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第3章 ソロプレイヤー
第六十二話
しおりを挟む「こっちこっち!」
【商業区】のメインストリートから外れた路地裏を疾走する二人。
見た目美少女に手を引かれて走るイケメンの図を想像した僕は、なんか昔観た映画を思い出した。
人気を避けて通る路地裏の隙間は薄暗く小汚い。
ぶっちゃけこんなとこ通りたくなかったけど、ちーずプリンさんが僕のことを心配してここの裏道を通ること決めてしまったから仕方なしと諦めた。
(まるで本当に追っ手の魔の手から逃げる主人公とヒロインみたいだ…)
T字路に差し掛かると、ちーずプリンさんは右か左、どっちに行こうか迷った末にメニュー画面を出した。
「ここがここでしょ?ならこっちにいけば…ダメっそっちはヤツらがうろついてた」
などとブツブツ呟いているちーずプリンさん。
「あの…どこ行くんですか?」
「どこって、逃げるに決まってるじゃん!」
「だからどこに?」
「えーと、えーと…とにかくどこか!」
あ、ダメだこの人…行き先決めずに逃げ回ってたのか…
「じゃあとりあえず転移門に向かいませんか?」
「落ちれば逃げ切れると思うけど、絶対そこはられてるよ?」
「まあ、人多いし見つからないかもしれないし、見つかっても無視して転移しちゃえばいいんじゃないんですか?」
「でも…」
「いたぞ!こっちだ!」
いきなり後ろから声がした!?
振り向くと誰もいない。
マップにもなんの反応もない。
一体どこから声が…?と僕が疑問に思っていると
「ヤバイ!見つかったよ!」
ちーずプリンさんは僕の手を掴んで再び駆け出した。
されるままについていく僕。
ちーずプリンさんに引かれて僕らは左へ進んでいった。
狭い脇道に入りこむと分かれ道の度にちーずプリンさんは右へ左へ迷いなく曲がっていく。
追っ手を撒くために適当に走ってるのかな?と手を引かれたままついていく僕はそんなことを思っていた。
しばらく走っていると空き地にたどり着いた。
周りは民家に囲まれていて他に道はない。
行き止まりに差しかかってしまったようだ。
ちーずプリンさんは立ち止まると繋いでいた僕の手を離した。
「行き止まりですね。引き返しましょう」
僕がそう言うとちーずプリンさんは泣きそうな表情で僕を見つめた。
「ごめんね…」
ちーずプリンさんがそう呟いた瞬間、僕はようやく察した。
「ああ、そういうことね…」
いつの間にか来た道に見知らぬPCが数人追いついていた。
視界の片隅に表示されているマップにいきなり現れた青い光点。
かなり高レベルの【隠蔽】で僕らの後を追いかけていたんだろう。
「こんな人気のない場所に連れ込んで、PKでもする気ですか?」
「………」
僕の問いに気まずそうに黙りこむちーずプリンさん。
その顔を見ていると何故か裏切られたという気持ちが湧かなかった。
僕は道を塞ぐように佇んでいるPC達の方へ視線を向ける。
みんな一様に黒装束の衣装で固めている。
忍者みたいな印象を受けたけど、多分盗賊系の職業に就いているPCだろう。
さすがに習得条件を満たしたガチの忍者はいないと思うけど、かなりの高レベルなのは間違いない。
いや、攻略組を自称してるから忍者に至ってる人がいてもおかしくないか?
「無駄な抵抗はやめて大人しくついてこい」
黒ずくめの一人がそんなことを言った。
あれ?ここでやるんじゃないの?
てっきりここで襲われるのかと思っていた僕は拍子抜けした。
どうせ逃げられないだろうしこの状況にいい加減面倒くさくなっていた僕は、黒ずくめの言葉に頷いた。
こうして僕は黒ずくめの集団に囲まれて連行されていった。
連れられた先は転移門のある中央広場。
深夜なのに屋台は営業中で、美味しそうな匂いが漂っている。
他のPCも思い思いの場所で話をしていたり、屋台で買った串焼きやクレープなどを食べているのが目に映った。
こんな人の多い場所に連れてきて一体どうする気なんだろう?
もう帰っていいですか?って言いたいけど言い出せない状況だよね…
黒ずくめの集団は黙ってるし、僕を嵌めたちーずプリンさんもダンマリを決め込んでいる。
手持ち無沙汰な僕はメニュー画面を出すとニュースサイトを開いた。
メニューを出した瞬間、黒ずくめの一人がなにか言おうとしたみたいだけど、僕が見ているモノを見て結局口を閉ざした。
その人も暇なのか自分のメニューを出して指先で操作し始めた。
あの指の動きを予想するに、この人はなにかゲームをやり始めたな。
アトランティスのメニュー画面は不親切設定で他のPCにも見えてしまう仕様だ。
せめて他のPCから見えないようにしてほしいと思うのは僕だけだろうか?
ふと僕の周りを囲んでいる黒ずくめの人達に目をやると、みんなメニューを開いてなにかしら見たり操作したりしていた。
やってないのは辛そうに俯いて佇んでるちーずプリンさんだけ。
僕はそんなちーずプリンさんを気にしながらニュースサイトを見ていた。
「ようファントムっち。おひさ~」
どれくらいの時間が過ぎたのか、いい加減飽きてきた頃に聞き覚えのあるあの人の声が聞こえてきた。
メニュー画面を消し、声のしたほうへ目を向けるとドンペリキングがいた。
チャラそうなホストっぽい顔は変わってないけど、装備は以前僕が目にした時と比べて別人のように様変わりしていた。
装備している鎧に盾、腰に差した剣は全てミスリル系で固めていた。
多分それなりに強化してるんだろうけど、ダンジョン攻略組(自称)なのにテンプレ最強装備ですかw
攻略サイトに載っているアトランティステンプレ最強装備(剣士系)のドンペリキングに僕は苦笑した。
レアなドロップ品でも鍛治で作製した特殊でもなく、ただのミスリル装備か…
バカにするわけじゃないけどダンジョンの最前線にいるんだったら、もっといい装備ドロップしなかったのかなとか思ってしまう。
「ファントムっち~、なに勝手に辞めちゃってるの?俺チョーショックなんだけど」
「つーかオメーよ、俺らにあんなことしといてワビのひとつもねーのかアアン!」
ドンペリキングの隣に並ぶように前に出てきて凄むのはmasato。
コイツもミスリル装備一式か。
あ、二人の後ろにいる女子、いちご大福は見たことない杖とローブを装備している。
なんだろうアレ?売られてるヤツじゃないな。ドロップ品か作製品かな?
相変わらずこの人はmasatoの腰巾着なんだろうな…ていうか彼女なのかな?どうでもいいけど。
「おいコラ!シカトしてんじゃねーぞ!」
大声で喚き散らすmasato。
広場にいた他のPC達が何事かとこちらに目を向け始めた。
ああもう…恥ずかしいから怒鳴らないでほしい。
「で…僕にどうしてほしいんですか?」
「んだその態度は!ナメてんのか!」
「まあまあ落ち着けってmasato」
キレるmasatoを宥めるドンペリキング。
「ファントムっち。俺さ色々あってギルマスになったのよ。それでさギルドをまとめるために色々決まりを作ったのよ。それでさその中に勝手に辞めるのは御法度みたいなルールがあってさファントムっちを探してたのよ。それに俺らにあんなことしといて一言もなく辞めるのは人としてどうかと思ったわけ?」
「はあ…」
「色々あったけどさ、俺的には仲直りしてモトサヤに戻りたいのよ。どうかなファントムっち?大人な対応みせて俺らに謝ってまた一緒にやらない?」
「お断りします。すみません」
即答する僕。
二度とアンタらとは組みたくない。
「ムカついたらしくてつい殴ってしまいました。ごめんなさい」
と言ってペコリと頭を下げる僕。
自分で言うのもなんだけど全然悪いって思ってない態度だよね。
「テメー!ワビ入れんなら土下座しろや!」
「あ、それはイヤです」
「アアン!?」
「まあまあまあ落ち着けって」
キレて詰め寄ろうとするmasatoを宥めるドンペリキング。
「ファントムっち。辞めるにしても条件があるんだよ」
「あ、聞きました。退会料でしたっけ?そんなの払う義理はありません」
「それは筋が通らないよファントムっち~」
「そもそもそんなこと聞いてないですから。第一、筋がどうとか言うんだったらその決まりってヤツなんで僕に伝えなかったんですか?」
「それはファントムっちが牢獄入ってたから…」
「メールはいつでも受け取りできましたよ?いくらでも伝えることできましたよね?それを怠っといて筋とか言うのは、それこそ筋が通らないでしょ?」
「いちいちうるせーんだよテメーは!」
masatoは僕の胸ぐらを掴んだ。
「…それ以上やると暴行になりますよ?」
「そうだって!落ち着けってmasato」
ドンペリキングが止めに入るとmasatoは舌打ちして掴んでいた手を離した。
僕を睨みつけるmasato。
「…勝負しろよ」
「はい?」
masatoはメニュー画面を出すと乱暴な手つきでなにやら操作し始めた。
「勝負しろよファントム!対人戦だ!」
『masatoから対戦申請を受けました。受領しますか?』
『yes』
『no』
masatoがそう怒鳴ると同時にシステムメッセージが現れた。
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