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第3章 ソロプレイヤー
第七十六話
しおりを挟む「………………」
いきなり土下座したエルフの少年を目にした僕は遠巻きに様子を伺った。
「何度頼まれても駄目なもんは駄目だ!帰んな」
「…わかりました。失礼します」
立ち上がったエルフの少年は、トボトボと店の外へ出て行こうとする。
それを横目に僕は一体なにがあったんだろうと首を傾げた。
エルフの少年が店を出て行くとゼルが追っていってしまった。
え、ちょっとゼルさん!?
慌てて僕も後を追って行くと店の外でゼルがエルフの少年に話しかけていた。
「なにか訳ありかい?なんだったら話を聞いてやるよ?」
「………」
ゼルっていうか、連いてきた僕とヴァイスを見て警戒した眼差しを向けるエルフの少年。
そりゃいきなり声かけられたら警戒するよね。
「そう警戒することはねえ。この人達は俺の兄貴分と冒険者仲間だ」
「冒険者…」
どうでもいいけどゼルって僕以外の人と話すときって口調ががらりと変わるよね。
まるで別人のようになるからリアクションに困る。
「あ、あの…僕フォレスト族のルーネと言います」
意を決したかのような硬い表情でエルフの少年…うん?少年?名前がなんか女の子っぽいけどこの子もしかして女の子!?
中性的な美少年かと思ってたけどボーイッシュな美少女だったのか!?
…いや、でも自分のこと僕って言ってるし男子か…?いやいや僕っ娘という可能性も………
内心驚く僕を他所にルーネくん?ちゃんは僕達に勢いよく頭を下げた。
「冒険者のお兄さん!僕の依頼を聞いてください!」
ルーネ…さん(どちらかわからないので無難にさん付け)がそう言った瞬間、ルーネさんの頭上に『!』が現れた。
おいおいクエスト発生しちゃったよ…。
仕方ないので僕はゼルに事情を説明し始めたルーネさんの話に耳を傾けた。
ルーネさんは東の森の奥にある【妖精の森】から鍛治の修行をしにやってきたエルフで、弟子をとってくれる師匠を探しているらしい。
しかしドワーフとエルフは昔から仲が悪くてどこも雇ってくれなくて困っているようだ。
なんでもこの五百年くらい前の時に起こった戦争のせいで未だに禍根を残している設定のようだ。
今も休戦協定を結んでいるだけで、なにかあれば両国とも即戦争できる状態を維持しているらしい。
ていうか、敵国と言っていいこんな所まで来て鍛治の修行って……
怖いもの知らずというかなんというか、ある意味すごいなこの子。
見た目中学生くらいなのに…ていうかエルフだから見た目より年上なんだろうな。
「どこも僕のようなエルフは弟子にしてくれないんです…」
うん。当然だと思うよ。
クエストフラグ立ったけどこれ無理じゃない?
「事情はわかった。俺達に任せな」
「ええ!?」
ちょっとゼル!なにを勝手に………
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「だが、俺達は冒険者だ。それ相応の報酬が払えなきゃ動かねえ」
ルーネさんはアイテムストレージからなにかを取り出した。
なんだろアレ?…指輪?
なんの装飾もない銀の指輪を手のひらに乗せて僕達に見えるように見せた。
「…手持ちのお金がないので僕を弟子にしてくれる人を紹介してくれたら、これを報酬としてお支払いします」
「これは?」
「亡くなったおばあちゃんの形見です」
「いいのか?そんな大事な物…」
「いいんです。なにかあったらこれを売って足しにしろと言われましたし」
「そうか…【鑑定】してもいいか?」
「はいどうぞ」
ゼルはルーネさんから指輪を受け取った。
そういえばゼルって鑑定スキル持ってたっけ。
受け取ったゼルは指輪を摘むように持って目の前に掲げると【鑑定】を発動させた。
ゼルの瞳に淡い光が灯る。
ちなみに【鑑定】は文字通りアイテムの鑑定ができる。
僕はまだ被害に遭ったことはないけど、とある怪しい店やクエスト報酬で偽物を掴ませられることがあるみたい。
例えば見るからに怪しさ満載の骨董品屋で購入したある業物の剣(例:物理攻撃力+300、魔法攻撃力+300、光属性付与、闇属性特効:特大)が購入し、いざ使ってみると偽物の剣(物理攻撃力+3)に化けていたり、裏ギルドで請け負った報酬のアイテム(例:ラストエリクサー)を受け取ったはいいけど後で使ってみるとゴミアイテム(消費期限切れポーション)だったという被害が少なからずあったらしい。
怪しげな店で買ったりクエストを受けた時点でどうかと思うけど、そういう真偽を確認する為に鑑定というスキルが重宝する。
ゼルの【鑑定】のレベルはたしか六。中級くらいのアイテムの真贋なら見分けはつくか。
「なっ!?あ、兄貴!すごいですよこの指輪!」
「え?なにが?」
「【リョースリング】と言いまして、効果はINT倍加に光属性魔法無詠唱。CT0。あと他属性魔法詠唱短縮が付与されてます!」
「へえ…」
「っ!?」
ゼルの説明を聞いて気の無い返事をした僕に対して、ヴァイスが声にならない驚きの声を発していた。
まあ、僕魔法職じゃないし属性効果のスキルは一応あるけど魔法は習得してないからあまり興味が湧かなかった。
「…アレ絶対欲しい。アレがあれば我が闇を纏し光の奇跡が増大する…これはアールヴの子を助けろという堕天使の導き…依頼を受けようファントム」
珍しくヴァイスが多弁だ。
ていうか闇を纏った光ってなに?
「まあ…たしかにあの指輪があればヴァイスの回復魔法の使い勝手が良くなるか」
それを考えると良いアイテムだ。
CT0ってことは連続して同じ魔法が撃てるってこと。
アトランティスの魔法は詠唱を唱えて魔法を放つ。
使用した魔法は使用した魔法のCT(再使用時間とも言うけど)によって変動する。
例えばヒールは「慈愛の光よ」が詠唱。下級魔法だから詠唱は短い。
使用した後、次に使えるようになるCTが十五秒。
短いけど連続して使えるのは戦闘の時有利に働くだろう。
これから先ヴァイスが中級、上級魔法を習得していくなら無詠唱や詠唱短縮は必須になるか。
高位の魔法ほど詠唱が長くなるしね。
詠唱無しで連続使用できるのは確かに心強いと思う。
後先考えずに使いまくったらすぐMP切れるだろうけど、そこは考えて使えばいいだけだし。
「よし…善は急げ…」
ヴァイスがルーネさんの手を引いて歩き出した。
「おいちょっと待てよヴァイス!兄貴、俺達も後を追いましょう!」
ゼルが僕の手を引いてヴァイスの後を追いかけ始めた。
ええー!?ちょっと僕まだ受けるとは一言も………
『パーティーメンバー、ゼル、ヴァイスが特殊クエスト【エルフの就職活動】を受注しました』
「あーもー!仕方ないなもう!」
報酬もいいと思うしこうなったら受けてもいいか。
うまくいけばヴァイスの強化にもなるし、困ってる人を助けるクエも悪くない。
難しいとは思うけどね…
ていうか、二人とも行動力ありすぎ…
苦笑いを浮かべながら僕は大人しく連いて行くことにした。
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