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第3章 ソロプレイヤー
第八十話
しおりを挟む『パーティメンバーのルーネが冒険者(ランクF)になりました!』
「ふわぁ…!これで僕も冒険者になったんですね!」
目を輝かせて自分の冒険者カードを見つめるルーネさん。
ようやく順番を経てルーネさんの冒険者登録ができた。
「すみません。あとクエスト受けたいんですけど」
「はい。かしこまりました。どのような依頼をご希望ですか?」
「えっと………」
僕は攻略サイトを見ながら口を開いた。
「ランクFの【大森林の薬草採取】と【助手募集】ってクエストなんですけど…」
攻略サイトによると【薬師】が解放するクエストは【大森林の薬草採取】
あと【学者】は【助手募集】のクエストをこなせば転職可能になれると記載されていた。
「少々お待ちください」
受付嬢のお姉さんはそう言うと立ち上がり、奥へ引っ込んでしまった。
うぅ…後ろに並んでる人達が早くしろと言ってる気がする。
例えるなら混んでるレジでもたもたしてる人にイラつくような感じ?
そんなプレッシャーがヒシヒシと伝ってくる。
すぐに受付嬢のお姉さんが戻ってきた。
手には何枚か依頼書を持っていた。
席についた受付嬢のお姉さんはカウンターに依頼書を並べていく。
「こちらがご希望の【大森林の薬草採取】です」
『クエストランクF【大森林の薬草採取】依頼主ニール。商業区2番通り2-8ポーション専門店。報酬5000G』
うん。これで間違いないかな。
「【助手募集】ですがいくつか同様の依頼がありましたのでご覧下さい」
えっ!?いくつかあるの?
『クエストランクF【助手募集】依頼主シュタイン。居住区9-8-5。報酬800G』
『クエストランクF【助手募集】依頼主マッド教授。居住区神殿。報酬10000G』
『クエストランクF【助手募集】依頼主アトラ教諭。管理区1-3。報酬1000G』
………どれ?
僕は慌てて攻略サイトを見直した。
どれだよ!?【学者】になれるクエ。
「チッ早くしろよ」
「遅いんですけど」
などといった呟きが後ろの列から聞こえてくる。
僕はすみませんすみませんと胸の内で謝りながら攻略サイトを見直していると………
「五月蝿えぞコラ!」
ゼルが後ろの列に向かって怒鳴った。
「………………」
一瞬、組合内が静寂に包まれた。
「ったく、黙って待つこともできねーのか…終いにはぶっ殺すぞ」
「…口だけの愚民共。囀る事しかできないのか?」
「はわわわわ…!」
ゼルが物騒なこと呟いてるし、ヴァイスも見下したような冷たい目で後ろのPC達を睨みつけている。
「ちょっと二人とも、そう言うこと言わないで。ルーネさんが怖がってるでしょ!」
「ですが兄貴。コイツらムカつくんですよ。ブツブツブツブツ聞こえよがしに言いやがって」
「…右に同じく」
「ま、まあまあ二人とも抑えて」
な、なんでこんなにゼルとヴァイスがキレてるの!?
なんでそんなにムカついてるのか意味がわからない。
「なにあれ?感じ悪…」
「アイツNPCだろ?やっちまうか」
「バカ、NPCでも揉めたらパクられるぞ」
ヤバイな…なんか険悪な雰囲気になってきた。
「すみません、やっぱいいです」
この場からすぐに立ち去りたくなった僕は薬草採取のクエストだけを受注すると、苛立つゼル達を連れて足早に冒険者組合から出て行った。
「ああいう場では揉め事厳禁。わかった?」
「ですが兄貴。アイツら兄貴のこと目の敵にしてるんですよ。弟分として黙ってるわけにはいかないです」
はい?
僕はわけがわからず首を傾げた。
僕がもたもたしてたから後ろの人達がイラついてただけでしょ?
僕がもし列に並んでたら言葉にはしないけど早くしろよって思ってたと思うし、そもそもなんで僕を目の敵にしてるというそういう話になったのか意味不明なんですけど。
「前に兄貴がタイマンはってぶっ殺したヤツの仲間がいました」
え?
masatoの仲間が後ろの列に並んでいたの?
全然気づかなかった…
まあ、あの時僕達を襲ったメンバーの顔と名前なんてもう覚えてないし、僕がいない時に加入したメンバーだったら尚更わからない。
「きっと兄貴に恐れをなして手が出せない代わりにグチグチ言うことしかできないんですよ。…ったく、ムカつくったらありゃしない」
「…右に同じく。口だけ臆病者ムカつく…!」
ああ…二人がムカついている理由がなんとなくわかって納得してしまった。
特にゼルは一回殺されてるから余計にムカつくんだろうね。
「気持ちはわかるけど、こっちから先に手を出しちゃダメだよ?ああいう輩は無視が一番いいんだから」
迷惑行為をするPCは基本無視が一番。
マッチングしないようにブロックとかできたらいいんだけど、このゲームそういう機能付いてないんだよな…:-/
「そんな事よりクエスト行こうよ?」
気を取り直して僕はみんなに提案した。
「了解です…」
「…了解」
「はい頑張ります!」
不承不承ながら了解しましょう的な感じで頷くゼルとヴァイス。
対照的にやる気に満ちた表情で頷くルーネさん。
助手のほうはもう少し詳しく調べてからでも問題ないし、とりあえず僕達は【大森林の薬草採取】をこなす為に依頼主の下へ行くことにした。
◇
「いやあ助かりました。ちょうど在庫が心許なかったんですよ」
依頼主のニールさんが柔かな笑みを浮かべて言った。
商業区にあるニールさんの店に辿り着いた僕達は依頼の件で来たことを告げると、待ってましたとばかりに笑顔で出迎えてくれた。
そして早速薬草を採りに行くことになったんだけど、依頼主のニールさんも同行することになった。
なんでも専門家でないと見分けがつかない薬草があるらしく警護も兼ねて依頼したらしい。
どうりでランクの割に報酬が高めなわけだ。
目的地はアトラスから東にある妖精の森。
その手前の大森林と呼ばれる場所で薬草を採るようだ。
ニールさんは馬車を用意してくれたのでその馬車に乗って僕達はアトラスから出発した。
行者はニールさん。
その隣には僕が座り、ゼルは馬車の上に乗って辺りを油断なく見張っている。
馬車の中にはヴァイスとルーネさんが待機。仲良く話しをしていた。
「………」
「………」
僕とニールさんの間に会話はない。
僕はなんとなく気まずくて、なにか喋ろうとは思うんだけどなにを話していいのかわからず口を閉ざしていた。
無理して話すことはないか…いやでもなにか話したほうがいいのかな?
胸の内で葛藤しつつ辺りを警戒しています的な感じでキョロキョロしてる僕。
平原を抜け森の中の街道をゆっくりだがかなりの速度で走っている。
体感で六十キロくらいかな?
馬車にしては速い気がするし揺れもそんなに酷くない。
現実で乗ったことないからよくわからないけど、これくらい快適ならお金貯めて馬車を買うのもアリだなと思った。
森は太い木々が真っ直ぐ伸びていて見事な枝が広がっていた。
そのせいなのか日差しがあまり入らなくて薄暗く若干視界が悪い。
ニールさんの話だとこの先に人間種の村があるらしいけど、そこには寄らずに違う道から採取場所に向かうらしい。
しばらく走っていると眠くなってきた…
心地よい揺れのせいなのか薄暗いせいなのか段々瞼が重くなってきた。
欠伸を噛み殺しながら乗っていると………
「兄貴!前方に敵の気配、魔物です!」
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