俺はこの幼なじみが嫌いだ

ゆざめ

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夜ご飯

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  突然だが、夜ご飯をあゆの家で食べることになった。

 経緯はこうだ。
 学校帰り、俺の元にお母さんから一通のLIMEが入る。

『今日買い物した時に貰った福引券で、1等の豪華ペア旅行当たっちゃった!  柚が家に着く頃には出発してると思う!
 それと、帰ってくるの明後日の夜だから!
 それとそれと、今日の夜ご飯は天乃川さん家に頼んどいたから!  まったねー!』

 ビックリマークを多用した舐めたメッセージの後、スーツケースを持ったお父さんとお母さんの写真が送られてきた。

 お父さんは申し訳なさそうに顔の前に手を置いていたが、お母さんはニッコニコで写っている。
 流石はお母さんだ。

「楽しんできてね……っと」

 俺は一言そう返信した。
 そして今に至る。

「あゆの家行くなんて中学生以来だぞ……?
 はぁ、服装どうしよう……」

 俺は自分の部屋のクローゼットから、出せるだけ服を引っ張り出した。

「これはどうなんだ……?  これはださいか……?」

 ブツブツ呟きながら、鏡の前で色々な組み合わせを試してみる。
 しかし、普段適当に服を着ている俺は、なかなか決めることが出来ない。

「絶望かも……」

 とそんな時、ある組み合わせが頭をよぎる。

「あっ、この組み合わせって」

 それは、白のTシャツに黒のストレートパンツという、ごくごく普通な組み合わせだった。
 しかし、そこに思い出が加わると、途端に価値あるものへと変化する。

 あれは中学2年のテスト期間。
 学校帰り、あゆが俺に言った。

「ねぇ柚、明日私の家で一緒にテスト勉強しない?」

「いいよ。土曜日だし」

 当然断る理由も無かった俺は、1つ返事で了承した。

「やったー!  じゃあ決まりだね!」

 ルンルンで帰るあゆとは対照的に、俺の頭の中は着ていく服のことでいっぱいだった。

「ただいまー」

 家に帰るとすぐ、母さんの所に向かった。
 この時間はいつも、キッチンで夜ご飯の支度をしているはずだ。

「お母さん、今ちょっと時間ある?」

「あら、柚おかえり。別に時間はあるけど、どうかしたの?」

 予想通り、お母さんはキッチンで夜ご飯の支度をしていた。

「明日なんだけど、あゆの家でテスト勉強することになった」

「なになに、それって自慢しに来たの?」

 お母さんはニヤリと笑う。

「違うよ!」

「冗談じゃんかー、すぐ怒っちゃだめよ」

 果たして、これは俺が悪かったのだろうか。
 少しモヤモヤしたのを覚えている。

 それはさておき、俺には時間が無い。

「そんなことより、着ていく服選んでくれない?」

 そう言うと、お母さんは大笑いした。

「なんで笑うんだよ」

「ごめんごめん。理由が可愛かったからつい笑っちゃった」

 笑われて実感する。
 俺は世間からズレているんだと。

「でも、柚が相談してきてくれたから、お母さん頑張っちゃうぞ!」

「母さん……?」

「じゃあ、あゆちゃんにLIMEしといたから、2人で服買いにいってらっしゃい。はい、これお小遣いね」

 お母さんは財布から5000円札を取り出し、俺に手渡した。

 なんやかんや頼りになる、そんな優しいお母さんが俺は好きだ。

「ちょっと待って!  2人って言った……?」

 お母さんに文句を言おうとしたその時、インターホンが鳴った。

「残念!  どうやら時間切れみたいね」

 インターホンのカメラを覗くと、息を切らしたあゆが立っている。

「もう分かったよ!  行けばいいんでしょ、行けば!」

 勝手に俺の行動を決める、そんなお母さんが俺は嫌いだ。

 諦めた俺は、黒色のお出かけ用斜めがけバッグを手に持つ。

「はぁ」

 黙って出ていこうとすると、お母さんは笑顔で俺に言う。

「勉強する前から気張ってたら、勉強する時に疲れちゃうでしょ。リラックスも兼ねて、楽しんできなさい。良い服見つかるといいわね」

 やっぱり、俺のために行動してくれる、そんな優しいお母さんが大好きだ。
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