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空白のとき
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久美子は、自分がニューハーフである事や恭子と交際していた事は伏せ、あくまでも同性の仲の良かった友人というスタンスで訪ねてきた事を伝えた。
そして、失踪されたとする四年前には大阪におらず、そんな事件が起きているとは知らなかった事などを話した。
「そうですか…
友谷さんは恭子のお友達だったんですね。
あの子、お友達の事とか、そういう話をあんまり私や主人にはしなかったもんですから。
せめて、母親の私にくらい話してくれていたら…
何か手掛かりが掴めたかもしれないのに」
淑子は、そう言うと目頭をハンカチで押さえて唇を震わせた。
「あの、恭子さんは、いなくなる前に、何処かに行くとかおっしゃっていなかったんですか?」
「はい。
何も…
警察の方でも色々調べてもらったんですが、何もわからないまま…今日まで来てしまいました。」
「そうですか…
あの、恭子さんがいなくなったのは、昭和54年の12月18日ですよね?」
「ええ。
それが、何か?」
「すいません、もし、よろしければ、恭子さんのお部屋を見せていただいてもいいでしょうか。」
「ええ…
それはかまいませんけど…」
淑子は少し怪訝な顔をしたが、久美子を二階の恭子の部屋まで案内した。
「ここなんです。
あの子がいつ帰ってきてもいいように、全て当時のままにしています。」
淑子はまた涙ぐみながら、久美子に言った。
「すいません、机のものとか、見てもいいですか?」
「ええ。
警察の人もスケジュール帳みたいなものがないか調べていましたが、多分本人が持って出てたのか、その類のものはありませんでした。」
「そうですか…
すいません、他のものも少し見させて下さい。」
久美子は、机の引き出しを開け、メモ帳のようなものがないか、隈なく調べた。
しかし、これといったものは何も見つからず…
「ありがとうございました。」
久美子は淑子に礼を言って、引き出しを閉めた。
「私や主人も、何か手掛かりがないかと、ずっと調べていたんですが…関係あるような事は何もわかりませんでした。
勿論、仲の良かったお友達にも聞いてみたんですが、やはりダメでした」
「そうですか…」
部屋に何かヒントがあると確信していた久美子だったが、徒労に終わり、項垂れた。
しかし、部屋を出る前に、もう一度ぐるりと見回す久美子だったが…
「あっ」
と、声を上げた。
淑子はびっくりして振り返ったが
「すいません、もう少し見てもいいですか」
久美子は、そう言って部屋に戻った。
そして、恭子の使っていたノートを数冊手に取り、パラパラと巡り始めた。
その全てが、大学の授業内容をノートに取ったもので、他に何も書いていなかったが…
三冊目に手にしたノートの最後のページの罫線外の上の部分を食い入るように見つめ、淑子を呼び寄せた。
「これ、見て下さい」
淑子は、久美子が指差した部分に視線をやったが
「!!」
思わず、久美子と顔を見合わせた。
ノートには、殴り書きで
12/18 7:30新大阪→東京10:40着と書いてあり、丸で囲んでいた。
「多分ですけど、恭子さんは当日、東京に行っていると思います。」
「そういえば、その日は、私が起きた時にはもう恭子は出かけてて…」
「おそらく、東京で何かあったと考えるのが妥当だと思います。」
久美子は真剣な顔をして言った。
そして、失踪されたとする四年前には大阪におらず、そんな事件が起きているとは知らなかった事などを話した。
「そうですか…
友谷さんは恭子のお友達だったんですね。
あの子、お友達の事とか、そういう話をあんまり私や主人にはしなかったもんですから。
せめて、母親の私にくらい話してくれていたら…
何か手掛かりが掴めたかもしれないのに」
淑子は、そう言うと目頭をハンカチで押さえて唇を震わせた。
「あの、恭子さんは、いなくなる前に、何処かに行くとかおっしゃっていなかったんですか?」
「はい。
何も…
警察の方でも色々調べてもらったんですが、何もわからないまま…今日まで来てしまいました。」
「そうですか…
あの、恭子さんがいなくなったのは、昭和54年の12月18日ですよね?」
「ええ。
それが、何か?」
「すいません、もし、よろしければ、恭子さんのお部屋を見せていただいてもいいでしょうか。」
「ええ…
それはかまいませんけど…」
淑子は少し怪訝な顔をしたが、久美子を二階の恭子の部屋まで案内した。
「ここなんです。
あの子がいつ帰ってきてもいいように、全て当時のままにしています。」
淑子はまた涙ぐみながら、久美子に言った。
「すいません、机のものとか、見てもいいですか?」
「ええ。
警察の人もスケジュール帳みたいなものがないか調べていましたが、多分本人が持って出てたのか、その類のものはありませんでした。」
「そうですか…
すいません、他のものも少し見させて下さい。」
久美子は、机の引き出しを開け、メモ帳のようなものがないか、隈なく調べた。
しかし、これといったものは何も見つからず…
「ありがとうございました。」
久美子は淑子に礼を言って、引き出しを閉めた。
「私や主人も、何か手掛かりがないかと、ずっと調べていたんですが…関係あるような事は何もわかりませんでした。
勿論、仲の良かったお友達にも聞いてみたんですが、やはりダメでした」
「そうですか…」
部屋に何かヒントがあると確信していた久美子だったが、徒労に終わり、項垂れた。
しかし、部屋を出る前に、もう一度ぐるりと見回す久美子だったが…
「あっ」
と、声を上げた。
淑子はびっくりして振り返ったが
「すいません、もう少し見てもいいですか」
久美子は、そう言って部屋に戻った。
そして、恭子の使っていたノートを数冊手に取り、パラパラと巡り始めた。
その全てが、大学の授業内容をノートに取ったもので、他に何も書いていなかったが…
三冊目に手にしたノートの最後のページの罫線外の上の部分を食い入るように見つめ、淑子を呼び寄せた。
「これ、見て下さい」
淑子は、久美子が指差した部分に視線をやったが
「!!」
思わず、久美子と顔を見合わせた。
ノートには、殴り書きで
12/18 7:30新大阪→東京10:40着と書いてあり、丸で囲んでいた。
「多分ですけど、恭子さんは当日、東京に行っていると思います。」
「そういえば、その日は、私が起きた時にはもう恭子は出かけてて…」
「おそらく、東京で何かあったと考えるのが妥当だと思います。」
久美子は真剣な顔をして言った。
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