうか?それとも魔物なのだろうか?犬にしてはデカすぎるような……?
玄関をくぐりそのまま進む。
外観は和風の屋敷なのに室内は洋式という感じの廊下を黙って進んでいく。
「お疲れさんです!」
屋敷にいる黒スーツがすれ違う前に脇に寄り腰を屈めて挨拶してくる。
その度に僕は「お疲れです」と呟く。
何気に挨拶は苦手だ。
挨拶自体は別にいいんだけど、気恥ずかしさからかどうしても小声になってしまう。
どうでもいいけど友達がいないぼっちな僕は現実の学校でまともに挨拶を交わしたことがない。
バイトではあるけど、挨拶もしても無視というかされないと地味にヘコむ……。
こうやっていかつい人に元気よくというか畏って挨拶されるとなんか気後れしてしまう。
「こちらです。ボス、ファントムさんをお連れしました」
「おう、来たか。入れ」
ドアを開けて一礼する黒スーツに促されて僕達は部屋に入った。
「失礼しまーす」
部屋も洋風でやたら高級そうな調度品に囲まれた部屋の奥には大きなデスク。
そこに踏ん反り返って座っているのはコロパチーノさん。
こうして見るとマフィアのボスにしかみえないよなあ……。
コロパチーノさんは腰を上げると両手を軽く広げて迎え入れてくれた。
「よく来たな兄弟。今日はどうした?」
「えっと……実は……」
僕はアリシアのことを話した。
エルフの王都アルフヘイムにアリシアという友達がいること。
そのアリシアが【幻想大陸解放隊】というギルドに狙われていること。
そこのギルドマスターが大罪スキルでアリシアから魔法を奪おうしていること。
友達のアリシアを助けるために今からアルフヘイムに向かうことを話した。
「なるほどな……」
コロパチーノさんはデスクに寄りかかると腕を組んで難しい顔をした。
「幻想大陸解放隊とやらは耳にしたことがある。北の迷宮を探索しているギルドで有名だが、半グレ小僧どもの集まりだそうだな」
は、半グレって……。まあ否定はできないかも(苦笑)
「前々からプレイヤーの素行が悪いとは思っていたが最近は目に余るな」
うん?
コロパチーノさんの言い方に僕は違和感を感じた。
ていうか普通にプレイヤーとかって言ってるけど……
「あの、PCってわかるんですか?」
「?プレイヤーはプレイヤーだろう?」
いや、そんななに言ってるんだお前?みたいな顔されても……。
「ご主人様。私達の言うプレイヤーとは外大陸から来た者の総称です。逆にプレイヤーは私達アトランティスに住う現地の者をNPCと総称しております」
「へえ、そうなんだ」
ていうか初めて知ったんですけど。
そういう設定ってことかな?
「それはさておき、ファン坊。アルフヘイムへ行くならちょうどいい。いまゼルの若い衆が何人かアルフヘイムいるはずだ。そいつらを使え。それなりに使える奴等だからそう簡単に遅れはとらんだろう」
「あ、はい。わかりました」
「あとうちからも若い衆を出す。向こうは手練れが揃っているだろうから戦力にはならんかもしれんが肉壁くらいには役に立つだろう」
「いやいやいや!それはいいです、いりません!」
肉壁って言われて、はいそうですかって頷けないよ!
「遠慮するな。儂とお前の仲だろう?」
「いやいやいや、大丈夫ですからホントに(汗)」
「ぱ…お父様」
ルビーさんが話に入ってきた。
グッジョブルビーさん!
「ところでゼル様は……」
「アイツは出張中だ。まだ帰ってこん。だからお前はファン坊と一緒に行け」
「それはもちろんご一緒しますわ。ゼル様の留守中お兄様の護衛を任されましたから」
胸を張って答えるルビーさん。
ルビーさんが来てくれるなら心強いな。
「ファン坊。この面子で行くのか?」
「ええまあ」
「カイとアルの小僧は連れていかんのか?」
「いま他のメンバーのレベル上げ、ていうか鍛えてて今いないんですよ」
「あの二人がいなくて大丈夫か?」
「まあ、なんとかなるでしょう……?」
カイの火力とアルの回復がないのはぶっちゃけ痛いけど、今から呼び出すのも時間食うし、今はアリシアの安否が心配だからなるべく早く向かいたい。
「おおそうだ。ちょっと待って」
コロパチーノさんはそう言うとデスクの引き出しからなにかを取り出した。
?なんだろアレ。スマホに見えるけど……?
「コイツはうちで使ってる【マドーフォン】っていう魔導具でな、コイツがあれば遠く離れた場所からも話ができるし文字も送れる。プレイヤー間で使ってる通信手段と同じ仕組みだ」
コロパチーノさんからマドーフォンを受け取った。
「そいつに儂の番号やゼルの番号はじめゼルの舎弟連中の連絡先が記録されている。それで連絡をとれ。アルフヘイムにいる奴等はジェイ、ケイ、エルの三人組だ」
「あ、はい、わかりました」
試しにマドーフォンを操作してみる。
うん、使い方は僕が使ってるスマホと大体同じだ。
その時、視界にシステムメッセージが流れた。
『特殊アイテム【マドーフォン】を入手したことにより、メニューにマドーフォンアプリをインストールすることが可能になりました』
なにこれ?
ヘルプをタップしてみると、どうやらアプリをインストールするとシステムメニューに登録されている僕のスマホからNPCと連絡を取り合えるようになるらしい。
今まではフレンド登録したPCやスマホに登録してある人達と通話やメール、SNSなどができたけど、このアプリを入れると今度はNPCとも連絡が取り合えるようになるのか。
面白いことにログアウトした現実でも仲の良いNPCから連絡が来ることがあるらしい。
ていうかインストールしたらこのアイテムいらなくなるよね?
メニューから使えるようになるわけだし。
僕はとりあえずインストールしてみた。
「あの、僕メニューウインドウから使えるようになったんで、コレ返しますね」
「おお!?そうなのか」
「ええまあ……」
「じゃあ仲間の誰かに連絡用として渡しておけ」
「え、いいんですか?」
「それは元々ファン坊にやろうとしていたモノだからな、構わんよ」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず僕の番号を貰ったマドーフォンに登録して……っと、さて誰に渡そう?
ヴァイスが物欲しそうに見つめている。
アーチェさんがチラチラと興味深そうに見つめている。
ルビーさんは「私は持っていますわ」と自分のマドーフォンを出して番号交換を求められた。
僕はメニュー画面を開いてルビーさんと交換すると、さくらが手を出してきた。
「ここはご主人様のメイドである私がお持ち致しましょう(^ω^)」
「……まあいいか」
断る理由もないし、僕はさくらにマドーフォンを渡した。
受け取ったさくらは大事そうにマドーフォンを見つめている。とても嬉しそうだ。
「…おっさん、俺たちにもくれ」
ヴァイスがコロパチーノさんにせびっていた。
「渡してやりたいのは山々なんだが、コレはうちのお抱え【魔工師】がプレイヤーの通信魔法を参考に作製した一品でな、あまり数はないんだ」
「…じゃあ作れ」
ちょっとヴァイス、口の聞き方!?
「作れといっても素材がない。素材さえ調達すればうちの魔工師に頼んでやるぞ」
「…じゃあ素材を教えろ」
「教えてもいいが中々出回らない素材が多いぞ。小僧に集められるか?」
「…np」
「えぬぴい?」
「ヴァイス語で問題ないって意味よ。そいつの口癖みたいなもの」
いや、あのアーチェさん、npはネトゲの略語でヴァイス語じゃないんですけど……w
ていうか魔工師って職業、初めて耳にしたけどそんな職業あるんだ。
それからマドーフォンに必要な素材を聞いた僕達はコローネファミリー構成員、黒スーツ軍団100人を引き連れコローネファミリーの屋敷を後にした。
……結局断りきれずに部下を押し付けられた。
相手はドンペリキング達ガチ勢のPC。
ぶっちゃけ僕達よりレベルは高いだろう。
戦闘になったら黒スーツ達の紙装甲じゃ肉壁にすらならないと思う。
ホント、どうしよう……。無駄な被害を出したくないんだけどな……:-(
色々考えながらも歩を進める。
向かう先はパライーソの転移門。
目的地はアリシアの家があるアルフヘイム。
とりあえずアルフヘイムに着いたらゼルの仲間と合流しよう。
僕はながらスマホならぬ、ながらメニューをしながらゼルの仲間のジェイさんに連絡をとろうと思った。
通話はハードルが高いからメールを送ろうっと。
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