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21 コンドームの使い方*

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「使ってみても、いい?」
「…………どうやって?」
「わからないから……教えてほしいの」

 用途はもちろん知っている。でも今言っているのはそういうことではなくて、試すにはどうしたらいいか。亘に教えてほしかった。

「……さすがにそれは無理だよ」
「でも、使用感を試さなくちゃいけなくて……」
「里帆は俺とセックスしてもいいと思ってるの?」
 里帆は思わず口をつぐむ。考えたことがなかった。
「言えないだろ。そういう相手とはしたらだめだよ」

 亘は大きくため息を吐いた。
 呆れさせてしまっただろうか。さすがに甘えすぎていたんだろう。長い付き合いだけれど、亘が怒っている顔は、初めてみた。

「亘くん……ごめんなさい」

 ベッドの上に二人で座りながら沈黙がおとずれる。やさしいこの人を怒らせるなんて、里帆は相当なことをしてしまったんだと、頭を項垂れる。

「……いいよ。俺も怒ってごめん。でも、もう好きでもない奴にそういうこと言うなよ」
 亘の手が里帆の頭をくしゃくしゃと撫でる。なぜか泣きそうになった。手には虚しくゴムが握られている。

「じゃあ、どうしたらいいのかな。恋人もいない、エッチしたことのない私が、ゴムの使用感なんて、理解できるわけないよね……佐々川くんに聞かれたのに答えられない……」
 想像だけでどうにかなることならよかった。自分ひとりで使えるものならよかった。もういっそのこと、知らない人に声をかけて――。

「佐々川くん、って誰?」

 諦めかけた時、頭上から険しい声が下りてきた。顔を上げると表情もどこか強ばっている。また怒らせてしまったのかと恐る恐る口を開いた。
「前に相談した、一緒に組んで開発やってる人だよ」
「……ああ」
 納得したのか、亘の表情はすぐに穏やかなものに戻った。
「……しかたないな」
 亘はふう、と息を吐く。

「じゃあ、中に入れない。それならいい?」
「え」
「本当はバイブにゴムつけてもいいんだけど、そんな初体験でいいの?」
「や、やだっ」

 考えただけでもぞっとした。あの太くて硬い機械を身体に入れるなんて。それなら知らない人のほうがマシかと考えると、それもやっぱり無理だった。

「……よかった。いっそのこと、知らない人に声かけようとしてた……」
「っ」
「痛っ」
 両肩を亘の手が掴む。強い力に眉根を寄せた。

「そんなことしたらほんとに怒るよ」

 真正面から睨むように見つめられる。さっき怒っていた顔よりも怖かった。
「……し、しないから! 絶対!」
「里帆は仕事のこととなると……心配になるよ」
 亘はあぐらをかいた太ももに肘を置いて、頭を抱える。亘をじっと見ていると前髪の間から上目遣いの目と視線が合った。亘がいつもと違う。どこか焦っているように見えた。

「できる限りのことは協力するから、俺で我慢して?」
「うん……亘くんがいい……」
「っ」

 亘は喉を鳴らし、呼吸を整えている。里帆は何をしてくれるのだろうと期待があった。相手が亘なら安心できる。わがままを叶えてくれる亘はなんてやさしいんだろう。

「里帆。ちょっとだけ手伝って」
「え……」
「手ぇ貸して」
 亘の大きな手が里帆の両手をとり、亘の下腹部の、バスローブに隠れた場所にまで手を導かれる。
「え、なに?」
「……ゴムつけるには、ほら。それくらい知ってるだろ?」
 里帆は顔を赤くしてうつむいた。
「ちょっとさわってくれるだけでいいから」
 亘の手に導かれ、そっと手を伸ばすとあたたかいものにふれた。一瞬離して、もう一度ふれる。
「男の見るのも初めて?」
 里帆は目をそらしながらうなずく。でも見ないとどこにあるかわからないのでそっと視線を戻すと、バスローブがはだけて、亘の昂ぶりが目に入った。

「……さっき里帆にしてる時反応してたから……少しでいいよ」
 言いながら亘は里帆の手を昂ぶりに包ませる。さわったことのない肌の感触だった。
「ん、あ、熱い」
「ん……里帆の手も、あったかい」

 熱くて、少し汗をかいている。両手で包むように握り、亘の手に動かされるまま、上下に動いていた。芯を持っていたものはさらに硬く、大きくなった。

「すごい……また硬くなった」
「わざわざ言わなくていい……っ……」

 亘の額に汗が滲んでいる。動かしていた手もどんどん速まって、くちゅくちゅと濡れた音が響き始めていた。手の中で大きくなっていく亘の昂ぶりが里帆はなぜか愛おしく思えてきた。
 硬く勃ち上がったところで、パっと手が離れる。

「もういいよ、ありがと……どれつければいい?」
「え、あ、えっと……こ、これ」
 里帆は動揺していて選ぶ余裕などなかった。一番手近にあるものを選び、亘に渡した。彼はパッケージを破いてそっと昂ぶりにあてがう。

「……つけるところ見ててもいい?」
「……ならもうちょっと手伝ってくれるか?」
「えっ」
「これも勉強だろ」
 先端にあてがったゴムを持ったまま、里帆の手を引っ張る。
「ここ、巻いてあるとこ、下げて」
「う、うん……」

 言われた通りにゆっくり下げていく。案外難しく、慣れていないと大変そうだ。根本まで下ろすと亘が里帆の手の甲にキスを落とした。

「ありがと、里帆」
「う、うん……きゃっ」
 亘にベッドに押し倒される。初めて正面から見上げる亘の顔だ。

「里帆、嫌だったら言って。やめるから」
「嫌じゃないよ。私がお願いしてるんだもん」

 里帆のわがままでこんなことをさせている。亘だって本当は女として見ていない、好きでもなんでもない幼なじみ相手にするのは嫌だろう。でもつき合ってくれた。そのやさしさに胸が苦しくなる。

「教えて、亘くん……」
「っ、優しくできなかったらごめんな」
 亘は中途半端だった里帆の下着は脱がせて、昂った性器を秘部に押し付けた。

「……さっきより濡れてる?」
 亘の言葉に身体がカアッと熱くなる。
「ローション使ってもいいかなと思ったけど、平気そうだな」
 ずる、と秘部と性器がこすれた。

「あ、な、なに?」
「挿れられないから、こうするだけでも気持ちいいだろ?」
 亘はゆっくり腰を前後させる。すると昂った熱と里帆の秘部がこすれ、濡れた音がした。
「……あ、ん……」

 里帆は知らない感覚につい声を洩らしていた。機械的なものではなく人の体温を感じている。ローターのような強い刺激はないけれどじわじわと身体が熱くなっていくような、込み上げるものがあった。
「……っ、気持ち、い……」
 それに、亘の顔が見えることで興奮は高まっていた。相手の表情を見るというだけでこんなに高揚するなんて知らなかった。亘が汗をかきながら熱い息を洩らす。下腹部ではお互いのものがこすれいやらしい音を立てている。

「里帆、感触は……?」
 秘部をこするたびに蜜口からはとろりと蜜が溢れていく。自分でもわかっていた。でもとめることはできない。ただ蜜がこぼれるとそれがまた亘の動きをスムーズにして、甘い息が洩れる。

「ん、気持ち、いい……っ」
「っ、そうじゃなくて」
 亘が言っているのは使い心地のことだろうと、ようやく気づいた。でも感触なんて、わからない。
「だって、もう、なにも考えられな……っ」
「里帆……可愛い」
 亘の動きが激しくなっていく。淫らに濡れた音が大きく響き、熱いものがこすれるたびに腰がびくびくと跳ねる。

「あ、あっ」
「……ここ、里帆の好きなとこ」
「ひゃ、ぅ!」

 昂ぶりの先端が、花芯をぐりぐりと刺激して、全身が痺れたのではないかと思う刺激が襲う。目の奥がチカチカするこの感覚はよく知っている。亘に、教えてもらった。

「や、やだ、またっ」
 里帆は首を振るが、亘は花芯を責めることをやめない。先端で刺激し、熱全体をこすりつける。

「俺も、もうやばい……っ」

 亘の切羽詰まった声は初めてだった。見上げる彼の表情は苦しげに歪んでいた。その表情を見た時、里帆は絶頂を迎えた。
「あ、んん――!」
「くっ……」
 遅れて、びくんと大きく腰が揺れて、亘は熱い息を吐く。

「っ、は、ぁ……」
 ぐったりとベッドに身を預け、亘も里帆の隣に倒れ込む。ふかふかのベッドが軋んだ。

「……里帆、わかった?」
「……なにもわからなかった……」

 まだ余韻にぼーっとしている。せっかくつけてもらったのにゴムの感触など、わからなかった。ふれた最初は引きつるような感触があったかもしれないが、それもすぐにどこかへ飛んでしまった。初めてだったから、きっとしかたないことだったんだと自分に言い聞かせる。

「なら、もう一回しようか」
 亘が里帆の手をにぎる。
「ええっ」

 驚きながらも亘の下腹部に視線を向けると、彼の熱まだ高く反りかえったままだった。一度達したら戻るものだと思っていたのでそうではないのだと目を見張った。

「せっかくラブホに来てるんだし、金曜だし。里帆、次はどのゴム使ってほしい?」

 最初は拒否して怒っていた亘が、別人のようににこりと笑う。
 それからも亘はとまらなくて、里帆の予想を反して彼のスイッチを押してしまったみたいだった。
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