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第3章 ソロプレイヤー

第八十四話

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「男漁りも大概にしなさい。アーデ、貴女あなたの使命を忘れたの?」
「ハァ?私はちゃんと使命を果たしてるわ。なにもしてないアンタに言われたくないのだけど?」
「私は貴女のお目付役。貴女が羽目を外し過ぎないように止めるのも私の役目のひとつ」
「あら?恋愛は自由でしょ。その事でとやかく言われる筋合いはないわ」

 アーデさんとミストルティンさんの二人が額をくっつけ合うくらいの近さで言い合っているのを、僕はただ黙って見ていることしかできなかった。
 うーん…「じゃ僕達はこれで」と帰れる雰囲気じゃないような感じなんだけど、これどうしたらいいんだろう………

「おいヴァイス。どうにかしろよ」
「…あの混迷渦巻く力場の中に…立ち入る事は例え堕天使でも…無理…」
「元はと言えばお前があのについて行ったのがいけねーんだぞ」
「…不可抗力。抗えない力を感じた」

 僕の隣でひそひそと話し合っているゼルとヴァイスを横目に、僕はこっそりとため息をついた。

「っ!?」

 僕の視界の片隅に映っているルーネさんのHPゲージがしているのに気がついた。
 
「ゼル、ヴァイス!急いで戻るよ!」

 僕は踵を返して走り出した。
 PTパーティ登録しているメンバーのHPゲージは僕のHPゲージの下から順番に並んでいる。
 僕、ゼル、ヴァイス、そしてルーネさんのHPゲージが僕の視界の片隅に表示されているんだけど、たったいまルーネさんのHPが僅かだけど減少したのを目にした。
 恐らく魔物と交戦している。
 大森林の魔物はそんなに強くない感じだけど、今のルーネさんのレベルじゃ一人はキツい。
 馬車を襲われたか?
 ニールさんのことも心配だ。
 僕は駆ける足を更に速めて全力で走る。

「兄貴!一体どうしたんですか!?」

 ゼルが僕の横に並んで問いかけてきた。

「ルーネさんが戦ってる!」
「なっ!?」

 ゼルはその一言で理解できたのか僕を余裕で追い抜いていった。

「先に先行します!」
「無茶しないでね!」
「了解です!」

 ゼルの姿があっという間に見えなくなった。
 ていうか速っ!
 僕はちらりと後ろを振り向くと少し離れてヴァイスも後に続くように走っているのが見えた。
 
 よし。あの二人(というか二体?)は追いかけてきてない。
 
 ほっと安心する僕。
 どさくさに紛れて逃げちゃったけど、今はルーネさんの方がなによりも優先だ。
 今も少しずつルーネさんのHPが減っていっている。
 ヤバかったら逃げろって言ったんだけどな…逃げれない状況なのか?
 とにかく急がないと…!
 僕は駆ける足を緩めずにルーネさんの下へ走り続けた。


 視界のMAPにルーネさんとニールさんの光点が映った。
 そして二人を囲むように複数の
 そのいくつかとぶつかり合っている同じ色の光点はゼルだろう。
 ゼルが交戦に入ったのかゼルのHPも徐々に減っていっているのを確認した。

「ヴァイス、範囲内に入ったらゼルとルーネさんに回復魔法を」
「…了解!」

 攻撃範囲に入ったら思いっきりぶっ放してやる…!
 僕は湧き上がる怒りで全身震えていた。
 目元がピクピクと震えてもいる。
 前方にゼルと斬りむすんでいるの姿が見えた。

「やっぱり…!」

 PCを示す色は基本青。
 でもなにかしらの犯罪行為、ペナルティを犯したPCは一定期間オレンジ色に変わる。
 まさかのPK?
 まさかペナルティの厳しいこのゲームでもこんな奴らがいるなんて思いもしなかったよ。
 とにかくみんなを守らないと………
 僕は左手に持った盾をギュッと握りしめると、ミスリルの盾が強く輝いた。

「ゼル避けて!」

 ゼルが退がるのを目にした瞬間、僕は盾をゼルと戦っていた黒ずくめに向けた。

「【シールドブラスト】!」

 突き出した盾から純白の輝きが迸った。
 凄まじい勢いで盾から放出した光線が黒ずくめに直撃した。
 空気が激しく唸り、周りの木々がざわめいている。
 僕は光線を放出させたまま走り続ける。
 光属性の効果を持つ【シールドブラスト】は盾からビームを出す攻撃スキルだ。
 MPが続く限り光線を出せる魔法寄りのスキルを発動させたまま、僕は黒ずくめのほうに駆けていく。
 黒ずくめは両腕を交差して僕の攻撃スキルをガードしていた。
 ジリジリと黒ずくめのHPを削っているけど、大したダメージは与えられていない。
 僕よりレベルが上か、若しくは光属性に耐性があるのか、それとも両方なのかは知らないけど、このまま足止めをしたまま距離を詰める。
 他の黒ずくめ達が一斉に僕のほうに視線を向けた。
 普段の僕なら大勢の人に見つめられると萎縮してしまうところだけど、今は怒りのほうが強い。
 こんな奴らの目を気にする必要はないくらいに僕のハラワタは煮えくり返っていた。

「逃がさない…!」

 黒ずくめは光線から逃れて僕から距離を取ろうとしているみたいだけど、僕は【シールドブラスト】を逃げる黒ずくめに合わせて照射し続ける。
 絶対に逃がさない…!
 僕は間合いに入ると【シールドブラスト】を解除し【心眼】を発動。

『ファントムのDEXが50%上昇しました』
『ファントムのAGIが50%上昇しました』

 僕は槍を黒ずくめに向かって繰り出した。
 狙いは心臓。【心眼】で大幅に補正された僕の命中率は狙い通りに黒ずくめの左胸に突き刺さった。
 更に僕はトリガーを引いた。
 シリンダーが回転し槍の刃から杭剣が炸裂する。
 何度も何度もトリガーを引き続ける僕。
 バァン!バァン!と銃声のような音が響き渡る。
 衝撃槍に装填された杭剣を何度も黒ずくめの中で撃ち出していると、黒ずくめの左胸に大きな穴が空いた。
 そして黒ずくめのHPがゼロになり、ポリゴンのカケラとなって粉々に砕け散った。
 その場に死亡マーカーが現れる。

『ファントムのカルマ値(悪属性)が100上昇しました』
『大罪の業【憤怒】が一時解放されました』
『【憤怒】の業値が10上昇しました』

「ふーっ…!ふーっ…!ふーっ…!」

 カチッカチッと引き金を引き続ける音と僕の激しい息遣いがうるさいくらいに響き渡っていた。
 黒ずくめ達に目を向けると、ビビったのかちょっと引いている感じがした。

「【ペネトレイト】!」
「【ヒール】…【ヒール】…」

 ゼルの即死攻撃スキルが黒ずくめの一人を倒し、ヴァイスの回復魔法がルーネさんとゼルのHPを回復させた。

「ファ、ファントムさん…」

 ルーネさんがハンマーを構えたまま、僕のほうを見た。
 目にいっぱいの涙を溜めて僕を見つめている。
 僕はもう大丈夫だよって伝わるように微笑んで頷くと、黒ずくめ達を睨みつけた。
 こんな可愛い子(美少女なのか美少年?なのか未だに聞きづらくてわからないけど)を苛めた罪は重いぞお前ら…!

「ヴァイス!全員にプロテクション!ルーネさんのフォロー!」
「…了解」
「ゼルは連携2!合わせて!」
「了解です!」

 僕が二人に指示を出している間に態勢を整えたのか、黒ずくめ達がそれぞれの武器を構えて身構えた。

「この野郎、調子に乗りやがって」
「まだこっちの方が数は上だ!」
「短剣使いはオレとAで抑える!お前らはファントムをやれ!」

 …二人倒したけど向こうはまだ八人いる。
 怒りが多少治った僕は冷静に戦力差を分析しようと努めた。
 黒ずくめ達は一見全員が盗賊系の職業に就いてるように見えるけど、剣や杖を構えているところを見ると暗殺者っぽいコスプレをしているだけのようだ。
 どっかで会ったような格好の奴らを見て、僕はようやく気がついた。
 コイツらmasatoの仲間っていうか、決闘した時にいた面子かな?
 殺し屋Aとか頭上に浮かぶ名前になんか見覚えがあるし。
 ていうかもう牢獄から出てきたのか…
 みなさんお金持ちですね:-]

 とはいえ、この状況はちょっとマズイな…

 勝算はないわけじゃないけど、ゼル達を死なせたくない。
 蘇生魔法やアイテムがない状態で戦いたくないな。
 ジリジリとこちらに詰め寄ってくる黒ずくめ達を目にしながら僕は必死に打開策を考えていた。
 
 そんな時、地面が揺れた。

「!?」
「なんだぁ!?」

 ドスンッ…ドスンッと地面を揺らす音にこの場にいる全員が混乱していた。
 
「…来る」

 ヴァイスが視線を森へ向けて呟くのが聞こえた。
 森の木々をかき分けながら、なにかなモノがこちらにやってくる…!
 魔物か!?
 僕はまだ混乱している黒ずくめ達を警戒しながら槍と盾を構え直した。

 
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