泥々の川

フロイライン

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悲願

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「やったあーーっ!!

優勝やあっ!」


昭和60年10月16日

東京は神宮球場のレフトスタンドで、久美子の父誠は号泣していた。


「もう、お父さん
泣かんといてよ」


隣の席で、久美子も父の姿を見ながら笑い、そしてもらい泣きしてしまった。


大阪で生まれ育ち、どんなときも阪神タイガースを応援してきた誠にとって、昭和39年以来21年ぶりのリーグ優勝を果たしたこの日は、人生において忘れられない日となった。


「俺はもう思い残す事はない!

久美子、こんな記念すべき試合を生で見せてくれてありがとう。」


球場を出て、帰りながら、誠はまだまだ興奮状態で、久美子に熱く語り、そして、礼を述べた。


「どうせやったら勝って優勝を決めれたら良かったけど、引き分けでも優勝やもんね。」


「おう、そうやで。

家でサンテレビで見るんもええけど、やっぱり生で見るんは最高や。」


「うん。ホンマに。」


「久美子…」


「どないしたん?

お父さん」


「お前、まだまだ辛いはずやのに、俺のために明るく振る舞ってくれてありがとうな。

こんなダメな親父やのに。」


「何を言うてんのよ。
少しくらいは親孝行させてよ。」


「そんなん、してもらう資格は俺にはない。

お前にしてきた酷いことの数々を、許してもらおうなんて虫の良すぎる話や。

ずーっと後悔ばかりでなあ…
今は真面目に生きてるつもりやけど、それでどないかなるとは思てへん。」


「十分よ、お父さん

ホンマに…」


「久美子、大阪に帰ってくるか?」


「えっ」


「帰ってきたところで、別に何もしてやれんけど…

こっちにおっても、色々思い出して辛いやろうから、お前さえよければ…」


「お父さん…


ありがとう。

めっちゃ嬉しいわ。そう言うてもらえて。」


「いや…」


「でも、もう大丈夫よ。

ワタシにはお父さんもおるし、支えてくれてる人が沢山おるんやもん。

そう考えたら、いつまでも塞ぎ込んでられへんて思ってね。」


「そうか。」


「元々お世話になってた京活プロからね、声をかけてもろてるんよ。
また、マネージメントをさせてほしいって。

だから、年末くらいから徐々に復帰しようかなって、そう考えてるのよ。」


「お前がそう決めたんやったら、俺から何も言う事はないわ。
元気でいてくれたらな。

で、疲れたり、なんか辛い事があったときは、いつでも帰ってくるんやで。」


「うん。

ありがとう。

お父さんこそ、ずっと元気でいてね。」


久美子はそう言うと、誠の腕に縋りついた。
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