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決まり事

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敦と由香里の待つ家に向かっていた智とユウとメグは、第一日目の目的地である温泉宿に到着し、旅の疲れを癒していた。


部屋に着くと、ずっと運転していた智は大きなため意をついて畳の上にゴロンと倒れ込んだ。


「疲れたよね
ごめんね、ずっと運転させて」


ユウが申し訳なさそうに言うと、智は少し首を上げ、笑みをこぼした。

「いいのよ。
ワタシ、運転好きだし

でも、もう歳よねえ。
ドッと疲れが出ちゃって。」


「ゆっくりお風呂にでも入って疲れを癒そうよ」

ユウがそう言うと、横にいたメグが

「ワタシ、温泉旅館に来るの初めてなんです。

早く入りに行きましょうよ」

と、興奮冷め寄らぬ顔をして言った。

だが、ユウは首を横に振って

「メグちゃん
ワタシ達は温泉には行けないよ」

と、言って窘めた。


「えっ、何でですか?」


「だってワタシらニューハーフじゃない

こんな体してたら、男湯も女湯も入れないのよ。」


「あ、そうか…

女湯ならいけるかなって思ったんですけど」


「ワタシら、付いてるからね
万が一他の人に見られたら大騒ぎになるわよ。
下手したら警察沙汰…」


「ワタシはともかく、ユウちゃんもトモちゃんも、股間以外は完璧に女性なんだけどなあ。

もったいないなあ」


メグは肩を落として座布団の上に座り込んだ。


「それは最初からわかってた事だし

だからこそ、部屋のお風呂が広いところを選んだのよ。

メグちゃん、見てきたら?」


ガッカリするメグを励ますべく、智は部屋の外の方を指差して言った。


メグも頷き、結局三人で浴室を覗きに行ったが…


「うわあ、すごーいっ!」


それはメグの予想以上に大きく広いお風呂で、ちゃんと温泉から引湯をしていた。


「ちょっとは機嫌直ったかな?」


浴室を見入るメグの肩に手を置き、智は優しげな口調で言った。


「うん。

サイコーだわ

トモちゃん」

メグは満面の笑みを浮かべて智とユウを交互に見た。



早速、三人は一緒にお風呂に入り、すっぴんに髪を無造作に後ろで括るだけの姿になり、浴衣を着た。

そこに料理が運ばれてきて、もう一つの楽しみである、食事の時間となった。

仲居さんが料理の一つ一つを丁寧に説明し、三人はその度に、小さな歓声を上げた。


智とユウはビールを追加で頼み、メグは未成年なのでウーロン茶で我慢した。


食事をしながら、どうでもいい話をしてバカ笑いする三人だったが、特にメグはその環境にいる事を今だに不思議な感覚に包まれながら、俯瞰で見ている自分がいる事に気付いた。


イジメ、引きこもりと、社会から落伍していく寸前だった自分を救い出してくれた智やユウ、そして敦、莉愛、母の由香里と、感謝してもしきれないこれらの人に、今後の人生で、すこしでも恩返し出来たら…
そう思うメグだった。

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