上 下
9 / 186
序章 ログイン

第八話

しおりを挟む
 オンラインゲームをやってた頃、僕はギルドに所属していた。
 防御全振りの盾役、タンクとして、敵のヘイトを武器やスキルを使って僕に集めた。
 そしてひたすら防御に専念して敵からの攻撃を受け、みんなを守っていた。
 それが僕の役目だったし、僕もその役目が好きだった。
 ガンガン攻撃するアタッカーもいいけど、を守る盾役のタンクは、友達のいない僕にとっては最高に面白くて嬉しい役割だった。
 ギルドの仲間に頼られる。仲間に感謝される。それがとても嬉しかったから。
 前やってたゲームでヘイトを集めやすい武器が槍だったせいもあり、僕は初期装備に槍を選択した。





 アトラス外周部。
 周囲がただっ広い草原の中で、僕は【スライム討伐】に励んでいた。
 【スライム】
 ゲームでお馴染みのザコモンス。
 誰もが知ってる有名な魔物だと思う。
 このアトランティスでもザコモンスだし、プレイヤーの特殊ユニーク職にもなっている魔物だ。
 このゲームのスライムは、姿形を一言でいうと、でっかいゼリー(笑)
 バケツプリンのゼリータイプって感じかな?
 それがプルプル震えながら飛びかかってくる姿は、なんかシュールだ。
 
 このゲームは、基本的にシンボルエンカウントだ。
 フィールドに出ると魔物が徘徊している。近づいて魔物が気付くか、プレイヤーが奇襲するかで、戦闘が始まる。
 現在、この草原には僕と同じプレイヤーが魔物と戦っている姿が、そこかしこで見かけられた。
 一定の間隔を空けてみんなモンスターとバトっている。戦闘中でも他のプレイヤーやNPCモンスターが近づいたら、巻き込んだり巻き込まれるからだろう。
 最悪モンスのヘイト集めた状態で逃げてモンスが追いかけてきたら、トレインからのMPKが発生するかもしれない。
 基本PK禁止でも、モンスターを利用してPKするMPKは有効かもしれないから(いや、禁止事項に書かれてなかったから有効なんだろう、怖っ!)周りに気をつけて戦闘しないとな。

 そういうわけで僕は周りのプレイヤーに気を配りながら、目当てのスライムを探した。
街の外壁から離れた先、約2~3キロくらいは草原で、その先は森だ。
 草原にいるスライムを探して討伐しなければならない。もし他の所で倒してもカウントはされないだろう。
 クエスト欄の【アトラス周辺のスライム討伐】の項目に、目標討伐数の表示が0/7となっている。多分倒せば自動的にカウントされるんだと思う。
 どこかのゲームやラノベのように、討伐した証拠にそのモンスの部位を剥ぎ取らなくていいのは楽だし、ぶっちゃけいくらゲームとはいえ剥ぎ取るなんてキモいことをできる自信はないから、ほっとしている(笑)
 街を出る前に、アイテムストレージから取り出したボーンランスを右手に、革の盾を左手に装備した僕は、ようやく討伐目標のスライムとエンカウントした!

「ぴきー!」

 スライムは僕を威嚇するかのような声で鳴いた。
 威嚇になってないかわいらしい声で、なんか気が抜けそうになる。 
 気を引き締めて先手必勝!
 僕はボーンランスを前に突き出すように構えた。脇を締めるように構えた槍を、僕はバケツプリンのような青いスライムに向かって突き出した。

「死ね!」

 僕の突き出した槍が、スライムに突き刺さる!
 かと思いきや、スライムはぷるるん!っと飛んで、僕の槍を避けた。

「ちょっウソッ!避けた!?」

 まさか避けられるとは思わなかった僕は、驚きの声をあげた。
 
「ピッピッピ~www」

 と鳴いたスライムは、ダダダダダッ!逃げ出した。

「あっ!待て!」

 と僕が言い終わる前に、スライムは逃げてしまった…。

「あーもう!」

 僕の身長くらい長い槍を地面にに突き刺した僕は頭をかきむしった。
 記念すべき初戦闘は、敵の逃走で終わった…。

 その後も、スライムとエンカウントするたびに逃げられるという失態を続けて犯してしまった僕は、このままではいけないと思い一人作戦会議を開いた。

 槍はリーチの長い武器。
 盾と併用する場合は、盾を前方に構え、脇を締めるように槍も前方に構える。
 盾で防御し、隙をついて槍を突き出す。
 そういう武器種の基本的な動きをメニューに記載されていたし、普通のオンラインゲームでもそんな感じでプレイしていた僕は、見よう見まねながらもうまくできていると思っていた。
 現在リアルよりも身体が動く感じがしたし、いけると思ったんだけど………

「おかしいなあ…なにがいけないんだろ?」

 僕はボーンランスを構え、突き出す行為を繰り返しながら首をひねっていた。
 槍の素振り?みたいなことをしながら、どこがいけないのか考えている。
 
 僕の槍、ボーンランスは中世ヨーロッパの、なんとか騎士団が使っているようなスピア系のランス
 突くことしかできない、逆に言えば武器だ。
 まあ、薙ぎ払いとか物理でこともできるだろうけど、基本この武器はだろう?
 素人とはいえ、思うように身体が動くこの仮想現実ゲームの世界で、スライムごときのザコモンスを倒せないとは………(泣)

「何気に的が小さいから命中率の問題か?…いやでも、レベル1とはいえDEXが足りないってわけでもないだろうし……」

 昔体験版でスライム無双した時は、こんなに苦戦しなかった。
 中級職の【魔法剣士】だったからかな?
 中級職だからそこそこのレベルで強かったと思うし、体験版だからストレスフリーでプレイさせてくれたのか?と思ってしまう。

(使う武器間違えたかな?)

 僕は素振りをしながら、ボーンランスを見る。
 僕の今の身長、180㎝くらいあるボーンランス…。
 得物が大きいから?…いや、違う気がする。
 スライムが素早すぎる?それはあるかもしれない。
 でもレベル的に倒せるレベルだと思う。でも攻撃を避けられて逃げられるんだよな…。
 戦うことに慣れてない?それはあるかもしれない。僕は現実リアルでケンカ一つしたことがない平和主義者のいじめられっ子だから(自嘲w)
 でもそれをいったら、大抵のプレイヤーは使。そうなると………

「僕が壊滅的にヘタなだけか…?僕じゃだけだと倒せない?」

 一瞬、本当に武器を変えるかな?と思ったけど、すぐに却下した。
 理由は簡単。替えの武器がない……。
 ボーンランスしか武器はもらえなかったし、お金、Gもない。
 それに、昔からゲームで使って愛着のある武器を今更変えたいとは思わない。
 だからそう簡単に諦めたくはない。

「……もう少し粘ってみるか。最悪、他のクエこなして得たGで使いやすそうな武器に変えよう……」

 僕は、ボーンランスを肩に担いで、スライムを探しに歩き始めた。





「見つけた…!」

 捜索を再開し始めてすぐにスライムを見つけた。
 4~5メートル先にプルプルと震えているスライム一体。
 僕はボーンランスを構え、足音を殺しながらそっとスライムに近づいていった。
 
(こうなったら奇襲だな。一撃でぶっ殺してやる!)

 多分避けられたらまた逃げられる。
 僕は細心の注意をはらって、スライムに近づいていった。
 防具が音がたたない革系で良かった。金属鎧着てたら、音でもうとっくにバレてる。
 
 スライムはまだ気づいていない。
 どこに目があるのかわからないけど、気づいてないなら好都合。
 今の僕の気分は、背後から襲いかかる通り魔の心境だ。

 鼓動が激しく聞こえる。手に汗かきながら、じりじりと僕はスライムに迫っていく。
 
(あと3メートル…!)

 視界の片隅に表示されている赤いゲージは、まだ僕に気づいていない。
 モンスターが気づくと、モンスターのゲージの端に交戦マークが付く。
 スライムとの距離が2メートルくらいになっても、まだスライムは動かない。
 こうしてハイドして近づいていくと、本当に通り魔の気分になるな(苦笑)
 
 もう射程距離に入った!
 僕はボーンランスを握り直すと、スライムに狙いをすます。

(今だ!)

 僕は思いっきりボーンランスをスライムに向かって突き出した!
 槍は狙い違わずスライムに突き刺さり貫通した!

「ぴきー!!!」

 断末魔のような声をあげて、スライムは砕け散った。
 光のカケラ(ポリゴンかな?)がキラキラと舞い消える。

『スライムを倒した!』
『ファントムはEXPを2獲得しました』
『素材アイテム、魔石(極小)を拾得しました』
『【クエストランクF。アトラス周辺のスライム討伐。目標討伐数1/7】』

 メニュー画面のようなウインドウが現れて、テキストメッセージが表示された。

「おおおおおお!やったあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 思わず槍と盾を手放し、ガッツポーズをとる僕。
 不意打ちとはいえ、初めてモンスターを倒した僕は、その場でぴょんぴょん跳ねてはしゃぎまわってしまった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【短編】妹は恋愛ドラマの主役の素質があるようなので姉の私は妹を主人公に小説を書くことにした

藤也いらいち
恋愛
恋愛ドラマの主役になれる素質が妹にはある。 かわいくて、明るく優しい妹は恋に学業に大忙し!! とはならなかった。 恋愛に全く興味のない妹は、姉の私の思惑とは裏腹にゴーイングマイウェイ!絵の道を突き進む! 妹は恋愛ドラマの主役にならないらしいが素質は十分、彼女の周りにはキャラ立ちした多種多様のイケメンが集まって来る。 もったいない!私が妹を主人公にしたIFの世界のラブストーリーを書いてしまおう! 妹の周りに現れるイケメンたちよ!私の小説のために劇的にフラれてくれ!

父の浮気相手は私の親友でした。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるティセリアは、父の横暴に対して怒りを覚えていた。 彼は、妻であるティセリアの母を邪険に扱っていたのだ。 しかしそれでも、自分に対しては真っ当に父親として接してくれる彼に対して、ティセリアは複雑な思いを抱いていた。 そんな彼女が悩みを唯一打ち明けられるのは、親友であるイルーネだけだった。 その友情は、大切にしなければならない。ティセリアは日頃からそのように思っていたのである。 だが、そんな彼女の思いは一瞬で打ち砕かれることになった。 その親友は、あろうことかティセリアの父親と関係を持っていたのだ。 それによって、ティセリアの中で二人に対する情は崩れ去った。彼女にとっては、最早どちらも自身を裏切った人達でしかなくなっていたのだ。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

旦那様はチョロい方でした

白野佑奈
恋愛
転生先はすでに何年も前にハーレムエンドしたゲームの中。 そしてモブの私に紹介されたのは、ヒロインに惚れまくりの攻略者の一人。 ええ…嫌なんですけど。 嫌々一緒になった二人だけど、意外と旦那様は話せばわかる方…というか、いつの間にか溺愛って色々チョロすぎません? ※完結しましたので、他サイトにも掲載しております

悪役令嬢の双子の兄、妹の婿候補に貞操を奪われる

アマネ
BL
 重度のシスコンである主人公、ロジェは、日に日に美しさに磨きがかかる双子の妹の将来を案じ、いてもたってもいられなくなって勝手に妹の結婚相手を探すことにした。    高等部へ進学して半年後、目星をつけていた第二王子のシリルと、友人としていい感じに仲良くなるロジェ。  そろそろ妹とくっつけよう……と画策していた矢先、突然シリルからキスをされ、愛の告白までされてしまう。  甘い雰囲気に流され、シリルと完全に致してしまう直前、思わず逃げ出したロジェ。  シリルとの仲が気まずいまま参加した城の舞踏会では、可愛い可愛い妹が、クラスメイトの女子に“悪役令嬢“呼ばわりされている現場に遭遇する。  何事かと物陰からロジェが見守る中、妹はクラスメイトに嵌められ、大勢の目の前で悪女に仕立てあげられてしまう。  クラスメイトのあまりの手口にこの上ない怒りを覚えると同時に、ロジェは前世の記憶を思い出した。  そして、この世界が、前世でプレイしていた18禁乙女ゲームの世界であることに気付くのだった。 ※R15、R18要素のある話に*を付けています。

悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。 だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。 高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。 ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。 ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!! 乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。 なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける! という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー! *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます!

処理中です...