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恵太と惠香
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敦と由香里はいつものように、激しい夜の営みに身を焦がし、ヘトヘトになるまでヤリ続けた。
二人共、互いの事を異常なまでに想っており、四十を越えても、まだまだ新婚気分が抜けなかった。
敦は、智と夫婦のような関係を築いてはいたが、法的には初婚であり、由香里もまた、前夫とは二十代のうちから結婚生活が破綻しており、敦との日々が、幸せな、という枕詞が付く、初めての結婚生活であった。
由香里は高学歴で、仕事の方でも、入社してからすぐに活躍し、そのキャリアの行く末を周りから大いに期待されていた。
しかし、結婚を機に退職、そして出産と、二度と職場に戻る事なく、無為な時間だけが過ぎていった。
敦の傍で、くっついてベッドに入っていた由香里は、ふと、思った。
そういえば、ここに来るまでの自分は、浮気ばかりして、ほぼ別居状態の夫を憎悪し、恵太を一人で育てながら、自分のキャリアを台無しにされた恨みを抱えながら生きてきた。
だが、敦と結婚してからは、仕事に対する後悔の念のようなものは、完璧に霧散してしまった。
つまり、夫婦生活さえ充実していれば、自分の拠り所としていた、学歴、職歴などの肩書きは、全く必要なく…
由香里は、古い考え方を持っていると自覚しつつも、女の幸せを手に入れる事が出来たなら、他には何も必要としない事をここに証明できたと考えていた。
敦と子供のために、この人生を捧げる事が出来るなら、それに勝る幸せはないのだと…
「どうしたの?由香里ちゃん」
敦は、自分を見つめる由香里に、思わず質問した。
「ううん。
あっちゃん見てたら、私って幸せ者だなあって。」
「えっ、そんな事…
それは僕のセリフだよ。
由香里ちゃんと一緒になれて、毎日が幸せすぎて、生きてて良かったって思えるよ。」
「好きよ、大好き!あっちゃん!」
由香里は感極まって、敦にキスをした。
敦は、一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに由香里の腰に手を回し、その唇と舌を受け入れた。
長いキスの後、愛の言葉を囁き合っていた二人だったが、ふと、敦が言った。
「恵ちゃん、元気にしてるかなあ」
と。
「この前帰ってきたばかりじゃない。
元気にしてるわよ。
最近、忙しくて電話もあんまりないけど。」
「そうだね。
向こうで辛い思いとかしてないかなあ。
ほら、前から東京に出たいとは聞いてたけど、やっぱり、僕と由香里ちゃんに気遣って、ここを出ていったんじゃないかって、いつも考えてしまうんだ。」
「そんな事ないわ。
恵太は、自分で伊東姓を名乗りたいって言ったし、あっちゃんの事を本当のパパだと思っているって、いつも言ってたから。」
「それは、僕も嬉しいし、恵ちゃんの事はもちろん愛してるよ、父親としてね。
だから、尚更心配になっちゃってね。」
敦は、そう言うと黙ってしまった。
二人共、互いの事を異常なまでに想っており、四十を越えても、まだまだ新婚気分が抜けなかった。
敦は、智と夫婦のような関係を築いてはいたが、法的には初婚であり、由香里もまた、前夫とは二十代のうちから結婚生活が破綻しており、敦との日々が、幸せな、という枕詞が付く、初めての結婚生活であった。
由香里は高学歴で、仕事の方でも、入社してからすぐに活躍し、そのキャリアの行く末を周りから大いに期待されていた。
しかし、結婚を機に退職、そして出産と、二度と職場に戻る事なく、無為な時間だけが過ぎていった。
敦の傍で、くっついてベッドに入っていた由香里は、ふと、思った。
そういえば、ここに来るまでの自分は、浮気ばかりして、ほぼ別居状態の夫を憎悪し、恵太を一人で育てながら、自分のキャリアを台無しにされた恨みを抱えながら生きてきた。
だが、敦と結婚してからは、仕事に対する後悔の念のようなものは、完璧に霧散してしまった。
つまり、夫婦生活さえ充実していれば、自分の拠り所としていた、学歴、職歴などの肩書きは、全く必要なく…
由香里は、古い考え方を持っていると自覚しつつも、女の幸せを手に入れる事が出来たなら、他には何も必要としない事をここに証明できたと考えていた。
敦と子供のために、この人生を捧げる事が出来るなら、それに勝る幸せはないのだと…
「どうしたの?由香里ちゃん」
敦は、自分を見つめる由香里に、思わず質問した。
「ううん。
あっちゃん見てたら、私って幸せ者だなあって。」
「えっ、そんな事…
それは僕のセリフだよ。
由香里ちゃんと一緒になれて、毎日が幸せすぎて、生きてて良かったって思えるよ。」
「好きよ、大好き!あっちゃん!」
由香里は感極まって、敦にキスをした。
敦は、一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに由香里の腰に手を回し、その唇と舌を受け入れた。
長いキスの後、愛の言葉を囁き合っていた二人だったが、ふと、敦が言った。
「恵ちゃん、元気にしてるかなあ」
と。
「この前帰ってきたばかりじゃない。
元気にしてるわよ。
最近、忙しくて電話もあんまりないけど。」
「そうだね。
向こうで辛い思いとかしてないかなあ。
ほら、前から東京に出たいとは聞いてたけど、やっぱり、僕と由香里ちゃんに気遣って、ここを出ていったんじゃないかって、いつも考えてしまうんだ。」
「そんな事ないわ。
恵太は、自分で伊東姓を名乗りたいって言ったし、あっちゃんの事を本当のパパだと思っているって、いつも言ってたから。」
「それは、僕も嬉しいし、恵ちゃんの事はもちろん愛してるよ、父親としてね。
だから、尚更心配になっちゃってね。」
敦は、そう言うと黙ってしまった。
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