或る実験の記録

作戦会議

「さすがですね、ナオさん。」

伊藤との初コンタクトを終え、皆に話をすると、沢渡さんは思わず感嘆の声を上げた。


「すごいじゃないですか！
あの伊藤に気に入られるなんて！」

「いえ、まだ気に入られたまでは行ってないと思うんです
なんとか次に…」　

「吉岡ちゃん、大きな前進よ。ここは焦らないでじっくりとね。」

愛さんは私の心が読めてるかのように諭してくれた。

すると、さっきから黙って聞いていた宮川さんが溜息混じりで会話に入ってきた。　


「せっかく吉岡さんが頑張ってくれてるので、私も良い報告が出来ればと思ってたんですが、こちらの方はなかなか…」


「えっ、お父様はダメなの?
だって人権派で名高い方じゃない」

愛さんが言うと、宮川さんは申し訳なさげに

「親父にも話したんだけど、なんだか腰が重くて、いや、まともに取り合ってくれないというか…」

と、元気のない声で答えた。

「何か変ね。伊藤の、いえ、民国党のスキャンダルが出れば、選挙前のこの時期なのよ
友政党にとって大チャンスのはず…
それなのに…」

愛さんは首を傾げた。


「大丈夫です。皆さん、色々動いていただいて有難うございます。
やっぱり、伊藤を直接追及するのが一番だと思います。
もう少し頑張ってみますので、ご協力をお願い致します。」

私は三人に頭を下げて言った。、

そうだ。
私がやるしかない
これは私の戦いなんだから…



事件究明を心に強く誓い、ホステス生活を続ける私だったが、何故か客からの評判が良く、今月の成績が3位となった。

2位の結衣とは僅差、1位のマリアにももう一頑張りすれば手が届きそうな感じだ。

別にお水の世界で成り上がろうなんて1ミリもないけど、陰湿ないじめにも遭ってきたし、まあ悪い気はしない。
女のプライドってのが私にも芽生えてきたのか…

よし、今日も頑張ろう


気合いを入れて出勤した私に岸辺が近づいてきて

「なつみちゃん。おはよう」

と、媚びへつらった笑みを浮かべて挨拶してきた。

「おはようございます。」

店に入った当初は相手にもしてくれなかったのに。
まあ、そういう世界だから仕方ないか。

「なつみちゃん、今日は伊藤先生がいらっしゃるから
よろしく頼むよ。」

「えっ、政治家の伊藤先生ですか？」

「そうそう。
なつみちゃんをご指名されててね。」

きた！

この前の来店から一ヵ月以上経過したけど、来ると信じて頑張ってきてよかった。

この機は絶対に逃さない。