異世界マンションの管理人

ゆざめ

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異世界旅館③

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 ロープウェイは15分ほどかけ、山の中腹へと登った。

「ふぅ、やっと着いた……」

「ようやく着きましたね……」

 到着したはいいものの、キースとヴェントスの体力はもうゼロに等しかった。

「ひとまず旅館に行こうか」

「うむ!」

「早く行きましょう!」

 スラは腕を組みながら偉そうに、イムは目をキラキラと輝かせながら答えた。
 2人は相変わらず楽しみで仕方ないらしい。
 辛そうな2人とは、まるでもって正反対だ。
 酔うか酔わないかだけで、ここまで差があるとは……少し可哀想な気もする。
 とりあえず俺たちは、『旅館はこちら』と書かれた矢印に沿って歩いた。
 その道中、桜と思われる綺麗な花のシャワーが、俺たちを歓迎してくれた。
 そういえば、異世界に来てから季節について1度も考えたことがなかった。
 当たり前のように海に入っていたが、ここでは桜が咲いている。
 この2つの要素を問題なくクリアしている季節と言えば、春くらいしか思いつかない。
 でも、確認は大切だ。

「なぁソフィ、今の季節は?」

「そうねぇ、暑いかしら」

「え? それって感想?」

「いいえ、今の季節は『暑い』よ」

 よくわからない答えが返ってきたが、今の季節は異世界において暑い方に分類されることはわかった。
 少しモヤモヤが残ったまま5分ほど歩き、目的の旅館に到着した。

「おお、これはすごいな……」

「大きいのです!」

「これは立派だな」

 俺、カプラ、ラプスは思わず声が出た。
 それもそのはず。
 俺たちの前に現れたのは、大きな旅館とそれを囲む透き通った池。
 色とりどりの鯉が優雅に泳いでいるのが見える。

「夢、子供みたいで可愛い……」

「ほんと子供みたいに素直だよな。
 さすがは、俺の親友だぜ!」

 そんな俺たちの様子を見ていたキースと水月は、夢に聞こえない小さな声でそう言った。
 一通り感動し終わったあと、俺たちは旅館に向かった。
 近くで改めて見ると、入口前の木柱にぶら下がる提灯、綺麗に並べられた木のベンチ、小さな赤色の灯篭がレトロな雰囲気を演出している。
 まるで夢の世界を見ているような感覚だ。
 俺は横開き式の扉をガラガラと開け、白い暖簾を手で払い中へ入った。

「失礼します」

 1歩足を踏み入れた瞬間、全身が
 すでに異世界にいるクセにと思うかもしれないが、そういうレベルの話では無い。
 俺たちは今、間違いなく夢の世界にいるのだ。

「本日はようこそおいでくださいました。
 私、女将のエリザと申します。
 よろしくお願い致します」

「こちらこそお世話になります」

 レトロな雰囲気を醸し出す内装に加え、花柄の浴衣を着た綺麗なエルフの女性たちがお辞儀してお出迎えしてくれた。
 全員が長い金髪なのは、そういう決まりなのだろうか。
 そんなことを考えていると、奥の方から高校生くらいのエルフの女の子が息を切らしながらやってきた。
 その子はソフィを見るなり、視線を逸らすようにお辞儀をした。
 ソフィはその様子を見て、笑っていた。
 何が起こったのかとても気になったが、それより先に聞かなければならないことがある。

「あの~、予約とか何もしてないですけど大丈夫ですかね? 」

 そう、予約だ。
 日本にいた頃、電話予約は当たり前。
 しかし、電話のないこの異世界で通信手段は手紙くらいしかないのだ。
 だからお願い……俺たちを泊まらせてくれ!

「はい、女神様よりお話を伺っておりますのでご心配なく」

 まさかの女神様登場!
 俺は素晴らしいお方と知り合うことが出来たようだ……女神様本当にありがとう。

「そうですか、それは良かったです。
 ちなみに、宿泊券はいつ渡せばいいですか?」

「宿泊券はお帰りになられる際にお渡し下さいませ」

「わかりました」

「それではお部屋へとご案内させていただきます。
 どうぞこちらへ」

 俺たちは女将さんについて行った。
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