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第1章 ギルド入会

第三十七話

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 ギルドを旗揚げして一週間が過ぎようとしていた。
 ギルドネームで散々揉めた結果【幻想大陸探検隊】という名前になった。
 アトランティスという大陸の未知を既知にしていく冒険者らしい冒険者の集団という触れ込みで多少メンバーは増えたけど、実際はみんな好き勝手にやりたいことをやっている。

 ガチ勢のギルメンは北にある【ダンジョン迷宮】へ向かうためにレベルと武器防具の強化を進めている。
 公式では現在三十層ある深くて長いダンジョンみたいだ。
 この街から距離にして百キロ近い場所にあるらしいから行き方を模索している。
 
掲示板を見れば『無理ゲーすぎる…』『難易度ナイトメア』『行く途中で激強の森のクマさんに乙られた…』『単にレベルが足りないだけw』『盗賊に襲われましたw』『広すぎ…イヤになる』等々書き込まれていた。

 そもそも遠征する準備にがかかる。
 まず遠出するための馬車が売られているけど一番安いので十万Gを超える。
 キャンプ用品(テントとか)や戦闘で使用した消耗品(ポーション等)も必要だ。
 徒歩で行くのは自殺行為に近いし、どれくらいの時間がかかるのか予想がつかなかった。
 
 うちのギルドもかなり苦戦していた。
 現在ガチ勢のギルメンは二つの組に分かれて準備を進めていた。
 ひとつは遠征に必要な馬車や消耗品などを購入するための資金を集める組。
 もうひとつは武器防具の強化を進める組に分かれて準備を進めていた。


『スライムを倒した!』
『ファントムはEXPを2獲得しました』

「ああああああ!ドロップしなかった!」

 街の外にある草原に僕の叫び声が響き渡った。
 順番待ちをしていたPCがクスクスと笑っている。
 それを目の端で捉えた僕は何事もなかったかのように俯き加減の早足で列の最後尾に並んだ。
 
(メッチャ恥ずかしい…。死にたい…)

 できることならこの場からダッシュで離れたい気分だ……。
 僕はいまドンペリキングさんに頼まれて武器の強化に必要な素材集めを
 現在草原には僕と同じようにスライム狩りをしているPCプレイヤーがそこかしこで見受けられた。
 草原にいるスライムは特定の場所にポップし、倒されると一定の時間の後にリポップしする。
 僕ら冒険者のPCはスライムがポップする場所を特定しその場所に陣取って狩り場を形成していた。
 僕は草原にいくつもある狩り場に並んでスライムからドロップする【魔核(極小)】を集めるために一人スライムを狩り続けていた。
 僕のいる狩り場には大体十人くらいのPCが並んでいる。
 どこにも所属してないPCの狩り場で僕は狩っていた。
 他の狩り場は他のギルドやPCのグループにほぼ占領されていて行き場のない僕はこういう無所属のPCが集まる小さな狩り場でやるしかなかった。
 
 ていうかなんで僕一人で【魔核(極小)】20個も集めなきゃいけないんだよ…!
 せめて何人か来てくれればもっと楽なんだけどな……。
 断りきれずに素材集めをやる羽目になってしまった自分が恨めしい。
 嘆きつつも僕は頼まれた素材集めを続けていた。


 ようやく必要な素材を集め終わった僕はドンペリキングさんに連絡を入れようとしたけど………

「もう落ちてるし…」

 ギルドメンバーやフレンド登録されているPCのログイン状況がわかる。
 メニューで見てみるとドンペリキングさんはすでにログアウトしていた。
 集めた素材は次にインした時にでも渡すか。
 そう思った僕はその旨をドンペリキングさんにメールしといた。
 アーノルドさんも今はインしていない。
 まあ社会人だし仕事が忙しくなったから平日インするのは難しいっていってたしな…。
 
「いったん落ちてるか…。そろそろ夕食時だし」

 食事の時間の時に落ちてないと両親と妹がうるさいしな。
 僕は街に入ってログアウトしようと門へ向かった。
 一番近いのは西門か。
 僕は西門がある方向へ歩を進めた。



「あれ?ファントムじゃん」

 西門前でギルドメンバーに出会った。
 masato、いちご大福、ノエル、アスタリアの四人。
 あまり会いたくないPCと出くわしてしまった…。
 うん?見知らぬPCかと思ったけど、ノエルとアスタリアという人の頭上には緑色の名前とゲージ。
 二人はNPCだった。

「なにしてんの?」
「え?いや、素材集めをしてましたけど…」
「なんの素材?」
「魔核ですけど」
「ああ。スライムのヤツ?アレ集めるの面倒いよねー」

 馴れ馴れしく話しかけてくるmasato。
 親しげな態度だけど目が僕をバカしてるのはわかる。
 学校にいると同じ目をしてるから。

「ギルドで集めてる素材でしょ?」
「ええまあ…」
「じゃあはい」

 masatoが手を差し出してきた。

「俺が預かっとくよ」
「いや、ドンペリキングさんに渡すんで…」
「だから俺から渡すって言ってんじゃん」
「それに今ドンペリキング落ちてていないし、代わりにmasatoが預かるって言ってるんだから渡しとけば?」

 いちご大福が口を挟んできた。

「いや、でも……」
「なに?人がせっかく親切心で言ってるのにイヤなの?」
「ありえないわその態度。うちらのことバカにしてるの?」

 なんか意味わかんないこと言われ始めた。
 それは親切とは言わないし、バカにもしてないんですけど。
 僕は無視してその場を後にしようとしたけど……

「おいなにバックレようとしてんの?」
「まだ話終わってないでしょ!?」
 
 masatoに肩を掴まれた。
 …これ暴行になんないかな?これだけじゃならないよね:-/

「じゃあ渡せばいいんですか?」
「なにその態度?感じ悪いんですけど」
「masatoに謝りなよ!」

 なんなのコイツら?誰か助けて…。
 masatoのパーティーに入ってるNPCの二人は我関せずだ。
 門を行き来しているPCも関心なく出入りしている。
 
「すみませんでした…」

 揉め事を避けるために僕は頭を下げて謝った。

「わかればいいんだよわかれば」

 masatoが僕の肩に手をまわして笑う。
 案外優しい人だな。だったら土下座まで強要するのに…。
 ふとそんなことを思い出した僕は気分が憂鬱になった。

「じゃあはい」

 masatoが手を出して催促してきた。
 そんなに欲しいのコイツ?
 面倒になってきた僕はアイテムストレージから魔核(極小)をmasatoに渡した。
 masatoはそれを掴むと自分のアイテムストレージに放り込んだ。

「俺らこれからクエ行くんだけどお前この後どうすんの?」
「夕飯食べに一旦落ちます」
「そっか。じゃお疲れー」

 僕に興味をなくしたmasatoは仲間を連れて僕から離れていった。
 僕はそれを見届けるとため息をひとつついて西門をくぐった。
 
「あ、ドンペリキングさんに報告しとかないと」

 僕はmasatoに素材を渡しといたことをドンペリキングさんにメールを送ろうと思った。
 メールを打つ手が震えていてうまく打てない。
 緊張でもなんでもない。怒りからくる震え。
 なかなか震えが治らなくてメールを打つのに苦戦した。
 なんとかメールを打ち終えてドンペリキングさんに送信した僕はそのまま落ちた。

 夕食を済ませた後、僕はログインする気になれずにそのまま眠りについてしまった。
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