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第3章 ソロプレイヤー
第七十八話
しおりを挟む「ふむ…」
イングリッドの工房でディーノさんはルーネさんの打った剣を目利きしていた。
「ドキドキ…」
ディーノさんの評価を固唾を飲んで待っているルーネさん。
アトラスに転移した僕達はそのままイングリッドへ行きルーネさんを紹介した。
事情を聞いたディーノさんはルーネさんの腕を知りたいと言い工房へ案内。
試しに剣を打ってみろと言われたルーネさんは緊張しながらも真剣な眼差しでハンマーを振るった。
結果………
「はっきり言うがお前さんには才能がない」
「そんな…!」
バッサリと言われたルーネさんは愕然とした表情をして数歩後ずさった。
「エルフは森の加護を受けた自然の種族だ。自然に反する金属器を扱うのはある種の禁忌に属する。中には金属器を扱える者がいるが、そういった者は極稀だ。お前さんは典型的なエルフだから金属器を扱う才能はない」
「………」
ディーノさんの言葉を呆然と聞くルーネさん。
才能がないから諦めろか…
ルーネさんの作った剣を見て思ったけど、これは依頼失敗かな。
「それでも…僕は諦めたくないです…!たとえ才能がなくても、僕はお婆ちゃんの意志を受け継ぎたい…!」
「そうは言うがな、いくら修行しても無駄だぞ。扱う金属がお前さんを拒否してる」
「なあ親父さん。なんとかなんねえのか?」
見かねたゼルがディーノさんに訊ねると首を横に振った。
「こればかりは流石にな…」
「あの…」
僕はふと思いついたことをディーノさんに聞いてみたくなった。
「扱う金属って、ハンマーとか金床とかの道具ですか?そのせいで打ってもまともなモノが作れない?」
「それもあるが、鍛治に使う火も森の妖精の末裔であるエルフとは相性が悪い」
なるほど…道具を金属以外のモノにしても駄目か。
「仮に金属ではない道具で剣を鍛えても炉を起こす火の所為で出来の悪い粗悪品が多少出来の悪い物になるだけだな」
「ねえルーネさん。火系統の魔法って使える?」
「え?えっと初級のファイアーボールくらいなら使えます」
「普通に使える?」
「ええまあ…」
うん…魔法はいいのか?
なんだろう…?なにかが引っかかる。
「火系統の魔法ってレベル上がれば高位の魔法も使えるのかな?」
「はい条件次第では。僕達エルフは火属性の上級魔法を行使する時は火属性の精霊と契約を結ぶことで行使することができます」
「じゃあ火属性の精霊と契約して、火系統の魔法で武具を鍛えればいいんじゃない?」
「おいおい兄さん…それじゃあ火が強すぎて炉が耐えられねえぞ」
「そこは調整すれば問題ないんじゃないですか?」
「まあ…それはそうだが、兄さんはひとつ失念している」
「はい?」
「防具は素材次第でなんとかなるかもしれんが剣は難しいぞ。鍛えてる途中でどうしても品質が悪くなる」
…剣は金属器になるからか。
どうしよう…結局駄目か。
「…なら刻印を刻めばいい」
ヴァイスが口を開いた。
「なにその刻印って?」
「…刻印というのは付与魔法を武具に刻み込む技術…」
「ふわぁ…!じゃあその刻印を覚えたら僕も立派な鍛治師になれますか?」
「…(こくり)…多分?」
「おいおいちょっと待て。そんな簡単に言うが、刻印を使える職業がなんなのかわかって言ってるのか!?」
刻印か…知らないスキルだけど、ディーノさんの口調からして珍しい職業なのかな?
「…真なる付与魔導士と、錬金術師を極めた鍛治師が習得可能…」
「わかってて口にしたのか…それは幻の上級職【付与錬金鍛治師】だぞ?今じゃ誰も到達していない幻の職業だ」
「幻の職業…ふわぁ…!なんかカッコいいです!」
なんか、ルーネさんが夢見る少年(乙女?)の顔になってる。
「でも親父さん。その職業になれりゃあ、ルーネでもまともな武具を作れるようになるんだろ?」
「…確かに可能性はあるが」
「なら俺らがサポートするからよ、親父さんも協力してくんねえか?」
「幻の上級職だぞ?はっきり言って夢物語に等しい」
「僕頑張ります!」
ルーネが大きな声で宣言した。
「いっぱいレベルを上げていつか【付与錬金鍛治師】になります!だから僕を弟子にしてください!」
「い、いや…しかしだな…」
「お願いします!」
ルーネさんが飛び上がり宙空で一回転するとそのまま膝を折って跪き、三つ指をつくと床に額を叩きつけるかのような勢いで頭を下げた。
こ、これはジャンピング土下座!?
「お願いします!僕に、鍛治を教えてください!」
「親父さん、ルーネがここまで言ってんだ。こいつの熱意を買って弟子にしてやれよ。」
「…不確かな未来の、先行投資…」
ゼルがディーノさんの肩に手を置いて説得。
それからヴァイス。そういうこと言わない。
なにやらディーノさんが腕を組み、ぶつぶつ呟いて考え込み始めた。
あれ?なんか迷ってる。
これは後押しすればなんとかなるかも?
「ディーノさん、僕達もできる限りの協力はしますから」
「…わかった。ただし一つ条件がある」
「!?それはなんでしょうか!僕、なんでもやります!」
ガバッと頭を上げて訊ねるルーネさん。
「ルーネだったか。望み通り鍛治の修行は教えてやっていい。だがそれだけじゃ上級職なんて夢のまた夢だ」
ディーノさんは僕の方に顔を向けた。
「そこでだ兄さん。この子を兄さん達のパーティに入れて鍛えてやってくれないか?」
「はい?」
「【付与錬金鍛治師】は鍛治の修行するだけじゃなれねえだろ?ここで俺が鍛治を教える。兄さんらはこの子を冒険に連れて行って【付与錬金鍛治師】に必要な職業を鍛えてやってほしい。それが条件だ」
えぇぇマジっすか…
「兄貴どうしますか?俺は別に構わないと思いますけど」
「…【付与錬金鍛治師】…伝説の妖精王ヴェルンドと同じ職。…ククク。堕天使の使徒の仲間に相応しい」
「ファントムさん!僕をパーティに入れてくださいお願いします!」
どうしよう。
よく考えたら上級職なんてすぐには無理だよね。
ていうか付与錬金鍛治師ってなに?
転職できる条件はなに?
ヴァイスの話だと真なる付与魔導士と錬金術師と極めた鍛治師って言ってたけど、極めるってレベルはCSってこと?
スキルはレベル十でCSするけど、そもそもアプデでレベル上限どんどん解放していくのにCSは無理でしょ?
そもそも依頼はどうなる?達成?保留?それとも失敗?
まあでも、ヴァイスの他に後衛の魔法職がいれば心強いか?
ヴァイスが勇者になるかもしれないし、どっちみちもう一人後衛の魔法職がいると助かるか?
メリットとデメリットを計りにかけて考える僕。
悩みに悩んだ結果、僕はルーネさんを仲間にすることにした。
まあ乗りかかった船だし最後まで付き合おう。
お世話になってるディーノさんの頼みでもあるし僕達とルーネさんの利害は一致してる気がするしね。
『特殊クエスト【エルフの就職活動】が特殊クエスト【そして伝説へ…(エルフ編)】に変わりました』
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