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30話 シェルヴィ様は諦めない!2

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「わ、我もやってみたいのだ」

 おっ、シェルヴィ様も挑戦するのか。
 そして、この声のおかげでナタリアさんと先生も正気を取り戻した。

「おいシェルヴィ、5つ全部狙うのは流石に負担が大きすぎる」

「そ、そんな……」

「だから3つまで、な」

「ほわぁ……うむ、それでいいのだ!」

 こうして、シェルヴィ様の的当てが始まった。
 他の生徒たちは、右2つの的をローテーションしながら狙ってくれている。

「シェルヴィ様頑張れ!」

「シェルヴィちゃんファイト!」

 これがシェルヴィ様に対する恐れからではなく、1人の友達として譲ってくれているところがとにかく嬉しい。

「ハース、我にコツを教えるのだ」

「コ、コツですか……」

 コツと言われても、俺の場合身体に任せている部分が大きい。
 でも、強いて挙げるなら……。

「5つの的を狙う時は、均等に2割ずつ集中力を割くのではなく、中心に1割、左右に2.3割といった感じでやると上手くいくかもしれません。
 だから的が3つの場合は、中心に2割、左右に4割でどうでしょうか?」

「うむ?
 まぁ、それでやってみるのだ」

 シェルヴィ様は先程より大きく深呼吸をした後、右の手のひらを前に出し、こう唱えた。

「スノーボール!」

 すると、3方向に雪玉が放たれ、的へ一直線に向かっていく。

「ふぅ、これは結構疲れるのだ」

 しかし、3つの雪玉は縦に大きく逸れ、平原に落ちた。

「なっ……!
 次、次なのだ!」

 それから、シェルヴィ様は休むことなくひたすら唱え続けた。

「スノーボール!
 スノーボール!
 スノーボール!」

 しかし、雪玉は的にかすることさえなく、平原に落ちた。

「はぁはぁ、もう1回、なのだ……」

 すぐ横で見ていたら、嫌でも分かる。
 1度休憩を挟まないと、シェルヴィ様が危ない。

「シェルヴィ様」

「な、なんだ!」

「1度休まれたらどうですか?」

「ふん、我に休憩など不要なのだ!」

 はぁ、仕方ない。
 そんな態度を取るのなら、こっちもこの手を取るしかないな。

「シェルヴィ様」

「だ、か、ら、我に休憩など……」

 俺は魔力制御で背中に鬼を降ろした。
 正確には、鬼の容姿を模した魔力なんだけどね。

「休憩、本当にしませんか?」

 鬼は死者の霊であるとされている。
 そんなもの怖くないはずがない。

「するする、休憩するのだ!」

 俺は魔力の流れを元に戻した。

「はい、よかったです」

「はぁ、今のはなんだったのだ……」

 うーん、少しやりすぎちゃったかもなぁ。
 いや、でもあれくらいしなければ、きっとシェルヴィ様は休んでくれなかっただろう。
 そう考えれば、これは正解だったといえる。
 それはさておき、次はシェルヴィ様のメンタルケアをしなくては。

「シェルヴィ様、おひとつよろしいですか?」

「うむ」

 俺は水筒のお茶を飲むシェルヴィ様に言った。

「失敗は成功への1歩、こんな言葉があります。
 失敗とは、そのやり方ではだめだったと教えてくれる道標なんです」

「ほぅほぅ。
 つまり、今のやり方ではいつまでやっても埒が明かないという訳なのだな」

「はい。
 シェルヴィ様の雪玉は左右のズレがほとんどありません。
 これはシェルヴィ様が制御できている証拠です。
 あとは、縦方向の調整に割く集中力をあげていくだけだと思いますよ」

「分かった、やってみるのだ」

 そうそう。
 シェルヴィ様はこうやってイキイキとしているのがとてもよく似合うお方です。
 あんなに切羽詰まったようなやり方は、全く似合っていませんよ。

「縦方向……集中……左右……そのまま……」

 シェルヴィ様。
 シェルヴィ様のことですから自分では気づいていないと思いますが、いざとなった時の勝負強さは俺がよく知っています。

「よしっ、いくのだ!」

 なので、自分らしく全力でやってみてください。

「スノーボール!」

 先程同様、シェルヴィ様の雪玉は的へ一直線に向かっていく。
 しかし、明らかに先程より縦ブレが少なく、安定感が増している。

「お願いなのだ……」

「シェルヴィちゃん……」

「シェルヴィ様……」

「シェルヴィ……」

 4人の心は1つになっていた。
 そして、ついにその時はやってきた。

 バシッ!

「や、やったのだ!」

「シェルヴィちゃん!」

「シェルヴィ様……」

「シェルヴィ!」

 その場にいた全員がシェルヴィ様を褒めたたえ、俺の目からは涙が溢れていた。
 今思えば、異世界に来てから泣いたのは初めてだ。

 そしてこの日、俺は今までで1番力を入れ、ハンバーグを作った。
 白皿の中心に盛り付けられたハンバーグ。
 ソースは和風、デミグラス、煮込み風の3種類も準備した。

「どうぞ、召し上がれ」

「ま、まぁまぁ気が利くではないか」

「身に余るお言葉、ありがとうございます」

 シェルヴィ様はフォークを手に取ると、ハンバーグの左端を切り取り、和風ソースに付けて口に運んだ。

「どうですか?」

「う、うまうまなのだぁ……!」

 そりゃあ、美味しいに決まってるよな。
 だって、あんなに嬉しいことがあったんだから。

「うまうまぁ……」

 でも、こんな時ふと思ってしまう。
 果たして俺は、世話役としてシェルヴィ様の役に立っているのかって。
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