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代償

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「トモ、僕はもう出かけなくちゃいけないから

こっちにいつまでいられるの?」


敦は智と顔を合わせると、そう質問してきた。


「あっちゃんと由香里さんがお邪魔でなければ、もう二泊ほどさせていただこうかなって…」


「僕も由香里も出来たらゆっくりしてほしいなって話してたんだ。

何泊でも大歓迎だよ。」


「ありがとう。

でも、あっちゃん
もう畑は手放したんでしょ?

こんなに早くどこ行くの?」


「えっ、僕?

研修だよ、研修。」


「研修って、何の?」


「教員のだよ。
ほら、もう十年近く教壇に立ってないだろ?

教員の世界も日々進化していてね。
これだけブランクがあったら、分校の先生なんて務まらないよ。」


「えっ、分校だったら余裕じゃない?」


「そんな事ないよ。
実際に全学年の生徒がいるわけじゃないけど、言ったら一年から六年まで全部を見なくちゃいけないわけだし、単一のクラス一つを受け持つより何倍も難しいよ。」

「そうなの?」


「うん。
本来だったら、キャリアのしっかりした先生が来てくれたら一番なんだけど、さすがに来てくれる人がいなくて。

それで僕に白羽の矢が立ったってわけさ。
その代わり、みっちり研修を受けてからの復帰って言われてるけど。」


「なるほどね。
でも、あっちゃんは学校の先生やってる時が一番輝いてたし、一番似合ってると思うよ。

頑張ってね」


智がそう言うと、敦は笑みを浮かべて頷いた。


「ありがとう、トモ。

それじゃあ行ってくるよ。」


敦は靴を履き、勢いよく出ていった。



「トモちゃん、今の顔見た?」


智と敦の会話を聞いていた由香里が、後ろから声をかけた。

「うん、見た見た。

農業してるときにあんな明るい顔、一度も見なかったわ。」


「でしょでしょ?
私も見た事がなかったもん。」


「やっぱり先生やってる時が一番良かったんだね。

ワタシのせいで悪いことしちゃったわ。
まわり道させちゃってごめんね、由香里さん。」


「ううん。
何を言ってるのよ。
ここで農業をしてくれたから、私はあっちゃんやトモちゃんに出会うことが出来たし、幸せになる事が出来たの。
感謝してもしきれないわ。」


「そう?
だったらワタシも気が楽になるわ。」


トモは、そう言って由香里に微笑みかけた。
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