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運転資金

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「一千万かあ

ちょっとムリだね。」

ユウは首を竦めて言った。

「ここをオープンさせるにあたって、貯金を殆ど叩いちゃったし、ユウちゃんも大金を出してくれたものね。」

「そうだね。
もっと貯金しておけばよかった…
ごめんね」


「何言ってんのよ。
ユウちゃんにはこんなに助けてもらって、これ以上何か頼んだらバチが当たるわよ。」

智は神妙な顔をして言った。

「ワタシ達、夫婦でしょ?
そんなの当然だよ」

と、ユウは笑みを浮かべて言った。


「あーあ、羨ましいなあ。
ワタシも素敵な恋人が早く見つかるといいなあ」

ラブラブな二人を前に、恵太は少し妬いた感じで言った。

「恵ちゃん、十七でしょ
そんなのこれからよ、これから」


「はーい」


「でも、ワタシらの恋愛って成就するよりダメになる事の方が多いから。

これは脅しじゃなくて、ニューハーフの恋愛は本当に難しいっていうのを言いたいだけ。
ある程度の覚悟と耐性が必要よ。」

いつになく真面目なトーンで語るユウに、恵太も神妙な面持ちで耳を傾けて頷いた。




「さて、開店よ」

智が気合いを入れて二人に声をかけると、ユウは看板の電気を入れ、恵太は再度机を拭いた。


そして、その日の一番目の客は…



「いらっしゃいませーっ!」

三人が元気よく声をかけると、入ってきた男は帽子を脱いで、手をスウっと上げた。

「こんばんはー」


「新井さん!!」

智とユウは声を揃えて、その名前を出した。


「店がオープンするって連絡してもらってたのに、忙しくてねえ。
ごめんね」


「えーっ、来てもらえて嬉しいですっ」

智は営業スマイル全開で、甘えた口調で言った。

「忙しいって言っても、ウチの業界も冬の時代真っ只中でね。
貧乏暇なしって感じだよ」

「えっ、そうなんですか
好調なんだとばかり思ってました。」

ユウは、新井の隣に腰掛け、ウイスキーの水割りを作りながら言った。

「ウチの得意分野のニューハーフ物も、なかなか次代のスターが出てこなくて苦戦中だよ。

トモちゃんとユウちゃんが出てくれた2本。

あの売上が今でもウチのレコードホルダーだよ。」


「そうなの?
アレって二年前だっけかな。」


「また時間があるとき、出てよ」


「ヤダよ
あの時だってオバサン丸出しのビジュアルで恥ずかしかったんだから。
ユウちゃん人気に引っ張られて売れただけです。」

「ワタシだって三十過ぎてるし、けっこう後ろめたさがあったのよ。
トモちゃんに会いたい一心で出演したんだけど。」

ユウも黒歴史として、AV出演を後悔していた。
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