34 / 102
隠蔽
しおりを挟むすべての検査が終了しいつ退院しても良い状態になったが、私は依然として病院内から出ようとはしなかった。
正直なところ、外に出るのがまだ怖かったからだ。
そして、数日後、私の不安が的中することになる。
その日の朝食後、私は談話室でミツルと話をしていた。すると、宮川が慌てた様子で中に入ってきたのである。
大きな目をぎょろつかせ、額から大粒の汗が流れ落ちている。
「大変です!」
宮川のただならぬ様子に私は椅子から立ち上がった。
「宮川さん、そんなに慌てて一体どうしたんですか?」
「あなた達のことがマスコミに知られました!」
「ええっ!! 本当ですか!?」
今回救出されたメンバーの中で、私やミツルのように完全に女性化した人間は、マスコミの格好の餌食になるということで、本人の希望を聞いた上で、安否の公表をまだ控えていた。
世間では、私達みたいな被害者がいるとはまだ誰も知らず、連日報道されていたのは、炭坑で強制労働させられて亡くなってしまった人達についてのことだった。
私の家族や美優も多分私が炭坑で強制労働させられて亡くなったと思い込んでるに違いない。
けれども、こうして生きている以上、いつまでもこうしてはいられないのはわかっている。ただ、今はまだ
心の準備が全く出来ていない。私とミツルは困惑の表情を浮かべて見つめ合った。
宮川が言うには、あれほど箝口令を敷いていたにもかかわらず、先に退院した、ほとんど女性化していなかった連中の誰かがマスコミにリークしたのだと…
「宮川さん、どうしましょう?…」
ミツルが聞くと、宮川は
「私がなんとかしますから、心配しないで下さい!」
と言い残して、その場を去っていった。
その日の昼のワイドショーで、島で女性化されてしまった男達がいるという話題が出たのを皮切りに、ありとあらゆる媒体に私達のことが取り上げられた。
しかし、マスコミは、それ以上新たな情報を得ることが出来なかったのか、次第にその話題は都市伝説の類いに成り下がり
報道される機会も徐々に減ってきていた。
私達はホッと胸をなで下ろした。けれども、私もミツルも、ここでの生活に別れを告げる日が近づいていることを感じていた。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる