俺はこの幼なじみが嫌いだ

ゆざめ

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混合授業(2)

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「はい、あがり」

 その声と共に、2枚のトランプが宙を舞う。

「ま、また負けたーーー!!!」

「先輩、本当に強いですね」

「そうかな?」

 うーわ、何この圧倒的強者感。

 今回のルールでは、1位が決まった時点で決着となり、その他の順位は残り枚数で決定される。

 なんというか、勝つことにしか興味がないって感じのルールだ。

「ゆ、柚さん……ちょっといいですか……?」

「あーうん、どうした?」

 椎名ちゃんは、俺のすぐ横に椅子を寄せると、耳元で囁く。

「……服部先輩が強すぎて、勝てる未来が全く見えないんですけど……」

 ええ、全く同感です。

「……分かった。俺から伝えとく……」

 (うわぁぁぁぁぁ!? み、みみ、耳元で急にそんな……!? はわわわわわ)

 ん? 少し顔が赤く……いや、当然か。

 相手は2つ上の先輩。
 そんな相手に対する文句なんて、そりゃあ俺に伝えるだけでも緊張するよな。

 ここは先輩として、俺がビシッと伝えなきゃ。

「えーと、服部先輩」

「ん? なにかな?」

 今からするのは無茶なお願い。
 それは100も承知。

 ただそのうえで、椎名ちゃんの先輩として言わせてもらう。
 
「ちょっとでいいので、手加減してくれませんか?」

「うーん……そんなこと言われても、これ運ゲーだし」

 顔一つ変えず正論を言うと、垂れた髪を掛け直す先輩。

 おお、なんかセクシー。
 もしかして、これが大人の余裕ってやつなのか?
 す、すごい……!

 嫌でも目に入る豊満な膨らみ、凛とした所作、皆が憧れるお姉さんとは、彼女のような人のことを言うのだろう。

 でも、いくら運ゲーとはいえ、こういった交流の場で12連勝されるのは困ります。

 他の班を圧倒する、驚異的な回転率。
 あの人、ほんとに何者?

 ふと同じ班のメンバーに目をやると、全員が下を向き、完全にやる気を失っている。

 いや、間違えた。
 1人はアニメ見てるだけだな、これ。

「ん?」

 あっ、絡まれそう。

「なに」

「なにも」

「あっそ」

 ほーら愛想ないじゃん。
 あっ、それは俺もか。

 じゃなくて、今は先輩と話を一一。

「よし、分かった。なら2位を狙うことにするよ」

「……えっ?」

 このルールで2位狙い?

「私、負けるのは嫌いだから、狙った順位を取れたら私の勝ちってことで、どうかな?」

「なるほどなるほど。つまり、1位は取らないと」

「そういうこと」

 大きく出ましたね、先輩。

「だってさ、椎名ちゃん」

「分かりました。次、絶対に勝ちます!」
 (何がなんでも、柚さんにいい所見せなくちゃ!)

 えっ、なんか本気過ぎない……?
 椎名ちゃんって、重度の負けず嫌いだったんだ。
 まぁ、そういうところはちょっと、ヒロに似てるかもだけど。

「任せて、次で証明する」

「お願いします」

 ああ、みんなに見てもらいたい。
 この自信に満ちた真顔を。
 俺たちが目指すべき理想の先輩像を。

 次だ、次で全て分かる。
 見よ! これが我が校の誇る先ぱ一一。

「ごめん、また勝っちゃった。でも1位だから、私の勝ちだよね?」

「戦犯」

「だからごめんて」

「「「……ドヨーン……」」」

 (ま、負けた……)

 その後、時間ギリギリまで続いたババ抜きは、1人も勝者が出ないという不思議な結果で幕を閉じた。

「はい、そこまでっ! じゃあ各班、1位の生徒は手を挙げてくれっ!」

 村方先生の指示を受け、俺の班は皆川弥生が手を挙げた。
 そして一言、

「簡単なゲームでした」

 彼女のドヤ顔が向く先は、未だ状況を掴めていない服部先輩。

「おかしい。私はずっと1位だったのに」

「確かに、結果だけ見れば先輩の1人勝ちですよ」

「だよね。なら失礼して……」

 不思議と見えてくる、真顔な先輩を彩る花々。
 おそらく先輩は今、勝負に勝って喜んでいるのだろう。
 しかし、手を挙げさせるわけにはいかない。

 挙がりかけた先輩の右手を、俺は上からそっと抑えた。

「たーだーし、これが混合授業であることを考慮すれば、より多く2位を取った皆川さんが勝者と言えます。先輩は少しやり過ぎたんです」

「うーん」

 (ドヤっ)

「「「……戦犯……」」」

「だからごめんて」

 ところで、1つ気になることがある。

「あの、全然話変わりますけど、服部先輩って本当に運がいいですよね。何か秘訣とかあるんですか?」

 当然、この質問に下心はない。
 本当だ。

 俺に限って、神頼みの際有利に働けばいいなとか、そんなこと思っているはずがないからね。うんうん。

「秘訣、ねぇ。まぁ、正直言うと色々あるよ」

「えっ、あるんですか?」

 うっそ、冗談で聞いたつもりだったんだけど。
 いやでも、まっさかー。
 だってそんなものあるわけ……。

「しょうがないから1つだけ。運ゲーに勝つ秘訣、それはね一一」

 そ、それは一一。

「立っている人に大きな拍手を!」

「一一だよ」

 ただでさえ小さい先輩の声は、大きな拍手に消され、俺の耳に届くことなく消えた。

「聞こえた?」

「いいえ全く」

「あら残念。君は本当にツイてないんだね」

「いちいち言わなくていいです、悲しいので」

 確か前にも、こんなことがあったっけ。
 あー俺って、ほんとツイてないんだな。

「うふふ、冗談だよ」

 あっ、先輩が笑った。
 多分だけど、今のって超レアだよね。

「それより、私とジャンケンしない?」

 えっ、ジャンケン? なんで急に?

「別にいいですけど」

「おー、君はノリがいいね。ではやろうか。
 ジャンケン」

「「ぽい」」

 俺が出したグーは、先輩のパーにあっさり負けた。

 はへぇ、先輩強いな。

「あいこで」

「えっ、あっ、ちょっ……!?」

「しょ」

「しょ」

 俺が出したチョキは、先輩のグーにあっさり負けた。

「あいこで」

「「しょ」」

 俺が出したチョキは、先輩のグーにあっさり負けた。

 全、敗……?

「よーし、授業はこれで終わりだ! 各自、好きなように放課を過ごしてくれ!
 じゃあまたいつか!」

 その時、俺の直感が告げた。
 この先輩には勝てない。

「3連敗か、流石に運ないな」

「まぁ、仕方ないよ。私に勝てるはずないし」

「えっ、それってどういう……」

 よく分からない発言の後、立ち上がる先輩。

「じゃあ最後に1つ、面白い質問をしてあげる。私は一体、何者でしょうか?」

「・・・えっ? 先輩は、この学校の2年生ですよね……?」

「さーて、どうかな。またね」

 そう答えると、先輩は教室を出ていった。

 えーと、あの、怖いんですけど。
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