泥々の川

フロイライン

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不信感

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日本橋にやってきた袮留とマキだったが…

今朝まであれほど饒舌だったマキが急に口数が減ったのを不思議に思う袮留だった。


「姉さん、どこへ行きはるんですか?」


ストレートに聞いてみる袮留だったが、マキは何も答えず、話をはぐらかした。


「ねえ、ネルちゃん。

ここに松坂屋があったん知ってるか?」


「いえ…
この辺自体、あんまり来た事ありませんので。」


「七、八年前まであったんよ。

ワタシ、子供のとき屋上の電気自動車乗るんが楽しみでねえ。

懐かしいわあ。」


「へえ、楽しそうですね。」


袮留は質問に答えてもらえなかったが、一応話を合わせていた。

それから、しばらく歩いていたが、マキは袮留の方に向き

「着いたわ」

と、古いビルを指差して言った。


「…」


ビルには「竹本医院」という看板が出ており、そこが病院だということは認識できた。

マキはまた無言となり、暗い階段を上り二階へ向かった。
袮留も置いていかれないように早足でその後をついていった。


上半分が磨りガラスの扉を開けると、目の前に受付があり、中年の女性が座っていた。


「こんにちはー」

マキが話しかけると、女性は

「こんにちは。
どないしはりました?」

と、挨拶と質問を続けてしてきた。


「昨日電話かけてると思うんですけど、大野が。」

と、伝えると、女性は帳面をパラパラめくり

「はいはい、聞いてます
ここに座って待っとって下さい。」


と、言って奥に消えた。

マキは言われた通り、長椅子に腰掛け

「アンタも座り」

と、袮留の手を引っ張って座らせた。


袮留は周りを見回したが、自分達以外には誰もいないようだった。


しばらくすると、さっきの女性が奥の部屋から顔を出し

「どうぞ、入って下さい」

と、言った。


マキは頷き、袮留に

「行くよ」

と、肩を持って言って立ち上がった。


カーテンを開けて中に入ると、そこには、痩せ気味で目つきの悪い白衣の男がタバコを吸いながら、こっちを見つめていた。


「こんにちは
なんや、マキちゃんかいな。
今日は何?」


「こんにちは、竹本先生

昨日、ウチの大野が電話したかと思うんですが…
この子の…」

マキは袮留の肩に手を置いて言った。


「ほう、この子かいな。

こりゃ大野さんが熱を入れるんもようわかるわ。」


「でしょ?
ワタシの妹分なのよ。
変な事はしないでね。」


「せえへんがな。

ほな、早速始めよか。
キミ、そこに寝てんか?」

竹本は、自分の隣にある診察台に寝るように袮留に言った。

「あの、一体何を…」

戸惑いの色を隠せない袮留に、竹本は呆れたような口調でマキに言った。

「おいおい、ちゃんと説明もせんとここに連れて来たんかいな。
もう勘弁してえな。」

と…。

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