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02 二度目の口づけ
アルバイト
しおりを挟むファミレスのバイトはいつも通り。都会のファミレスは忙しいかわりに時給も良く、できるだけ稼ぐためにこのお店を選んだ。以前はアパートからは遠かったけれど、虎将のマンションからは近くなったので通いやすい。今日少しお金を返し、虎将が闇金に話をしてくれたので余裕もできた。いつもよりも心が軽いのは彼のおかげだ。
「園田さん聞いてくださいよ~あっちのお客さんがしつこくて」
高校生バイトの友里が困った顔をしてホールから戻ってくる。
バイト仲間はほとんどが年下の学生ばかり。さらに夜が深くなるとフリーターも多いけれど、だいたいが春子よりも年下だ。そのせいか、週四日しか入っていないのにバイトリーダー的扱いになっていた。
「あの席ね、わかった。次から私が接客行くよ」
「ありがとうございます~!」
頼られるのは悪い気はしないけれど、春子も強いわけではないので内心は怯えながらも年上の仕事だと割り切っている。ちょうど呼ばれてしまったので、バイトの子が怖がっていたテーブルに行くしかない。
「お待たせいたしました。おうかがいします」
ボックス席に座っているのは四人の男性。大学生くらいの年齢で、ファミレスを居酒屋代わりに使っているんだろう。すでに酔っているのが目に見えてわかる。
「あれ~? さっきの子は~?」
「……他の対応がございますので、私がおうかがいします」
「え~あの可愛い若い子がいいなあ」
わかってるよ、と心の中で毒を吐きつつ、微笑みを顔に張り付ける。
「でもお姉さんもきれいだね。お姉さんでもいっか」
「おうかがいします」
「えーとじゃあレモンサワー四つと、山盛りポテトと唐揚げ!」
「承知いたしました。少々お待ちください」
はやく立ち去りたいのが態度に表われてしまう。春子はすぐに彼らから離れようとすると、腕を掴まれた。
「あとはお姉さんがここに座ってもらって~」
春子はぞっとして手を振り払った。心臓がバクバクと鳴り、叫びたい衝動に駆られるがぐっとこらえる。
「仕事中なので、申し訳ございません」
笑顔は保ちつつも声は冷たいのが自分でもわかった。握られた手は震えていて、もう片方の手で震えを抑え込む。たとえ大学生に手を掴まれただけとはいえ、見知らぬ男に乱暴に扱われたら恐怖を感じる。
「……可愛げねえ~」
男のうちの一人がぼそっと呟く。
「……失礼いたします」
腹は立ったけれどあれ以上食い下がられなくてよかった。キッチンのほうへ戻りオーダーを通してこっそりとため息を吐いた。
「園田さん大丈夫でしたあ?」
「うん。私なら冷たいおばさんくらいにしか思ってないから私が対応すれば大丈夫だと想う」
「ありがとうございます~っ」
友里はかわいらしく春子にすり寄る。高校生からしたら大学生は春子よりもきっと恐怖を感じるはずだ。彼女を守ることができたことにほっとしつつ震えていた手をぎゅっと掴む。
夜が深くなるにつれ、変な客も多くなる。でも時給が良いので辞めることはできない。たまにああいう客が居座ることも多く、ホールに男性スタッフがいない場合はちょっと怖い。夜には必ず男性スタッフが居てくれるけれど、さっきはちょうど交代前のタイミングだった。
それからも面倒な客に振り回されつつも、〇時を回り退勤時間になった。
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