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第4章 NPC

第百三十五話

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 今さらくさいけど、アルフヘイムは中央にビルのように大きい樹がそびえ立っていて、それが城らしい。
 そこから東西南北に大きな道、メインストリートがあって、西に正門、東に裏門、南に南門がある(ちなみに北門はない)
 門から門へ街を円形に囲むように要塞のような石作りの壁が王都を守っている。
 街は自然豊かというか木々が生い茂る街並みで、アルファベットで区画が区切られている。
 たとえば城はA区画、A-1とかで番号が付けられている。

 街の警備に回された部隊は僕のいる第五大隊から第八大隊が受け持っていて、第五大隊はC区画、大体街の南西方面を担当している。
 報告によると魔物が侵入した場所は西門と南門の中間くらいの城壁が崩れて侵入してきたらしい。
 区画で言うとC-5といったところか。
 よりにもよって僕が担当することになった区域で侵入されるという不運に便乗してすぐさま僕は迎撃に向かった。
 隊長に任命されたけど、あとのことはシオンさんに丸投げすれば問題ないでしょ?

「こっちだ!こっちに逃げろ!」
「みなさーん!避難場所はあちらですよー」

 僕とカイ、アル、ヴァイス、ルーネ、アーチェさんの6人PTパーティと、その区域を担当する騎士団PT12人とともに、街の人達の避難を促しながら崩れた城壁方面へ向かっていた。

 街は所々建物に火がついていた。
 木の建築物が多いから延焼が速い気がする。
 消火したいけど手が足りない。
 まずは民間人の保護と避難が第一優先。
 次に魔物の討伐、及び撃退だ。
 この手のイベントというかクエストは多分も影響する。
 キングタイガーの退がなによりも大事だろうけど、それは本隊と他のPCに任せておけばなんとかなると思っている。
 問題は街の被害をどこまで防げるかだ。
 そういうところに気付かず、或いは気にせずにプレイしていると大抵この手のクエストは失敗することが多い。
 だから僕は警備を選択したわけだけど、思った以上に難しいかもしれない…
 まあ、やれることをやるしかない。
 前方に逃げ惑うNPCと魔物、あれはワータイガーか?

「カイ!【縮地】」
「任せろ!」

 僕の指示に威勢良く返事を返したカイはスキルを使ってかき消えた。
 次の瞬間にはNPCを襲っているワータイガーの側面にカイが現れた。
 その手に抜き身の刀を構えて。

「ハッ!」

 一閃!
 カイの斬撃がワータイガーの首を切り落とした。
 首を落とされ、即死判定を喰らったワータイガーはポリゴンのカケラとなって風に消えていく。

 ていうか相変わらず強いなカイは………=)
 縮地からの先制攻撃で大抵の魔物は一撃だ。

 襲われていたNPCは街の人でHPゲージが半分以上減少していた。
 
「ヴァイス、その人に回復を」
「…k。うんたらたった~以下省略…【ヒール】」

 ヴァイスの回復魔法の光がNPCの身体を包み込む。
 ていうかヴァイス。無詠唱で使えるんだから、以下省略とかわざわざ言わなくてもいいから…(苦笑)
 どこぞのゲームに登場する魔導少女と海賊っが混じってるよw
 
 突然アーチェさんが前に出て弓を構えると矢をつがえた。

「左の路地に魔物の反応!数は3」

 アーチェさんは僕達に聞こえるような大声で叫ぶと、魔物がいるであろう場所に矢を放った。
 矢継ぎ早に放たれた矢の先で「キャン!」「ガッ!?」などという獣っぽい鳴き声が聞こえた。
 身体に矢が刺さったまま僕達の前に現れたのは、ワータイガー二体とインプ一体。

「ここは我等にお任せを!」

 と言って騎士団の人達が魔物達に向かっていった。
 12人の騎士は取り囲むように広がると四方八方から剣を振るい斬りかかっていく。

 ボコスカ斬!

 みたいな感じで、あっという間に魔物を倒した。
 うん、あれぞまさに数の暴力って感じだね(苦笑)

 戦闘終了の際に流れるシステムメッセージが視界に現れない。
 ということは、このクエストが終わる時に一斉に流れるのかな。
 できればこのクエストで多くのEXP経験値をゲットしてレベルを上げたいところだけど………

「ファントム、あっちの方角にけっこうな数の人が逃げ遅れているわ」

 そう言ってアーチェさんはとある方向を指差した。

「あちらは住宅街ですな」

 と年配の騎士(見た目ダンディ)がアーチェさんの指差した方角を見て言った。

「わかるのか?」
「当たり前よ。ゼルほどじゃないけれどあたしの【索敵】スキルはレベル9よ」

 カイの問いにない胸をそらして言うアーチェさん。
 さすが【斥候射手スカウトアーチャー】索敵はお手の物か。

「魔物の反応は?」
「………数は多いけど、みんなバラバラね。ちなみにあたしのスキルじゃ人と魔物の見分けと数しかわからないわ」

 僕の問いにアーチェさんは答えてくれた。
 それだけわかれば充分。

「アーチェさんの索敵に引っかかった人をまずは助けに行こう。…騎士団の中に索敵が使える人はいますか?」
「すまないが我等は皆【魔法騎士】。索敵は使えない」
「ならこのまま一緒に行動しましょう」
「承知した」

 とりあえずの方針を決め、僕達はアーチェさんが言う住宅街の方へ向かうことにした。
 住宅街は大体この先の路地を右に進み城壁に近い場所にある。
 アーチェさんに常時【索敵】を使用させたまま警戒しながら進んでいく。
 すると目的の場所で争う音が聞こえてきた。
 誰かが戦っている?

「誰かが魔物と戦ってるわ!」
「行こう!」

 それぞれの武器を手にして駆けつけてみると、兵士のようなエルフ達と魔物が絶賛戦闘中だった。
 戦っているエルフの後方には身を寄せ合うようにして固まっている街の人達。

「【咆哮】!」

 僕は挑発スキルで魔物の気をこちらへ逸らそうとした。

「【プロテクション】!」
「…【リジェネ】」

 すぐさまアルとヴァイスの魔法が僕の身体を包み込んだ。
 カイは【縮地】を使ったのか、いつの間にか魔物の真っ只中に突っ込んでいた。

「オオオォォォ!」

 雄叫びをあげながら刀を縦横無尽に振るうカイ。
 カイの攻撃を喰らって怯む魔物達。
 その隙を狙って僕は手近にいた魔物、ワータイガーに斬りかかった。
 騎士達も僕に続いて次々と魔物に群れに襲いかかっていく。
 僕は剣を振るいながら周囲の様子を窺う。
 何気に騎士団が強い。
 一対一なら負けるんじゃないかって思うくらいの実力だ。
 乱戦の中、カイと争うように魔物を斬り伏せていっている。
 カイの背後にワータイガーが爪を振り下ろそうとしているのが見えた。
 危ないと思ったその時、上から矢が降ってきてワータイガーの前足(手?)に矢が突き刺さった。
 射線をたどってみると、木の家の枝に陣取っていたアーチェさんが矢を放っているのが見えた。
 ナイスフォロー!僕は心の中で喝采した。
 アーチェさんは上から全体を見つつ不意を突かれそうな人、危なそうな人の援護射撃に回っているみたいだ。
 視線を戻し、逃げ遅れた街の人達のほうを見てみるとアルと数人の騎士が街の人達を守るようにして盾を構え立ち塞がっていた。
 その後ろでヴァイスとルーネが怪我人の治療をしている。

 うん。この調子なら大丈夫かな。

「グオオ!」

 ワータイガーの振るった爪が僕の肩に当たった。
 痛っ…くはないけど、強めの振動とともに僕のHPが一割弱減少した。
 チッ、周りに目がいきすぎて油断した。
 ていうかちょっとアーチェさん!?僕に援護は?

「このっ!」

 僕は力任せに剣を振るい攻撃してきたワータイガーに斬りつける。
 やり返されたワータイガーは僕の攻撃でダメージを受けながらもそのまま距離を取って下がろうとした。

 逃がさない…!

 僕は突きの構えを取り右足を一歩強く踏み込んだ。
 最速で、最短で、真っ直ぐ………

「一直線にいぃぃぃ!」

 長剣の攻撃スキル【刺突】
 切っ先に赤いライトエフェクトを撒き散らしながら、後退するワータイガーの眉間を貫いた。
 一気にワータイガーのHPがなくなり、爆散したかのようにポリゴンの光となった。
 
 ようやく一体倒した。

 技後硬直が解けた僕は次の獲物に狙いを定めて斬りかかっていった。







 
 
 

 
 

 
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