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第3章 ソロプレイヤー

第六十話

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 食事を終えた僕は自室に戻るとすぐにダイブオンを装着してベッドに横になった。
 ログインした先はアイゼン村の転移門。
 僕はそのままアイゼン村の転移門を使ってアトラスの街に転移した。

 行き先は特殊連続クエストを受けたあの武器屋。
【商業区】にある武器屋イングリッドに向かった。
 ゼルとヴァイスはアイゼンの村にある宿屋に泊まってるけど、もう夜だし【鉄鉱石】の納品するだけだから連れて行かなかった。

 相変わらずアトラスの街の転移門は人で溢れていた。
 広場を出てすぐの停留所にはPCの行列ができていた…。
 移動手段の馬車は混んでいるのを目の当たりにした僕は

「歩いて行くか…」

 そう呟いて【商業区】へ歩を向けた。
 メインストリートもPCでごった返していた。
 相変わらずの人混みで僕は辟易した。
 なるべく誰かと目を合わさないように道の隅っこを足早に進んでいく。
 
(知ってるPCひとに会わないといいな…)

 なんて思いながら人目を避けるように歩く僕。
 こういう時【隠蔽】スキル使ったらどうなるんだろう?
 ふとそんなことを考えついた僕は試しに使ってみた。
【隠蔽】のレベルは二で低いけれど自分より弱い魔物やPCから気づかれにくくなるスキルだ。
 十秒間にMPを一消費するという低コストなスキルだ。
 戦士職でMPが少ない僕でもけっこうな時間使い続けていられる。

 ちなみにこの系統のスキルは使えば使うほど熟練度が上昇していく。
 上昇率は微々たるモノだけどレベル十まで極めれば【忍者】の条件のひとつをクリアすることができると、塀の中で剣術の先生が言っていた。
 別に僕は【忍者】に興味はないしなりたくもないけど、将来的にゼルに就かせたら面白くなりそうだなと考えている。
 ヴァイスは白魔法の他に黒魔法も覚えてもらって【賢者】的な職になってくれたらいいなとも思っている。
 まだ塀の中にいるカイとアルフレッドは本人の希望もあった戦士系でいいと考えている。

 新しいギルドを立ち上げたらギルマス権限でNPCみんなの職業を変える指示を出せるし溜まっているSPも振り分けられる。
 それを考えるとなんか夢が広がるね。
 僕はキャラの職業やスキルツリーを考えて構成するのは楽しく感じるタイプだ。
 自分だけじゃなくみんなの構成も考えるとなんかテンション上がってくる。
 どれを目指してどう育てるのかっていうのはこういうゲームの醍醐味でもあると思うしね。
 ただでさえこのゲームは何通りあるのかわからない職業の派生や、なんかやっただけでスキルを習得できるし。
 そので色んな職業やスキルが生まれるから本当に悩む。
 そのせいで最初に予定していた僕の職業やスキル構成を大幅に変更せざるを得ない状況になったけど…。
 攻略サイトも全ての職業やスキルを公開してないから僕達PCは手探りでやっていくしかない。
 まあ、それも面白いと思うから別にいいんだけどね(笑)

(ていうか…なんか僕目立ってる?)

 さっきからPCと目があったりすれ違いざま振り向かれたりしている…。
【隠蔽】が効いてないのか?
 逆にこんな人混みで使ったから余計目立ってるのかな?
 僕の現在のレベルは【戦士】のレベル十三。
【鉄鉱石】を採りにいった時レベルが三ほど上がったけど、PCの平均レベルより低いんだろうな。
 だから【隠蔽】が効かずにバレてるんだろう。
 
「なにコイツ?街中でスキル使ってるよw」
熟練度レベル上げ乙w」
「誰かストーキングしてるのかも?」

 そんなことを言われてる気がした僕は急いで【隠蔽】を解除した。

『【隠蔽】の熟練度が1上がりました』

 うわっ…なんか恥ずかしい…!
 僕は何事もなかったかのように平静を装った:-″
 吹けもしない口笛を吹きながら逃げるように歩く速度を増していった。


 裏路地にあるイングリッドにたどり着いた僕は駆け込むように店の扉を開けて入る。
 ここまでくればもう大丈夫かな…?
 ほっと息をついた僕は店の奥へ目を向けると、訝しげな表情でこちらを見ているおじさんがいた。
 カウンターに座っているこのNPCの名はディーノさん。
 僕に特殊連続クエストを依頼した店主だ。
 鍛治師としてもなかなかの腕前らしい。
 
(なんか久し振りにきたな…)

 マリアさんのクエこなしてアーノルドさんと一緒に借りていた武器を返しに行って以来か………

(二人とも、今なにしてるんだろう…)

 「おい、久し振りだな」

 思いに耽っているとディーノさんに話しかけられた。

「あ、はい!すみません、お久しぶりです」
「頼んだモノは持ってきたか?」
「はい。遅くなってすみません…」

 僕はカウンターの前まで行くとアイテムストレージから【鉄鉱石】を五つディーノさんに送った。
 ディーノさんはメニューを出して受領した。

「確かに受け取った。感謝する」
「いえ、そんな…」

 期限がないとはいえ、何ヶ月もかかって遅くなったという負い目を感じている僕は申し訳なく思っていた。

「兄さん、いま暇かい?」
「え?ええ、まあ…」
「じゃあついて来な」

 カウンターから立ち上がったディーノさんはカウンターの奥の部屋へ歩を進める。
 僕は慌ててディーノさんのあとを追った。
 扉を開け部屋へ入るディーノさんに続く。
 どうやらこの部屋はディーノさんの作業場、工房のようだ。
 部屋の奥には炉に回転砥石、壁に立てかけられた槍や斧、剣などの武器が綺麗に整頓され、棚には様々な形の金属素材が置かれていた。

 ディーノさんは炉の近くにしつえられていたレバーを引くと、ふいごが動き出して炉に空気を送り始めた。
 ディーノさんは壁にかけられていた一振りの剣と棚に置かれていたいくつかの素材を手に取るとすぐに赤く燃え始めた炉の前に近づいた。

(アレは鉄の剣かな?ていうかあの素材はドワーフの木炭とセレスティアの木の葉!?)

 ディーノさんは剣とそれらの素材を炉に放り込んだ。
 入れられた剣と素材はあっという間に熱せられ素材が剣に溶けていく。
 ディーノさんは、剣をやっとこで掴み金床の上に移すと空いている手でメニューを開いた。
 アイテムストレージからハンマーを取り出したディーノさんはメニュー画面に太い指を添えて操作する。
 恐らくポップアップメニューを出して作製アイテムを指定したのだろう。
【鍛治】の経験がある僕はディーノさんのやってることがすぐに理解できた。
 あとは規定数叩くだけで指定したアイテムが作製させる。
 僕の予想通りディーノさんはハンマーを振るい始めた。

「【鉄の剣】にダマスカスの素材?強化作製か…?」

 ディーノさんの鍛治を少し後ろで呟く僕。
 
(それにしても叩く回数多くない?)

 たしか鉄系やダマスカス系の武器の作製は大体十回くらい叩けば作製できる。
 もうディーノさんは十回以上叩いてる。
 ただの強化じゃないのか!?
 ハンマーを大きく振り上げたディーノさんは力強く剣に振り下ろした。
 
 カーンッ!!!と槌音が響き渡ったその時、剣が眩い光を発した。
 光に包まれた剣がジワジワとその形を変えていく。
 出来上がった剣は木目調の鋼の刀身が煌めいていた。

「できたぜ…」

 ディーノさんはやっとこを離し、手で剣の柄を握ると目利きするように眺めた。

「【鉄の剣】じゃない…!?アレは【ウーツブレード】?…いやでも、【ウーツブレード】じゃない感じが……」

 基本的に作製し完成した武器の形は変わらない。強化も同様だ。
 なのにいまディーノさんが作製した剣は普通の剣とは意匠というかなんというか…なんか形が微妙に違う気がする。

「兄さん、?」

 ディーノさんが僕に出来上がった剣を差し出した。

「………わかりません。【鉄の剣】にダマスカス鋼の素材で強化作製したんですよね?」
「わかってるじゃねえか」

 ニヤリと笑うディーノさんに僕は首を横に振った。

「【なんで【】ができたのかがわかりません…!【鉄の剣】を強化したら普通に【鉄の剣】が強化されてプラス補正つくだけじゃないですか。普通はダマスカス鋼【ウーツブレード】作るでしょ?」
「ほう。兄さんいつの間にを覚えた?」
「……ちょっと色々あって牢獄で鍛治覚えたんですよ」
「前科者になったのかい?だから長いことご無沙汰だったわけか」
「正確には前歴者です。僕未成年なんで…」
「ははは!兄さんは細かいな!」

 いやいや前科は残るけど前歴は残らないからね、ここ重要ですよ?と胸の内で突っ込みを入れる僕。
 
「兄さんが疑問に思っていることを説明するとだな、にまで鍛えられた【鉄の剣】にダマスカス鋼の素になる素材で
「はい?」
「ほれ、自分の目で確認してみい」

 僕はディーノさんに手渡された剣をタップしてみた。

『【真・ウーツブレード】武器長剣種、物理攻撃力+120』

「はあ!?」

 あまりの攻撃力の高さに驚きの声を上げる僕。
 さらに詳細を見るためにタップしてみると

『限界まで鍛えらあげられた【鉄の剣】が【ウーツブレード】に進化した長剣』
『耐久値10強化引き継ぎ』
『強化回数0回』
『残り強化回数10回』

 「こんながあったんだ…」

 普通は新しい武器に買い換える。
 強化した前の武器は売るなりインゴットに戻して強化にまわすなりするけど、このやり方は知らなかった…ていうか気づかなかった。
 最終強化した武器を次のランクの武器の素材で新しく生まれ変われるのか。
 これなら段階的にずっと強化できる。
 素材集めが面倒くさそうだけど、普通にていうかかなり強い武器が作製できるな。

「わしはを鍛えてみたい」

 ディーノさんの声に考え事に耽っていた僕は我に帰った。

「これはほんの入り口に過ぎん…。兄さんにはこれからも協力してもらいたいんだが………頼めるか?」

 真摯な口調で問いかけるディーノさんに僕は力強く頷いた。

「はい。僕ができることなら」

『特殊連続クエスト【鍛治師の挑戦】が更新されました』

 システムメッセージが現れ次のクエストが表示された。

『必要素材アイテム【ミスリル鉱石】必要数0/5』

「おおそうだ言い忘れておった。この【ウーツブレード】に必要な強化素材を持ってきてくれると助かる。強化素材は兄さんの裁量に任せるが、別になければわしが限界まで強化しておこう」
「え!?いいんですか?」
「ああ構わないぞ。兄さんは協力者だしなにより鍛治師だ。ともに究極の武器を鍛え上げようぞ!」

『ディーノ(NPC)の好感度が30上がりました』

 おっ!この流れは最終的にその究極武器を貰えるな。
 そう思った僕のテンションはうなぎ登りになった!
 好感度?なにそれどうでもいいよ(笑)

「はい!任せてください!強化素材も持ってきますね!」

 武器を見た感じ多分ディーノさんに任せたら耐久力特化の武器に仕上がってしまう。
 いや、次は重撃特化の可能性があるかも?
 特化型もいいけど、僕の希望で強化できるならそれに越したことはないし。
 今回も期限はないし、あまり焦らずに素材を吟味して持って行こう。
 鋭利値や速度値、CRクリティカル値上げる素材ってなんだっけ?

「ところで兄さん。兄さんも鍛治の心得があるのなら兄さんの腕を見てみたい。なにか打ってもらえるか?」

 なんですと!?
そんなことを考えていたらディーノさんから嬉しい声がかけられた。

「いいんですか!?ここ使っても」
「構わんよ。良い武器だったらこちらで買い取ろう」
「作ってみたい武器があるんで売るのはちょっとですけど、とりあえず作っていいですか?」
「うむ。お手並み拝見といこうか」

 不敵な笑みを浮かべるディーノさんが場所を空けてくれた。
 よし!それじゃあ作るか!
 気合いを入れて僕は炉の前に立った。
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