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7話 朝
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次の日の朝、俺は誰かに肩を揺すられ、目を覚ました。
「……んっ」
部屋の遮光カーテンが開けられ、暖かな日差しが俺の顔を照らす。
「起きてください……にゃ」
この声は確か……シロさん?
「ふわぁー、おはようございます」
ゆっくり身体を起こすと、布団が力強く剥がされ、足元の方に畳まれた。
ただ、正直に言うとまだまだ寝ていたい気分というのが本音だ。
いや、まだ寝ててもいいんじゃね?
俺は自問自答の後、せっかく起こした身体を再びゆっくりと倒した。
最高の2度寝を最高のベッドで!
しかし、俺の身体は空中でぴたりと静止した。
いや、これは……。
「起きてください……にゃ」
シロさんの右手に静止させられたのだ。
ふと左に視線を移すと、目の前に柔らかそうな大福が2つ。
おっ、はようございます。
俺は視線を逸らし、急いで身体を起こした。
「すみません、すぐ起きます!」
勢いそのままベッドから立ち上がると、足の裏がひんやりと冷たい。
実に朝って感じだ。
「こちらにお着替えを置いておきます……にゃ」
「ありがとうございます」
ガラスの机に置かれた服は、俺の着ていた服に寄せてくれたのか、白Tシャツに、黒ズボン。
俺はその場で着ていた服を脱ぎ、用意してもらったTシャツを手に取った。
「えっ、花の刺繍可愛い」
「はわわわわわ……にゃっ」
俺がシャツを着ると同時に、ベッドの方からどさっという音が聞こえた。
「ん?」
ベッドに視線を移すと、そこには顔を両手で覆い隠したシロさんの姿があった。
耳はとにかく真っ赤だ。
「あっ、すみません!
ついいつもの癖で……」
まぁ、いつもの癖と言っても、そんな気がするといった程度でしかないんだけど。
とにかく、この感覚には早いうちに慣れないといけないな。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……にゃ」
俺は手を貸し、シロさんを優しく起こしてあげた。
しかし、シロさんは立ち上がろうとはせず、ベッドに座っている。
まぁ、立ち上がるかどうかなんてのは個人の自由だ。
「じゃあ、着替えてきます」
俺は服を持ち、素早く脱衣所に移動した。
脱衣所では、シロさんが回してくれたであろう洗濯機がブォーンっと音を立てながら、タオルや服を洗ってくれている。
多分、どの世界においても洗濯機を発明した人は崇められたことだろう。
そんなことを思いながら、俺はササッと着替えを済ませた。
「シロさん、大丈夫ですか……?」
俺はゆっくりとドアを開け、ベッドに視線を向ける。
「はい、もう大丈夫です……にゃ」
そこには、前できちんと手を重ね、シャキッと背筋を伸ばしたシロさんがいた。
それは何ともメイドらしい立ち姿である。
「それで、シロさんが俺の部屋に来てるのは、朝の支度のお手伝いですか?」
「もちろん、それもあります……にゃ。
でも、それだけじゃないです……にゃ」
おっ、ついに始まるのか。
シェルヴィの世話役に関する何かが。
「今日はシェルヴィ様の登校日です……にゃ。
ハース様には魔王様より、送り迎えの指示が出ています……にゃ」
「送り迎え……ですか。
はい、分かりました。
それで、俺はどこに行けばいいんでしょうか?」
「あっ、でもその前に、朝ご飯は食べなくても大丈夫ですか……にゃ?」
うーん、別にお腹は空いてないかな。
でも、わざわざ気にかけてくれるなんて、ほんとシロさんはメイドの鑑だ。
「いえ、大丈夫です。
朝はあまりお腹が空かないタイプなので」
「そうですか……にゃ」
その時、ポケットに向かっていたシロさんの右手が、再び前で重なったのを俺は見逃さなかった。
ん?
もしかして、俺のために何か作ってきてくれてたのかな。
もしそうなら……。
「あれっ、やっぱ少しだけお腹空いてるかもなぁ。
いやでも、小腹が空いた程度だし、別に我慢できるかなぁ」
どうだ……?
こんなくさい演技しか俺には出来ないけど、どうか気づいてくれ……。
「い、いけません……にゃ!
小腹も満たしておかないと、いざという時にシェルヴィ様を守れません……にゃ!」
よしっ、食いついた!
って、なんか昨日姉にも同じことをしたような……。
その後、シロさんはポケットから小さな花が散りばめられた透明な小袋を取り出し、俺にくれた。
「えっ、いいんですか?
ありがとうございます」
「どうぞ、召し上がれ……にゃ」
袋の中には、チョコチップクッキーが5枚入っていた。
きっと、これを女子力というのだろう。
俺は袋からクッキーを取り出し、1枚まるまる口の中に放り込んだ。
1口噛むと、口の中でチョコレートが溶けだし、ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がった。
「めっちゃ美味しいです!」
「よ、よかったです……にゃ」
俺は次々とクッキーを口に運び、あっという間に食べきった。
「はぁ、美味しかった」
「では、玄関に行きましょう……にゃ」
「はい!」
玄関か。
そういえば、まだ城内を回ってなかったな。
帰ってきたら、のんびり回るとしよう。
「もう空間転移は使えますか……にゃ?」
あっ、そうかそうか。
シロさんはまだ、昨日の情けない俺しか知らないのか。
「はい、ご心配なく。
というか、ちょっといいですか?」
俺はそう言うと、シロさんの右手を掴んだ。
「あっ、えっ……」
心の中で祈れ。
そして、シロさんの記憶から玄関の位置を割り出せ。
玄関……玄関……玄関……!
空間転移……空間転移……空間転移……!
身体中の魔力が反応し、気づけば俺とクロさんは玄関にいた。
ほれみたことか。
転移した俺の前には、シロさんの記憶で見た重厚感のある両開きの扉があった。
うわぁ、でけぇ……。
ふと辺りを見渡すと、壁に飾られた歴史を感じさせる古い紋章、とにかく高い天井から玄関を照らす立派なシャンデリアが1つ確認できた。
「……んっ」
部屋の遮光カーテンが開けられ、暖かな日差しが俺の顔を照らす。
「起きてください……にゃ」
この声は確か……シロさん?
「ふわぁー、おはようございます」
ゆっくり身体を起こすと、布団が力強く剥がされ、足元の方に畳まれた。
ただ、正直に言うとまだまだ寝ていたい気分というのが本音だ。
いや、まだ寝ててもいいんじゃね?
俺は自問自答の後、せっかく起こした身体を再びゆっくりと倒した。
最高の2度寝を最高のベッドで!
しかし、俺の身体は空中でぴたりと静止した。
いや、これは……。
「起きてください……にゃ」
シロさんの右手に静止させられたのだ。
ふと左に視線を移すと、目の前に柔らかそうな大福が2つ。
おっ、はようございます。
俺は視線を逸らし、急いで身体を起こした。
「すみません、すぐ起きます!」
勢いそのままベッドから立ち上がると、足の裏がひんやりと冷たい。
実に朝って感じだ。
「こちらにお着替えを置いておきます……にゃ」
「ありがとうございます」
ガラスの机に置かれた服は、俺の着ていた服に寄せてくれたのか、白Tシャツに、黒ズボン。
俺はその場で着ていた服を脱ぎ、用意してもらったTシャツを手に取った。
「えっ、花の刺繍可愛い」
「はわわわわわ……にゃっ」
俺がシャツを着ると同時に、ベッドの方からどさっという音が聞こえた。
「ん?」
ベッドに視線を移すと、そこには顔を両手で覆い隠したシロさんの姿があった。
耳はとにかく真っ赤だ。
「あっ、すみません!
ついいつもの癖で……」
まぁ、いつもの癖と言っても、そんな気がするといった程度でしかないんだけど。
とにかく、この感覚には早いうちに慣れないといけないな。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……にゃ」
俺は手を貸し、シロさんを優しく起こしてあげた。
しかし、シロさんは立ち上がろうとはせず、ベッドに座っている。
まぁ、立ち上がるかどうかなんてのは個人の自由だ。
「じゃあ、着替えてきます」
俺は服を持ち、素早く脱衣所に移動した。
脱衣所では、シロさんが回してくれたであろう洗濯機がブォーンっと音を立てながら、タオルや服を洗ってくれている。
多分、どの世界においても洗濯機を発明した人は崇められたことだろう。
そんなことを思いながら、俺はササッと着替えを済ませた。
「シロさん、大丈夫ですか……?」
俺はゆっくりとドアを開け、ベッドに視線を向ける。
「はい、もう大丈夫です……にゃ」
そこには、前できちんと手を重ね、シャキッと背筋を伸ばしたシロさんがいた。
それは何ともメイドらしい立ち姿である。
「それで、シロさんが俺の部屋に来てるのは、朝の支度のお手伝いですか?」
「もちろん、それもあります……にゃ。
でも、それだけじゃないです……にゃ」
おっ、ついに始まるのか。
シェルヴィの世話役に関する何かが。
「今日はシェルヴィ様の登校日です……にゃ。
ハース様には魔王様より、送り迎えの指示が出ています……にゃ」
「送り迎え……ですか。
はい、分かりました。
それで、俺はどこに行けばいいんでしょうか?」
「あっ、でもその前に、朝ご飯は食べなくても大丈夫ですか……にゃ?」
うーん、別にお腹は空いてないかな。
でも、わざわざ気にかけてくれるなんて、ほんとシロさんはメイドの鑑だ。
「いえ、大丈夫です。
朝はあまりお腹が空かないタイプなので」
「そうですか……にゃ」
その時、ポケットに向かっていたシロさんの右手が、再び前で重なったのを俺は見逃さなかった。
ん?
もしかして、俺のために何か作ってきてくれてたのかな。
もしそうなら……。
「あれっ、やっぱ少しだけお腹空いてるかもなぁ。
いやでも、小腹が空いた程度だし、別に我慢できるかなぁ」
どうだ……?
こんなくさい演技しか俺には出来ないけど、どうか気づいてくれ……。
「い、いけません……にゃ!
小腹も満たしておかないと、いざという時にシェルヴィ様を守れません……にゃ!」
よしっ、食いついた!
って、なんか昨日姉にも同じことをしたような……。
その後、シロさんはポケットから小さな花が散りばめられた透明な小袋を取り出し、俺にくれた。
「えっ、いいんですか?
ありがとうございます」
「どうぞ、召し上がれ……にゃ」
袋の中には、チョコチップクッキーが5枚入っていた。
きっと、これを女子力というのだろう。
俺は袋からクッキーを取り出し、1枚まるまる口の中に放り込んだ。
1口噛むと、口の中でチョコレートが溶けだし、ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がった。
「めっちゃ美味しいです!」
「よ、よかったです……にゃ」
俺は次々とクッキーを口に運び、あっという間に食べきった。
「はぁ、美味しかった」
「では、玄関に行きましょう……にゃ」
「はい!」
玄関か。
そういえば、まだ城内を回ってなかったな。
帰ってきたら、のんびり回るとしよう。
「もう空間転移は使えますか……にゃ?」
あっ、そうかそうか。
シロさんはまだ、昨日の情けない俺しか知らないのか。
「はい、ご心配なく。
というか、ちょっといいですか?」
俺はそう言うと、シロさんの右手を掴んだ。
「あっ、えっ……」
心の中で祈れ。
そして、シロさんの記憶から玄関の位置を割り出せ。
玄関……玄関……玄関……!
空間転移……空間転移……空間転移……!
身体中の魔力が反応し、気づけば俺とクロさんは玄関にいた。
ほれみたことか。
転移した俺の前には、シロさんの記憶で見た重厚感のある両開きの扉があった。
うわぁ、でけぇ……。
ふと辺りを見渡すと、壁に飾られた歴史を感じさせる古い紋章、とにかく高い天井から玄関を照らす立派なシャンデリアが1つ確認できた。
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