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第4章 NPC

第百三十四話

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 アルフヘイムの街並みは未だ混乱していた。
 まあ、突然魔物が襲ってくるから避難しろって言われたらこうなるよね(苦笑)
 クエストが始まり、先程キングタイガーとその他大勢の魔物が西にある正門近くから攻めてきたらしい。
 地響きや爆音が遠く離れたここからでも聞こえてくる。

、ご命令を」

 王国騎士団第五大隊隊長、シオン・エム・ハイアールヴ(美女)さんが僕に指示を促してきた。
 第五大隊の騎士84人の視線が一斉に僕に向かれた。

 うぅ…持病のコミュ障が………!

 ドッドッドッドッ!と鼓動が早鐘のように鳴り響いている。

 ていうかどうしてこうなった?
 
 僕は街の警備のほうを選択し、騎士団長の指示に従って第四騎士団に合流したら、何故か僕が隊長になってしまった。
 ていうかカイ達とスカーレットさんのPTと合わせて計95人の大PTのリーダーなんて重荷でしかない。
 他のゲームじゃレギオンレイドクラスの人数だよ。
 こういうレイドでただ指示に従ってプレイしてた僕が、いきなりこんな大人数に指示なんて出せないよ…

 いつまでたってもなにも言わない僕に焦れたのか、シオンさんがルーネの耳元に顔を寄せたのが見えた。

殿、本当にこの者で大丈夫なのでしょうか?正直、私は不安でたまりません」
「大丈夫ですよ。ああ見えてファントムさんは指揮官として有能ですし、【司令官】スキルという強力な力を有しているのですから」

 聞き耳を立てていた僕はちょっと待てと心の中でツッコミを入れた。
 もしかして僕を隊長に推したのはルーネか!?
 しかも僕のスキルばらしてるし。

「それとシオン、僕のことは普通に名前で呼んでください」
「恐れながらそれは不敬かと…」
「今の僕はですよ?王族でも貴族でもありません」
「………善処致します」

 そういえばルーネの家って貴族だっけ?
 あれ?お婆ちゃんが王族で冒険者だったっけ?
 ぶっちゃけルーネのにあまり興味なかったから聞いてないし忘れちゃったよw

「街の人たちを避難させればいいんでしょ?どこに避難させるのよ?」

 スカーレットさんがシオンさんに訊ねてきた。

「あ、ああ、それはこの区画の地下にデックアールヴの街に繋がる転移門がある。緊急避難場所として向こうの許可は下りているので、まずは民をそこへ移動させるのだ」
「地下ね。場所は?」
「この先1ブロックの場所に通路がある。部下に命じて案内させようか?」
「うんお願い」

 スカーレットさんは「ねえ!」と僕に声をかけると

「ちょっと避難場所の確認してくるね」
「あ、はい、わかりました」
「じゃあ避難誘導よろしく」

 そう言ってスカーレットさんはお仲間達とともに案内役を命じられた騎士について行ってしまった。

「とりあえず、僕達は手分けして街の人達の避難をしましょうか?」

 スカーレットさんを見送りながら僕はシオンさんにそう提案してみた。

「承知致しました。総員注目!部隊を7班に分けてこの区画にいる民を避難場所へ誘導する!」

 シオンさんは瞬く間に12人のPTを7つ編成すると「1班はC-1から捜索。2班はC-2を」などとテキパキ部下達に指示を出していく。

 すごいなぁ…できる女上司って感じだ。
 この人が部隊の指揮をとればいいんじゃないの?
 何故に僕…ていうか【司令官】スキルのせいか。
 このスキルを持ってるPCがPTリーダーになるとNPCのステータスがアップする。
 僕の【司令官】スキルはまだレベル1だけど、25%上昇する効果がある。
 他のバフ、魔法やスキルで重ねがけすれば、かなり強化できるし。
 それでも、僕が隊長リーダーというのはどうしても抵抗がある。
 ルーネもなんで僕を推したの?僕そういうキャラじゃないよ。
 どうもゼルをはじめとしたギルドメンバーは僕のことを過大評価しすぎてる気がする。
 こういう時ゼルがいればいいのに…:-c

「ていうか、ゼルはこんな時にどこに行ったんだろう…?」

 アルフヘイム内にゼルのアイコンというか反応はない。
 転移門でどこかの街に行ったのか、それとも外にいるのかわからないけど、少なくともメニューでギルドメンバーのステータス状態を確認した限り死んではいないことは確かだ。

「全くゼルの野郎、どこで油売ってるんだか」

 僕の呟きに返事を返したカイが同意するように答えた。

「いない人のことを考えても仕方ないでしょ。それで、あたし達はどうするの?」
「僕達も避難誘導しに行こうか?」
「お待ちください、隊長はここで陣頭指揮を願います」

 アーチェさんの問いに返事を返した僕にシオンさんがそう言ってきた。
 えええ…それはシオンさんがやった方が良くないですか?

「報告します!」

 そこへ騎士の人が駆け込んできた。

「南西D区画の城壁が破壊され、魔物が侵入してきたとのことです!」

 やっぱりこうなったか………
 こうなることを予想していたけど、あまりに早すぎない?

「シオンさん、近くの部隊に迎撃命令を。民の避難を優先して魔物から守ってあげてください」
「はっ!聞いた通りだ、伝令急げ!」
「みんな、僕達は魔物の撃退に行くよ。あ、それとスカーレットさん達に撃退の指示をお願いします」
「はっ!了解しました」

 敬礼して答えるシオンさんに背を向けて、僕はみんなとともに魔物が侵入した区画へ駆け出した。










 
 
 

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